新人のママや先生がよくいわれる言葉に「ひとりで抱えこまないでね」というのがあります。些細なことを相談できずに行き詰まり、目の前の子どもをおおらかに受け止めることができなくなってしまう。気軽に悩みを話せる仲間がいれば、子育てはとても楽になります。
そんなお母さんやお父さんが日々の子育てについて語る場「こどものための井戸端会議」が、月に1回のペースで行われています。
4月14日に青山親子サロン「ボヌールドサクラ」で行われた会のテーマは「叱り方・怒り方」。それぞれの家庭で最近あったエピソードを持ち寄り、ざっくばらんに語り合ったあと、プロの保育士とともによりよい子どもとの向き合い方について参加者一人ひとりが考えていきます。
子どもはキッズスペースで工作やお絵かき、絵本などで自由にすごします。イベントのねらいについて、主催する「オトナノセナカ」代表の小竹めぐみさんにお話を伺いました。
おしゃべりをデザインしてストレスフリーに
小竹めぐみさん
おしゃべりは大人の遊びなんです。おしゃべりって、楽しくて、学びもあって、いつの間にか繫がっている。おしゃべりをデザインして提供することで、子どもに近い大人の孤独やストレスをなくしていければいいなと思っています。
幼稚園に勤めていたころ、降園の時間にいつまでもしゃべり続ける親御さんを毎日みていた小竹さん。子育て中のお母さん達に対して、「そんなに話したいんだな」と気づきました。でも、なんとなくだらだらとしゃべるのはもったいない…。
ただただ同じ人と同じような話をし合うより、この時間をもっと生産性のあるおしゃべりにできないものかなと考えていました。おしゃべりから、未来をつくっていくような、子どものためになるおしゃべりの場をデザインできないかしらという問いをもったのがはじまりです。
井戸端会議では話をするときに6つのことを大切にすることで、安心して話し合える場を創り出しています。
1 聞く(最後まできちんと聞く。)
2 伝える(不器用でも自分のことばで伝える。)
3 フェア(年齢や立場を気にせずに、対等な立場として話し合う。)
4 肯定(否定しない。違う意見は違う視点。相手も自分も大切に。)
5 沈黙(言葉にならない対話も大切に。あせらず、沈黙を味わう。)
6 感情(湧き上がる自分の感情や状態に気づく。喜怒哀楽、混乱・疑問…すべてのことに意味があり、繫がっている。)
日々の悩みをのびのび語る
まず自己紹介をし合い、車座になって各自「怒る・叱る」をキーワードとする日常のエピソードを簡単に紹介しました。
「家を出る時に限って遊びを始める」
「なんでもヤダヤダという」
「忙しいときに、遊んでと言って来る」などなど、エピソードが出るたびに多くの参加者が頷く姿も印象的でした。
その後、3〜4人で一組になり、さらに詳しいエピソードを語り合います。テーブルの真ん中に置いてある貝をもった人が話すあいだ、他の人は静かに聴きます。
貝は自然のエネルギーをもっていて、ひとが自然体になるお手伝いをしてくれるそう。
あるグループでは「3歳の娘が毎朝ごはんを食べ渋る」という話が出ていました。お昼や夜は食べるのに、朝は眠かったり食欲がなかったりして、ゆっくりになってしまう。「もうお母さん出かけちゃうよ」と言うと、「やだ〜」と泣きながら食べるのだそうです。
それを聞いて「うちもそう!」とグループ内の別のお母さん。働いているお母さんと息子さんが朝、いっしょに家をでる時刻は毎日決まっている。なのに2歳の息子さんはのんびりするからお母さんは怒ってしまう。彼にとっては「なんでそんなに急がせるの?」という感じのようです。
他の人に共感されると、「私だけじゃないんだ」と安心し、どんどん本音が飛び出します。また「うちではこうしてるよ」という新たな視点を得られることも。日々のことを分かち合い、やりとりを人数分行ったところでメンバーチェンジ。
今度は「叱る、怒る」について思うことを語らいます。
「夫婦ゲンカに子どもは怯えてしまうよね」というつぶやきから、夫婦のあり方を語っていたグループでは次のような話が。「ケンカは子どもの前でやらない方がいいと思う」「パパとママで言っていることがちがうと子どもは混乱してしまうから、すり合わせを大事にしている」などなど、日常を振り返りながらゆっくり言葉が紡がれていました。
思いを受け止め、考えさせよう
会の最後は小竹さんによるテーマに合わせたプチセミナー。保育士の現場で編み出した「お叱り方程式」の紹介と、子どもに伝わる5つのポイントについて10分程度のお話がありました。
子どもに正解を教えていくだけではなく、子どものおもいをきちんと受け止めてあげた上で、どうしていったら良いかを、子どもと共に考える時間が大切。
と小竹さんは話しました。
どうせ分からない、ではなく、たとえ1,2歳であっても聞いてみる。「どうすればいいのかな」と思いを巡らす時間をもたせることが、自分で考えていく力を培います。その時間の積み重ねが、今後の人生において困難や壁があったときに、すぐに諦めず乗り越える力を育んでいくのだそうです。
ロゴに込めた想い…隙間の開いた、まる。
こどものための井戸端会議のロゴは、参加して下さったひとりのママさんが一緒につくってくれました。よくみると、こどもという文字をとり囲んでいるのは、隙間の開いた丸。じつはここがポイントで、小竹さんは「鍵を全てしめずに、どこかを空けておく状態を表現したかった」といいます。
この隙間は「入り口」であり「出口」。「こうなくてはならない」ではなく「こうでもいいか」。「仲間にいれない」ではなく「いつでも、だれでもどうぞ」。人も、考えも、風通しをよくしておくことが大切。新しく受け入れたり手放せたりする余裕があることこそ、自由な子どもに寄り添うために必要なポイントです。
ふだんとちがう場だからこそ
会の終了後、「お母さんだけでなくお父さんや教育にたずさわる人もいるから、いろいろな意見が聴けた」「ふだんのつながりがないからこそ本音が言えた」「子育てするオトナには、肩の力が抜けるサードプレイスが必用」などの振り返りが聞こえてきました。本音を言い合うと、驚くほどあっという間に心の距離が縮まります。会の終了後、連絡先を交換し合う姿も見られました。
自分の思いを外に出すだけで、互いに育ち合える。楽に生きていけるようになります。子どもに近い大人が寄り集まり、忙しい毎日を一瞬止めて日々感じていることを語り合う。子育ての振り返りの時間です。こういう場が増えることは、肩の力が抜けて、楽しんで子育てにとりくめる大人を増やすことにつながっていきます。
また、繰り返し人とおしゃべりをしていくと、自分らしい子育てのかたちにも気付いていきます。インターネット・本・テレビ…情報が溢れているからこそ、混乱する親御さんも多いとか。外に答えを探しだすときりがありません。
しかし小竹さんは、
本当の答えはいつも内側にある。子どもの姿をもっと見て、自分自身の声をもっと聞いて欲しい。大人の影響力が絶大だからこそ、子どもの隣にいる大人には心から笑っていて欲しいですね。
と願っています。
今後は、地域や学校に根付いた「こどものための井戸端会議」にも挑戦してみたいそうです。子育てについて話してみたい方、ぜひ参加してみませんか?