12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

greenz people ロゴ

みんなで自分の望む生き方・働き方を実現する生態系をつくる、場づくり専門集団「場とつながりラボ home’s vi」

home's vi 嘉村賢州さんと浅田雅人さん(HUB KYOTOにて)
home’s vi 嘉村賢州さんと浅田雅人さん(HUB KYOTOにて)

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。
特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

「語り合い、学びあい、刺激しあい、助け合い、仲間とともにその時々を豊かに味わった学生時代のシェアコミュニティ。次は世代も分野を超えて、この時代を味わえる生態系を作っていこう」。

2008年、嘉村賢州(かむらけんしゅう)さんたちは、若者らしいストレートな思いを実現するために「NPO法人 場とつながりラボ home’s vi(以下、home’s vi)」を京都で設立しました。そして5年が過ぎた今、彼らは「場づくりの専門集団」として大きな存在感を持ちはじめています。

京都で「何かしている」人なら、誰もが「home’s vi」を知っていて、いろんな人が新しいプロジェクトに誘ったり相談に行ったりします。「home’s vi」のメンバーもまた自分たちのプロジェクトにいろんな人をどんどん巻き込みます。

「home’s vi」の周りには、たくさんのコミュニティがアメーバのようにゆるやかにつながりあい、広がっているのです。

京都のまちづくりプロジェクトに深く関わる「home’s vi」

京都市未来まちづくり100人委員会
京都市未来まちづくり100人委員会 集合写真

「home’s vi」は“場づくり”を専門にするNPO。個々人が持つ可能性を発揮し、お互いを大切にしあい、多くの人と深くつながることで、誰もがいきいきと暮らすことができる社会の土壌づくりに取り組んでいます。

たとえば、京都のまちづくりの方向性や取り組みについて、幅広い層の市民が白紙の段階から議論し自分たちで行動していく「京都市未来まちづくり100人委員会(以下、100人委員会)」。2009年のスタートから3期目まで「home’s vi」は運営事務局に名前を連ね、嘉村さんは運営事務局長を務めました。

「100人委員会」からは、市民を主体としたユニークなまちづくりプロジェクトが生まれそれぞれに成果を上げました。4期目に入った今年は、「100人委員会」モデルは、京都市だけではなくさらに地域に密着したかたちで下京区、左京区、伏見区など8つの区に広がっています。「home’s vi」は運営事務局を離れアドバイザー的な立場になりましたが、下京区や伏見区の場づくりの現場に関わっています。

「上京ふれあいねっと カミング」Webサイト
「上京ふれあいねっと カミング」Webサイト

上京区との協働プロジェクト「上京ふれあいネット カミング」は、ネットとリアルの両面からのまちづくりの取り組みです。「カミング」では、学生やNPOなどの団体とコンテンツの企画段階から議論。市民公募のレポーター「マチレポ」が上京区の魅力ある人々や活動を取材して情報発信します。取材は身近に暮らす街の人々や場所とつながるよい機会となり、「マチレポ」が地域コミュニティに参加するきっかけにもなっています。

このほか、「home’s vi」は企業やNPO団体などの研修やファシリテーション講座を担当したり、大企業の組織改革も多数手がけています。

しかし、こうした“目立った取り組み”は「home’s vi」の活動のほんの一側面を表しているにすぎません。「home’s vi」の面白いところは、むしろこうした具体的な取り組みに直接は現れない部分にあります。

それは、彼らの「あり方」のようなもの。「目的」よりも「自然なリズムで人や場を味わう」ことを大切にする人との関わり方です。そのベースには、嘉村さんたちが学生時代に運営したシェアハウスコミュニティが“原体験”になっているのです。

シェアハウスでの“原体験”が生んだ「場づくりの専門集団」

嘉村さんたちが学生時代を過ごしたシェアハウスコミュニティ「西海岸」
嘉村さんたちが学生時代を過ごしたシェアハウスコミュニティ「西海岸」

嘉村さんが、京都大学在学中に運営していたシェアハウスコミュニティ「西海岸」は、インターネットには一切情報公開をしない、完全紹介制のコミュニティでした。鍵をかけていない京町家は24時間オープン。信頼できる仲間たちが集いました。「西海岸」では、初対面どうしでも、将来の話や、自分が人生の中で大切にしていることなどの深い会話が日々、自然と生まれていました。

深夜1時から2時頃になると、「魔法の時間」と呼ばれる時間があり「不思議と深い会話が生まれ、涙を流しながら語りあうような場面もよくあった」そうです。嘉村さんは「西海岸」で、目の前の人の肩書きや利害関係や、「何をやっているか」という活動ではなく、ありのままの人と人の信頼や関係性、ともに何気ない時間を共有することの大切さを学びました。

2004年、嘉村さんは「西海岸」の仲間5人とネットサービス「サーチ縁人(えんじん)」を立ち上げます。「西海岸」で経験したような出会い方、深め方をIT上に展開しようと考えたのです。「サーチ縁人」は国内外で評価を受けたのですが惜しくも解散。その後、メンバーがそれぞれの道を見つけていくなかで、嘉村さんは「サーチ縁人」でやろうとしていた「地域の縁つなぎをする仕事はできないか」と模索します。

そんなときに出会ったのが、福祉のNPO「み・らいず」の河内崇典さん。河内さんに教えられて、「社会のしくみのおかしいところを変えるためにビジネスをする生き方を“社会起業家”という」ことを知り、「想いを持って活動している人たちのお手伝いをしたい」と決意します。

「でも、どんな方法で応援したいんだろう?」。嘉村さんは自分を探りながら考えるうちに、学生時代の経験にヒントを見つけました。

プロジェクトに参加するとき、僕が得意だったのは会議を作って仕上げていく部分。そして、チーム内の人間関係を観察し、問題があれば調整すること。僕は人の思いが集まっている場がうまくいく仕掛けや仕組みに興味があるんだなと思って。

あるとき、河内さんに「場づくり、組織作りがやりたい」と話すと、「じゃあ、うちのメンバー40人を面談して組織作りをしてみなさい」とチャンスをもらいます。嘉村さんは「人が集まる場、会議、プロジェクト、コミュニティを作ることにワクワクする」自分を再確認。「場づくりをする専門集団を作ろう」と「home’s vi」を立ち上げたのでした。

「お結び庵」と「518桃李庵」つながりを紡ぎ、広げるコミュニティ

「お結び庵」に町内の人を招いて
「お結び庵」に町内の人を招いて食事を囲む

「home’s vi」は今、ふたつのシェアコミュニティを運営しています。ひとつは、嘉村さん含め「home’s vi」メンバー2人も住むシェアハウス「お結び庵」。もうひとつは「home’s vi」といくつかのNPOがオフィスをシェアする「518桃李庵(とうりあん)」です。

当初、「home’s vi」はこれらのシェアコミュニティを収益化することを考えていました。しかし、「友だちにお金を払ってもらうのか」「良いものを提供するなら払ってもらっていいのでは?」と悩み、1年間に渡って議論を重ねた末に「コミュニティでは稼がない」と結論づけます。大事なつながりを紡いで広げていく場からはきっと何かが生まれるはず。最終的に経済にもつながるに違いないと考えたからです。

「お結び庵」「518桃李庵」には、毎日のように縁ある人たちやってきます。たとえば、「518桃李庵」で約2年半続いている毎週金曜夜のオープンな食事会「ごいちや食堂」。大家さんの手作りごはんを、学生から社会人までさまざまな人が混ざり合って一緒にいただきます。そこで起きているのは「人と人の出会い」。「肩書き同士が出会う」名刺交換や異業種交流会では味わえない、ぬくもりと手ざわりのある出会いです。

「518桃李庵」で毎週金曜夜に開催されるごいちや食堂のようす
「518桃李庵」で毎週金曜夜に開催されるごいちや食堂のようす

僕のコミュニティづくりの哲学の基本は「悪口は自分で止める」「ほめ口はコミュニティを育む」、そして「夢のアンテナ」です。夢を実現するための情報収集、人脈開拓、研究開発は、一人でやろうとすると時間が足りない。

でも「こんな夢がある」とみんなに話せば、「その分野の新しい本が出ているよ」「後輩に興味ある人がいる」と応援してもらえます。応援されるとうれしいから相手の夢も応援したくなり、コミュニティ全体がお互いの夢を応援する前提を持つようになります。

「home’s vi」がつくるコミュニティには、「自分と相手を大切にする」時間を分かち合い、各自が自然に「自分のやりたいこと」に向かっていく状況が育まれています。

やりたいことを実現する生態系を作る「サイゼンセンワークショップ」

サイゼンセンワークショップのWebサイト
サイゼンセンワークショップのWebサイト

ところで、「シェアコミュニティは収益化しない」と決めて、「home’s vi」はどんなふうに事業化の道を見つけたのでしょう?

はじめのうちは、IT系の仕事を受けたり、助成金を得てイベントを開催したり、がむしゃらに働いていました。その頃に、名古屋のNPO「起業支援ネット」との出会いがあったんです。

副代表・鈴木直也さんが「君たちが尊敬する人を講師に来てもらって学ぶ場を作ればいい。一緒に学べばコミュニティが生まれて、君たちがやりたいことを実現する生態系になっていくから」とアドバイスをくださって。そのアドバイスをきっかけに立ち上げた自主事業「人づくり・場づくり・まちづくり最前線」は、その後京都府から委託を受けて「サイゼンセンワークショップ」として実施できるようになるまで育ちました。

「サイゼンセンワークショップ」は「ひとづくり・場づくり・まちづくり」をキーワードに、嘉村さんが「この人から場づくりを学びたい」と思う国内屈指の講師陣を京都に招聘。30名程度の少人数講座でじっくり学び、講座の後には講師・参加者の交流会も設けました。今年は「幼児共育をテーマにしたサイゼンセンワークショップ」として、多様な講師陣が一堂に会する「素敵な幼児共育コレクションin 関西」を7月に開催予定。7月以降は1年間を通して幼児共育を学びあうコミュニティを作っていくことになっています。

もうひとつ、「起業支援ネット」のアドバイスで実現したのが「きずなファンド」です。忙しすぎてインプットがないコンサルタントが「home’s vi」に投資。嘉村さんは国内外で組織開発や人材開発の手法をとことん学び、「きずなファンド」のメンバーに年2~3回リターンするというものです。

「起業支援ネット」の支援は、こうした具体的なアドバイスだけではありません。ある助成金を申請したとき、「home’s vi」は「明確な成果が事業計画書から見えてこない」と難色を示されてしまいました。すると、「起業支援ネット」の関戸美恵子さん(当時の会長)は、「この人たちは絶対に伸びます。私が責任を取るから信じてください」と啖呵を切って後押ししてくれたのです。

ほんとうに、あのときの恩は忘れられないです。「起業支援ネット」や「み・らいず」のお世話を受けるなかで、僕の中で「いかに無条件の支援ができるのか」という価値観が育まれました。

たとえば、組織作りでも僕は絶対に辞めさせるということはしない。「間違ったことをしたら辞めさせられる」と常に緊張感を持って関わらなければいけないNPOってすごくイヤだなあと思っていて。「どんなことがあっても辞めさせられることはない」という安心感のなかで、その人の可能性を開いてもらいたいんですね。

「home’s vi」という名前に込められた思い

毎年総会後に行っている公開ミーティング「home’s vi感謝祭」
毎年総会後に、お世話になった方々を招いて開催している「home’s vi感謝祭」

「home’s vi」は今年で6年目。行政、教育機関、企業、NPOなど、さまざまな組織と「場づくり」に関わる仕事を経験し、まさに目指していた「場づくりの専門集団」になりました。

場づくりの仕事が順調に広がってく一方で、嘉村さんは今「迷いの淵にある」そうです。この5年間の経験が、嘉村さんの意識に変化を促しているのです。

たとえば、「社会を変える」という言葉が完全に好きではなくなっているんです。子どもに対して「変わりなさい」と言うのは「あなたはダメな子です」とレッテルを貼るようなもので。「変えられる」側をコントロールしようとする、攻撃的な感じがあって持続的じゃないと思うんです。

「変える」ではなく「つくる」、「時代を味わう」という風に価値観が変わってきているんですね。でも、悩んでいる状況がすごく良くて。何か新しいものが生まれそうな気がします。

「home’s vi」という名前にはたくさんの思いが込められています。まず、「H」を発音しないフランス語の読み方にすると「おむすび」。「home」には「つながり、ぬくもり、はじまり」、「vi」は、vital、vitamineなどのエネルギーを表し、また「心に灯をともす」「社会に灯をともす」という意味も込めています。そして、「自分たちが幸せでなければ世界を幸せにはできないし、自分のことばかり考えていても持続可能な社会を作れない」という彼ら自身の「home’s vision」。

さらには「むすひ(産霊)」というやまとことばの意味もこめられています。「むすひ」は、自ずと湧き出てくる生命力そのもの。「計画的、意図的に延長線上の未来を描く」ことから、「未知の未来が生まれるのを、ただ待つ」ことへ――嘉村さんは、多忙な日々を送りながらも「未来が見えないからこそ」ゆとりを取ろうとしています。

嘉村さん、そして「home’s vi」から次は何が生まれてくるのでしょうか? 私もまた、彼らが作る場に参加しながら行方を見守りたいと思います。