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難民が教えるおいしい世界の料理のレシピ本『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』と、そこから広がる活動

Flavours without borders

ネパール、ウガンダ、エチオピア…。アジア、中東、アフリカの15の国の地域のレシピが45も掲載された書籍『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』が出版されました。この本は、日本にいる難民に家庭のレシピを教えてもらい制作したもの。制作したのは、日本で難民支援を行い13年になる認定NPO法人難民支援協会です。

本格派から日本人向けアレンジ版まで

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ヨーグルトを使ったクルドの料理(写真提供:難民支援協会)

この書籍には、本場の味を再現した本格派のレシピから、日本人向けの味にしたり、日本で手に入れやすい食材に変更したりしたレシピまで、さまざまなレベルのものが載っています。

その理由は、教えてくれた人が日頃家庭で料理をしている時に「本場の味を食べたい」とか「日本で気軽に故郷の味を食べたい」などといった「想い」を持っていることに合わせているから。もちろん、本格派レシピの入手困難な食材は、代わりとなる食材も書いてあるので、「本を買ったはいいけど、作れない」なんてことが起こる心配はご無用です。

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ひよこ豆の粉の代わりにきな粉を使った、ビルマ風サラダうどん(写真提供:難民支援協会)

レシピは「ベジタリアン」「魚料理」「豚肉料理」「鶏肉料理」「牛肉料理」「米や麺類」「デザート」のカテゴリに別れています。

「ココナッツミルクとカシューナッツのマイルドカレー(スリランカ)」などは、ベジタリアンのカテゴリですが、ベジタリアン以外の人も満足して食べられそう。また「さんまのスパイシーフライ(バングラデシュ)」や「サケのスイーツバジル和え(ミャンマー・カレン)」など、食材も手に入りやすく、一度覚えればエスニック料理としてではなく、毎日の食卓の定番になってしまいそうなレシピもたくさん載っています。

おいしく文化も学べる

旅行ガイドなどについているコラムを読むと、ちょっとした旅気分が味わえますよね。この『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』にも、多くの料理に「From the cook」というコラムがついています。例えばカメルーンの料理を載せたページの「From the cook」はこんな感じ。

カメルーンでは主食としてライスやトウモロコシの他に、プランティーンが食べられています。プランティーンとは調理用バナナで、日本で食べられているフルーツバナナよりも二周りほど大きく、生では食べず、茹でたり揚げたりします。この料理に限らず、カメルーンの料理全般に合わせられます。(後略)

ちょっと異文化にふれられて興味深いですよね。

そもそも、難民とは?

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「日本には安全はあるが、安心はない」と語る難民(写真提供:難民支援協会)

ここまでしれっと「難民」と書いてきましたが、皆さん、難民とはどういう人のことかを明確に知っていますか? 難民とは、自分の命を守るためにやむを得ず、母国から他の国に逃げている人たちのこと。命を狙われる理由は、宗教、国籍、人種や政治的意見を持ったり特定の社会的集団のメンバーだったりしたため等、さまざまです。ここ日本にも、近年では毎年2,000人以上も逃れてきています。

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離ればなれになった家族の写真を見て思いをはせる難民(写真提供:難民支援協会)

命からがら日本にたどり着いても、難民たちは決して安心できません。難民の多くが「最初にビザを出してくれたのが日本だったから」というように、準備の時間も渡航先の選択肢もないまま日本にやってきています。仕事もお金も家も相談する相手もいない不安定な状況の中、日本政府から難民として認定されるまでに、平均2年、長い場合には5年以上も待たなくてはなりません。その間、母国に強制送還されたら命の危険にさらされる、という不安を抱え続けます。

また、難民申請をしている間の生活も楽ではありません。必ずしも皆が仕事をする資格があるわけではなく、資格があったとしても、就職先を見つけることは簡単ではありません。また、不安定な雇用形態でしか働けない人もたくさんいます。

こういった状況を踏まえ、難民支援協会は、私たち社会の一員として日本にも「難民」がいるということや、難民の置かれた状況について多くの人に知ってもらう活動も行っています。

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トルコ、クルド地域の女性たちに伝わる伝統的なレース編みを使った「オヤ」と、オヤを作った女性たちの文化に触れることができるカフェイベント「オヤ・カフェ」なども行なっている(写真提供:難民支援協会)

「食」をきっかけに、難民について知ってほしい

この本が生まれたきっかけを、認定NPO法人難民支援協会の田中志穂さんはこう言います。

難民支援協会の活動はもう13年になります。難民へ支援を行う一方、「難民のことを多くの方に知ってほしい」と思いながらさまざまな活動を行ってきましたが、中でも好評だったのが、難民が講師になる料理教室のイベント。

おいしいものを食べれば笑顔になり、話が弾みますし、料理をきっかけに難民の文化の紹介や難民たちの境遇も話しやすくなります。イベントを行なう中で、「食」がきっかけであれば、より多くの方に難民のことを知ってもらうことにつなげられるのではと感じました。

このようなイベントに来られない人にも「食」を通じて難民のことを伝える方法を、と考えてできたのが、このレシピ本『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』です。この書籍は、売り上げが難民支援のために使われるだけではなく、日本に逃れてきた難民について多くの人に知ってもらうという目的を持っているのです。

難民ならでは、の制作の難しさ

このレシピ本を制作の段階では、難民ならではの難しさがありました。

・個人を特定されないようにする配慮

この本の表紙は、美しいドレスを着た女性の写真が使われていますが、女性の顔は写っていません。それは、彼女が「難民申請中」であるからです。個人が特定されてしまうような情報を掲載することで、例えば迫害をされていた母国政府の目に触れ、自身や母国に残した家族の身が危険に陥るリスクもあるそうです。この書籍に協力した人の多くが、後ろ姿や手だけで登場しているのはそのためなのです。

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レシピは英語と日本語両方で書かれています

同様に、「お料理によって個人が特定できてしまうことも避けなければならなかった」と田中さんは教えてくれました。実際、アフリカのある国出身の難民は非常にお料理上手でしたが、その国からの申請が一人だけだったために、レシピ本に掲載することはあきらめたそうです。

・料理のくくり

また、それぞれのレシピは、「クルド」「カメルーン」などと、どこの料理なのかがわかるように表記がされていますが、書かれているのは必ずしも国名だけではありません。そこにも、難民ならでは、の理由があります。

例えば「クルド民族」。トルコ、イラン、イラク、シリアなどの国境地帯に暮らしている民族で、彼らは、「国を持たない世界最大の民族」と呼ばれています。日本にも多くのトルコ出身のクルド民族が逃れてきているそうです。本に記載している表記は、難民自身がその料理を何料理だといっていたかで、料理のくくりを変えているのです。

・難民のおかれている状況

加えて、教えてくれる難民の不安定な状況も、考えなくてはなりませんでした。家庭料理は母国の記憶を呼び起こすもの。難民にとっては母国で受けた迫害を思い出すものでもあり、故郷に残してきた家族や大切な人たちのことを思わせるものでもあります。レシピを教えてくれた人に料理にまつわる話を聞くと、「辛すぎて話せない」と言う人もいたそうです。

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ニラを使ったアゼリの料理(写真提供:難民支援協会)

書籍から生まれた広がり

こうした困難を乗り越えて出版されたレシピ本によって、思わぬ広がりが生まれそうだと田中さんは教えてくれました。

・大学の学食で行なわれる「Meal for refugee」

現在、関西学院大学、立命館大学、明治学院大学、東京外国語大学の学食では、「Meal for refugee」として、この書籍のレシピを使ったメニューを出すことが計画されています。プロジェクトを中心になって進めているのは、ミャンマーから難民として逃れてきたご両親を持つ日本生まれの2世で、現在関西学院大学の2年生です。

学食で難民の故郷の味を紹介することで、日本に難民がいるということを学食を食べにきた学生に知ってもらう機会ができます。今後はカフェや会社の社員食堂などでも同様の取り組みをしてもらえるように、働きかけていきたいと田中さんは言います。

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お弁当に持っていきやすそうなクルドの「イチリキョフ」という料理(写真提供:難民支援協会)

・読者が作った料理を話題にすることによる広がり

また、読者がFacebookなどのSNSに作った料理の写真を載せたり、お弁当に難民の故郷の味を持っていって話題にしたりするという活動が生まれてきているとのこと。そのため、難民支援協会では『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』のFacebookページを作成。「実際に作ってみたお料理野写真などを公開してほしい」と呼びかけています。

みなさんも、『海を渡った故郷の味 Flavours Without Borders』を手に取って、おいしい料理を作りながら、難民たちの気持ちに想いをはせ、作った料理の写真をSNSで紹介してみてはいかがでしょうか。