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沖縄の自然と暮らしから見えてくるものとは?海人・畑人体験を通じて、地元の魅力を伝える「ホールアース自然学校」 in 沖縄

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エコツアーや体験型ツアーは今や日本の各地で見られるようになりました。しかし、日本人がそれぞれの暮らし方に真摯に向き合うことが求められている今、その役割が単に何か珍しい体験をすることではなくなってくる気がします。

今回、沖縄県名護市の「ホールアース自然学校」沖縄校が企画したエコツアーを通じて、日本のどこでも抱えている地域の課題を見つめてみたいと思います。

「畑人・海人体験ツアー」と名付けられた今回のツアーは、3泊4日で、名護のフィールドを使って地元の人たちの暮らしを体験するというもの。10代から70代までの14人が、このツアーに参加するため、全国から集まりました。

このツアーを企画したのは、ホールアース自然学校沖縄校のスタッフの尾崎由嘉さんです。尾崎さんは、埼玉県出身。海外の大学を卒業後、国際NGOで働き、ラオスやインドネシアにも駐在していた経歴の持ち主です。名護との出会いは、NGOでの仕事がきっかけでした。名護に強く惹かれ、数年にわたり頻繁に訪れるようになり、2011年にホールアース自然学校沖縄校のスタッフになりました。

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尾崎由嘉さん。「自然はどんどん減ってきている。地元の人と一緒に守っていきたい」

私が名護に来て感じたのは、地元の人たちは、自分たちが他の場所と比べてより自然が豊かなところで暮らしていることをあまり認識していないことです。自然は地元の人たちの暮らしと常につながっています。ですから、ツアーでは名護の暮らし体験を通じて、ツアーの参加者と名護の地元の人たち両方に名護のよさを発見してもらいたいと思っています。

ロゲイニングで名護の町を歩

名護市は、沖縄本島の北部に位置し、那覇から車で1時間ほど。到着した参加者はまず、ロゲイニングというレクリエーションで名護の町を散策しました。


名護城の自然に思わず見とれる。歩きながら出会う様々な風景が魅力。

ロゲイニングとは、地図、コンパスを使って、設置された複数のチェックポイントをできるだけ多く制限時間内にまわり、得られた点数を競うという野外スポーツです。14人は4つのグループに分かれ、チェックポイントの記された地図を片手に名護の町を歩き回ります。例えば、スタート地点から遠くのポイントほど得点が高かったりします。

ルールは、交通機関を使わずに歩いたり走ったりして移動することと、チェックポイントで写真を撮ってくること。初対面のメンバーで作戦を練ったり、助け合ったりしながら、2時間のロゲイニングを終えました。


街中で見つけた地図を参考にしたり、人に聞いたりすることも。

チームによって、高得点を狙って遠くまで歩いたり、得点は気にせずのんびりお茶したりと、個性が分かれました。一人でツアーに参加した人たちも、グループで話し合いながら2時間一緒に歩くことで、だいぶお互いのことを知ることができたようです。

この日は3月の初旬でありながら25度近くの暖かい日。大阪市から参加した松葉みどりさんは、名護城の階段を上り下りし、「歩くのは好きで楽しいけれど、2時間歩いたらさすがに明日は筋肉痛かも。普段はひとり旅が多いので、こうして知らない人たちと一緒に過ごす旅は新鮮です」と話してくれました。

若き海人が伝えたいこと

2日目は、名護の猟師さんの指導で、海人体験をさせてもらいました。沖縄では、漁師のことを「海人(うみんちゅ)」と呼びます。この日は、海人さん6名の協力の下、3隻の漁船に分乗して、天然もずく採りと刺し網漁に挑戦。160mに及ぶ刺し網を引き上げると、この日は海人さんも驚くほどの大漁でした。


大漁のことは「こいのぼり」という。海人さんたちも「これはこいのぼりだ」とびっくり。

奈良県から参加した大学生の岸本昌志さんは、「奈良にいると海を見る機会はあまりないので、テンションが上がります。漁船に乗るのももちろん初めて。もずくはこんなふうに生えているんですね」と興奮気味。

取れた魚や蟹を網から外す作業も一緒にやりました。普段、海人さんは早朝に漁に出て、競りの時間までに魚を全部一人で網から外すといいます。今日は10人近くでやっても1時間以上もかかり、漁業の厳しさも垣間見ることができました。


最初はおっかなびっくりでも、すぐに魚を触れるようになってくる。

捕れた魚はすぐにさばいて、魚汁、天ぷら、刺身にしました。もずくも沖縄流に天ぷらにしていきます。海人のリーダー、豊島之弘さんが、鱗の取り方から魚のさばき方、どの魚がどんな料理に適しているかまで、丁寧に教えてくれました。

豊島さんは、高校、大学では造園を学び、九州や東京で造園業に従事していた経験もありますが、現在は家業をついで漁師として働いています。


魚のことは何でも聞いて、と言う豊島さん(手前左)。慣れた手つきで鱗を取っていく。

漁業のいい面も悪い面も見てきました。沖縄でも冬の海は冷たいし、海で命を落とした先輩もいるし、この仕事には魅力があるとは言い難くて、若い漁師の成り手がどうしても少ないんです。漁師の視点を変えたいと思っています。魚を捕る技術は進歩しているけど、増やす技術ってほとんど進歩していないんです。自分も最初は食べる魚が捕れればいいと思っていたけれど、海の生態系や環境のことなどの知識がついて見方が変わってきました。

小学生の時に見ていた海の中と、今見る海が全然違うんです。魚の数が格段に少なくなっている。捕るだけじゃなくて、魚を保護することをこれからやっていきたいし、やっていかなければいけないと思っています。僕らのような若い世代の考えが変わっていけば、上の世代も変わっていくと信じています。まだ模索中ですけどね。

体験ツアーの受入をしているのは、漁業に関わったことのない人に海のことを一緒に考えたり、伝えたりしてほしいという思いから。それと同時に、外から来る人との交流を通じて、仲間の海人たちにも刺激になると思っているからです。豊島さんの思いに共感して、隣の漁業組合から今回参加してくれた海人さんもいました。

参加者は、自分たちで作った獲れたての魚料理を口にしながら、豊島さんや他の海人さんの話に聞き入っていました。

移住農業者だからこそ、できることがある

3日目は、畑人(はるさー)体験として、無農薬で米を作っている農家の松田憲行さんの田んぼで、田植えを行いました。援農で来てくださっている農家の方2名、地元の大学生と若手社会人5名も加わりました。


普段はホールアースのプログラムを手伝っている地元の大学生も参加。みんな田植えは初めて。

沖縄は、マンゴーやサトウキビの生産が多く、米を作っていること自体があまり知られていません。ツアー参加者で、農業経済を学んでいる大学生の森泉草太さんも、「大学の授業で、米よりもマンゴーなどの商品作物に切り替えていると習っていました。沖縄で米っていうのは意外です」と少し驚いた様子。

え 農家
松田憲行さん

沖縄は二期作で、年に2回収穫できるのですが、米自体があまり気候に合っていなくて、本州のほうが収量は多いんです。ひとめぼれとか、限られた品種しか作れませんね。ですが、ここは元々田んぼだったので、それを復活させたかった。沖縄で売られている米はほとんど内地の米で、島の米で無農薬、天日乾燥させているのは珍しく、ほしいと言ってくれる人が増えてきて、直売しています。

松田さんは埼玉県出身で、沖縄に移住して農業を始めて4年目。奥様のおばあさまが持っていた休耕地を耕しなおし、米と野菜を作り始めました。

農業は投資してもなかなかお金にならない。でも、地に足をつけた仕事だと思います。自分は楽しんでやっているし、4年目で軌道にのっているのは運がよかったですね。もちろん、最初に地元の人に農業を教えてもらったことも大きいし、こうして援農に来てもらっているのもありがたいです。

松田さんの一反の田んぼを、その日3時間ほどかけて全て手植えで苗を植えました。19歳から71歳までが力を合わせて植えた田んぼ、終わったときには歓声が上がりました。


全員が同じペースで進まないといけないので、チームワークも重要。


みんなの歩いた後ろには、不揃いながらも列になった苗が植わっている。

この田んぼを、最初の年、松田さんはひとりで10日間かけて手で植えたそうです。今はどこの農家も機械で植えるのが当たり前。松田さんも今は機械を所有していて、普段は一人で4時間くらいかけて一反植えるそうです。手植えのときにしなければならない苗取りの作業も、機械で植えるならする必要がありません。

今は機械化されて、なかなか農業に関わる機会がないと思いますが、自分も最初、農業体験をしたことで、農業をやりたいと思ってこの道に入ったので、他の人にも体験ができる場所を提供したいと思っていました。観光協会やいくつかの場所に相談しましたが、個人の農家と組んでくれるところはなかなかなくて、どうしようかと思っていました。

そんなとき、ホールアース自然学校沖縄校と出会ったんです。沖縄も高齢化が進んで、休耕地がどんどん増えています。そんな中、内地から来て農業を始める人たちが実は多くなってきているんです。やりたいと思っていても取っ掛かりがない人たちも多くいると思います。ですから、ニーズがあれば、サポートしたいし、体験ツアーもその一端として受け入れを始めました。

県内から参加した仲西安順さんは、同じ名護市の恩納村で畑をやっています。仲西さんは、東京、大阪、名古屋などで働いた後、定年を前にして名護にUターンして来ました。今は畑も趣味程度ですが、米も作って自給自足を目指したいといいます。

県内で、無農薬で農業をやっている人とか、面白そうな人には会いに行って話を聞いたりしているので、松田さんのことも耳にしていました。これから米を作ってみたいので、また連絡を取り合っていきたいですね。

大阪市の会社員、新矢由紀さんは、初めての田植え体験を満喫した様子でした。

自然と一体となれる素晴らしい仕事だなと思いました。でもひとつひとつの作業は重労働で年に2回やるのは大変。これからお米を大切に食べようと改めて思いました。

新矢さんは、植える前の苗を分ける苗分けの作業でかがむのが腰に負担がかかると、試行錯誤。正座が楽なのではないかと松田さんに提案し、「それはいいかも」と松田さんもみんなも、途中から田んぼのあぜ道に正座して作業する姿が見られました。こうやって思いもよらない視点がもたらされるのも、交流の面白さかもしれません。

自然の先に見えてくる暮らし

ここでは、海人・畑人体験を取り上げましたが、ツアー中にはそれ以外に、松田さんの米麹を使った味噌作り体験や、ホールアース自然学校沖縄校の強みを活かしたナイトハイクや清流リバートレッキングも行われ、沖縄の自然と暮らしを様々な角度から知ることができる内容になっていました。


大人気の清流リバートレッキング

しかし、体験型のツアーは決して目新しいものではなく、沖縄でも伊江島や名護と同じ北部の東村などで10年以上も前から行われています。今からあえて名護で始めるというのはどうしてなのか、ツアーを企画した尾崎さんに伺いました。

確かに後発であることは否めません。それに、名護は沖縄の中でも観光地としては通り過ぎられてしまうことが多い地域なのも事実です。でも、名護は市内にホテルや商店街があり、漁港や畑などへの移動にも時間がかかりません。離島で民泊するのは少しハードルが高いという人が、本島で自然体験をするのにはいい場所といえるんです。また、修学旅行向けのツアーは沖縄では多く展開されていますが、私たちは一般の個人向けにもコーディネートしています。

今回見てもらったように名護の方々はそれぞれの課題を抱えています。自然学校の仕事は、自然が相手ですが、その地域で自然と共に生活している人あってのものです。地域の人と一緒に自然を守っていくことを考えていくうちに、地域の人の課題やニーズを知り、「自分たちにできることはなんだろう?」と考えました。名護の人同士、名護の人と外から来る人を繋いでいく役割を私たちが担えたらと思っているんです。


味噌作り体験で使った米麹は松田さんのお米からできている。地元の関係性が見えるのもツアーの大きな魅力。

今回の体験ツアーは、沖縄県の「元気プロジェクト」の助成によって行われました。これは、沖縄の魅力や優位性をアピールでき、観光客の誘客が期待できる優れた事業計画を広く募集するものです。大きな企業が比較的多く採択されている中で、今年度初めて応募・採択された、ホールアース自然学校沖縄校。今後助成事業から独自の事業に発展させていく予定だといいます。

今回は、日頃自然に触れたり、体験ツアーに参加したりしたことがないような人に参加してもらいました。また、県内、県外の両方から参加者を募りました。

今後、事業化していくうえで、県外からの移住希望者や農業・漁業に特に関心の強い人にターゲットを絞ったツアーの開催も考えています。それによって、よりニーズにあったプログラムやマッチングができると思います。

自然とその中にいる人々の暮らしを見つめること。ホールアース自然学校沖縄校のチャレンジは、現在の日本の地方の多くが抱える課題と無縁ではないでしょう。地方と外から来る人々を繋ぐ試みのひとつとして、発展していってほしいです。