みなさんは学生時代「性教育」を受けたことがありますか?多くの方はきっと「イエス」と答えると思います。身体の仕組みや、それにともなう心の変化を学ぶ性教育は“男女”という二つの性を大前提に語られることが一般的ですね。
でもこのカテゴリーに当てはまらない性のあり方、セクシュアリティがあることを、みなさんは普段どれくらい意識しているでしょうか。今日は誰もが自分らしく輝ける社会づくりを目指す「虹色ダイバーシティ」の活動を、代表の村木真紀さんに伺いました。
あなたの隣にもいる性的マイノリティ
「性的マイノリティは私の周りにいない」と思う方、実はあなたの認識よりもずっと多いのです。あるアンケート結果によると人口の5.2%を占める(2012年電通総研調べ)と言われています。つまり確率的には、クラスや職場に20人いれば、その中に1人は性的マイノリティが存在する、ということなんです。
チャートをもとに今いちど自分の”性”を考えてみましょう ©2013 Nijiiro Diversity All rights reserved.
greenz.jp読者にとっては「LGBT」という言葉でおなじみかも知れませんが、もう一度性的マイノリティの性のあり方をおさらいしましょう。女性が女性を好きになるL(レズビアン)、男性が男性を好きになるG(ゲイ)、異性も同性も好きになるB(バイセクシュアル)、生まれた時に割り当てられた性別にとらわれないT(トランスジェンダー)。あるいはLGBTにも当てはまらない、多様なセクシュアリティを持つ人だっています。
にもかかわらず、社会生活を送る上では必ず二つに分けられてしまう性別。自分の思いにかかわらず、生まれた時から男か女のどちらかが与えられて、寝ても覚めてもずっと自分につきまとう。性別に違和感を抱いている人にとっては、日常生活そのものが生きていく上での死活問題。「朝起きて制服を着ることが苦痛で、学校に行けず引きこもる人だっています」と村木さんは言います。
自分を常に偽り続ける緊張や不安、孤立感などから精神的にも影響が出やすく、自殺につながることも。日本の現状では性的マイノリティの人を守る法律もなければ、同性婚も認められていない。”老若男女”という言葉は”あらゆる人々”という意味ですが、その中に性的マイノリティである自分たちは想定されていないという経験を、ずっと子どもの頃からしているのです。言葉にしないと、私たちは最初から”なき者”とされてしまうのです。
大手企業こそ、今LGBTに注目!
家族にすら本当の自分を打ち明けられないLGBTたち。違和感や苦痛を抱えながら学生生活を終え、ようやく社会人になったとしても、職場に同性愛者をからかう雰囲気があったりして、転職を繰り返す人も多いのだとか。「これでは優秀な人材の流出にもつながります」と村木さん。
「虹色ダイバーシティ」では2012年から性的少数者が働きやすい職場をつくるために、企業や行政機関などに向けて、社内勉強会や講演会、コンサルティング活動を行っています。これまで「資生堂」「日本IBM」といった大手企業や行政、NPO団体から続々とオファーを受けてきました。
講演後は「今まで意識してこなかった問題なので興味深かった」「当事者ではないが、自分にできることを考えたい」などのポジティブな声を多く聞くと村木さんは言います。中には講演後に会社の行動規定を変えた企業もあるのだとか。村木さんは爽やかに、笑顔でさらりと話してくれましたが、会社の行動規定は会社のあり方や、会社の価値そのもの。それを変えるのは大きなイノベーションです。そもそも「虹色ダイバーシティ」はなぜ企業に向けて講演をしているのでしょうか?
例えば、政治の場面で同性パートナーの法的保障を実現しようとすると、法律をつくらないといけないので、国会議員の3分の2を説き伏せないといけない。その3分の2を説得するためには、その議員を支持しているさらに多くの人々にも同意を得ないといけない。それってかなり大変なことでしょ?
でも会社だったら法律がなくても変えていける。社会を変えるために、今の社会の中で大きな影響力を持つ企業のマネジメント層に向けて話をするんです。日本ってちょっと雰囲気が変われば、あっという間に世論が変わるという特徴がある気がするんですよね。その最初のきっかけになればいいと思うんです。
「虹色ダイバーシティ」代表・村木真紀さん
性的マイノリティのサポーターになりませんか?
現実的に社会を動かす力がある層をターゲットに活動していくところが、アイデアですね。 村木さんは活動を続けるうちに「会社に外から物申すのではなく、企業を内側から変える」方が日本の組織の中では動きが早い、と悟ります。そしてその立役者に”ALLY(アライ)”を据えました。
「ALLY」とは、もともと同盟・支持者という意味。性的マイノリティの当事者ではなく、理解者、支援者というわけです。確かに当事者は自分のセクシュアリティを会社の中でカミングアウトしづらいし、問題を抱えていたとしても声をあげにくい。でも第三者なら、自分のためでなく誰かのためになら、言えることってありますよね。村木さんはLGBTをサポートする人たちの取り組みこそが世の中を変えていくと言います。
当事者が声をあげたら「わがままだ」と批判されがちです。また、LGBT施策を提案して否定されたら自分自身を全否定されたような気がして落ち込んでしまいます。そんな場面でも、”ALLY”なら立ち向かってくれるんです。
“ALLY”マークを職場のデスクなどに貼って「私は”ALLY”です」宣言しませんか? ©2013 Nijiiro Diversity All rights reserved.
「虹色ダイバーシティ」は講演活動と平行して調査・研究活動を行っており、LGBT当事者向けに「LGBTと職場環境に関するアンケート調査」を行いました。2013年の2月から開始して、2ヶ月でアンケート回答数はなんと1000人を越えたそうです。
日本ではLGBTに関する職場でのアンケート調査は、これまで行われてきませんでした。どういうことが困っているのかを明確にして「何かしたいけど、何をすればいいのか分からない」という人たちに、具体的な提案をしていきたいですね。
LGBTのフロントランナーからもらったバトン
京都での学生時代からアクティヴィストとして活動してきた村木さん。当時すでにHIV/AIDSに関する啓発活動をしていたNGOや、セクシュアリティをテーマにした前衛パフォーマンス集団「ダムタイプ」のメンバーが出入りする「アートスケープ」というコミュニティがありました。“性”のことを語り合えるリベラルな雰囲気は、それまで同じ悩みを抱えた人と出会える場がなかった村木さんには、心に差し込む春日のような存在だったのかもしれません。
「アートスケープ」は一軒家を数人でシェアしていて、そこに行けば必ず誰かがいるというスペースでした。中でも「エイズポスタープロジェクト」は異性愛の人も含め、色んなセクシュアリティの人が“ミックス”で、一緒に活動をしていたんです。
その後、会社員になってから、2005年に「関西クィア映画祭」の立ち上げの実行委員長をした時、うつで働けない人とか、学校に行けてない人など、セクシュアリティだけでなく、色々な状況を抱える人が “ミックス”の状態でした。ひきこもりや精神疾患の人が、映画祭になるとがぜん生き生きと輝いて動いていたし、目を見張るような成果をあげていたんです。
色んな仕事と役割があって、そこで力を発揮して輝ける人たちがいて。ダイバーシティの強さってこれなんだと思ったのが原体験です。だからこそ「虹色ダイバーシティ」は”性”のあり方だけでなく、色んな立場の人たちと自分も関わっていきたいです。
「実は、私も自分の性を“レズビアン”だと固定的に考えてはいません。私の場合は年齢とともに変化してきたし、それでいいと思う」と語る村木さん
レズビアンだけ、ゲイだけ、性的マイノリティだけ。これまで性的マイノリティのコミュニティには、どこか閉じられた、アンダーグラウンドなイメージがありました。LGBTも社会の一員として当たり前に存在していて、社会を支えていることを、はっきりと目に見えるようにするために。「夢は虹色ダイバーシティのビルを建てること。きっとその過程が面白いと思うんです」と話す村木さんの力強い瞳を通して、性的マイノリティも異性愛者も“ミックス”の未来がどんどん広がっていく絵が見えました。
性の多様性を意味するレインボーのロゴ。赤や紫など6色で表されることが多いですが、言葉で表そうとするとかえって色が限定されてしまう気がします。実際の虹は何色と明言できないほど、淡くて透明で曖昧な色の集合体。私たちの性も、異性愛、同性愛などといった言葉で区切らず、めいめいが自分の色を出していける社会がハッピーですね。
「虹色ダイバーシティ」では5月3日に「東京ウィメンズプラザ」で「LGBTと職場環境に関するアンケート調査」の結果報告イベントを行います。気になった方はぜひ参加してみませんか?
(Text:ヘメンディンガー綾)
東京でアンティーク着物店に勤務した後、地域情報紙、ファッション雑誌の編集に携わる。結婚を機に大阪に帰郷。旦那がほぼオールセルフDIYした築70年の古民家に薪ストーブを入れて火と木のある暮らしを楽しんでいます。
野菜が好きで野菜オンリーのレシピを続々実験&考案中。近未来の目標はフレンチと和のフュージョン懐石でチャリティ茶会をひらくこと。日本の昔からある手仕事のかっこよさをもっと伝えていくこと。華道(御室流)と茶道(裏千家)を学んでいます。1歳半の息子を抱きしめながら育てています。