(C) Yuta maeda
春から始まる新生活。これを機にクローゼットの中身を断捨離する人もいるのではないでしょうか?そんな時「手放したいのにどうしても手放せない1枚」ってありませんか?今日は思い出の布とローカルな織物をパッチワークでリメイクする「patch-work」の活動をご紹介します。
男子だって手芸します!
「patch-work」は村上史博さん、丸井康司さんからなる男性手芸チーム。2012年7月に行われた兵庫県高砂市の商店街活性化イベントを皮切りに、その活動をスタートさせました。これまで「ハッピーアースデイ大阪2012」や、「笑顔は世界共通のコミュニケーション」をテーマに様々なソーシャル活動を仕掛ける「MERRY PROJECT」のクリスマスイベントなどで、ほぼ毎月ワークショップを開催してきました。
内容は、参加者がもう着なくなった服などを持ち寄り、兵庫県の綿織物「播州織」と合わせて、吾妻袋やティッシュケース、フリンジストラップをつくるというもの。仕上げには“播州そろばん”の玉をボタンのようにモチーフとして取り入れるという、何とも遊び心のあるデザインです。
三角に切った布を4枚をつないでつくる吾妻袋。ビギナーでも簡単にできます
ハギレで笑顔になる、その名の通り楽しいワークショップ。参加リピーターもちらほら
“街の記憶をつなぐ”パッチワーク
「播州織」は江戸時代から兵庫県西脇市を中心に続く地場産業です。しかし外国の安価な織物におされ、生産が縮小方向にあります。“播州そろばん”は兵庫県小野市の伝統工芸品。電卓やパソコンでの計算が主流になった今では、こちらの産業も衰退の一途をたどっています。
時代の流れとともに衰退していく伝統産業と、そうさせないように頑張る人々との出会いが「patch-work」の琴線に触れました。「こうした地場産業の現状をわかってもらって、別の何かに変換するようなお手伝いができたらな」と思い、ワークショップに取り入れるようになりました。
小野市の伝統工芸品播州そろばんの玉をモチーフに使用 (C)patch-work
ローカルな素材で地元のおばあちゃんがつくるギフト
また「patch-work」は兵庫県淡路島の保育園から依頼を受け、園児たちの進級祝いにコップ袋と吾妻袋のデザインも手掛けました。その縫製は兵庫県在住の手芸上手なおばあちゃんたちに依頼。素材には地元の漁師さんたちが使っていた大漁旗を取り入れました。ローカルな素材、ローカルな人々による手作りの贈り物。子どもたちは地域を知るきっかけになり、おばあちゃんたちは子どもたちに喜んでもらえる。笑顔の輪が広がっていきますね。
今後はインターネット上で、好きなおばあちゃんに手縫いの袋をつくってもらえるサービスを開始する予定。“いくつになっても誰かの役に立つ”おばあちゃんたちの雇用の創出を目指しているのだとか。この「Grandma’s gift for Awaji 」というビジネスプランは、社会起業家を目指す若者のビジネスプランコンペ「edge2013」の最終審査会に進むファイナリストを1位で通過しました。
子どもたちのために針を持つとおばちゃんも元気が出そう!(C)Yuta maeda
地元淡路島の漁師が使っていた大漁旗を使用。ビビッドな色がかわいい(C)patch-work
生活を良くするための”デザイン”をしたい
「patch-work」コミュニティディレクター村上史博さん(C)Big village photo factory
かわいくて簡単に作れ、おばあちゃんも笑顔になるパッチワーク。どうやって思いついたのでしょう?
村上さんと丸井さんは同じ会社に勤め、オフィスや病院で使う家具のデザインをしていました。そこでは「まだ使える家具を廃棄して新たにデザインし直し、入れ替えることの繰り返し」が「当たり前」でした。学生時代から「人の心を揺さぶるデザインをしたい」と思っていた村上さんはマスプロダクションのあり方に次第に矛盾を感じるようになります。
もともとデザインって自分たちの生活を豊かにしたり、より良くするためにある。でもビジネスの世界では“売る”という目的のための“デザイン”になってしまっていて。それでいいのかな?という疑問はずっとありました。もっと物の価値をわかってもらえたり、触れたりすることで喜んでもらえるような仕組みや場をデザインしたいなと思いました。
“コミュニティ”をつくって老人の孤独死をなくしたい
7年前にお父さんを亡くされた村上さん。今年からはお母さんも岡山の実家で一人で暮らすようになってしまいました。お母さんの老後のこと、さらには九州で暮らすおばあちゃんへの心配は、心にずっと横たわっていました。
「本当は自分が地元に帰りたいけど、仕事のことを考えるとすぐにはできない」という矛盾を抱えていえた村上さんは「せめて暮らしの中でお母さんやおばあちゃんが楽しみを見出せる場所や、人とのコミュニケーションがあったら、生き甲斐につながるかも知れない」と考えました。
そもそも核家族化が浸透する前にはきっとあったはずのコミュニティ。そこでは年齢に関係なく様々な世代の人々が交流し、助け合い、生活の智恵を伝えあってきたはず。核家族化と地方の過疎化がさらに進んだ今では「老人の孤独死」は多く、おばあちゃんたちの世代から続く暮らしの智恵や技も途絶えてしまいがちです。
何がきっかけでなくなってしまったのか、原因はいろいろあるんだろうけれど。そこに帰れないものかな、と思うところがあったんです。でも僕らができることは“デザイナーとしてのデザイン”しかない。
そんな時、村上さんのおばあちゃんが趣味で続けていたパッチワークがヒントになりました。おばあちゃんがパッチワークしてくれたポーチをもらったものの、布地の組み合わせ方がしっくりこなくて、残念ながら人前では使えなかったのだとか。
僕に使ってもらいたかったおばあちゃんの気持ちと、リアルには使えないという切ない現実。その隙間をデザインで埋められないものか、という仮定のもとに僕らもパッチワークを習い始めたんです。
「patch-work」パッチワーカー丸井康司さん(C)Big village photo factory
“パッチワーク+デザイン力”でコミュニティをつくる
パッチワーク教室で技術を学んだ二人。今後は、ワークショップを続ける一方で、布や色の組み合わせ方まできちんとデザインしたパッチワークのキットをネット販売したいと考えています。そしてパッチワークが上手なおばあちゃんに講師をお願いし、キットを買ったものの、つくり方がわからない人が通える教室を開いていきたいのだとか。
パッチワークは布の組み合わせ方でデザインががらりと変わります。おばあちゃんの趣味と思われがちですが、完成形までしっかり僕らがデザインして、誰が縫っても素敵にできるキットをつくりたいです。
僕らはお母さんが子どもにつくってあげたり、おばあちゃんが孫につくってあげたくなる商品を開発していきたいです。そこにローカルな部材を組み込んだら自分たちの住む街の歴史や誇りも一緒に伝えていけると思う。パッチワークを通して、若い人とおばあちゃんが自然にコミュニケーションする場ができると考えています。今後は日本各地の布や工芸品を使い、ローカルで世界にひとつしかないパッチワークをつくっていきたいです。
“被災地のこれから”のヒントにも?
地場産業の活性化にも一役買い、地域のおばあちゃんたちも社会とのつながりが持てる「patch-work」の活動。活動拠点にしている神戸の街は1995年に阪神・淡路大震災に見舞われました。震災から18年が経ち街は復興をとげていますが、一時は被災者の孤独死が問題になっていました。
僕らの教室で講師をしてくれる予定の先生も、震災のショックがあまりにも大きく、失意の中引きこもりがちになっていたそうです。お友達から「もうちょっと外に出ないと」と誘われて教室に通い始め、今では生徒を30人くらい抱えてバリバリ活動してらっしゃるんですよ。
東日本大震災の被災地には日本屈指の伝統織物や工芸の産地もたくさんあります。「patch-work」の取り組みは被災地の5年後、10年後のロールモデルになる可能性も秘めています。
子どもからおばあちゃんまで。人と人をつなぎ、地域の産業も活かされる。もしかしたらこれって究極にエシカルなパッチワークかも?
「patch-work」は現在ワークショップの参加者、また企画・運営を手伝ってくれるボランティアスタッフを募集しています。手芸が苦手でも大丈夫。
気になったあなた、一緒にワークショップに参加してみませんか?
持ち物は思い出の1枚と、あなたの笑顔です。
(Text:ヘメンディンガー綾)
編集・ライティング/フランス語翻訳/着付け講師。
東京でアンティーク着物店に勤務した後、地域情報紙、ファッション雑誌の編集に携わる。結婚を機に大阪に帰郷。旦那がほぼオールセルフDIYした築70年の古民家に薪ストーブを入れて火と木のある暮らしを楽しんでいます。
野菜が好きで野菜オンリーのレシピを続々実験&考案中。近未来の目標はフレンチと和のフュージョン懐石でチャリティ茶会をひらくこと。日本の昔からある手仕事のかっこよさをもっと伝えていくこと。華道(御室流)と茶道(裏千家)を学んでいます。1歳半の息子を抱きしめながら育てています。