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おいしく楽しく、安心して食事ができるために。アレルギー食材がひと目でわかる「食材ピクトグラム」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

タマネギ入っていないかな?ピーマン入っていないかな?苦手な野菜がある人は、料理の食材が気になりませんか。ましてアレルギーや、宗教的な理由で口にできないものがある方は、私たちの気づかないところで、食事に大きな不安を抱えながら暮らしています。どうしたらその不安をなくすことができるだろう?どうしたら楽しく食事ができるだろう?

「食材ピクトグラム」はそんな食事の問題を解決したいという想いから生まれたアイデアです。ピクトグラムとは言葉を使わずに情報や注意を伝える絵文字のことで、一番身近なものをあげるなら、非常口のマークがそれに当たります。

たとえば、ひとくくりにカレーといっても、ビーフ、ポーク、チキン、マトン、ベジタブルなど、たくさんの種類があります。最近は英語のほかにも多言語でメニューをつくっているお店が増えていますが、すべての国の言語を記すことはできませんし、英語だって万人の共通言語ではありません。そんなときに役立ち、国や文化を超えてみんなに意味を伝えられるのが食材ピクトグラムなのです。

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現在、食材ピクトグラムの種類は14種類。牛、豚、鶏、羊、魚、貝、アルコール、かに、えび、卵、小麦、そば、乳、落花生。アレルギーと宗教上の理由で食べられないものを前提にして選ばれた食材一つひとつのピクトグラムがデザインされています。メニューのとなりに食材がわかるマークがあれば、安心してそれぞれに合ったメニューを選ぶことができます!

宗教上の理由で食べられない、気づきを与えてくれたフィッシュバーガー

関西国際空港の旅客ターミナル全ての飲食店にも採用されている食材ピクトグラムですが、実は国際的にみても新しい取り組みで、日本からはじまったものなのです。食材ピクトグラムの普及活動を行っているのは菊池信孝さんが代表を務める、神戸のNPO法人インターナショクナル。そもそも、なぜ食材ピクトグラムが生まれたのでしょうか?きっかけは菊池さんの実体験にありました。

外国語大学で学びながら、留学生に日本の電車の乗り方や、買い物の仕方を教えるボランティアをしていた菊池さん。あるときサウジアラビアの留学生と一緒にごはんを食べようと外食に誘いました。もちろんイスラム教の宗教上の理由で、豚肉を食べることができないのは知っていました。お寿司やおそばなど、なるべく素材のわかる日本料理を想定しておいたのですが、厳格なイスラム教徒の彼は「何が入っているかわからないから不安だ」と菊池さんの選んだお店を頑なに拒み続けました。

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食材ピクトグラムを考案したきっかけは菊池さんの実体験から

結局その日は、ファストフードのフィッシュバーガーを食べて別れました。彼にとってはそれが唯一安心して口にできる食事だったんです。さみしかったですね。楽しく食事できなかったことが残念で。

一番さみしい想いをしていたのは、日本の食事を楽しみにしていた彼だったと思います。そのときに、世の中には食事に制約があって困っている人がいるんだということに改めて気がついたんです。

留学生が多く、さまざまな食文化を背景にもつ人が通う外国語大学も、当時の学生食堂には、宗教上の配慮や野菜だけのメニューもないという状況で、学生食堂を利用していない留学生がいることもわかりました。留学生に話をきくと、お酒が飲めないのでオレンジジュースを注文したらオレンジ酎ハイだった、とか、サラダを注文したらベーコンがのっていたというエピソードもでてきました。

お酒やお肉が食べられない人にとって、気づかずに口にしてしまうのは大変なことです。しかも、彼らが選ぶのは慣れない日本の飲食メニューです。みんな何かしら一度は食事に困った経験を持っていました。

これでは留学生と交流もできないし、何より一緒に楽しく食事がしたい!

菊池さんは、大学在学中にインターナショクナルを起ち上げ、食の不安を解決する取り組みをはじめます。

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国や言語にかかわらず、誰にでもわかるピクトグラムを

まずは、大学の学園祭で食材を多言語表記することを試みると、「ありそうでなかった」「とても助かる」といった感想があった一方で、「英語もわからない」など、言葉の表現の限界も知ることができ、ピクトグラムの制作に挑戦。留学生の利用も多い大学近くのコンビニエンスストアの協力のもと、サンドウィッチとパンにピクトグラムの表示を付けてみたところ、なんと売上げが50%もアップしました。

そこから世界標準の食材ピクトグラムを作るために、何度も試行錯誤を重ねて現在のピクトグラムに至りました。本当に誰にでもわかるようにしたかったので、さまざまな国籍の方、1500人にアンケートを採りデザインを決めていきました。

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牛乳のデザインは特に困ったそうです。最初は酪乳のタンクのデザインにしていたものの、国によっては酪乳の文化がなく、タンクそのものを知らない場合もあり、最終的には瓶に牛のマークをあしらったものに。サイズは国際基準で定められたピクトグラムのルールに則って、最小8ミリ角の大きさでも意味が伝わるデザインになっています。

APECのレセプションに採用!
ホストファミリー支援にも広がった普及活動

デザインの質を上げたことで2010年にはAPECの国際会議にも採用され、各国の来賓からも高い評価を得ることができました。そのような企業や行政を通した普及活動はもちろんですが、菊池さんの活動はそれだけに留まりません。ホームステイを受け入れるホストファミリーや看護学校で食のアドバイザーとしても講習会を行っています。事務所には世界のお菓子のパッケージがそろえられていて、国ごとに定まっている食品表示のマークを題材にした講習にも取り組んでいます。

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企業や大学で外国の食文化や食材ピクトグラムの表示について講習

ホストファミリーの場合は、受け入れる国の食文化を知ってもらい、事前に食事のメニューを考えます。食べても問題ない食材を選んで、一緒にスーパーで買い物をするところからサポートすることで、留学生を安心して受け入れられるようになります。

大学生を対象にした特別講義も増えているそうで、実際に食材ピクトグラムを勉強した学生が学園祭の模擬店舗でピクトグラムを掲示して来場者に喜んでもらえたという報告や、食に関心を持った学生が食事環境をテーマに卒論を書くなど、食に対する気づきを与えるきっかけにもなっています。

食材ピクトグラムの販売価格は学生でも買える価格にしたんです。9800円なら学祭の実行委員の予算でも買えますからね。

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ホストファミリーのための食セミナー

安心して食べられることで、世界中の食卓に楽しい会話が生まれてほしい

今後は、さらに世界の国際空港やホテルをはじめ、すべての飲食店に表示されるようになってほしいと願う菊池さんですが、観光地の飲食店など必要なところから少しずつ普及するのがふさわしいと考えています。

みんなが食に意識を持ちながら、お互いが幸せな場にならないと意味がないと思います。一緒に食べることで会話が生まれたり、楽しい時間を過ごせたり、それが一番ですね。私も食べることは大好きなので、そこにストレスを感じて欲しくないんです。あまり過剰に表示を増やすと、かえってそれが不安材料になる人もいるでしょう。そのバランスは今後の課題の一つです。

食材ピクトグラムはあくまでその補助的なもの。みんなで楽しく食べられる!っていうのが嬉しいんです。言葉がなくても伝わるピクトグラムから、たくさんの会話が生まれてほしいと思っています。

関西国際空港での表示

関西国際空港での表示

最近では高速のサービスエリアに提案にいくと、すでに独自の食材ピクトグラムを整えているところもあり、公共の場での意識は以前より高まってきていると実感している菊池さん。

食材ピクトグラムが世界の常識になるには、まだ時間がかかるかも知れませんが、「食材ピクトグラム表示店」というクレジットを店頭やガイドブックで見かける社会に向かって、一步一步近づいているのではないでしょうか。そのためには、表示の普及と同時に、私たち一人ひとりが食の安心に理解と関心を持つことが欠かせません。