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子育てが変われば日本が変わる!病気の子供を訪問ケアして働くママをサポートする「ノーベル」

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

楽しそう?それとも大変そう?みなさんは“子育て”にどんなイメージがありますか。子どもは未来の担い手。みんなで育児を助け合えたら、社会はもっと良くなる。そんな気がしませんか?

今日は“病児保育”を通して働くママにエールを送る「NPO法人ノーベル」をご紹介します。

“病児保育”って何?

日本では第1子出産の1年前には約74%の女性が仕事をしていますが、出産をきっかけにこのうち3分の2の方が退職しています。その原因のひとつに「子どもが病気時に休めない」ことがあげられます。37.5度以上の熱があると子どもを保育園に預けることができません。でもそのたびに仕事を休めなかったりしますよね。

そんな時病気の子どものケアをしてくれる病児保育施設に預けるのですが、その数は極端に不足しています。保育園は全国で約2万4千箇所ありますが、病児保育施設は約850箇所。大阪市内ではたった7施設しかなく、ひと施設の定員はわずか4名。予約をしたくてもキャンセル待ちが多く、使いたい時に使えないというのが現状なのです。

「ノーベル」は2010年2月から大阪市中央区・西区で関西初となる訪問型病児保育をスタートし、現在では大阪市内全域をカバー。今年1月からは吹田市南部でもサービスを開始しました。

子どもを産んでも当たり前に働き続けられるように

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「NPO法人ノーベル」代表 高亜希さん
 
代表の高亜希さんは「ノーベル」設立のきっかけを次のように語ってくれました。

社会人6年目あたりから、同僚や先輩が結婚して出産して会社を辞めていくのを目の当たりにしました。女性って子どもを産んで働き続けることはできないのかな?と疑問に思ったんです。ある日先輩から「子どもってすごく頻繁に体調を崩すし、近くに頼れる人がいないと仕事を休まないといけない」と聞いたのがとても衝撃的でした。働きたくても働けない、どう頑張っても無理なことがあると初めて知ったんです。

先輩の口から“病児保育”という言葉を初めて聞いた高さんはすぐさまネットで検索し、病児保育界のパイオニア的存在である「NPO法人フローレンス」に「学ばせてほしい」とコンタクトを取ります。

保育士や看護士としての資格も経験もないので、実は最初は断られたんですよ。でも諦めずに何度か電話をして研修生としてやっと受け入れてもらえることになりました。そしたら今度は家族から猛反対されたりも(笑)。でも自分が子どもを持った時、仕事を続けるセーフティネットをつくるにはこれしかないと見えていたので、私には迷いはなかったんです。

“病児保育”なぜ浸透しづらいの?

共働き家庭にはとてもありがたい“病児保育”。なかなか広がりにくいのには理由があります。最大の課題は「安定的な運営が難しい」ということ。例えば「明日子どもが10人風邪をひく」と事前にわかっていれば保育士や看護士などの人員を手配することができます。でも子どもっていつ病気になるかわからないですよね。このため病児保育施設としては安定した収入を想定しづらく、人件費がかさみビジネス参入しづらいのです。

そこで「ノーベル」はサービスを受ける人が会員費をおさめる“共済型”システムを採用し、安定した経営を確立しました。

「ノーベル」では月々の会費をみんなで出し合って、みんなで病児保育経費をまかなおうという考え方なんです。月会費はいつ起きるかわからない子どもの病気に備えた“保険”のようなもの。子どもが病気にならず、サービスを使わなくても会費は毎月お支払いいただきます。でもいざ病気の時は当日朝8時までにご連絡いただければ100%の対応をします。またママに代わって小児科を受診したり、熱を出した子どもを保育園にお迎えに行ったりもします。

“病児保育”を通してこの国の「今」が見えてくる

高さんは若い世代に負担がかかる現状に違和感を感じると言います。

たとえば高齢者の方が介護などの福祉サービスを使うと9割は国の補助金から負担されます。でも私たち子育て世代の親がベビーシッターを頼んだとしたら…。もし1万円かかったら当事者が全額負担しないといけないんです。そこで、これまでなかった“病児保育”をつくって、若い親世代のニーズを目に見えるかたちで表していき、国や行政の意識を子育て世代にも向けてもらいたいと考えています。あとは働き方の問題もあります。そもそも病気の時くらい親だって会社を休んで子どもを看たいと思うんですよね。

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お家にスタッフが来てくれてママも安心

「子どもと居たい」ママの気持ちを知っているから

病気の時は子どもも大変ですが、子どもを置いて働くママの心だってとてもつらいもの。乳幼児は言葉で症状をきちんと説明できません。最初は風邪だと診断されていたのに、後でもっと重症の病気だとわかることもしばしば。子どものケアは一瞬の油断もならないのです。

「ノーベル」は会員ひとりひとりに登録書類というカルテのようなものをつくっています。好きな遊びや病気の既往歴、お薬を飲むのが苦手か得意か。熱が何度まで上がった時に座薬を使うか、などこと細かに記載されています。

安全にお子さんを預かるのはもちろんですが、私達は親御さんがいない間にお子さんがどう過ごされていたかというところまで、見えるようにお伝えしたいんです。薬は嫌がって飲んだのか、それとも楽しそうに飲んだのか。ごはんはどういうふうに食べていたのか、などなど。

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スタッフ記入の保育記録シート。子どもの表情まで見えるよう

子育ての“しんどさ”もみんなで楽しくシェア

大人になった私たちは忘れているかもしれませんが、子どもは病気をしながら成長するもの。高さんは育児と仕事に奮闘するママの現実をもっと知ってもらうことで、子育てに理解のある社会に変えていきたいと考えています。そのツールのひとつとして『働く!!おかん図鑑』という小冊子を昨年リリース。100名以上の会員からのアンケートをもとに、子どもが病気の時ののりきり方を紹介。そして今年3月からは『働く!!おかん図鑑』のCMも公開しています。いずれも思わずくすっと笑える楽しい内容に。

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おじいちゃんおばあちゃん、企業の人事担当者からも好評です。そして「共働きの子育ってこんなに大変なんだ!」から「だからこそ助け合わないと」へと価値観を変えていきたいんです。今後は働くお母さん同士が出会える会を開いていったり、ロタウィルスなどの感染力が強い病気を予防するためのグッズを企業と連携してつくっていこうとしています。このように様々なかたちで子育てと仕事の両立や、子どもが病気の時の対処法などを広めて、みんなで楽しく助け合える仕組みをつくっていきたいと思っています。

“助け合い”が空気みたいに当たり前だった

“助け合い”というキーワードが何度も口から出てくる高さん。それはこんな生い立ちがあってこそ。

私は大阪の下町で育ったんです。すぐ近くに親戚もいて、近所のおばちゃんもいて。みんなが少しずつ子育てを手伝い合うのが当たり前でした。銭湯に行くと番台のおばちゃんが弟を抱っこしてくれて、母親が私と姉をお風呂に入れたり。

こんな人と人のつながりを見るのが好きで、学生時代はバックパッカーで好んでアジアの国を旅していました。村に行くと100人くらい人が集まってくるんですよ。そこには人と人との隔たりがなく地域の人みんなが知り合いで、みんなが“大きな家族”みたいなんです。こういう村では助け合うことも当たり前だから、多分「ノーベル」みたいな病児保育は必要ないんですよね。昔に戻ることって難しいかもしれないけれど、助け合いの“仕組み”だったら別の何かに置き換えたらつくれるんじゃないかなって思うんです。

誰もがサービスを使えるように

働く親のセーフティネットとして機能する「ノーベル」。誰もがもっと利用できるように、2013年4月からひとり親家庭への病児保育支援「ひとりおかんっ子応援団プロジェクト」がスタートします。これは会員だけが費用を負担するのではなく、個人や企業から寄付を募り、みんなで支援をするというもの。4月1日から「ノーベル」サイト上で寄付受付申し込みを開始します。

大阪は全国で一番ひとり親家庭が多く、その世帯数は7万あまり。その家計を支える親の半数は非正規雇用者です。子どもの病気が理由で仕事を解雇される例も珍しくありません。収入が不安定になると子どもに与える教育にも影響し、学力の差につながったり、虐待につながったり。

そんな悪循環をなくしていきたいんです。離婚自体は親に責任があったとしても、子どもには責任がないですから。私たちだけでもなく、行政だけでもなくもっとみんなが助け合ったらいいんじゃないの?と思います。矛盾するようですが、いずれは「ノーベル」がなくても女性が当たり前に働き続けられる社会を願っているんです。

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「ひとりおかんっ子応援団プロジェクト」リーフレット

高さんのように、たくさんの優しさを受け取った子どもは優しい大人になる。そんな気がしませんか?「イエス」と思った方、一緒に助け合いのネットワークをつくりませんか?

「ノーベル」に寄付することで子どもたちの笑顔を支えることでもいい。あるいは、あなたの職場にいるママに「保育園お迎えお疲れさま」と笑顔で送り出すことでもいいのです。小さきものへの小さな心くばり。あなたも私もきっとできる、未来づくりのひとつかもしれません。

(Text:ヘメンディンガー綾)

ヘメンディンガー 綾(Hemmendinger Aya)

編集・ライティング/フランス語翻訳/着付け講師。
東京でアンティーク着物店に勤務した後、地域情報紙、ファッション雑誌の編集に携わる。結婚を機に大阪に帰郷。旦那がほぼオールセルフDIYした築70年の古民家に薪ストーブを入れて火と木のある暮らしを楽しんでいます。
野菜が好きで野菜オンリーのレシピを続々実験&考案中。近未来の目標はフレンチと和のフュージョン懐石でチャリティ茶会をひらくこと。日本の昔からある手仕事のかっこよさをもっと伝えていくこと。
華道(御室流)と茶道(裏千家)を学んでいます。1歳半の息子を抱きしめながら育てています。