こんにちは、greenz.jp発行人鈴木菜央です。
前編・中編に続き、未来を作る子ども達と、子どもの環境を作る大人達に向けた「TEDxKids @Chiyoda」(以下、TEDxKids)を開催する、青木竜太さんのインタビューをお届けします。
前回はTEDxのコミュニティついて聞いてきましたが、後編ではTEDxKidsにおいて大切にしている点を聞いていきたいと思います。
インタビュー中の動画は、青木さんに選んでいただいたおすすめのTED Talkです。キャプションも青木さんにご提供頂きました。
今回は編集アシスタントの木村絵里(以下木村)、インターンの鳥居真樹(以下鳥居)、石川一樹(以下石川)とお送りします。
ボランティアで進めていく秘訣
鈴木 これまでポジティブなことについてはたくさん聞かせてもらったんですが、大変なこととや、なかなかうまくいかないこと、直面している課題などはありますか?
青木 僕の中ではTEDxKidsは絶好調なんですけど、空回りするときはありますね。みんながまだ温まっていないときに、一人で3歩も4歩も先に行っちゃうことはよくあるんで、ある程度みんなの温まり度合いによって歩みを寄せていく必要があると思っています。
鈴木 それって結構重要ですよね。自分一人でやっていたらどんどん進められるんだけど、みんなでやってる以上、新しい考え方を取り込んでいくのであればみんなの腑に落ちないと、カタチにはならない。そのためには普段から何を喋るか、どんなコミュニケーションとるかが結構重要ってことだよね。
青木 そうですね、日々それを意識しているということはありますけど。あと課題は…ぱっと出てこないですね。
鈴木 それはすごい! グリーンズはNPO法人だから会員さんがいるんだけど、会員で集まった時に、「みんなの課題を、グリーンズが解決したいと思ってるんだけど」って言ったらみんな黙りこくっちゃって。「乗り越えなきゃいけないものはあるけど課題はないんだよね」と。
青木 まさにそうかもしれない。やることはたくさんあるんだけど、それを絶対達成しないと、というふうには考えない僕らはボランティアベースなので、みなさん本業があってかなり忙しいので、たとえば会議で、「このメンバーが集まってほしい」という時もあるけど、集まれない場合も多い。だから集まった人に合わせてミーティング内容を変えるんですね。なので、確実に進まないこともあるんだけど、そういうものだと理解しているのであまり問題意識していないですね。
鈴木 そうなんですよね。硬直的にプロジェクトを考えている人って、何月何日にこれをやる、次にこれをやるためにはこんなスタッフが必要で、ってなるから、そこから外れると「キー!!」ってなるけど、集まった人で何か動けばいいんじゃない?って感じの方が柔軟ですよね。
青木 そこから予想もしないことが生み出されるんですよね。
鈴木 そうそう。そのパワーを知ってるかどうか、だね。
青木 本当にすごいですよ。びっくりする。集まって話してると「知り合いがいるから紹介するよ」という風に繋がって新しい動きが始まっていったりとか、想像もしないことが次々起きる。
鈴木 それにはある程度の分母が必要なんだろうけど、その化学反応自体は、コントロールできない。けど、起きる条件というのはなんとなくわかってきている。
青木竜太さんオススメのTED動画3:ジョン・ハンター「世界平和ゲーム」
青木さんコメント「ジョン・ハンターは、子ども達が世界平和ゲームにどのようにのめり込んでいるのかを話します。子ども頃にこんな先生とゲームに出会いたかったですね。」
コアメンバーのアクティブ行動率は100%!
青木 TEDxサミットというのがドーハであって、世界中のTEDxオーガナイザーが800人くらい集まったんですけど、それはすごく楽しかったですね。みんなもアンコントロールをコントロールする、アンコントロールをデザインするということに共感していました。
あと、さっきある程度の母集団が必要だって言いましたよね。今、40人くらいの母集団でやってるんですけど、そこで僕が意識しているのはコアチームとコミュニティに階層を分けていることなんです。コアメンバーは本当にアクティブに活動する人で40名くらい。コミュニティは前に活動していた人たちや登壇者、パートナーが入っています。
コアグループはしっかり活動する人の集団で、アクティブ行動率を、意図的にかなり高めに設定している。仕事が忙しい人とかには、落ち着いたらまた戻って来てくださいと説明する。だからアクティブ行動率はほぼ100%ですね。
鈴木 中心はしっかり動かすようにして、そういう人は100%動いている。でも、周りの人は色んなリズムがあるのでその時々で参加する、と。片方だけだと何がどうやって進めていこうかと不安になってしまうところを、もう一方で担保しているわけだ。
青木 そうですね。でも、それもがっちり管理しているわけではなくて、中心の温まり度合いをかなり意識しています。僕はポジションとかも提示しないので、関係性を構築してみんなが意見を出すようにしています。みんなでビジョンをワークショップとかでデザインしながら、どんどん自分ごとになっていくというか。自分のアイデアを出して、自分で作っていく。それを2~3か月くらい繰り返していって関係性を構築できたら、じゃあ次のステージに行きましょう、という感じ。
鈴木 そんなに時間とってるんだ。
青木 そうですね。今回のTEDxKidsはそうしていますね。だからミーティング参加率も結構すごいんですよ。40人いると50%くらいは毎回来ますね。そこは意図的に意識しました。今でも意識してて、新しい人が入って来たときもすぐに入れないんですよ。何回か入ってもらって、馴染んできたなと思ったら「どうですか」と聞くと「実はこの辺に興味があるんですよ」って言われたり、だんだん分かってくるんですよね。
アクションミーティングってわかりますか? チームに分かれて作業するだけなんですけど、話しているだけじゃなくて座って作業をする。そうすると、その中であの人はこの辺りに興味があるなって分かるんですよ。そういうのがだんだん見え始めたときに話し始めるようにはしてますね。
ミーティングの様子
鈴木 期間って決めたりしてるんですか?
青木 温まり具合というか、「この人、火がつき始めたな」っていうのが分かったら、ですね。
鈴木 中心に近づいていくのはなんとなくイメージできるんですけど、中心から離れていくときのプロセスはどうするんですか?そういう人もいますよね?
青木 います。それもだんだん分かるんですよね、コメントが減ってきたり、ミーティングにも参加しなかったりとか。強制的に参加しろと言ってるわけじゃなくて、「この日にあるから誰でも自由に参加して」って感じでやってるんですけど、やっぱりだんだん顔を出さなくなる人もいます。そのときは「どうなんですか?」ってメッセージを送って、会える場合は会って、会えない場合は落ち着いたらまた来てくださいねって言っています。
鈴木 特に除名みたいなことはしない?
青木 しないです。コアグループとコミュニティグループそれぞれFacebookグループで全部やり取りしているんですけど、コミュニティグループの方に移行してもらっています。戻ってくるかは分からないんですけど、熱が冷めちゃっている人がいると周りも冷めてくるので、コミュニティマネージャーとしてそこは注意しているところですね。
鈴木 コアメンバーのさらに中心メンバーはいるんですか?
青木 コアメンバー全員が細かなお金の話とか、登壇者はこういうことを考えているとか、そういう情報も全部共有しています。安心感があるから共有できる。1人でも熱の入ってない人がいると、他の人も影響されてコメントしづらくなりますよね。
青江 覚峰、赤坂 知世、Asia Fondue、Anastasia Milovidova、市川 綾子、いちのせき ようすけ、岩山 尚美、内村 萌、小笠原 舞、小原 大樹、小野 裕之、折田 洋輝、柏木 愛、金井 結、斉藤 寛子、斉藤 真紀子、坂井 秀作、下村 領、菅原 大介、杉本 綾弓、杉本 真奈美、高崎 了輔、高谷 聡美、高橋 直樹、竹嶋 朋子、谷 まいこ、田村 祥宏、東谷 彰子、中村 妃忍、中村 威、並木 卓也、成田 渡、原 遼兵、原田 博一、樋口 悟、深萱 恵一、淵上 暁、Brian Parker、水谷 夏彦、紫安 藍里、モリ ジュンヤ、森田 謙太郎、森田 真由子、宮越 裕生、山本 和久、矢野 大輔、矢野 基世、湯川 伸矢、吉岡 由梨奈、Jaeyun Chuong
誰でも1分だけなら糸井重里になれる
鈴木 信頼感と温度が重要なんですね。今まで、活動をやってきて学んだことは何ですか?
青木 多くの人はすごい創造性を持っているな、ということですね。人によっては、おとなしかったり目立たなかったりすると、まるでその人があまり活動できないイメージを持ってしまうけど、全然そんなことはない。実はちょっと内向的な人の方がものすごく創造性のマグマを内に秘めているというか。それが一気に解き放たれると、ものすごいパワーを発揮する。だから誰しもがリーダーになりうる。
鈴木 アンディ・ウォーホルが言った「誰でも15分だけ有名になれる」じゃないですけど、何かの分野でなら、誰もがナンバーワンを持ってる。スパークする瞬間がある。誰でも1分だけなら糸井重里になれる。
青木 まさにそうだと思うですよ。だれもが、そう思える環境を作り出すことが大切。みんな実は本当に挑戦したいっていう思いを持っているけれど、それを発揮する場がないですよね。ちゃんとチャンスがあれば飛び込む人は多いし、実際飛び込めばその人の人生が変わるかもしれない。そういうことが世の中にはたくさんあるんだなって。
鈴木 だって分からないもんね。
青木 分からない。三年やったらだいたいプロフェッショナルですよね、もう。日々、技術とか情報とか変わってくので、3年間何もしない人よりも1年間、いま最先端に取り組んでいる人の方がはるかにいろんなことを知っているし。
鈴木 しかも対話的な環境でやると学びも早いじゃないですか。人間が人間でいる理由ってそこなんだよね、多分。最先端のものが出てきたらすぐ共有できるし、インターネットで情報を得るっていうだけじゃなくて、近くに人がいて、その人が何か自分の物語を語れば、その時の経験が文脈という形でほかの人の中に入っていって、すごい勢いで伸びていくじゃないです。TEDxって、そういう環境なんろうね。
青木 きっとそうだと思いますね。チームで運営していくので、相手の価値観を自分の視点でとらえ直すことによって新たな視点が得られると思うんですよね。物事を新たな視点でとらえ直して新たな行動をしてその問題を解決できたら、ある意味、イノベーションじゃないですか。TEDxのチーム内はそういうチャンスが多い気がしますね。
TEDx登壇者はどうやって選ばれるのか?
鈴木 今後のTEDxKidsで達成したいと思っていることはありますか?
青木 影響を受けて行動し始める人を、たくさん作りたいと思っています。そのためにも、新たな視点を提供できる登壇者を招きたいですね。TEDxは有名な人が来るっていうイメージを持っている人が多いと思うんですけど、決して有名だからではなく、アイデアがあるから、来てもらっています。そこが多分、他のカンファレンスと少し違うところ。アイデアがあるからこそ、有名になる。有名だからアイデアを持っているわけじゃない。
木村 TEDxの登壇者は運営側が選んで呼んでいるんですか?
青木 TEDxによるんですけど、基本的には、TEDxのスピーカーチームがキュレーションして、交渉してご登壇していただいています。いくつかやり方があるんですけど、今年私たちがやっている方法は、みんなからリクエスト出してもらっているんですよ。そこから面白い分野を調査して、本当に活動として面白そうな人をピックアップしたり、単純にリストの中で面白そうな人がいたらその人をピックアップしたり。
あとはキュレーターが「この人は本当に面白い」みたいな感じで集めるやり方もあるし、オーディション枠を持っているところもありますね。オーディションはTEDxTokyoやTEDxKyotoもやっていましたが、TEDxKidsでも1人か2人ぐらいの小学生にアイデアをシェアしてもらえるといいですね。まだテレビにも出てこない、すごい子たちってきっといるはずで、そういう子にこういう場に出てもらえたら、と。
TEDxKids@Chiyoda 2012 PV
家でも継続できる「お家TEDx」
鳥居 TEDxKidsの構想の段階で、子どもたちがやってみようと思えるような仕組みは作っているんですか?
青木 子どもたちの創造性を引き出すために、登壇者の話を聞いてもらった後ワークショップをやってもらうようにしています。前回はヤノベケンジさんという現代アーティストの方にも協力いただいて、アイデア発想を学ぶワークショップを行いました。新しいアイデアって、全くゼロから生みだされなくて、既存のアイデアの組み合わせで生まれる場合もあるじゃないですか。なので、それを体感して学んでもらうワークショップを行いました。
ある二つの箱があって、一つの箱からは飛行機カード、もう一つからイルカカード、合わせたら飛ぶイルカ、みたいな。そういうステップを踏めば新しいアイデアを生み出せるんだよ、っていうのを学んで、自分たちが考えたものをヤノベケンジさんのサポートのもと絵に起こす、ということをしました。
今年はさっき言っていたフューチャーセンター・ポータブル(※前編参照)を使って対話を学ぶワークショップを考えています。そこで刺激を受けた子どもたちがアイデアを出せるような場づくりをしたいです。
ただ、TEDxは一日しかやらないわけですよ。そこで子どもたちを全部解放できるかって言うとそれは無理ですから、エッセンスのような刺激を入れてあげたいな、と思っていて。それで大人と一緒に見ることによって、子どもが影響を受けた状態で家に帰っても「早く勉強しなさい」みたいにならなくて、一緒にこうサポートしてもらえるような環境を継続的につくっていけるといいな、と思っています。
鳥居 ここで言う「大人」というのは、お父さんとかお母さんとかを指すんですね。
青木 そう、親ですね。家族“も”参加するTEDx。もちろんお子さんがいらっしゃらない方も来ていただけますし、子どもの環境をつくりたいと思っている大人であれば基本的には全員対象です。
鳥居 面白いですね、家でも継続してやっていける「お家TEDx」みたいな。
青木 いいですね、それ。ちょっと例えがいいか分からないですけれど、僕たちが意識しているのは、親と子だけじゃないんです。親子の二項関係に、TEDxKidsっていう新しい三項関係を築こうと思っていて、親と子っていう二つの関係では得られなかったアイデアとか考え方っていうのを、僕たちを通じて持ち帰ってもらえたらいいなと思っていて。
鈴木 昔は近所のおじさんとかが、「釣りっていうのこうやるんだよ」「竹とんぼはこう削らなきゃだめだ」とか、親も学校も教えてくれないことを教えてくれる人がいたけれど、今はいなくなっちゃたからね。TEDxKidsは、そういう社会の新しい仕組みのデザインにを使っていくわけですね。
石川 10代の子たちが、新しい見方をどうやって学べるか考えるときに大事なのは、いろんな方法を伝えていくことだと思うんですが、青木さんはどういう人たち・子どもたちにTEDxKidsを知ってほしいと思っていますか?
青木 8~12歳を対象に考えていますが、特別こういう子に見てもらいたいっていうよりも、社会に出ていく前の子どもたちに見てほしいですね。中学校ってある意味「社会」なので、もう、大人へのレールが敷かれはじめるわけですよね。その前に、無茶な大人たちがいっぱいいるっていうのを見てもらって、いろんな考え方とか生き方に触れてほしいなと思っています。
あと、以前にgreenz.jpでも紹介されていた、シュアールの大木洵人さんに会ったとき、聴覚障がい者って言論体験がないので、エンターテイメントに全然触れていないという話を聞いたんです。それで「例えばTEDx登壇者の同時通訳って手話できるんですか?」って聞いたら「できるよ」ということだったので、TEDxKidsで手話の同時通訳をするということになったんです。そういう体験に触れたことのない子どもたちや障がいを持っている子たちにも届いたら、人生が変わるかもしれないほど、すごい刺激になる。
青木竜太さんオススメのTED動画4:オリバー・サックス「幻覚が解き明かす人間のマインド」
青木さんコメント「オリバー・サックスがシャルル・ボネ症候群に生じる正常人が経験する幻覚症状の一種について語ります。幻覚症状の体験談はもとより、視覚障害者の約1割が、この幻視を見ているという事実に驚かされました。」
石川 子どもたちに届けるためには大人たちにも届ける必要がありますが、子どもにスポットを当てているのは理由があるんですか?
青木 私たちは両方にアプローチしているつもりです。やっぱり子どもたちはまずTEDxKidsの存在すら知らないと思うので、どうしても親が連れてくると思うんですよね。そういう親っていうのはかなり意識が高くて、子どもの環境に対しても意識的に取り組んでいる人たちなので、その人たちにどんどん入ってきてもらって一緒に作り上げてもらえたらな、という思いで、今は動いています。
TEDxKidsが当たり前の世界に
鈴木 最後に、竜太さんの夢ってなんですか?
青木 夢は、TEDxKidsを全国に広めること。何年かかるか分からないですけれど、5年から10年ぐらいで実現していく夢じゃないかなと思っています。
鈴木 広がるとTEDxKidsでどんなことが起きるんですかね。
青木 僕がイメージしているのは、小学生とかがアイデアを出して、大人たちが一緒にサポートしながら町の課題を解決して、そこで出た解決策をTEDxKidsでプレゼンする。それが全国、全世界に広まって、例えばアフリカの子どもたちが見て、「日本の子どもたちがすごいことやってる」「こんなアイデアがあるんだ、僕たちもやってみようぜ」って思うような、刺激し合えるカンファレンスを作りたいですね。
鈴木 それはワクワクしますね! ありがとうございました!
青木 ありがとうございました!
TEDxer、TEDster、 TEDx スピーカー、TEDxKids@Chiyoda 創立者兼キュレーター、VOLOCITEE Inc. 創業者兼CEO
1979年7月7日、東京都目黒区生まれ。20歳の時に友人らとIT ベンチャーを起業し、その後プログラマーとしての道を歩む。しかし2009年にある出来事をきっかけに新しい人生を歩むことを決心する。その後TEDxTokyo へボランティアの申し込みをしたことをきっかけに、現在までに国内外20を越すTEDx カンファレンスに参画または関与するようになる。2011年10月には、日本で初めてTEDxKids (ライセンス名TEDxKids@Tokyo) を開催し、2012年にTEDxKids だけを開催する新たなTEDx (ライセンス名:TEDxKids@Chiyoda)を起ち上げた。2011年9月にクリエイティブ・コミュニティを作る集団VOLOCITEE Inc. を起業し、新しい事に挑戦する個人とクリエイティブ・コミュニティをマッチングさせるオンラインプラットフォーム「VOLOCITEE」の開発に注力している。
TEDxKids@Chiyodaのサイトを見てみよう