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キーワードはシンプル&ドラマチック。学生セラピストと一緒に、自閉症の子どもの可能性を広げる「ADDS」 [マイプロSHOWCASE]

早期療育スタートアッププログラム、個別指導の様子。

早期療育スタートアッププログラム、個別指導の様子。

みなさんは自閉症についてどのくらいの知識を持っていますか?

自閉症とは、「社会性や他者とのコミュニケーション能力に困難が生じる発達障害の一種」であり、先天的な脳の機能障害のことを指します。

生きていく上でコミュニケーションをとることはとても大事な要素です。私達は生まれた時から親や周りの環境で徐々に言葉を覚え、会話をする方法を自然に学んでいきますが、自閉症のある子どもはそれがとても困難なのです。それは「言葉がうまく話せない」、「興味や遊びの対象が非常にせまい」、「手先や運動の苦手さがある」といったことが大きな特徴として見られるからです。

私達のミッションは「日本中の自閉症のお子さんとそのご家族が、子育ての中で可能性を最大限に広げられる社会」を作ること。

と話すのは、「ADDS(Advanced Developmental Disorders Supportの略)」共同代表の竹内弓乃さん。2009年に設立されたADDSはこのミッションを基に1〜5歳の未就学児を対象に自閉症の子どもの発達を促進し、より自立して生活していけるようにサポートしていく療育プログラムを広げる活動をしています。

ドラマチックな療育プログラム ABA

ADDSの療育プログラムは応用行動分析(Applied Behavior Analysis 以下ABA)に基づいています。これは、「うれしいことや、いいことがあると、またやろうと思う」という行動分析の原理を応用したとてもシンプルなもの。そして、現在自閉症に対してほとんど唯一、世界的に大きな効果を証明されている療育モデルであると言われています。

このABAに基づいた療育プログラムを”ドラマチック“だと言う竹内さん。

例えば、ある言葉が言えなかったお子さんが療育プログラムを実践することで、2時間たらずで言えるようになるといったこともしばしばあります。子どもが目の前で変わる。リアルにその現場にいると本当に感動するんです!

早期療育スタートアッププログラムでは、子ども同伴の個別指導に加えて、集団研修も実施している。

早期療育スタートアッププログラムでは、子ども同伴の個別指導に加えて、集団研修も実施している。

この療育プログラムを自閉症、あるいはその疑いのある子どもを持つ保護者に向けて展開しているのが、「早期療育スタートアッププログラム」です。これは、前期、後期それぞれ6ヶ月の一年間のプログラムを通して、お母さん保護者が主体的にABAを実践していく知識やスキルを教えるというもの。半年の一期ごとに15家庭前後を募集し、現在までに60家庭が参加しています。

このプログラムには

私達は親御さんは重要な支援者の一人だと捉えています。親御さんがお子さんにとって一番のよき支援者になってもらえるようなお手伝いをしたい。

という竹内さんの思いが込められています。

ADDSでのもう一つの核となる活動が、ABAの療育をすでに行なっている家庭か、前述の早期療育スタートアッププログラムを終えた家庭に学生セラピストが訪問し、療育プログラムの支援を行う活動です。

いくらABAの療育スキルがある親御さんであったとしても、毎日の療育の実践は負担になり、うまくいかないこともいろいろと出てきます。一人で煮詰まったり、家事の時間も必要でしょう。そこに学生セラピストが訪問して、療育のお手伝いをすれば親御さんの負担を軽くすることができるんです。

訪問する学生セラピストは、40時間以上の研修を受け、認定テストに合格した学生だけがなれる先鋭部隊。一つの家庭、一人の子どもに関わることはその人生にも関わることでもあります。そのため研修前の面接はかなり厳しくし、学生を選考しているそうです。

最初の一歩はアルバイトから

竹内さんがADDSを立ち上げたきっかけは今から9年前の2003年にさかのぼります。当時大学1年生だった竹内さんは、家庭教師のアルバイトを探すために、大学の共済部に行きます。そこで見つけたのが、「言葉に遅れのあるこどもに遊びの中で言葉を教えるアルバイト」という一般のお母さんからの募集でした。

面接に行った先の家庭には、4歳の男の子とお母さんがいました。このお母さんの第一声が「うちの子は自閉症です。自閉症は心の病気ではなく、先天的な脳の障害なんです」でした。当時は心理学を専攻していたわけではなく、自閉症という言葉もよく知らなかったため、偏見もなく、お母さんの言葉がすっと入ってきました。

この出会いが後の竹内さんの人生を大きく変えていきました。

「支援者ネットワークをつくる」をテーマに、一般向けの公開セミナーを毎年開催。

「支援者ネットワークをつくる」をテーマに、一般向けの公開セミナーを毎年開催。

話を聞くと、アメリカでABA(応用行動分析のこと。Applied Behavior Analysisの略)という心理学的な手法を用いた療育を受け、熱心に勉強をしているお母さんでした。私はABAについて、その後大学院でも学んできましたが、根底にある理念はそのお母さんに教えてもらったと思っています。

そして、アルバイトを続けていく中でABAが自閉症を持つお子さんにどれほど効果があるかということ、療育を必要としているご家庭がたくさんあるということを知りました。

そして、2006年4月、大学4年生の時にADDSの前身となる団体(KDDS)を、当時同じ学部にいた熊仁美さんと立ち上げます。しかし、「学生をしながらの活動は、苦労も多かった」と言います。学業との両立だけでなく、学生や学生たちが受け持つご家庭に対してもフォローしきれない部分がいろいろと出てきてしまったのです。

大学サークルの延長線上ではなく、仕事として、システマティックにしていかなければと強く感じました。その結果、ADDSを設立する際は、学生、親御さん、専門者の役割をはっきりさせ、包括的にサポートしながら活動できるようにしました。当時は大変でしたが、今のADDSがあるのはKDDSがあったからだと感じています。

未来の支援者を育てたい

設立当初は「自分たちの手の届く範囲でできることをしていこう」と5家庭だけを対象にプログラムを提供していた竹内さんですが、現在は「日本中の自閉症の子どもにより質の高い支援を届けたい」という思いを持って、活動を続けています。そのため、「未来の支援者の学びの場である」ということを大事にしているそうです。

学生セラピスト研修の様子。

学生セラピスト研修の様子。

直接一人ひとり支援をしていくことも大事ですが、それがメインではありません。親御さんはお子さんにとって一番の支援者です。そのため、この先もずっと良き支援者でいてもらえるようなプログラムを提供しています。そして、学生にはADDSで正しい知識を得て社会に出てもらえるように人材育成に力を入れています。

今の社会は以前よりも発達障害の方に出会う機会が増えてきています。これはとてもいいことですが、反面、偏見も生まれやすくなってきていると思います。だからこそ、自閉症をはじめとする発達障害について理解できる人が増えていくことが重要です。そのために、次の社会の担い手である学生に対して、知識の普及をしていくことはとても大事だと思っています。

ますます広がる支援者の学びの場

設立から4年を迎える今、ADDSはさらに力に入れていこうとしているものがあります。

私達のミッションは、「日本中の自閉症があるお子さんとそのご家族が子育ての中で可能性を最大限に生かせる社会にしていくこと」。このことを達成するためにはさまざまな手段を取っていかなければと思っています。

その一つのキーワードが”支援者の学びの場”です。今後は内外に向けた人材育成のプログラムをより充実したものにしていくことが重要な課題だと思っています。

現在、ABAの療育をこれから提供していきたいという企業のコンサルや民間の療育センターからの研修といった依頼もあり、これからますますADDSの活躍の場が広がっていきそうです。

セッション中の竹内さん。

セッション中の竹内さん。

実は竹内さん、現在、ADDSの共同代表、大学院の学生、一歳になる娘さんのお母さんと3つの顔を持ちながら活動を続けています。最後に今の自分について尋ねてみたところ、こんな風に答えてくれました。

早く大学院を卒業してADDSに専念したいですね。でもやりたいことは今100%やらせてもらっています。「仕事も大学院も辞めません。母親にもなります」って宣言してやっています。とはいえ、家族には迷惑かけてますが…(笑)

家庭を持ち、母親として子育てに携わり、初めて気が付いたことがたくさんあります。それをこれからのADDSに役立てていきたいと思っています。

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