ものづくり、クリエイティブ、デザイン・・・よく耳にする言葉ですが、それって専門家がするものなんじゃないの?と思う方も大勢いらっしゃるかもしれません。でも、ちょっと先の未来では、「誰もがものづくりに参加できるようになる」時代が近づきつつあります。
みなさんは、ファブラボ(FabLab)という活動をご存じでしょうか?産業革命ならぬ“ものづくり革命”とでも言うべきこの動きは、3月に「FabCafe」が渋谷にOPENするなど、いよいよ日本でも広がりつつあります。
今回はファブラボ筑波と並び日本第一号である「ファブラボ鎌倉」の立ち上げメンバーである渡辺ゆうかさんに、ファブラボとの出会いと、ファブラボ鎌倉の目指すものづくりの未来についてお伺いして来ました。
移築再生された蔵から始まる“つくりかたの未来”
ファブラボ鎌倉はJR鎌倉駅から徒歩5分ほど、一目でわかる蔵を改装した特徴的な外観です。この蔵の名前は「結の蔵」といい、秋田県の酒造蔵を2004年に移築したもの。元々はなんと1888年に建てられ、昔から伝わる相互補助制度である“結”にならって名付けられました。
こちらがファブラボ鎌倉の心臓部の2階部分。レーザーカッターや3次元プリンタなどの先端工作機械が並びます。実験中のプロトタイプも所狭しと置かれていて、100年以上前の蔵の伝統技術と先端技術がゆるやかに混ざり合った秘密基地のような雰囲気です。設備については、こちらの記事(「あなたなら何をつくる?DIYならぬDIWOを実践するソーシャルファブリケーションの現場「ファブラボ鎌倉」を見学しました!」)にも詳しく掲載しています。
ファブラボの特徴的な機材の1つが”3Dプリンタ”。なんと自分と同じカタチの3Dプリンタをつくることも可能です。工作機械が工作機械をつくる、つまり“ファブラボがファブラボを生み出す”という自己増殖的な取り組みも、ファブラボが世界中で増えている秘訣の1つかもしれません。
きっかけは交通事故
ファブラボ鎌倉の渡辺ゆうかさんがファブラボと出会うまでには、紆余曲折がありました。
祖父が戦後にアメリカから帰国したエンジニアだったので、幼い頃からものづくりの魅力を間近で見ながら育ちました。そんな祖父の強い影響もあって、アメリカへの憧れもどんどん強くなり、高校卒業後に渡米しました。当初はコミュニティカレッジで、ものづくりというよりは、写真や作陶やデッサンなどのアートよりの事をしながら英語を学んでいたんです。
コミュニティカレッジだったので本当に様々な世代や年齢、出身の人がいるんですよね。自分もアジア人というだけで独特なアイデンティティとして見られていて、学校も街中も色々な人種や年齢が当たり前に混ざっていて、良い意味ですごく新鮮だったんです。その後、4年制大学へ編入するべきか進路に迷ったあげくアメリカ一周の旅に出て、どうも自分の居場所は米国ではない気がして日本に帰国しました。
帰国後、渡辺さんは「これから一体何をするのか?」という問題に直面し、もう一度日本を学び直すつもりで多摩美術大学の環境デザイン学科へ進学します。卒業後は都市計画事務所やデザイン事務所で働いていました。その後、ある出来事がきっかけでファブラボと出会う事になります。
デザイン事務所で働いていた時に、何かに引き寄せられるように交通事故にあったんです。そこで、しばらく入院してリハビリをする生活になりました。今まで働く事に夢中になっていたのですが、入院生活という特殊な時間の中でそれまで自分が当たり前だと思っていた価値観も一転しました。
特にリハビリをする中で、一度壊れたものが治っていく過程を自分自身で体験するのもとてもおもしろくて、これはある意味とてもクリエイティブな行為なのだとも。闇雲に働いていた時期では、到底持つ事ができなかった考える時間をもらったからこそ気づけた大切な事がたくさんありました。今でもそれは宝物です。
少しずつリハビリも進んで来た時期に、学生時代から寄稿していた「REALTOKYO」の取材で「世界を変えるデザイン展」のコラムを担当。そこで、たまたま慶応義塾大学の田中浩也先生のトークセッションで、ファブラボの活動を知ることとなります。
ものづくりの仕組みそのものを組み替えていく壮大なコンセプトと、海外とも関わるネットワークで英語も使える、街ごとに点在しながら地域にも関わっていける・・・どれもが、ちょうど自分の歩んで来た道と違和感なくあっていたんですね。一週間考えて、米国にいらした田中先生に連絡させて頂きました。以降、ワークショップやイベントに関わるようになっていきます。
そんなあるとき田中先生が「ファブラボのコンセプトは(ほぼ)何でもつくれること」とおっしゃったので、思わず「それでは新たな仕事もつくれますかね?’」と発言してしまったんです。その一言からファブラボ鎌倉の立上げを任せられることになりました(笑)
そうして2011年にファブラボ鎌倉の活動が始まりました。鎌倉という立地で、新しいものづくりの未来を感じさせるこの試み、今後はどんな事を予定されているのでしょう?
みんなでシェアして教えあう、これからのものづくり
ワークショップ風景
今までのものづくりは、一部の専門家の人のものか個人の趣味で行うもの、大きく2つに分かれていたと思うんです。その現状を変えていくためにファブラボが実現したいのは、“自分に引き寄せるものづくり”なんです。
例えば色々な作りたいモノがあるとした時に、作り方をシェアしたり、シェアした作り方をさらに良いものにする為にみんなでアイデアを出し合ったり。もっとそれぞれの「つくりたい!」という想いに応えられるような環境をつくっていきたい。ファブラボ鎌倉は、そうしたものづくりのインフラとして機能できる場所を目指しています。
「ファブラボ鎌倉には3つの役割がある」と渡辺さんは言います。一つ目は、地域密着型の「コミュニティラボ」。鎌倉には職人の方々や手作りの文化がきちんと残っている地域なので、その人達とのつながりを活かした“まちぐるみのものづくり”を目指しているのです。
次に、大学と連携した「リサーチラボ」。これは慶応義塾大学SFC田中浩也研究室との共同研究など、学生と社会をつなぐ架け橋としての役割を担うことになります。最後が、多彩なジャンルのプロフェッショナルと連携した「インキュベーションラボ」です。
様々な素材や技術は、日本の培って来た大切なものづくりの文脈です。受け継いで来た過去の技術と、先端技術とを組み合わせながら、ファブラボならではのものづくりを行い、実験工房として可能性を追求していきます。
“ものづくり”というと、DIYのような個人的な自主制作の範囲のものか、プロフェッショナルによる大量生産になってしまっていた現代。ファブラボ鎌倉の探求する自分を起点にしながら、みんなで知恵をわかちあうような“ソーシャルなものづくり”は、私たちの暮らしにどんな変化を生み出していくのでしょうか?
今後もワークショップなどのイベントや新たなものづくりのラボ(実験室)としての試みを通じて、興味のある人なら誰もが参加できる場を増やしていくそうです。まだまだ進化し続けるファブラボの活動、今後も目が離せませんね。
ファブラボ鎌倉の活動状況はココをチェック!!
都内でもFabが体験できる、渋谷FabCafeへ行ってみよう