カンヌ受賞の社会派広告。今日はメディア部門からご紹介します。もはやどんなメディアを選ぶかはもちろん、どんなふうにメディアを使うのかが大事になってきていることを痛感させる事例がいっぱいです。
【GOLD】
●YOUR HAPPY NEWS IS OUR TOP STORY / IWATE NIPPO
日本からの受賞作です。ネットに押されがちで部数が伸び悩む新聞。地元の新聞として親しまれていた岩手日報も、部数の減少に悩んでいました。そこで「自分のニュースは世界のどんなニュースよりも大きい」という気づきから、「イワッテ」というオンデマンド新聞のサービスを開始。たとえば子どもが生まれたとか、結婚したとか、みんなに知らせたい出来事をウェブで入力して申し込めば、その日の岩手日報の一面とともに号外となった形で送ってもらえるというサービスです。そう「イワッテ」は、岩手と「祝って」をかけてるんですね。ローカルな新聞による、パーソナルな新聞サービスは評判になり、読者の減少を食い止めることにつながったそうです。
●THE WORLD’S FIRST NEWSPAPER ON 100% RECYCLED NEWSPRINT
/ L’OREAL
太陽熱やの工場廃液のリサイクルなどの環境システムをつくっているブランド、GARNIERの課題は、歴史が浅く、認知が低いことでした。国民に広くリサイクルの必要性などを伝えるために、タイム・オブ・インディアという新聞にアプローチしました。世界環境デーに、環境相を編集長にした100%再生紙のタイム・オブ・インディアを発行したのです。これはネットで行なった環境キャンペーンで集まったアイデアのひとつとして実施されたもので、多くの人をブレストに巻き込んで、国民的な新聞で実行したことで、リサイクルについての気づきと企業の認知を同時に高めることに成功しました。
●MY IDEAL DOG / MARS
捨て犬の問題に取り組んでいるぺディグリーの、ラテンアメリカでのキャンペーンです。捨て犬の問題について考えさせ、犬の飼い方を教えるために、30分のテレビ番組の放送を続けました。内容は、犬を欲しいと思っている家族と捨て犬をマッチングさせるというもの。犬の専門家と心理学者が司会をし、奇跡的な出会いをドキュメンタリー的に追うとともに、犬のケアの仕方についての情報を提供します。連動したウェブサイトも人気で、ペットに対する意識を高めるとともに、ぺディグリーのファンが増えたそうです。ラテンなプレゼンムービーからは、ペットへの愛情があふれまくってますね。
●F**K TREE / THE NATIONAL HIV COUNCIL
動画はこちら
日本でも増えているといわれる性感染症。防止にはコンドームが有効なのですが、みんな自分は大丈夫と思ってるんですよね。少し前にACで「彼氏の元カノの元カレの元カノの…」と、複雑な男女関係が映像化されたエイズ啓発CMがありましたが、スウェーデンで行なわれたこのキャンペーンの基本的なアイデアもそれと同じです。基本メッセージは、「誰かとセックスするということは、今まで相手がセックスしてきた人たち全員とセックスするということ。」それを視覚化するために、「F**K Tree」というウェブアプリを制作。Facebookにログインしてアプリに誰かの名前と、仮で異性経験の人数を入力すると…これだけの人とやってたかもよ、というツリーが現れるのです!真実とは言い切れないけど、ウソとも言い切れない。このゾッとするキャンペーンの後、スウェーデンではなんとコンドームをつける人が47%も増えたそうです。
●KIMBO / UNICEF
これは、ユニセフが貧困で命を落としている子どもたちを救うために実施したキャンペーンです。アフリカの伝説で、「自分の名前を病気にかかっている誰かの名前にかえたら、その病気にかかっている人は命が助かる」というものがあります。それにちなんで、MBAのスター選手が、アフリカで命を失いつつあるたくさんの子どもたちの一人「KIMBO」に名前を変えるという内容のテレビCMを放送しました。「名前を変えれば、その人は命が救われるという伝説がある。すべての人が名前を持っている。すべての人は、命を救うことができる。」というメッセージでアフリカの貧困と子どもの問題について啓発したこのCMは反響をよび、「名前を変える」というのが社会的なムーブメントになりました。そしてついに、スポーツチームやフェスティバル、ミネラルウォーターや飛行機までもが名前を「KIMBO」に変えるまでになり、キャンペーンに多くの人と企業を巻き込むことに成功したのです。
【SILVER】
●SILHOUETTES IN MEMORIAM / AMIA
アルゼンチンでは1994年、ユダヤ人の団体のオフィスを狙った爆弾テロがありました。このテロは85人もの人が亡くなる大事件だったのですが、あれから月日がたち、国民の間ではテロの脅威が風化しつつありました。また、ユダヤ人という特定のコミュニティの問題だと思われる傾向もありました。そこで、いまいちど国民にテロ事件は未解決であるということと、特定のコミュニティではなく、アルゼンチンという国そのものにとってテロは脅威なのだということを伝えるために、街頭を使った広告が実施されました。街のあちこちに、テロでなくなった人をかたどったボードを立て、彼らがどういう人間だったかを説明する文章を載せました。多くの人が、自分と同じように生活していた人が容赦ないテロで命を突然失ったことを知り、安全に対する意識を高める結果となりました。
【BRONZE】
●SAFE CHILD ON THE NET / NOBODY’S CHILDREN FOUNDATION
ネット上では小さな子どもが性の対象にされることが問題になっています。隠し撮りをしたり、だまして撮った画像などがたくさん出回っているんですね。でも、多くの親はそれに対して無頓着だったりします。そこで、子どもを守る団体は、親にちょっとショッキングな方法でアプローチしました。彼らがメディアとして使ったのは、子ども服店のハンガー。子ども服チェーン店で、他のふくに混ぜて、かわいいパンツをハンガーにかけてディスプレイしました。あっ、かわいいと親御さんが手に取ると、インターネットの警告ダイアログみたいなデザインのなかに、こんなコピーが書かれています。「小児性愛者はインターネットで活動しています。子どもを守ってください。方法があります。」この取り組みは店頭からはもちろん、メディアで取り上げられたこともあり、多くの人がHPを訪れることになったそうです。
●LITTLE ROBIN / OPVOEDINGSLIJN
国内最大のショッピングセンターで、迷子のアナウンスが流れます。「ロビンちゃんという迷子の男の子がいます」というような、いつものような感じなのですが、ちょっとおかしい。子どもが叫ぶ声が聞こえるのです。アナウンスは頻繁に流れるのですが、そのたびに子どもの声や暴れる音が大きくなっていって、係の人も「早く迎えにきてください!」と絶叫。そして最後に、こんなメッセージが流れます。「いつも子育てが順調に行くとは限りません。気になることがあったらこちらにお問合せください」と、電話番号に続きます。これは、ベルギーで実施された、手がつけられない子どもを持つ親のホットラインサービスなんですね。このハプニング的な広告は話題を集め、ホットラインへの相談はそれまでの3倍に増えたそうです。
●BOOB HIJACK / COPPAFEEL!
タイトルの「BOOB HIJACK」は、翻訳すると「おっぱいハイジャック」。乳がんの啓発広告なのですが、ターゲットが女性ではなく、男性なんです。セクシーな女性と視聴者がテレビでトークするという内容のテレビ番組を制作しました。見ていただければわかる通り、ホントにエロい感じなんですが、話す内容は乳がんについてなんです。でも、仕込みのモデルと視聴者の男性は、甘い口調で乳がんの危険性などについて話をします。エロ番組を非営利団体がジャックするという、なんとも過激なアプローチです。この番組はネット動画として口コミで広がり、男性がパートナーに乳がんの危険性を伝えるムーブメントにつながったそうです。
●I SWIM WITH MARCOS / UNITED NATIONS
2015年までに世界から貧困をなくすという、ミレニアム開発目標。そのメッセージを伝えるために、マルコスという男性が世界の5つの大陸を泳いで渡るというチャレンジに挑戦。ソーシャルメディアを活用してその模様を伝えるとともに、世界各地で水泳イベントなども実施しました。肉体の限界に挑む挑戦はそのメッセージとともに世界各国のメディアで取り上げられ、キャンペーンには最終的に47もの国が協力、ウェブサイトには数百万人の人が訪れるなど大成功を収めました。
●BOOTS / ASICS
いろいろな人種の人が戦うサッカーは、ときに人種差別的な動きに火をつけることがあります。そのサッカーを通して、人種差別について考えさせるために、アシックスは特別なスパイクを用意しました。それは、片方が白、片方が黒のスパイクです。それをブラジルの有名選手に履いてもらいました。まず、新聞広告でこのスパイクのもつメッセージをお知らせ。そしてテレビで試合がある際に、解説者に改めて人種差別をなくすというメッセージのもと、この選手が白黒のスパイクを履いていることを話してもらいました。プレーの解説でもそのメッセージを織り込み、「本当にサッカーを愛するならば、人種差別は許せないはずだ」ということを強くサッカーファンに残しました。
●HIDDEN MESSAGES / CASA PROTEGIDA JULIA DE BURGOS
広告主は、家庭内暴力を受けている女性のシェルターです。家庭内暴力を受けている女性は、パートナーに逃げようとしていることを知られるのを恐れて、支援先についての情報を避けることがあります。そうした女性たちにシェルターの情報を伝えるために、巧妙な広告をつくりました。それは、星占いやファッションなど、女性がふつうに興味をもって読む記事などを模したメッセージ広告でした。一見、普通の女性誌の1ページにしか見えないビジュアルに、シェルターの情報が隠されているのです。男性からの目を逃れたこの広告により、相談する女性が60%も増えたそうです。
●BRIDGE PROJECTION LIFESAVER / SUICIDE PREVENTION CENTER
セルビアに、自殺の名所となっている橋がありました。自殺する人を減らすために、自殺防止センターはあるところに広告を出すことにしました。それは、川。自殺しようと橋の欄干から川をのぞきこむと…なんと、川の水面に「あなたはひとりじゃない」というメッセージと、自殺防止センターの相談ホットラインの電話番号が浮かび上がります。このユニークな広告はたくさんのメディアで報道さました。相談ホットラインの存在も多くの人に知られることになり、なんと64%も相談件数が増えたそうです。注目の場所となると自殺もしにくくなるでしょうから、橋からの自殺者も減ったのではないでしょうか。
●SR. AMOR / SALVATION ARMY
プロモライオンのところでも紹介しましたが、救世軍は若者からの寄付が少なくなっていきていることを懸念していました。若者に知られていないというのもありますが、なによりダサいと思われていたんですね。そんな若者と手を結ぶために、救世軍「SALVATION ARMY」からのファッションブランドとして「SR.AMOR」を展開。このブランドのもと、有名なデザイナーが寄付された古着を使ったコレクションを発表、ファッションショーを行ないました。この模様はドキュメンタリー番組として放送され、寄付は87%も増加。その70%が若者だったということです。
次はアウトドア部門からご紹介します。
※これまでに紹介した以下の部門からの受賞作と重複するものは省いてあります。
・Promo & Activation Lions
・Direct Lions
・PR Lions
☆翻訳協力:@t_saori