真っ黒に汚れた農場の下水や、淀んだ池の水でも、ボトルに入れてシャカシャカ振るだけで、すぐに飲める水になる。そんなプロダクトがあったら、世界のさまざまなところで水が飲めるようになるとは思いませんか?
ウイルスよりも細かいナノテク・フィルターを利用した、英国生まれの浄水ボトル “LIFESAVER bottle(ライフセーバーボトル)” がいま、パキスタン洪水の災害援助の現場で活躍しています。
“Lifesaver bottle”のフィルターは、細菌(直径200ナノメーター)はもちろん、ウイルス(直径25ナノメーター)よりも微細な、15ナノメーターの穴を持っているため、何も通しません。物理フィルターなので、塩水を飲めるようにはできませんが、川の水や天水など、人々の生活圏にある水を、”Lifesaver bottle”で無菌化さえすれば、安心して飲める綺麗な水になるのです。
これだけ細かいフィルターでは、ろ過するのに長い時間がかかるのでは、と疑問に思う方も多いのではないでしょうか?
そう思う方はぜひ、発明者マイケル・プリチャード氏自身が使い方を見せる動画、TEDTalksの『マイケル・プリチャードが汚水を飲料水に変える』を見てみてください。(9分半の動画、デモは03:28からスタート)
TEDでのデモンストレーションでは、川や池の水、農場の下水、はてはウサギのフンまで入れて混ぜた真っ黒な水をボトルに注ぎ、数回ポンプで攪拌してキャップを開けると、あっという間に透明な水が噴き出してきます。この水を客席のひとりに飲ませて「美味しいよ」と言わせる、劇的なパフォーマンスです。
この技術は、スマトラ沖地震やハリケーン・カトリーヌの被災地で、飲み水が圧倒的に不足することへの憤りから発明されました。ハイチ地震の被災地、そして現在も支援が続いているパキスタン洪水被害の現場では、”LIFESAVER bottle”を大型化した、フィルター付きの水タンク “LIFESAVER jerrycan“ が活躍しています。ガソリン缶サイズのjerrycanの場合、処理能力は2万5千リットル。4人家族で3年使えるだけの安全な飲料水を生み出すといいます。ランニングコストは、一日たった0.5セント。
Lifesaver Systems Jerrycan in Haiti from OB UK on Vimeo.
もちろん、災害復興の現場に限らず、安全な水にアクセスできない世界中の地域で、こうした水ろ過技術は重要な存在になるはずです。同じように、貧困地域での利用を想定した水のろ過装置といえば、『社会起業家という仕事 チェンジメーカーII』(渡邊奈々 著)や「世界を変えるデザイン展」でも紹介された、ベスタガード・フランドセン社の「ライフストロー」を思い浮かべる人も多いかもしれません。
「ライフストロー」との最大の違いは、その処理能力でしょう。初期購入費用は、大型のLIFESAVER jerrycanで3万円弱(399ドル)と少々高いですが、マイケル・プリチャード氏は講演中、80億ドルの費用で「安全な飲料水及び衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する。」というMDGs(ミレニアム開発目標)の水準を達成し、200億ドルで全ての人に安全な飲料水を提供できる、という試算を発表しています。
So, by thinking differently, and processing water at the point of use, mothers and children no longer have to walk four hours a day to collect their water. They can get it from a source nearby.
(つまり、考え方を変えて、利用するその場所で水を処理すれば、母子が毎日4時間歩いて水を集める必要はなくなるのです。近くで水を手に入れられるのです。)
LIFESAVER bottleのような道具や技術への投資が進めば、水と貧困に関わる問題のいくつかは、解決に大きく近づくかもしれません。
LIFESAVER jerry canが活躍するパキスタン地域の洪水救援プロジェクトについて知ろう
「世界を変えるデザイン展」のレポートはこちら。