本当に美しく透き通ったツバルの海、その浅瀬に木のようなものが沈んでいます。カメラはボートに乗ってその周りをゆっくりと回る…
そんな美しい映像ではじまる映画『ビューティフル・アイランズ』は本当に美しい映像と人々の笑顔にあふれた映画です。しかし、その美しい島々はどれも地球温暖化によって危機を迎えている島なのです。でもやはり美しい。その美しい風景は私たちに何を語りかけるのでしょうか?
21世紀の間に海の中に消えてしまうだろうと予想されている国、ツバル。
度重なる高潮で街中が水浸しになり、街全体が水没する危機にある世界遺産の街、ベネチア。
永久凍土が溶け、侵食によって土地が削られてゆき、島全体での移住を決めた島、シシマレフ。
「沈み行く島の姿を記録したドキュメンタリー」、こう書くとこの作品は観る者に危機感を与える作品であるかのような印象を与えます。でも、実はそうではないのです。この作品が映し出すのは圧倒的に美しい風景と人々。地球温暖化は海面を上昇させ、永久凍土を溶かし、ツバルやベネチアやシシマレフの人々から生活を奪おうとしています。でも、それによってその島の美しさが損なわれるわけではないのです。
この作品で取り上げられた3つの島はまったく異なる美しさを持っています。ツバルは南の島の青い海の美しさ、ベネチアは歴史ある文化の美しさ、シシマレフは氷に覆われた白銀の世界の美しさ。温暖化によって人々の生活は奪われても、その美しさが損なわれることは無いのです。
そして、その島々に住む人々も意外と危機感を感じていないように見えます。ツバルの人たちは神が助けてくれると信じて常に笑顔でいるし、ベネチアの人たちはもう慣れてしまっているよう。島全体が移住することを決めたシシマレフの人々からはさすがに哀しみが感じられるけれど、それでも子どもたちは笑顔で遊びまわっています。
それを観て思うのは、この映画はメッセージではなく記録なのだということです。「温暖化をどうするか?」というメッセージを観る者に発信するのではなく、単純に美しいものを記録としてとどめていこうという姿勢、それがこの映画では貫かれているのです。
この映画を観て、それから何をするかは観た人の側の問題です。ツバル、ベネチア、シシマレフが沈みゆく島であるという情報は調べればいくらでも知ることができます。この映画を観て、温暖化がこれ以上進まないように立ち上がってもいいし、この美しい風景を目に焼き付けるために現地にいったっていい。
私がこの映画を観てまず思ったのは「ツバルに行ってみたい」ということでした。そして同時に、いつも笑顔にあふれる人々の生活の場が奪われることは何とかして避けたいとも思いました。あんな地上の楽園のような国が失われてしまうのは凄く残念なことです。それは薄汚れた都会に生きる人間の幻想かも知れません。でも彼らの笑顔からは、自分たちの土地を愛しているということが伝わってきます。
それはつまり、この映画がツバルやベネチアやシシマレフの魅力を見事に引き出しているということ。映画の最後に映るのは、最初と同じ、海に沈んだ木のようなもの。最後まで見ると、この木が何を意味しているのかがわかる仕掛けになっています。ナレーションのまったく無いこの映画には、データやら説明やらで温暖化を力説する小難しい映画とは違う、感性に訴えかけてくる説得力がありました。
『ビューティフル・アイランズ』
http://www.beautiful-i.tv/
2010年7月10日より、恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
監督・プロデューサー・編集 海南友子
エグゼクティブプロデューサー 是枝裕和
撮影 南幸男
撮影技術・録音 河合正樹
整音 森英司
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