「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」

greenz people ロゴ

子どもの自殺が増える日本。いま、目の前の子どものためにできること。

Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by normalityrelief

Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by normalityrelief

1日に約2.6人。それが、日本の2008年における小学生を含む生徒の自殺者数。子どものために大人ができることって何だろう?そんなことを考えながら、子ども支援に関する講演を聴きに行ってきました。

09年版自殺対策白書」によれば、小学生を含む生徒の自殺者数は年々増加し、2008年は統計をとり始めた1978年以降最多を記録している。また、ユニセフの調査では、日本では、3人に1人の子どもが「孤独」を感じている(※1)としている。1989年に国連で採決された『子どもの権利条約』は、日本では1994年に発効されたが、この条約が定める子どもの権利は、まだ十分に守られていないようだ。

子どもの権利とは?

子どもの権利を守ることが、子どものわがままを助長しかねないと懸念する人もいるかもしれない。では、ここでいう子どもの権利とは何を指すのか、ユニセフの『子どもの権利条約』紹介ページで確認してみよう。

『子どもの権利条約』が定める子どもの権利は、大きく分けて4つ。生きる権利、育つ権利、守られる権利、そして参加する権利だ。ちなみに、子どもとは、18歳未満の児童を指す。

「子どもの権利条約」が定める子どもの権利

「子どもの権利条約」が定める子どもの権利

育つ権利に含まれる「考えや信じることの自由が守られ、自分らしく育つことができる」権利を守ることは、自分自身の発言について責任を持つ子どもを育てることにつながると話すのは、チャイルドライン支援センター事務局長の加藤志保さん(※2)。

子どもの声に耳を傾けるチャイルドライン

加藤さんたちが支援するチャイルドラインとは、

18さいまでの子どもがかける子ども専用電話

活動開始からこれまでの10年間で、77万件を超える子どもからの電話を受けてきたという。かかってくる電話は年々増加しており、全国からかけられるフリーダイヤル(0120-99-7777)を開始した今年は、年間20万件を超えそうだとか。

チャイルドラインは、電話相談ではない。電話の受け手は、子どもの声を聴き、こころを受け止めることに徹するからだ。子どもと一緒に喜んだり考えたり、子どもを誉めたりはする。でも、子どもに対して、叱ったり、お説教したり、指示したりはしない。

さらにチャイルドラインは、子どもが安心して何でも話せるように、電話をかけてくる子どもに対して、以下4つの約束を守っている。

チャイルドラインの4つの約束

チャイルドラインの4つの約束

チャイルドラインは、子どものどんな声にも、ひたすら耳を傾ける。その行為には、どんな効果があるのだろう?加藤さんいわく、子どもは大人に話を聴いてもらうことで、自分を受け止められた、認めてもらえた、と感じることができ、それが安心感や自信につながるそうだ。また、自分の言葉を聴くことで、自分の気持ちや考え、状態を理解する。相手に何かを伝えるために、自分の考えをまとめたりもする。つまり、子どもの話をじっくり聴くという行為は、その子どもの心の成長を促すのだ。

子どもの話を聴くことの大切さ

心療内科医でスクールカウンセラーとしても活動する明橋大二先生も、子どもの話を聴き、受け止めることの大切さを呼びかけている(※3)。明橋先生によると、子どもにとって一番大切なのは、『自己肯定感(self-esteem)』。自己肯定感とは、一言でいうと、生きることを肯定すること。それが低いと、しつけや勉強を教えようとしても、なかなか効果が出ないという。そして、子どもの自己肯定感を高めるために大人にできることの一つが、話をきちんと聴くことなのだそう。コツは、子どもの話を聴いたら、その話を繰り返すこと。子どもは、人の口から発せられる自分の言葉を聴くことによって、自分の発言や気持ちについて改めて考えることができる。

また、明橋先生は、子どもの話を聴く際、子どもの努力をほめたりねぎらったりする言葉を返すことも大切だと指摘する。たとえば、試験勉強をしている子どもに対して「がんばれ!」ではなく、「がんばってるね!」と声をかける。今の自分のがんばりを認めてもらえると、「がんばろう!」という気持ちがわいてくるのは、大人も子どもも同じだ。

目の前の子どものためにできること

09年版自殺対策白書」には、子どもの自殺を減らすには、子どもが悩みを打ち明けたいときに打ち明けられるシステムづくりが重要だ、と書かれている。チャイルドラインのような活動は、まさにそういうシステムだ。でも、そのチャイルドラインは、37都道府県65団体2,000人体制(2009年11月現在)で活動しているものの、全ての電話には対応できてない状態だという。それだけ、身近に悩みを打ち明けられる大人がいない子どもが多いということだろう。

加藤さんは講演を、

私の夢は、チャイルドラインが必要でなくなる社会の実現です。

という言葉でしめくくった。

子どもの声に耳を傾けられる大人が増えれば、チャイルドラインのような「システム」に頼らなくても、孤独な子どもや悩みを抱える子どもは減っていくはず。

子どもが、電話の向こうの誰かではなく、目の前にいる大人に安心して話ができる。そんな社会を築いていくために、今日から、身近な子どもの声に、耳を傾むけてみてはいかがだろう。

※1: UNICEFが2007年2月14日に発表したOECD加盟国を対象とした子どもの「幸福感(well-being)」に関する調査報告書38ページ参照。15歳の子どもを対象に、自分の中にあるマイナスな感情について質問したところ、「孤独を感じる」と答えた割合が最も高かったのは日本(30%)だった。なお、続いて割合が高かったのは、アイルランド(10.3%)とポーランド(8.4%)。
※2: 2009年11月18日 第4回子どもHAPPY化計画勉強会 講演「子どもの『心の』貧困を考える」より
※3: 2009年11月21日 第6回チャイルドライン全国フォーラム2009 in千葉 記念講演「自己肯定感はなぜ育たないのか、どうすれば育つのか」より