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生まれ変わった街 L.A.エコビレッジ

持続可能な社会へ! エコビレッジ国際会議TOKYO2006(4)ルイス・アーキン

海外ゲスト3人目は、ロスアンジェルスエコビレッジ創始者のひとり、ルイス・アーキン氏。「マックス・リンデガーやマルチ・ミューラーが紹介したように、エコビレッジはいろんなことが起きている場所。コミュニティーの中の人がそれぞれの活動を始めることができる」と、実際の活動や、人々の生活を紹介してくれた。

都市の光、そして影

「地球の環境が苦しい状態に変わってきています。エコビレッジが地球の荒廃に対する救命ボートになりうるかもしれません。私たちが適切な変化をこの地上で引き起こすことができれば、もっと質の高い生活ができるかもしれませんし、エコビレッジで変化を遂げ、それを続けていくことができれば、新たな社会変化への種をまくことができるかもしれません。

現在は都市部にどんどん人口が集中しています。およそ世界人口の半分くらいが都市に住んでいます。そしてもう25年もすれば世界人口のおよそ4分の3、つまり75パーセントは都市に住まうようになるだろうと言われています。ということは、都市そのものをもう一度つくりなおさなくては、素晴らしい、住みよい社会への希望が絶えてしまうといえるでしょう」

そして、改めて私たちをロスアンジェルスへと迎え入れた。

「ロスアンジェルスエコビレッジへようこそ。私たちは都市の暮らしをつくりかえようとしています。環境にやさしい暮らし方、生活の質の向上、そして生活コストを引き下げる努力をしています」

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「私たちは4年から5年かけて、全く新しい開発地として、ソーラービレッジ、エコビレッジの計画を進めていました。その中心地に大規模な計画をつくっていたんです。しかし1992年、私がオーストラリアに行って、帰ってきたその翌日でした。ロスアンジェルスで起こったロドニー・キング事件の判決が出て、暴動が起きて市民が街に火を放ち、火事が起こりました。私の家やオフィスの近くでもたくさん火事が発生しました。私たちは別の場所でエコビレッジをつくろうと計画いたんですけど、この事件が起きてから、「この場でもう一度私たちの持っているものをつくりなおしていこう」と考え方が変わりました」

「私たちが住んでいた地区というのは非常に荒廃していて、都市の機能を失っていました。麻薬の密売、犯罪組織、あるいは売春などもおこなわれていました。当初私たちが自問した疑問点は、私たちの住んでいる地域のバイオリージョン(生命地域/自然の生態系から人間の営みまでを含めた生命圏)、つまり、大気、土壌、水、にどのような問題があるのか、また政治にどういった問題や課題があり得るのか、こういった問題と私たちはどういった関係があるのか、また私たちお互いの関係はどういったものなのか、私たちは問題に対して何ができるのか? などでした。

こういった疑問は一度に出てきたものではないのですが、こういったことを考えるのは興味深い体験でした。その当時たまたまこんな調査結果が出てきました。「L.A.の汚染の進んでいる地域の子ども達の肺活量は汚染の進んでいない地域の子ども達に比べて20パーセント少ない」。一緒にボランティアなどをしていた仲間が5人くらいいたんですけど、私だけがその汚染された地域に住んでいました。それで、私たちは車を運転しないと、車を手放すと決めたんです。

私たちはみんな多忙を極めていました。しかし私たちは実践することによって、L.A.に住んでいる多忙な人間でも車なしでやっていけるんだと実証できたわけです。実際に使われている車の台数は800万台といわれています。800万台のうちの4〜5台がなくなったからといって大きな影響力は発揮できませんけど、パーマカルチャーや私たちの活動の基本的な考え方は、小さな活動で大きな大きな影響を生み出すことです」

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誕生・ロスアンジェルスエコビレッジ

「それでは私たちの地区の建築がどのようなものかお教えしたいと思います」

会場には古い写真が映し出された。この地域は1800年代後半、石油採掘に多くの人が訪れた地域なのだそうだ。結局見つかったのは地下2000フィートのところにあった温泉。その近くには時折湿地帯が現れるという。そんな街の中の一角にある二つのビルを、彼女達のNPOが所有している。ひとつは40戸あるアパート、もうひとつは8戸入る建物のようだ。

「東京の街を見ると私たちのダウンタウンも小さく見えてしまいますが、ダウンタウンから大体3マイルくらいのところに私たちのエコビレッジがあります。二つのブロックにおよそ500人の人が暮らしています。162世帯、13の建物があります。このブロックの中にはアルコール中毒、それから麻薬の更生施設もあります。それからユースセンターとコンピューターセンター、クリニックがあります」

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まちの様子を伝える写真を紹介

「エコビレッジにはエコパーク、幼稚園、小学校、中学校があります。歩いて通えるくらいの距離に、およそ1万人の子ども達が住んでいます。私たちが住んでいる地域がいかに見苦しいかをお見せしたいと思います。この2ブロックの中には3つの修理工場があります。スーパーマーケットが4つ、細長い商店街が5つ、教会が3つ。全部に共通する非常に見苦しいところ、それは大きな駐車場です! 私たちのコミュニティーに意図的に集まってきた人達の数は35人います。ほとんどの人達が先ほど言いましたNPOの2つの建物に住んでいます」

「先ほど500人の人がこの建て物に住んでいると言いましたが、そのほとんどの人が自分たちがエコビレッジに住んでいるということを知りません。ところが、あっちのブロックでは変なカタチの自転車に乗っている人がいるとか、道端で立ち止まって会議をしている人がいるとか、道の真ん中で音楽をつくっている人がいるとか、変なことをしている人がいるなということはみんな知っていると思います。そしてこのように意図的にコミュニティーができる時には、人々の中心となる共通の価値観があります。そのうちのいくつかをご紹介したいと思います。

自然から学んで、自然にやさしいカタチで生活をする。マックスやマルチとほとんど同じだと思います。多様性と協力を重視することによって躍動感に満ちたコミュニティーをつくる。それから思いやりを育み、尊敬できる関係をつくる」

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収穫の喜びも大きい

「私たちの500人の隣人は、必ずしもエコビレッジを意識しているわけではありませんけど、私たちはお互いに学び合っています。お互いの財産になっているわけです。

1993年にこの活動を開始した当時に、初めておこなった植樹祭でナッツの木を植えました。これは地域における社会的なシステムと、経済的なシステム、そして生態系、この3つを統合することができる非常にいい例だと思います。新しく木を植えて祝っているのですから社交の場でもあります。そして実際に地面に穴を掘って木を植えるというのは生態系に関わる仕事です。この実が育って収穫すると、スーパーマーケットに行って買わなくてもよくなる。これが経済的な側面です」

「そして最近、新しい一歩を踏み出しました。街を改修するプロジェクトです。city repar.onはウェブサイトでご覧いただけます。この組織はオレゴン州ポートランドにあります。この組織はアメリカの様々なコミュニティーグループの手伝いをしていて、車が通るためにあった交差点を、人々が集まる広場に変えてくれるんです(→参考Webサイトへ)」

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街の大改修「シティーリペアー」

彼女達の活動はアクティブでユニークだ。道の真ん中でワークショップをやったのは、自分たちの定例会議に地域の人に来てもらえないからだったという。それなら自分たちが出向きましょう、というわけだ。アースデイのイベントには3000人が来場したそうだ。

「大きな問題になっているのは車です。どこでも、車が来ると私たちはどけてしまいます。ですが、私たちの新しいやり方は、車によけてもらいます。真ん中でミーティングをしている時には、元気よく挨拶をして、お辞儀をして、よけてもらう。ツアーをしている時も、夕食を取っている時もそうです。道で子ども達と昼食をとっている時もそうです」

街・生まれ変わるその姿

活動はエコビレッジの中にとどまっていない。市に対しても積極的なアプローチを続けている。

「今、L.A.の交通局が出している予算に基づいて新しい道の計画が進行しているのですが、これはエコビレッジのメンバーのひとりが、1999年に市に提案を出したことから始まりました。その目的というのは、もっと歩行者にやさしい街をつくりたい、そして車への依存を減らしたい、公共輸送機関を使う頻度を増やそう、そしてこの地区を美しくしようというものでした。

エコビレッジに住むメンバー達はこれだけでは終わりません。道路の雨水を地面にしみ込ませて地下水に戻す透水性の実証実験をし、道の脇300メートルにわたって食べ物の森をつくることを提案しました。果実とナッツの木を植えたい。そのために今ある駐車場を取り壊したい。もっと小さい公園の数を増やしたい。みんなが集まる公共の場を増やしたい。あるいは小さいお店が開店できるような空間を用意したい……。今始まったばかりなんですが、非常に楽しみなプロジェクトになっています」

さらに建物にも鋭いメスが入れられた。とあるビルの一角を示しながら、

「かつては表面がすべてコンクリートだったんですが、すべて壊してしまいました。今はコンポストをつくり、植物を植えています。コンクリートを壊すことはエコビレッジの中で一番好きなことです(会場から笑いが起こる)。ビルの北側の屋根から落ちてくる水については、そのまま地面にしみ込んで、地下の帯水層にいうようになっています。現在エコビレッジに住んでいる人のうちの10人がパーマカルチャーの認定コースを受けています」

「エネルギーは非常に大きな問題で、特に車が大きな問題になっています。車の台数は人口の伸び率に比べて6倍の早さで増えているといわれています。どうしても車が必要だけれど友人から車を借りることができない時、このように車をシェアする組織が近くにあります。「フレックスカー」といいます。自転車で通勤する人もいます」

エコビレッジに住む

住んでいる人達は様々な活動をしている。織物のワークショップを開く人、アパートの中で修理や回収作業をして、収入を得ている人、パーマカルチャーのコンサルタント、アーバンエコビレッジの組織、コンピューターのコンサルタント、政治的な活動している人、音楽をやっている人など、中には道路修理のワークショップなども開催されている。

 

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みんなで集まり音楽を楽しむ

「私たちは様々な多様性のバランスを重視しています。民族、所得レベルについてもそうです。住人には低所得者が多く、低いところから中程度の所得の人がいます。世代は20代から70代まで、性的な旨好や家族構成、一人暮らしであるとか家族であるとか、いろいろな人達がいます。毎週39人のメンバーで会議を行っていますが、全員が出席するわけではありません。大体15人から20人くらいの人が出席します。そしてコンセンサス(意見の一致)で意思決定を行います。この合意を得るためには十分な時間をかけて行います。本当に賛成できなくてもその合意が形成されれば、それに従うということも必要です。年に数回、こういった合意でなされる意思決定に関してのトレーニングを行います。また、週に数回みんなで食事をします。他にも誕生日のお祝いなど、いろんな企画が行われています」

そして居住空間を確保するための事業も手がけているのだそうだ。

「ひとつはコミュニティーランドトラスト、信託事業です。我々NPOの方からビルと土地を信託業者に預けます。もうひとつが有限会社としての住宅協同組合。住民が組合員になって住宅を購入することで、住宅の価格を安定させることができます。東京と同じようにL.A.も地価がどんどん上昇していますので、このような対策は非常に重要です。不動産信託のランドトラストの方は我々のビルだけを扱っているわけではありません。我々の住んでいる周囲数マイル、居住している敷地全体を扱っています。

地域の再開発部門がL.A.の中にあるんですけれども、その中の活動に私も積極的に参加しています。これからの5年間で800万ドルの予算を土地相開発ににむけてとってあります。そのうちの25パーセントはこのような安価な住宅に向けられるべきだと考えています。市の再開発局の方も我々のやってきたことに対しては非常に高く評価しています。私たちは常に「提案を出せ」とプレッシャーをかけられています。ですからこれから1年か2年くらいの間に非常によいお知らせができるといいなあと思っています」

成功の秘訣

「私はこの取り組みを15年間続けてきました。いろいろな計画を建て、ヴィジョンをつくってきました。

 

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その中で考えた成功のための方程式として、4つの簡単な方法があります。これはどんな生活の場にも当てはまることです。

ヴィジョンを持つこと。計画を立てること、ただし柔軟性がなければなりません。地に足をつけること。そして、忍耐、忍耐、忍耐です!

 

「コミュニティーの中では、組織に関するいろんな問題や紛争がありました。その時に友人が助言をしてくれました。「もっと自然にやさしく、そして協力しながら暮らしたいという人を集めればいい。それは一緒になればわかる。簡単なことだ」と。しかし簡単ではありませんでした。

コミュニティーのヴィジョンと目的を明確にするということが大切です。また、メンバーになる人の選定基準を明確に決める、合意に至った事項は明確に文章に残す、いさかいが起こったらそれを解決することを優先事項とすることが大切です。私たちは毎週、このようないさかいを解決するグループの会議を開いています。いさかいを解決できないのなら、サポートグループに解決を依頼します。そして公正な参加型の意思決定の教育も必要です。コミュニケーションのスキルやグループを作るプロセスを学習することによって、たくさん楽しめることがあるのです」

人間は便利な物、快適なものになれてしまうとなかなかそれから離れられないもの。ついつい愛着、そして執着が生まれ「あきらめたくない」と思ってしまう。

「しかしこのことを知っていれば、より解放され、自由になることができます。あきらめるのではなくて自ら手放すのです。車を運転するのをやめようと思った15年前、私は車をあきらめたわけです。それまで車を多用していたので、最初の頃、乗ってはいなかったのですがしばらく所有していました。でも、本当に手放してしまったら、自由になりました。

エコビレッジコミュニティーでは白いテーブルがロビーにあります。そして各自がいらない物を白いテーブルに持って置いていくという習慣があります。これは「まだまだ使えるので、欲しい人がいたら持って行ってください」という意味です。そのシステムを外に出して、道にまで広げたいなと思います」

発生した問題に正面から向き合い、解決することで新しい暮らしを手に入れてきたロスアンジェルスエコビレッジ。行政と一緒に、低所得者や社会的な弱者にもチャンスと安心を与える取り組みを行い、成功させたひとつのモデルではないだろうか。ちなみにNPOの運営するランドトラストの賃貸は通常の価格の半額程度で、車を所有しなければ食費も入れて大体800ドル(約9万円程度)で生活できるのだそうだ。滞在も安くすむのだとか。そして講演は、アーキン氏のにこやかな笑顔と明るい声でこう締めくくられた。

「皆さんもエコビレッジを訪れてみてはいかがですか?」

*トップと文中のロスアンジェルスエコビレッッジの写真は、ルイス・アーキンさんよりご提供いただきました。

<関連 Webサイトと書籍>
パーマカルチャー・センター・ジャパン
http://www.pccj.net/index.html
グローバル・エコビレッジ・ネットワーク(GEN)
http://gen.ecovillage.org/index.html
グローバル・エコビレッジ・ネットワーク・ジャパン
http://ecovillage-japan.net/gen/index.html
BeGoodCafe
http://www.begoodcafe.com/area.php?area=00&vol_num=094

問い合わせは下記へ
<主催>BeGood Cafe
http://www.begoodcafe.com/
<共催>パーマカルチャー・センター・ジャパン
http://www.pccj.net/index.html

greenz 『エコビレッジ国際会議TOKYO2006』レポート
No.1 糸長浩司
https://greenz.jp/2006/12/05/364/
No.2 マルチ・ミューラー
https://greenz.jp/2006/12/27/363/
No.3 マックス・リンデガー
https://www.greenz.jp/index.asp?REPORT_NUM=344