デザインの目的を考えなおそう
「デザインの目的は、『人々の生活をよくするため』というのはみんなが了解している。今考えなければならないのは、『人々』とは誰で、『よくする』とはどういうことか、ということだ。」
益田先生のこの一声からスタートした国際会議。デザインの力が強く意識される今、デザイナーの社会的な役割を明確にしながら、「サステナブルな社会のための枠組みをつくり、ロードマップを描こう。」と目に見える具体的なものを共有しようとはじまった。
- 益田文和氏の挨拶
まずは山本良一先生の基調講演から。すでに進行している「現実」が「予測」を追い抜いているという気候変動の事実は、何を前提に議論するか重要な指針となっただろう。世界中の科学者が今年の冬の気候変動を固唾を呑んで注目しているほどに、ポイント・オブ・ノーリターン(取り返しのつかないターニングポイント)が間近に迫っている。その中で、いかに一般の人々の「集団的な無知」を克服していくか、10年以内におこる確実なサバイバルのために長期的な視点で未来を考えるデザインの可能性を期待していた。
- GREEN DREAMを描こう!
デザイナーのグリーンな夢
続いては「エコデザイン」のセッション。フィリップ・ホワイト氏と富士通の加藤公敬氏が登場した。ホワイト氏は、アメリカインダストリアルデザイナー協会の環境部門の責任者というエコデザインのスぺシャリストだ。彼はOkalaと呼ばれるデザイナー向けの環境プログラムを開発し、世界に広めている。
「デザイナーには夢が必要だ」これが彼のメッセージだ。感受性、アイデア、ビジョン、閃き、それらはデザインという仕事の核心であり、何かを有形に落とし込むために何より必要なものである。現実にはバッドな夢が(あるいは現実が)進行している。その中でいかにポジティブな方法を思い描くか。バイオミミクリや自然エネルギーにふれながら、素敵なキーワードである「GREEN DREAM」を呼びかけていた。
また、富士通総合デザインセンター長である加藤氏は世界のサステナブル志向に耳を傾けながら、企業が現実的に実践している環境マネジメントについてプレゼンテーションしていた。「PCや携帯電話など、確かに負荷のかかるものをつくりつづけていた」というようなジレンマも、いったん机上に揃えて、建設的な議論のための足場を用意していた。
「エコマテリアル」をめぐる様々な視点
この日の最後は「エコマテリアル」。キングストン大学のジャッキー・デーン氏、そして発起人の益田氏が登場し、「同じ素材を使って、違うものをつくりだす」リマテリアルの事例を紹介していた。
ゴミをリソースにするのは「treasured trash」とも通じる世界的な潮流だろう。特に益田氏が審査員も勤める「Design Resource Awards」の、「素材はメモリーを持っている」という視点は強い印象を与えていた。使い古したレコードをお皿にしたり、街から出たプラスチックゴミを公共の椅子にしたり、今までの過去、そして積み重なっていく未来の「記憶」を引き出す。そんなデザインの可能性が、美しく目に見えるものになっていた。
このプレゼン後のセッションでは、会場から、あるいは他のスピーカーから、質問だけでなくコメントも活発に出され、「デザイナーにとって、『つくらない』という選択もあるのではないか」など、新しい視点が次々と挿入されていく。
- 会場からの活発なコメント
マテリアルの研究者でスピーカーでもある石田秀輝氏の「わたしはエコマテリアルについて、リサイクルではなく、『いかにインプットを減らしていくか』から考えている。このようなサイエンティストとデザイナーの意識の違いが興味深い。今回の会議を通じて共通の言語、共通の思考回路を見つける議論を続けたい。」というコメントには拍手が送られた。これは自分にとっても新鮮で心に残るものだった。
今日はどちらかというとハード面の話だ。そして今日の土台を元に、エツィオ・マンズィーニ氏の公演など、ライフスタイルを巻き込んだ横断的な議論へ、さらに続いていく。続きは16日にアップ予定。お楽しみに!