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日本一高いビル・あべのハルカスには、いろんな「できる」がてんこもり!百貨店空間を“街場”に変える試み「縁活」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんは普段、どんなときに百貨店に行きますか? 自分へのご褒美を探したり、大切な人への贈り物を選んだり、買い物やウィンドウショッピングのために訪れるという方も多いかもしれません。

しかし、今回ご紹介する「あべのハルカス近鉄本店」には、買い物だけでなく「縁活」という新たな取り組みに参加するために訪れる人が続出しているようです。
 
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地上300m日本一の超高層ビル「あべのハルカス」

あべのハルカスのフロアを歩くと、売り場と売り場の間にある「街ステーション」と呼ばれる空間で、小さな教室やトークイベントなど小さなにぎわいが生まれていることに気づきます。

そういった活動は「縁活」と呼ばれ、その多くが市民活動団体の力で運営されています。縁活は、2012年から社会実験イベントなどを重ね、2013年6月「あべのハルカス近鉄本店タワー館」のオープンにあわせて本格始動しました。

運営事務局のメンバー5人で、「街ステーション」での市民団体の活動をマネジメントしています。その仕組みや活動を支える団体について、縁活事務局スタッフの豕瀬(いのせ)利之さん(近鉄百貨店社員)、吉永恵里さん川北友子さん(ともにstudio-Lスタッフ)のお三方にお聞きしてみました。
 
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写真中央左から吉永さん、豕瀬さん、川北さん

百貨店の中に街場をつくる

そもそも近鉄百貨店のリニューアルの背景には、昭和12年に建てられた阿倍野橋ターミナルビル旧本館の老朽化や、梅田や難波で百貨店の増床が相次いだこと、あべのエリアにホテルやオフィスビルが少なかったことなどがあります。

誕生したあべのハルカスには近鉄百貨店(あべのハルカス近鉄本店)とあべのハルカス美術館、中層階にはオフィスビル、高層階には大阪マリオット都ホテルや展望台が入居しており、日本一高い超高層ビルとなりました。

そのあべのハルカスを含めた阿倍野橋ターミナルビルの中核を担うのが近鉄百貨店です。百貨店全体の売り上げが減っている中、新しい価値の再構築をしていく必要がありました。そうした変化に対応しながら出てきたキーワードが”コミュニティ”だったのです。

買い物が目的でなくても、人と人とが出会うことの体験を重視した百貨店を目指して。そういった課題のもとで新しい店舗のデザインを空間デザイナーの間宮吉彦さんが担当し、”街のような場所へ”という思いからstudio-Lの山崎亮さんもコミュニティデザインに加わりました。

豕瀬さん 自然と人が集まって、人と人とのつながりが生まれる場所こそ”街”だろうということで、「街場をつくる」というコンセプトに決まりました。そのための手段が縁活です。

市民団体と共に取り組む以上は、百貨店としての集客だけでなく、参加される市民活動団体にもメリットがあり、お互いの想いを尊重する協働のスタイルをとる必要があります。

恊働できる市民団体を見つけるために、縁活事務局の原型となるチームが最初にしたのは、大阪周辺NPO団体にヒアリングのため電話をするという地道な活動でした。

最初の説明会は、「あべのハルカス」がまだ着工した直後の2011年に実施。自分たちの活動の幅を広げたい団体さんたちと「こんな場所があったらいいな」というワークショップを通じて、場のコンセプトづくりからはじまったそうです。

吉永さん 2013年6月に、実際に街ステーションでの活動が始まったのですが、当初から参加してくださっている団体さんの「縁活」にかける思いの強さと、まだ立ち上がったばかりの事務局が実現できることのギャップは大きく、私は何度も泣きました(笑)

他の地域を担当しているstudio-Lスタッフの話を聞くと、考えが合わないと離れていく団体さんが多いのですが、大阪の団体さんは揉めれば揉めるほどにパワーが増して思いが溢れていくんです。

熱い思いを持った団体さんとコミュニケーションを重ねた結果、今の縁活がよい方向に向かって行けているのではないかと思います。

シニア層の方を中心に、縁活を支えている

それでは、縁活ではどんな団体が活動をしているのでしょうか。いくつかご紹介したいと思います。
 
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あまらく(アマチュア女性落語会)

こちらはアマチュア女流落語会の「あまらく」さんです。知人や落語に興味のある方だけでなく、通りすがりの方にも落語の楽しさを知ってもらいたいとのことから、定期的に開催されているそうです。

川北さん このプログラムで使用している高座は、団体さんからのリクエストに答えてボランティアチームが製作しました。素人の施工なので毎回修理しながら使っているんですけどね(笑)

こちらはNPO法人「木育フォーラム」。木の良さを知ってもらうための体験、ワークショップを毎月開催されています。輪唱の○(わ)という子どもが遊べる木琴のアート作品がレギュラーで登場し、周りが子ども用品売り場ということもあり、大反響です。
 
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木育フォーラム

また、ちょうど取材日は「関西をアートで盛り上げるNPO A-yan!!」さんが企画する「最恐おばけやしき」のワークショップが行われていたので、A-yan!!事務局の田中やんぶさんにもお話を聞いてみました。
 
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最恐おばけやしき

田中さん アートでまちを盛り上げる活動をしている団体です。ヒーローショーを開催したり、子どもたちと大きな折り紙でゾウやキリンをつくって、近くの天王寺動物園に飾らせてもらったりしてきました。

普段は地域のイベントなど、わりと顔見知りの中で開催するので温かく迎えてもらえるのですが、「縁活」だと毎回初めての方が多いので、魅せるという緊張感があって良いですね。いろんなことに挑戦できて楽しいですよ。

こういったさまざまな団体が参加している中で、当初はあまり想定していなかったのがシニア層の力です。シニア層のみなさんは、平日をうまく活用してオカリナ、絵手紙、吹き矢などのプログラムを運営。

絵手紙の教室などには大勢の参加者が集まり、教室が終わると百貨店で買い物をして帰る方が多いそうです。この状況は近鉄百貨店内でも評価が高いのではないでしょうか。

豕瀬さん 始まった当初は、街ステーション周辺の売場の方が見にきてくれるぐらいでした。1年経った今では、売場と縁活のコラボレーションプログラムや、近鉄百貨店の他のお店へ出張縁活のオファーがあったりで、活動の領域は確実に広がっています。

また、この秋には大学生を対象とした企業紹介インターンを、縁活で受け入れる予定もしています。

「縁活」が地域をつなぐ

さらに豕瀬さんは系列会社・近鉄ケーブルネットワークのスタジオを借り、Ustream番組の制作も手がけるようになりました。「縁活TV」という番組名ですが、縁活の紹介だけではなくあべの・天王寺地域の情報も紹介しています。

豕瀬さん 地域の方々にもゲストに出演してもらってPRしてもらえる場にしています。例えば「あべのベルタ」という他の商業施設の方に、手づくり夏祭りのPRをしにきていただきました。

地元のライバル施設との競働ならぬ恊働も、あべのや天王寺エリアを盛り上げていきたいという思いがあってこそ。今度は、同じく地元ライバル施設「あべのキューズモール」の熊のキャラクター「アベーノアベーノ」が縁活にやってくる予定もあるそうです。

これらの企画が実現したのは、1年間の取り組みを通して「縁活は、近鉄百貨店が気まぐれで始めたことではない」ということが界隈に浸透しはじめているからだと縁活チームは考えています。

天王寺周辺の方々とのやりとりのなかで、地域のお祭りに「縁活」が出ていくこともあります。たとえば、あべのハルカスからは地下鉄で一駅先の昭和町で開催される「どっぷり、昭和町。」には縁活のブースが出展しました。
 
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出展のきっかけは、「どっぷり、昭和町。」のお手伝いをしている縁活ボランティアの方と世間話をしていたときに、「ハルカスグランドオープンのときにつくった飾りを、もう使わないのであれば貸してくれませんか?」と言われたことから。

「どこに使う?」と話し合っているうちに「飾りごと縁活チームが出展」ということになりました。

川北さん みんなで楽しめるトントン紙相撲をやり、たくさんのお子様に楽しんでいただけました。

参加してみてわかったのは「どっぷり、昭和町。」にも縁活に関わる方がさまざまなかたちで関係していて、地域との関わりの面白さ、大切さを改めて意識しましたね。

縁活事務局には、「縁活=街ステーションの中だけではない」という思いがあります。ほかのお祭りにも積極的に出ていくだけでなく、お祭りのエッセンスをあべのハルカスに持ち込み、街ステーションでプレイベントを行うことも考えているそうです。

20代から70代のボランティアが「縁活」を下支えする

こういった地域の方々と市民活動団体と百貨店をつないでいるのは、市民ボランティアチーム「CSR」の存在が大きいといいます。

コンシェルジュ(C)・サポーター(S)・レポーター(R)の3つのチームが「縁活」の活動を支え、なんと20代から70代までの方が所属しています。
 
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川北さん CSRチームの仲間意識はすごいんです。例えば最初、サポーターチームのメンバーを支えるためにプログラムに参加していた方が、がんばっているチームリーダーを支えてその動きを見ているうちに、「もっと自分ができることがあるんじゃないか」との思いから、自分が参加していないチームにも積極的にコミュニケーションをとるようになったり。

ボランティアのみなさんは、忙しい仕事が終わってから参加していて、疲れているはずなのにすごいと思いました。こういう人たちが縁活を支えてくださっています。

ほかのボランティアさんも「家と会社の往復だけの生活だったのに、子どもと年齢の変わらないボランティアといっしょに盛り上げられるようになって楽しい」と言います。

他にも「仕事では挑戦しづらいこともボランティアだからチャレンジできることがてんこもりなので、何かやりたい人には楽しい場所だ」という声も。

ボランティアとして参加したい場合や市民活動団体として参加したい場合は、こちらの縁活の参加方法ページに詳しく掲載されています。

2014年の8月調べでは、延べ500のプログラムに、約3万人のお客さんが参加し、約250の登録団体、約160人のボランティアが活動しているそうです。

豕瀬さん 縁活は、にぎわいつくり、百貨店の集客につなげようとしてはじまったプロジェクトでしたが、少しずつ団体さんとの協働を深める中で、「集客につなげることだけが目的という考え方はよくないな」と感じました。

「縁活」があって良かったねとか、縁活という場所があることで地域の人との関係がよくなったり、つながりを大切にしたり、そういう愛される場になることが大切だと考えています。これが、結果的に集客につながっていけばと思っています。

少しずつですが百貨店の中や周辺でつながりが生まれ、これまで思い描いていた百貨店の姿から新しい百貨店の可能性がここから生まれつつあります。

ぜひみなさん、出会うことの体験を重視した、縁活の現場をのぞいてみませんか?