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おせっかいは面倒くさい。でも、ぼくたちはおせっかいをしていこうよ。EDGE HAUS油原祐貴さんが考える「おかげさまサイズのジモト」づくりとは?

みなさん、ご近所付き合いしていますか?

故郷を離れ、とくに都心にいると、ご近所付き合いはそれほど多くないかもしれません。一方で、東日本大震災以降、近隣の方々とのお付き合いは暮らしの安全のうえでも大切だと気づかされた方もいるでしょう。

その他に、子どもが産まれて地域とのつながりの必要性を感じたり、シェアハウスという新しい住まいが東京に定着したことも、私たちが身近なコミュニティを求めている兆しのひとつなのかも。

この春、greenz.jpでは新しい連載がスタートしました。ご近所とのコミュニケーションを生み出すSNS「マチマチ」とgreenz.jpが一緒に、心地よいコミュニティを育んでいる地域や団体を訪ねる「となりのご近所物語」です。

今回はその第一弾として、千葉県柏市で次々にまちづくり事業を成功させている合同会社EDGE HAUS(エッジ ハウス)代表・油原祐貴さんのもとへ、マチマチ代表の六人部生馬さんと一緒に伺ってきました。

実は、油原さん、コミュニティデザインの世界では、知る人ぞ知る方ですが、これまでほとんどメディアには登場してこなかったそう。今回ほぼ初めてとなる、油原さんの単独インタビューです!

油原祐貴(ゆはら・ゆうき)
合同会社EDGE HAUS・代表社員
1979年、茨城県龍ヶ崎生まれ。2003年、株式会社リクルート入社。クーポンマガジン「ホットペッパー」柏編集部の立ち上げ、創刊に参画。2009年よりボランティア団体ストリート・ブレイカーズのメンバーとして、「柏神社手づくりての市」を運営。2011年7月より独立し、合同会社EDGE HAUSを設立。地域・交流・体験・発信をコンセプトに活動を開始する。

みんなが集まる“たまり場”をつくろう!
それがEDGE HAUSのはじまり

EDGE HAUSは、経済のグローバル化や近代化の過程で、分断・破壊されたコミュニティをつくり直し、活性化することを目指し、2011年から柏市でさまざまな事業を展開しています。現在、従業員は26名。最近は創業期より後に採用した新メンバーも増えてきているそうです。

油原さん EDGE HAUSの “EDGE”はとんがっている、“HAUS”はドイツ語でおうちの意味です。とんがっている人は周りにたくさんいて、そういう人たちが集まれば面白いことが起こる。よしじゃあ、みんなが集まれる場所をつくろう、と思ったのが、EDGE HAUSを始めたきっかけです。

はたらくでもいいし、ただ飲むでもいい。目的がちがっても、共通しているのは、たまり場であること。地域全体で場をシェアしようと思い、EDGE HAUSを始めました。

2011年、EDGE HAUS立ち上げ後、まず生まれたのが、交流と発信をコンセプトにさまざまな分野で活躍する人たちが集うカフェレストラン「YOL Cafe Frosch」(愛称:フロッシュ)と、立場や肩書を超えて同じ場所で仕事をするコワーキングスペース「Noblesse Oblige」(愛称:NOB)。

さらに、フロッシュは曜日ごとに店長が変わります。実際に店を訪れた人は、フロッシュを「軒先案内人が集う、まるで学校のクラスのような場所だ」といいます。そういう人たちがお酒を交わすことで、そこには有機的なつながりが生まれます。

なかには、もっと居心地の良い場所を見つけて離れていく人もいるそうですが、柏という街で、フロッシュは自分らしく過ごすためのヒントを見つけられる場所なのかもしれません。

平日夜に地元の方々で賑わうフロッシュ店内の様子

一方、NOBは、昼間の柏の玄関になるような存在。日中は都内で仕事をし、夜に帰宅する方が多い柏市で、大学生から会社員、フリーランス、10代~60代までと本当にさまざまな人がNOBを利用しています。この場所を通じて、地元で新しいプロジェクトが生まれたりもしているのだとか。

光溢れる大きな窓から柏の街を見下ろすこともできるNOB

まるで日本酒をつくるように、“地域を醸す”まちづくり

EDGE HAUSでは、地域の活性化のことを「地域を醸す」と表現しています。醸すといえば、麹に水を加えて、酒や醤油をつくることですが、その心は?

油原さん 日本酒の場合、杜氏さんが菌を入れて、混ぜますよね。混ぜないと発酵は起こらないし、一定の温度を保つことが大事。熱くなりすぎるのも良くないんです。

コミュニティも同じ。熱くなりすぎると、排他意識が生まれます。逆に温度が下がると、また混ぜたり、変なやつを入れるんです。面白い人ってわりと現れるので、見つけたら徹底的にいじりますね。

コワーキングスペースは飲食店ではないから混ぜ方が違います。ビジネスイベントを開催して名刺交換をしても結局は何も混ざらないので、週末だけバーになるイベントを開催しています。

そう話しながら、楽しそうに笑う油原さん。そして、今いちばん力を入れて取り組んでいるのは、「奥手賀ツーリズム」だそうです。

奥手賀ツーリズムは、手賀沼の湖畔にある、誰もが“心を耕す”時間を過ごすことができる自由なフィールド。自宅から自転車で通えるところに、いつでも自然を楽しむことができる生活の場が欲しいと、EDGE HAUSの事業として昨年オープンしました。

今回、私たちが取材に伺わせていただいたのも、この手賀沼です。都心から常磐線に乗って約1時間で湖北駅に着き、そこから車で10分ほどで到着。駅から少し離れただけなのに、田んぼや沼が広がるのどかな景色の中に、奥手賀ツーリズムの拠点がありました。

油原さん 奥手賀ツーリズムは、ようやく1歳を迎えたばかりです。昨年1年をかけてフィールド整備をして、今は市営の公園のように近隣の方たちに無料で利用していただいています。(※BBQは有料です)

今年は2年目のチャレンジとして、原っぱ大学の柏かわせみキャンパスを開講したり、カヌークラブや農家の収穫体験を誘致したり、体験の掛け合わせをやっていくことに力を注いでいます。家族でのんびり過ごすには”圧倒的にいい”場所なんですよ。

手賀沼は柏市のほか、我孫子市などにもまたがる、周囲長約38kmの大きな沼で、県立自然公園にも認定されています。沼のほとりに位置する「道の駅しょうなん」を拠点に、遊覧船の運航やサイクリングロードも整備され、観光スポットとしても人気です。

奥手賀ツーリズムでは、この道の駅を入口にもっと手賀沼の自然を楽しんでもらおうと、さまざまな取り組みを行っています。

ニジマス掴みどり

カヌー体験

奥手賀ツーリズム拠点「Kingfisher Garden」にあるじゃぶじゃぶ池。夏には子どもたちが遊ぶ姿も見られます

水辺の広場でBBQを楽しむ人々。収穫した野菜もここで食べることができます

そのありがとうはもらえない。正しいマッチングとは何だろう?

この6年間の活動で、すでに柏のまちづくりのキープレーヤーとなった油原さんですが、実は茨城県出身。常磐線が走る茨城県民にとって、“いちばん身近な都会”が柏であり、昔から柏市に親近感を感じていたのだそうです。

油原さん 大学進学を機に東京に出たのですが、あまり自分の居場所を感じられませんでした。

そんな中、社会人になって最初の勤務地が柏。1980~1990年代、柏には“ウラカシ”と呼ばれる場所があったんですよ。

東京都渋谷区神宮前のファッションや雑貨店が集まるエリアを裏原宿、略して“うらはら”と呼びますが、ウラカシとはその柏版なんだとか。

油原さん 当時は40~50の店舗が軒を連ね、オーナーと交流するのがかっこいいと思ってましたね。同世代の柏好きは、ほとんど同じ体験をしていると思います。徒歩10分圏内に知らない人がいなくて、歩いているだけでどんどん声をかけてもらえることが居心地良くて。次第にそういう場所で自分も暮らしたいなと思うようになりました。

しかし、油原さんが就職した頃にはファッションECサイトが発達し、ウラカシの店舗も昔よりは減っていました。

油原さん 昔から街の匂いをつくっているのは、個性やこだわりをもつ店舗だと感じていました。

ただ当時はクーポン誌の仕事をしていて、毎月広告料をいただきながら、クーポンを発行する。すると、だんだん人々はクーポン誌以外ではお店を探さなくなる。お客が増えると、店からはありがとうと言われるけど、そのありがとうがだんだん辛くなっていきました。顔と顔でつながっていた街を自分が壊しているんじゃないのかなと。

そのありがとうはもらえない―――。そして、クーポンではない、正しいマッチングとは何か?顔と顔がつながっていくようなマッチングができないだろうか? そう考えるようになったといいます。

油原さん 大阪に毎日バーテンダーが変わるバーがあって、そういう日替わりスタイルの店を模索し始めました。

そこで気がついたのが『笑っていいとも!』。いいともは、タモリさんがいるからこそ、『笑っていいとも!』なんですよ。帯が大事なんです。

日替わりで店長が替わって、客層が変わるのはいいことだけど、それをつないでくれる人がいないと逆効果。だから、フロッシュでは、EDGE HAUSのスタッフが必ずいて、お客さん同士をつなげるようにしています。

おせっかいは面倒くさい。
でも、ぼくたちはおせっかいをしていこうよ。

いろんな人が主役になれるそんな店をつくりたいと思っていた矢先に、フロッシュの物件に出会った油原さん。その後、狙いどおりフロッシュやNOBでは、スポーツや音楽をはじめ、いろんな関係性が生まれていきました。油原さんなりに、そんな場を醸し出すために工夫をしていることを尋ねてみました。

油原さん ぼくたちはおせっかいをしていこうよと。

店をきっかけに、お客さん同士でテニス部や軽音部ができると、車で送迎をしてあげたりすることもありました。最初はそのくらいおせっかいをしてあげないと、なかなか動かないんです。おせっかいもやり過ぎると大変ですが、「考えとくわ」ということはしないようにしています。性格上、考えないから。

“頼まれごとは試されごと”だと以前誰かに言われたことがありまして、頼まれたことは基本的には試されていると思って、レシーブします。人を紹介したり、その場で日にちを決めちゃうんです。

油原さん(右)とEDGE HAUS奥手賀ツーリズムスタッフのみなさん

油原さん おせっかいの結果、「ありがとう。おかげさまで」と言ってもらえます。「僕らもおかげさまで、みなさんに支えられている」。常にそういうことに囲まれていたいですね。

でも、おせっかいって面倒くさいんですよ。疲れてるのに、寄り道して顔を出したり。だけど、面倒くさいことに力をかけないと、返ってくる喜びは得られない。人に対する投資を惜しまず一生懸命やることが大事なんです。みんながそれをやることで、いろんなことがあったとしても、簡単に苦しさを超えることができますから。

夢や目標など大げさな話ではなく、もっと身近なところから。
「落ちてる缶は拾おうぜ」。
「ゴミがあふれてたら、管理人にいうのではなく、自分で片付けようぜ」。

接しやすいところだけ一生懸命になって、接しにくいことでは徹底的に接しない。そうではなくて、ただシンプルに他人に思いやりをもつことから始めよう。

おせっかいは自分の居場所を見つけるヒント

夕方になり、子どもたちも広場を後にし、取材もそろそろ終わりに近づいてきた頃、取材でお決まりの最後の質問、EDGE HAUSの今後について問いかけると、油原さんは少し困ったように笑いました。

油原さん ほかの街は住んでいないから知らないし、全国的に活動を拡げていくことには興味ないですね。

北部(柏の葉)、南部、手賀と柏の街も大きいですし、柏の葉にはフロッシュの店舗を出す計画もあります。松戸にはMAD Cityというまちづくりプロジェクトもあり、EDGE HAUSを卒業した社員が一昨年、木更津に移ったりもしていて、柏以外にも頼れる拠点が拡がっています。

それに、柏はぼくたちだけではなくて、上や下の世代にも困ったときの縦ラインがあるので、あまり不便がないんです。

それはもしかして、「おせっかいやき同士はつながっている」のでしょうか?

油原さん 柏市はまちづくりでは先進的な取り組みを続けてきた街で、たとえば、駅前のダブルデッキや商店街のアーケードを初めてつくったのは柏です。

再開発や昭和30年代に「柏市民新聞」を発刊した方から行政、農家、商業、大学など脈々とつながりが続いているんです。縦にたどれるエレベーターと横をつなぐ廊下があるので、いつでも電話一本で会いに行けるんです。

昔はお祭りが地域の中で仕組み化していて、大人になると神輿を担ぐことができたり、新しく入った世代を引き上げて育てていくことがその役割でしたよね。お祭りこそ、利害やビジネスではない、おせっかいだと思います。

マチマチ代表の六人部さん(左)と一緒に伺った油原さん(右)のお話は、まちづくりのヒントに溢れていました

そのありがとうはもらえない――――――。
会社員時代に油原さんが思い切って断ち切った価値観。

売上や利益、効率、そして必ず去年より成長すること。企業で働いていると、いつも当然のように私たちの頭の中を占める数字の数々。

でも、数字ではなく、「ありがとう」を毎日ひとつずつ受け取り、積み重ねること。そのために、無駄かもしれない、ちょっと面倒くさいこともやってみること。ご近所やまちづくりに限らず、思いやりを込めたおせっかいは、自分の居場所を見つけるヒントなのかもしれません。

「ありがとう、おかげさまで!」
そう言ってもらえるように、ちょっとだけ面倒なおせっかい、あなたも始めてみませんか?

– INFORMATION –

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