みなさんはふだん、壊れて使えなくなってしまったものをどのようにしていますか?
使えないけど、愛着もあるし捨てるのは忍びない。でも置いておくには場所を取るので、結局捨ててしまう… そんな経験がある人も多いのではないでしょうか?
リサイクル、リユース、リデュース、アップサイクル・・・資源の有効活用と環境負荷を減らすためのアプローチはたくさんありますが、今回はすでにある資源の特性をいかして、最高に鮮烈な音を生み出しているギター職人のプロジェクトをご紹介しましょう。
「Prisma Guitars」は、使われなくなったり、壊れてしまったスケートボードの板をリサイクルしてつくっていく取り組み。
制作しているのは、サンフランシスコ在住のNick Pourfard(以下、ニックさん)。大学では工業デザインを学んでいたというニックさんは、複数の使われなくなったスケートボードを組み合わせて世界に一つだけのギターをつくっているといいます。
ニックさんのギターはすべて手づくりなため、ギターひとつにかかる製作期間はなんと約1ヶ月! 実際にどんなギターができ上がったのか写真でご紹介しましょう。
ちなみに、デザインは素晴らしいけど、実際の楽器としては音の”鳴り”が気になるところですよね。でも、ご心配ありません!
もともとスケートボードの素材は、ギターのボディにもよく使われる素材”ハードメイプル”が主流。実際「Prisma Guitars」は、伝説のロックバンド、アイアン・メイデンのメンバーで、ベースギター界の巨匠とされるスティーヴ・ハリスさんに愛用されていて、そのクオリティの高さを証明していると言えます。
音色テストの動画
ところで、なぜニックさんはギターをつくろうと思ったのでしょうか?
もともとギターとスケートボードの両方が趣味だったという、ニックさん。 しかしある時、足を怪我してしまってから、スケートボードができなくなってしまったのだそう。そのときに、自分がかつて愛用してきたスケートボードを、ハンドメイドギターにすることを思い立ったと言います。
主に好奇心からかな。前からお金で買えないものをつくってみたい、と思っていたんだ。昔から兄弟たちから古くなったスケートボードをたくさんもらっていたから、ギターづくりに挑戦するための材料はそろっていたのさ。
と話す、ニックさん。
実際にギターをつくるとき、彼はどこか特別な場所で習う訳でもなく、動画などを通して独りで学び試行錯誤を繰り返しました。
始めは基本的なことも知らず、どこから始めればいいのか、何が必要なのかもわからなかった。だから、YouTubeの動画を何千回と繰り返し見て、それぞれの作業工程をマスターしていったんだ。
ギターをつくる作業は、まず古いスケボーの汚れやシールを落とすことからスタート。次に、綺麗になったスケボー板を重ね合わせてギターの本体となる合板をつくっていきます。そして、でき上がったカラフルな合板をギターの本体部分の形に切断し、ほかの部品と組み合わせれば完成です!
こうして多くの捨てられるはずのスケートボードが、ニックさんの手によって機械には生み出せないハンドメイドならではの味のあるギターに変身を遂げています。現在は米国でしか販売していませんが、一本30万円ほどから40万円程度の値段で、オンラインショップにて販売中なのだとか。
廃棄物や一度使命を失ったものに対して、デザインやアイデアの力を使って新しい価値を生み出す。
特別な技術や発想が必要だと思ってしまいがちですが、ニックさんが「Prisma Guitars」を趣味の掛け算で発想したように、実はアイデアは身近に転がっているのかもしれません。
みなさんも「それ、何かに使えないかな? 変身しないかな?」と、何気なくゴミ箱に入れる前に少し考えてみませんか?
[via inhabitat, COOL MATERIAL,Colossal]
(Text:江頭由佳)
(編集: スズキコウタ)