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「ただいま~」と子どもたちが笑顔で”帰る”場所。100周年に向けて学童保育「Terakoya」をはじめた、コープこうべのこれから

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学童保育「Terakoya」で生まれた作品

この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

みなさんはコープというと、どんなイメージがありますか?

「実家で母親が利用していた」「お店や宅配のトラックをたまに見かける」という方もいれば、「コープって“さん付け”で呼ぶ人いるよね」と思った方もいるかもしれません。実はこの記事を書いている私も、そんな“コープさん”のひとり。

私が勤めるコープこうべは、もうすぐ100周年を迎えます。しかし、量販店などが増えた昨今、「コープを身近に感じられない」という方も増えているような気がします。だからこそ、「これからの社会のために、コープがどんな役割を果たせるのか」、100周年に向けて対話を重ねているところです。

今回は、その柱のひとつである「子育て支援」について、コープこうべの学童保育「Terakoya」の立ち上げメンバーである福祉介護事業部の岩崎摂子さんに、コープこうべのこれからについてお話を伺いました。
 
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コープこうべ福祉介護事業部の岩崎摂子さん

コープこうべの学童保育「Terakoya」

神戸市東灘区にある「Terakoya」は、コープこうべが2014年春にオープンした学童保育の施設です。さっそく訪ねてみると、1年生から6年生までの子どもたちが、折り紙でティラノザウルスやワニをつくっていました。

「むずかし~」「やった~できた~」「かっこいいよ、見てみて」久しく子どもと接していない私には、思ったことをすぐに口に出す子どもたちの姿がとても新鮮に目に映ります。子どもたちの傍には、優しい表情で子どもたちのサポートをしている指導員の大人がいます。また、上級生が下級生を手伝う姿も、そこかしこにありました。

学校からTerakoyaに”帰ってきた”子どもたちは、遊んだり、宿題をしたり、この日のようにさまざまなワークショップを体験しながら、親御さんが迎えに来るまでの時間を過ごします。
 
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コープこうべの学童保育ならではといえるのが、折り紙を教えている先生が、普段は紙製品の製造販売をする企業でご活躍のみなさんということ。

普段の生活では触れ合う機会のない大人と出会い、世の中には色々な仕事があると知ることが、のちのちプラスになると考えている岩崎さん。「Terakoya」では、成熟した豊かな子育てをできる社会を一緒につくっていくサポーター企業を募集し、一緒にこのようなプログラムを実施しているのです。

例えば、「鶏肉からいただきますの意味を考えよう」というプログラムでは、丸鶏の解体を見て、いきものがたべものに変わる瞬間を子どもたちは目の当たりに。「普段よく食べている鶏肉が、たくさんの人が関わって大切に育てられた食べ物なんだな」といった感想がありました。

また、社会課題に取り組む株式会社ピリカとコラボレーションした「Terakoyaポイ捨てゴミ調査隊」というプログラムでは、スマホを使ってポイ捨てゴミの量を調査しました。その結果子どもたちは、どうしたらポイ捨てゴミがなくなるのか、自分ごととして考えるきっかけになったようです。
 
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「Terakoyaポイ捨てゴミ調査隊」の様子

Terakoyaが大切にする3つのコンセプト

子どもたちの笑顔や気付きにあふれるTerakoya。そのチームリーダーとして岩崎さんが動き始めたのは2013年5月頃でした。

もともとコープこうべは、社会運動家、賀川豊彦の指導のもと、大正10年(1921年)に神戸で産声をあげました。

生活者が出資して、商品やサービスを利用し運営しながら、安全なものが手に入るようにしたり、生活の知恵をみんなで集まって学んだり、生活者が自分たちの暮らしを守り、社会の課題を解決してきた歴史があります。
 
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賀川豊彦物語(コープこうべウェブサイトより)

あと6年で節目となる100周年を迎えるにあたり、改めてその役割を見つめなおすタイミング。そこで、生協が向き合うべき課題について職員全員にアンケートをしてみたところ、「子育て」と「食」という方向性が見えてきました。そこから部署横断型のチームを組織し、事業案を固めていったのです。

9歳から12歳までは「ゴールデンエイジ」とも呼ばれ、人間としての土台が完成する大事な時期といわれています。しかし最近充実してきた保育園などに比べると、まだまだ学童保育は置き去りにされていると思うんです。

子育ての悩みは個別な課題でもありますが、きっと多くの人が共感できる課題。”社会の課題を解決するコープこうべ”として、ここを何とかしたいという思いがありました。

そうして岩崎さんは、学童保育の現場に足を運び、当事者の声を聞くことからはじめます。そこで浮かび上がってきたのは、「主役は子ども」「親の安心」「地域のきずなを大切にする」という3つのコンセプトでした。

そもそも学童は、親が連れていくものではないので、子どもが行きたくなければ続かない。子どもが「楽しい」「ここに来たい」と言ってくれる場所にすることは絶対でした。

次に、親御さんが安心して自分の子どもを預けたいと思ってもらえるような保育を提供していくことも大切です、例えば20時までの預かり時間の延長もそのひとつです。指導員の中には、働く人たちの助けになれるという、使命のある仕事ができて幸せですと語る人もいます。

最後に、歴史を積み重ねてきた「コープこうべ」という看板だからこそ、信頼してくださる地域のみなさん、行政や企業の方々がおられます。だからこそ「Terakoya」の持っているリソースはどんどん周りに還元して、コープこうべが地域の中で果たせる役割を見つけていきたいですね。

おつかいの思い出もコープだった子ども時代

コープこうべのこれからを模索する岩崎さん自身にとって、コープは子どもの頃から身近な存在だったそう。実家の近所にコープがあり、おつかいの思い出もほぼコープという筋金入り。コープこうべの職員となるのも自然な流れでした。

コープこうべは、女性がとにかく元気でパワフルなんです(笑) ロールモデルになるような方が身近にたくさんいたし、性別に関係なくチャンスも試練も与えられる環境でした。

「生協だからこそ、ここまでできる」という意気込みで、とことんこだわった売り場を、組合員が見てくれてしっかりと反応してくれる。そのことがすごく心に残っています。

そしてもうひとつ、大きな原体験となったのが1995年の阪神大震災でした。岩崎さんは人事異動の時期とも重なり、苦労に直面します。

震災で事務所が全壊し、何にも残ってなかった。前任者からの引き継ぎは手書き資料がカゴひとつ分だけあるという状況で。

震災後は、過去がまったくない、一からつくっていく感じでした。だからこそ、組合員のくらしを良くしていくためにどうするか、コープこうべが大切にしていることを軸に考えて動くことができましたね。

「いまは学童保育の拠点がないところでも新しい風を起こしてみて、その地域の方に楽しんでもらいたい」と笑顔で話す岩崎さん。コープこうべの精神を引き継ごうとする「Terakoya」の活動は、岩崎さん自身にとっても、大切な原点回帰なのかもしれません。
 
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この秋も「NPO法人cobon」と一緒に、「Kids Creative City!コープこうべ」を開催するなど、「Terakoya」の新たな挑戦が続いていきます

コープこうべで働く職員は、もっと自分たちが持っている価値に自信を持ってほしいなと思います。先人たちがつくってきてくれた財産も大切に。けれど、それに完全に乗っかってしまってはいけない。

100周年を迎える今だからこそ、「もっともっと新しいことをやっていこう!」というメッセージを伝えていきたいですね。コープこうべの役割は、社会の課題を解決し未来をつくっていくことなのですから。

さまざまな社会的課題があふれている中で、コープだからこそできることは何なのか。誰のどんな思いに耳を傾けていくべきなのか。コープとしての存在意義を改めて問い、未来をつくっていく岐路に立っています。

みなさんはどんなことをコープに期待しますか? ぜひ一緒に対話ができるとうれしいです。

(Text: 景山歩)