左からgreenz.jpライター藤本あや、カヤックの柳澤大輔さん、greenz.jpプロデューサー小野裕之さん。カヤックの本社「旅する仕事場」でインタビューを行いました。
どうやら、鎌倉には良い意味での「公私混同」を上手にしている人が多いらしい。その秘訣は、「古くからあること」と「新しいこと」がミックスされた風土と、仕事と遊びの関係性を気持ちよく築いていくバランス感覚にあるのかもしれません。
自然豊かで、古い町並が多く残る地域のひとつである鎌倉。海が好きなひとがいれば、山が好きなひともいます。自然を感じる喜びから、仕事の前にサーフィンをしたり、ランニングをして出社するというひとも。
仕事だけでも、暮らすだけでもない、鎌倉の魅力をお届けする企画「鎌倉のはなし」。そのキックオフ対談にご登場いただくのは、鎌倉に本社を構え、ユニークな働き方を自ら実践している「面白法人カヤック」の代表取締役CEO・柳澤大輔さんです。
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、鎌倉からWEBサイト・アプリ・ソーシャルゲームなど、オリジナリティあるコンテンツを発信する。著書に「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)、「アイデアは考えるな」(日経BP社)、などがある。また、ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給、ぜんいん人事部)や、ワークスタイル(旅する支社)など、「面白法人」というキャッチコピーの名のもと新しい会社のスタイルに挑戦中。
柳澤さんは、いま鎌倉で盛り上がっている「カマコンバレー」の仕掛け人でもあります。
「この街を愛する人を、ITで全力支援!」が、カマコンバレーのキーワード。鎌倉を良くしたいという思いで活躍する人やプロジェクトを、鎌倉のIT企業や個人が応援するという活動をしています(現在法人会員30社、個人会員80名超)。
これまで、「iikuni」という鎌倉独自のクラウドファンディングや、鎌倉の今と昔を地域一体となって写真で伝える「今昔写真」など、地域に根ざした多数のプロジェクトが生まれています。
今回は、実家が鎌倉から近いというgreenz.jpプロデューサー小野裕之さんと、鎌倉在住greenz.jpライターの藤本あやを交えた対談の様子をお届けします。
鎌倉という場所のスピード感って?
面白法人カヤックは、1998年に学生時代の友人3人でスタートした、デジタルコンテンツ制作を主とする会社です。創業以来、世の中に「つくる人を増やす」ことで社会に貢献することを経営理念とし、鎌倉から地域に根ざした仕事も生み続けています。
他にも、サイコロを振ることで給与が決まる「サイコロ給」や、採用イベント「1社だけの合同説明会」など、ユニークな取り組みでも注目されてきました。
そんなカヤックのCEOである柳澤さんにとって、鎌倉は学生時代から過ごしてきた場所。「自分たちが住んでいる街が楽しくなれば、きっと仕事も暮らしも楽しくなる」。柳澤さんにその変わらぬ思いを伺いました。
藤本 今日はよろしくおねがいします。ちょうど2014年12月には東証マザーズに上場しましたが、鎌倉に縁がある者として、とても嬉しく思っています。大きく状況も変わっていると思うのですが、心境の変化はありますか?
柳澤さん 意外とあまり変わっていないですね。人生を楽しもうという気持ちだったり、仕事を通じて喜んでくれる人を増やそうという思いだったり。
そういう軸みたいなものは同じですが、鎌倉という場所が持つスピード感の中で、バランスを取ってやっていこうと、今は思っています。
藤本 鎌倉のスピード感というと?
柳澤さん とにかく鎌倉では、時間の流れが遅いでしょ?(笑) 江の電も12分に1本だし、「近いよ」とか聞いていたのに20分くらい歩かされるとか。引っ越してきた方からもよく、「ちょっと時間軸が違う」と聞きますよね。
藤本 確かに(笑) 鎌倉時間とも言いますが、鎌倉という街そのものが、ゆっくりとしている印象があります。人もせかせか急いでいる人は少ないですよね。
柳澤さん カヤックの上場も創業してから17年の話でしたが、上場することが目的というよりも、ゆっくり時間をかけた先に上場があったっていう感覚ですね。
藤本 小野さんは鎌倉時間をどう感じていますか?
小野 その「ゆっくりさ」は、普通にうらやましいですね(笑)住む場所と働く場所が近いというのも、とても大事だと思います。
ちなみにグリーンズでいうと、菜央さんやYOSHさんのように、僕より年上の2人は、自由に住むところを決めていますが、僕は営業をしないといけない立場なので、いまのところは都内にいようと思っています。
柳澤さん 僕も「住みたいところで仕事をする」という気持ちが強いんです。通勤時間に本を読むのを「いい時間」っていう人もいると思うけど、僕の場合は、狭い空間に閉じ込められること自体、削られていくものがあると感じていて。
高校も電車に乗る時間が短いところを選びましたし、社会人になってからも、会社の近くに住むことを一番大切にしてきました。
藤本 実際は鎌倉と都内だとアクセスはいいですが、「できれば鎌倉に居たい」という声はよく耳にしますよね。わたし自身も都内に通勤する理由がなくなった後は、地域と深く関わる時間が増えました。
小野 都内にいると、いろんな機会があるのも魅力ですが、少し言い方を変えたら一種の誘惑でもある。
いま個人同士つながりたいという欲求が高まっていますが、別に知り合いが増えたり、フェイスブックの友だちが増えることが本質的ではないと思うんです。
柳澤さん そういう機会と引き換えに、大切な何かを得ている感じですね。
小野 それも自分で選択していることかなと。適度な距離ができたことによって「必要のないつながり」が必然的になくなる。そこで、ゆっくりとした時間を手に入れることができる。
でも、それに慣れるまでに時間がかかる人もいるだろうなと思います。
仕事じゃない、街との関わり方
藤本 そんな鎌倉で、カマコンバレーという動きが盛り上がっていますよね。これはどんな感じで始まったんですか?
柳澤さん カマコンバレーは、「ITの力で地域をよりよくしていこう」という思いで、2013年にスタートしました。面白法人カヤックや村式株式会社など、主に鎌倉を中心とした企業とともに活動しています。
なんというか、僕らは利益を生み出すことだけが目的ではなく、地域のために貢献していく活動そのものが「熱い」と思っているんです。小さい企業といえども、街に貢献していこうという思いがみんな強い。
そしてITはやっぱり黒子なので、何かをやっている人のお手伝いをするという立場が一番いいと思っています。
藤本 具体的にはどんな活動を?
柳澤さん 基本的には、毎月1回定例会を開催しています。そこで鎌倉のまちづくりに関わる方々に活動内容を発表してもらい、会場に集った参加者で、そのプロジェクトをサポートする方法をブレインストーミングしながら考えていく、という感じですね。
そのときに大事にしているのが、ブレストの基本です。「そんなの無理だよ」とか「誰々が悪い」みたいな批判ではなく、「どうやったらできるか」を考える。
今はどんなボールが飛んで来ても打ち返せるくらい、波に乗りやすい状態になっています。
藤本 前に「今、津波が来たらどうする?」という課題に対して、津波に対する防災意識を高めるために「津波が来たら高いところへ逃げるプロジェクト」が立ち上がりましたよね。
鎌倉市で生きる人たちが防災力を高める支援策になっていて。「こんなボールの返しができるんだ!」とビックリすることも多いです。
カマコンバレー定例会の様子
「津波が来たら高いところへ逃げるプロジェクト」は、防災力を高めるイベントも開催中
柳澤さん もともと鎌倉にいい人がたくさんいた、というのが大きいですね。それぞれに主義主張や思想があるから、やりたいことに手を挙げるのが基本だけど、カマコンバレーの場では、例え思想が違ったとしても、一緒に取り組める文化ができてきているように感じます。
藤本 最近は、「iikuni(いいくに)」という鎌倉地域限定のクラウドファンディングも立ち上がりましたね。
柳澤さん はい。実際にプロジェクトを動かすためには、活動費が必要なので、小さな単位でお金を集めようと思っています。幸いにも、人とお金が集まる環境ができてきていますね。
このような仕事ではない関わりが生まれてきていることで、さらに住んでいる街が好きになる人は増えていくのではないでしょうか。
地域がよくなれば、会社もよくなる
小野 いまお聞きした鎌倉での活動とカヤックとしての仕事は、どうつながっているんですか?
柳澤さん あくまでカヤックが軸なので、地域の活動にコミットしているからといって、会社のことが手薄になることはないですね。
ただ、仕事と地域活動って今は別々のことのようになっていますが、うまく一体化できると思っているんです。本来は全部つながっているものなので、その二つが噛み合うと双方に良い影響が出るはず。
小野 地域がよくなれば、会社もよくなるということですね。いつごろからそういう思いが生まれたんですか?
柳澤さん 数年前からカマコンバレー的なことをやりたいと思っていましたが、現実化してきたのは最近ですね。実際に動ける人との出会いは大きくて、それには地域に移住したい人や関わりたい人が増えてきたという、時代の潮流もあると思います。
小野 地域のために何かをやろうというとき、既にできる人がいるというのは、改めてすごいことですね。
柳澤さん クラウドファンディングでお金が集まるようになったのも、単純に人が増えてきたからなんです。月に数万円、飲み代に使っているんだったら、その分を地域のために使おう、みたいな。趣味みたいな感覚だけどいいですよね。
でも、趣味的に始まったものが、結果的に仕事につながったり、会社を立ち上げるきっかけにもなったりしている。
藤本 「どうして参加しているの?」と聞いてみると、「楽しいから!」って答える人が多いですよね。見ているこっちも嬉しくなります。
カマコンバレーメンバーのみなさん
柳澤さん とにかく無理せず楽しむことを優先する。それをお題目にしているからかもしれません。
カマコンバレーも最初はIT色が強かったですが、最近は必ずしもITが得意でない人の活躍も増えてきました。中には70代の方までいて、僕たちが学ぶことも多いです。
藤本 幅広い層が巻き込まれていることに可能性を感じますね。
柳澤さん 今は鎌倉のことに取り組んでいますが、いずれは日本全体でも見ていきたいと思っているんです。例えば、これから人口が減って空き家が増えていきますよね。そのときに鎌倉で生まれた仕組みが、別の地域でも生かされたらいいなあとか。
藤本 仕組みを地域で貸し借りする。
柳澤さん そう、それが一番いいと思うんです。まずは鎌倉で小さいことから始めて見る。それを街全体に広げていく。そんなきっかけをつくっていきたいと思っています。
僕たちのアイデアを広げるだけでなく、今後は他の地方でうまくいったことも取り入れていきたいので、さまざまな地域の持ち込み企画もお待ちしています!
地域に根ざして働くためのヒントにあふれたカヤック柳澤さんのお話、いかがでしたでしょうか?
「お金になる・ならない」よりも、楽しさから地域に貢献していくこと。その純粋な関係性の広がりから、豊かさが生まれているような気がします。
連載「鎌倉のはなし」では、鎌倉を舞台に仕事も暮らしも楽しみながら生きている方々のインタビューをお届けしたいと思っています。どうぞお楽しみに!