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世界中で愛される新しい音楽のカタチを日本でも。プライベートな空間で開かれる、当日まで何もわからないライブイベント「sofar sounds」上陸!

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特集「音楽の街づくりプロジェクト」は、音楽の力を通じてコミュニティの未来をつくるプロジェクトを紹介していく、ヤマハミュージックジャパンとの共同企画です。

音楽を演奏する人、音楽を聴く人、音楽を伝える人。

音楽が暮らしのどこにあるのかで、音楽とその人との立ち位置は違ってきます。けれども、音楽が好き、その思いだけは、誰もが同じようにもっているものです。

だったら、それぞれの目線を全部フラットにした状態で、同じ空間を共有してみたら? するとそこには、想像以上に居心地のいい、みんなでつくり上げる“音楽体験空間”が広がりました。

sofar sounds(ソファーサウンズ)」は、まったく新しい音楽の楽しみ方を提供するネット&リアルのライブイベントです。2009年にロンドンで始まると、世界各地で続々とイベントが立ち上がり、今ではなんと、世界100カ国以上に広がっています。
 
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2013年にgreenz.jpでも取り上げました。「リビングが一夜限りのライブ会場に!観客とミュージシャンをつなぎ直す『SOFAR SOUNDS』」

昨年春からスタートした「sofar sounds tokyo」は、長年音楽の仕事に携わってきた土橋望さんが、友人だった高野公三子さんら、仲間に呼びかけて実現したものでした。

世界中の音楽好きを魅了する「sofar sounds」、いったいどんなイベントなのでしょうか? 土橋さんと高野さんにお話を伺いました。

これまでのライブの概念を覆す「sofar sounds」のセオリーとは?

私たちがライブに行こうと思うとき、そこには必ず目当てのアーティストが存在します。ただなんとなく、ふらりとライブに行くという人は、あまりいません。場所はホールかライブハウス、あるいはカフェや野外フェスといったところでしょうか。

ところが「sofar sounds」は、そんなこれまでのライブの概念を、根底から覆します。

まず、入場料が無料です。場所は、個人宅のリビングルームなどのプライベートな空間。その場所は、事前に参加を申し込んだ人のみに、開催直前に伝えられます。

出演アーティストに至っては、当日来場するまで完全シークレット。つまり、参加を申し込む時点では、参加者はイベントについて何もわからないという状態です。

そんなライブ、誰が行くの? と思う人もいるかもしれませんが、「なんだか面白そう」「誰が出るんだろう?」「新しい音楽に出会えるかも!」と、毎回たくさんの参加者が集まっています。そして、不思議なほどアットホームで心地良い、独特の空気感が形成されているのです。
 
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「sofar sounds japan(ソファーサウンズ・ジャパン)」の土橋望さん(左)と高野公三子さん(右)

土橋さんが「sofar sounds」を知ったのは、たまたま購読していたアメリカの雑誌『NEW YORK』で紹介記事を読んだことでした。

「行ってみたい!」と日本の開催情報を探しますが、サイト上には見当たりません。問い合わせのメールを送ると、日本ではまだ立ち上がっていないという返事がきました。

土橋さん じゃあ私、やってみたいかも、と思って高野さんに相談したんです。

土橋さんは、もともとパルコ系列のライブハウス、渋谷クラブクアトロの事業部で洋楽アーティストを担当していました。

現在はパルコを離れていますが、当時の友人には気の合う仲間が多く、今でも交流が続いているのだそうです。パルコのストリートファション・マーケティングのウェブマガジン「across」の編集長を務めている高野さんもその中のひとりでした。

土橋さん 今は、音楽シーンが二極化していると感じています。すごく有名か、まったく知られていないか。新しいアーティストがたくさん出ているのに、真ん中の層がなくなっていることで、なかなかいい音楽が知られていかない。すごく寂しいなと思っていました。

それで、音が届くべきところに届くっていうのはどういうことなのかを考えたときに、「sofar sounds」はそのきっかけや発見につながるんじゃないかと思ったんです。

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2015年2月、第5回目となるsofar sounds tokyoに出演したアカリノートさん

音を、立場を超えてフラットに聴ける場所

土橋さんは、「sofar sounds」は「ライブに対する新しい価値観と選択肢」だと話します。

土橋さん ライブは、アーティストを見に行くっていう行為です。そうすると、お客さん側には、お客さんとして見られているという意識が生まれます。極端に言えば、アーティストはアーティストを演じ、お客さんはお客さんを演じるんです。

sofar soundsの場合は、どこでやるかもわからないし誰が出るかもわからない。人の家でやるから、猫ちゃんがいたら、もうライブとか忘れて猫と一緒に遊んじゃってもいい。

場所によっては控え室があるわけでもないから、演奏する人が隣に座ってたりもする。音楽を真剣に聴くというよりも、近くで感じるというのかな。

要するに、サービスを提供する側、サービスを享受する側に分かれていないんです。音を、立場を超えてフラットに聴ける。誰もが素のままでいいんですね。

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この日の出演者であるノラオンナさんも、会場となったお宅の猫とすっかり仲良しに

みんなの欲求が集まった、音楽業界のスキマ産業

「sofar soundsはホームパーティみたいな感じ」と話すのは高野さん。

誰かの家のリビングルームに仲間が集まり、わいわいやっているうちに、友だちの友だちの、そのまた友だちまでやってきて、気づけば周りは知らない人たちばかり。誰からともなく音楽が演奏されて、思い思いのスタイルでその空間を楽しむ。

そこには、そもそもルールも、境界もありません。

高野さん 音楽が好きな人にとっては、聴いたことがない音楽に出会いたい、っていう欲求が満たされる喜びがあります。音楽だけじゃなくてアットホームな空間が気に入ってきてくれるリピーターの人もいます。

アーティスト自身もちょっと変わった場所でやってみたいっていう思いがあるんです。

ライブって、CDをリリースするときのプロモーションとしてやるところがあるじゃないですか? 本当はそうじゃない自由なライブをやりたい、でもどうやっていいのかわからないっていうアーティストは結構多いんです。

だからこういう場があると、ぜひ自分のライブもディレクションをお願いしたい、ってなるんですね。

みんなそれぞれに惹かれる理由があって、その複合的な欲求の隙間が「sofar sounds」なんじゃないかと思います。ある意味、音楽業界のスキマ産業ですよね(笑)

ありそうでなかった「sofar sounds」のようなライブイベントの仕組み。音楽業界の隙間を埋めることで、音楽は、ますます自由に、楽しいものになっていきます。
 
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ご覧のとおり、どこからどう見ても“誰かの家”です

みんなが「運営している」という感覚で参加する

最初に集まったスタッフは7人。職場の人を巻き込んだり、ロンドンで「sofar sounds」を見て、日本でやりたいと帰国したミュージシャンの女の子とつながったり。音響も映像も、つながりを辿って、プロの方にお願いしました。

土橋さん みんなボランティアです。ただ、出演する人も、会場を貸してくれる人も、映像も音響も、みんなが「運営している」という感覚があります。だからお金が発生しなくても大丈夫。面白いからっていう理由で関わってくれるんです。

高野さん 商業的なものではなく、今、面白いと思うパフォーマンスに敏感な人たちが集まったっていう感じです。もはや、ボランティアっていう意識もないよね。完全に趣味です(笑)

一方で「sofar sounds」が広く支持されているのは「時代性もある」と感じています。

高野さん 今ってみんな、自分でやりたいんですよね。たとえばワークショップだったら、参加もしたいけど企画もしたいっていう人がすごく多いんです。

実際、最初にお客さんとしてきた人で、今は、スタッフになっている人もいます。

イベントに行くまで何もわからないということは、自分自身が自由にそのイベントを創造する要素になるということです。

すると、積極的に楽しもうとする意識が(おそらくは自然に)芽生え、その日の空気をつくります。お客さんではなく、誰もが“参加者”であり“運営者”になるのです。

土橋さん だから毎回すごくいい雰囲気だけれども、空気感はその度ごとに違うんです。

これは、参加している人によって場が変化することを意味しているのではないでしょうか。無意識的な、究極の全員参加型イベントと言えるのかもしれません!

映像配信で世界中をフラットに!

そしてもうひとつ、「sofar sounds」の大きな特徴は、イベントの様子をプロの映像スタッフによって撮影し、YouTubeや「sofar sounds」のグローバルサイトで配信するということです。

この映像は、アーティストも、自身のホームページなどで自由に使用することができます。
 

全世界への配信はアーティスト側にとって大きなメリットです。また、参加者にとっては、サイトにアクセスすれば「sofar sounds」という共通項で結ばれた、世界中のアーティストを知ることができるという楽しみにつながります。

土橋さん 運営しているスタッフはもちろん、アーティストさんにもギャランティはありません。だからせめて、映像だけでも提供できたらと思ってやっています。

映像を配信することで、東京のイベントを見てくれる人たちが、ノルウェーにもブラジルにも、ロンドンにもニューヨークにも、上海にもいることになります。世界中がフラットになるんです。

その日こんな感じの一瞬が切り取れましたっていう日本の空気を、時間や距離を越えて見てもらって、日本のアーティストを知ってもらうきっかけになったら嬉しいです。

イベントには、海外からの参加者もいます。これは、ネットを活用したグローバルネットワークが、うまく機能しているから。

海外で「sofar sounds」を主催している子が、日本に旅行にきたときに立ち寄ってくれたり、世界中の「sofar sounds」を巡って旅をしている人がいたり。

高野さん まさしく、ネット時代のインバウンドですね。

今って、ただ単に買い物がしたいとか、観光名所に行きたいとかじゃなくて、このイベントに行きたいとか、ここに行きたいとか、すごくピンポイントなことを知って、旅行にくるんです。

違う国の同じ趣味の人とつながるように、sofar soundsという共通点を通じてつながるんだと思います。

海外発信の仕方は、マネジメント会社やレコード会社がついて大々的に売り出すだけではありません。違う形でも海外に向けて発信できることをインディペンデントのアーティストに知ってもらいたいというのは、土橋さんの思いです。

土橋さん 1年後に誰かが映像を見て、いいなと思ったら、それが拡散していく。もし気に入ってもらえたら、海外のsofar soundsに出演することだってあるかもしれません。

いつどこでバズるかわからないってすごい可能性だと私は思っていて、sofar soundsはそういうことのひとつの橋渡しなんですね。本当にいい音楽が広がるきっかけになるといいなぁ。

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靴を脱ぎ寛いで過ごす贅沢な音楽時間。機材も自分たちで用意します

「sofar sounds」は誰でもできる!

ここまで読んで「私も、sofar soundsをやってみたい!」と思った方もいるのではないでしょうか?

「sofar sounds」は、誰もが自由に企画することができます。現在は東京のみの開催となっていますが、地方でやりたいという人がいれば、どんどんやってもらいたいそう。「大賛成! サポートします!」と土橋さんと高野さん。

土橋さん sofar soundsをやるのに厳密なルールはありません。なるべくプライベートな空間でやること、基本的にボランティアで回していくということ、あと、映像をつくること。大まかにいうとその3つぐらいですね。

東京は大きな音を出すことが難しい住宅環境のため、今のところはアコースティックでのライブを実施していますが、バンド形式で開催しているところもあります。

国によっては、個人宅で開催することが難しく、カフェで実施しているところもあります。趣旨を理解し、大まかな決まりさえ守れば、あとは企画運営する人たちの自由なのです。

土橋さん 大きなメディアから降りていくものではなくて、地域のネットワークの中から自発的に上がってくるものが面白い。そういう意味で、いろいろなところに飛び火してもらいたいと思っています。

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ライブに行くというのは、ある意味、自発的な行為です。けれども「sofar sounds」には、アーティストも場所もわからないという、偶発的な要素がたくさんあります。

ラジオからたまたま流れてきた音楽や、通りがかりに道端で唄っていたアーティストに惹かれるような、偶然の出会い。のちに配信される映像も含め、自発的なのに偶発的という矛盾から生まれる独特のプロセスが、「sofar sounds」の魅力であり、面白味なのかもしれません。

ちなみに、東京近郊で開催してもいいよという個人宅、出演してもいいよというアーティストも絶賛募集中。

音楽を聴きに行くときの新しいカタチに、あなたも参加してみませんか?