ISSUE まちづくり

2 years ago - 2014.10.03

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女子大生たちのセンスとアイデアで、地域の魅力を再発見!由緒ある文学館の可能性を広げる「ヨコハマハコいりムスメプロジェクト」

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「ヨコハマハコいりムスメプロジェクト」に関わる女子大生たち

みなさんは近くの文学館に足を運んだことはありますか?

日本には、文学館や作家の記念館が数多くつくられ、図書館などに付属するものや公立、私立すべてを含めると、その数は600から700館あると言われています。

文学館は、地域にゆかりのある作家や文学作品にまつわる貴重な資料を収集して研究したり、分かりやすく展示したりするなど、地域のひとが「見る」「知る」「読む」経験ができる場所でもあります。

しかしながら、入館者が年々減少し、運営に課題を抱える文学館が数多くあるという現状もあるのです。地域の文学館には、地域の価値を再発見できる宝がつまっているはずですが、その価値が気づかれないままになっています。

そんな文学館の活性化を目標に、女子大生たちがアイデアを練り、文学館と地域の架け橋となってさまざまなイベントや企画を起こしているプロジェクトがあります。その名も「ヨコハマハコいりムスメプロジェクト」。

社会課題の解決を通して女子大生のリーダーシップを育成するプログラムを提供するNPO法人「ハナラボ」、横浜市、横浜の港の見える丘公園に建つ大佛次郎記念館による事業で、今年2年目を迎えるプロジェクトです。

女子大生のアイデアで文学館を活性化する


大佛次郎記念館全景

大佛次郎は『パリ燃ゆ』『鞍馬天狗』『赤穂浪士』などの作者として知られていますが、横浜に生まれ、横浜を描いた名作も数多く送り出してきました。

また愛猫家としても知られ、猫に関するエッセイや『スイッチョネコ』など猫を題材にした子ども向けの絵本も手掛けています。バラ園や広い庭園に囲まれ、美しいステンドグラスが施された館内には大佛次郎が所蔵していた猫の置物や横浜に関する展示が多数あります。

しかしながら、若い世代には大佛次郎という作家を知らないひとも増えてきており、記念館も開館した1984年当時は10万人以上だった入館者が、平成23年度には約1万4千人にまで減少。

そこで若い世代にこの記念館や周辺地域まで足を運んでもらい、大佛次郎や地域の魅力を伝えようと動き出しました。

地域と一緒に取り組む半年間のプロジェクト

プロジェクトは、約1ヶ月半のアイデア提案フェーズ、その後4ヶ月をかけてアイデアを実行するフェーズ、と約半年間にわたって進められます。

アイデア提案フェーズでは、女子大生たちが大佛次郎作品を読んだり、記念館のスタッフにヒアリングをしたり、記念館や周辺地域をフィールドワークしたりすることで可能性を探り、企画を考えていきます。

チームで企画をまとめ、関係者を招いてプレゼンテーションを行うと、もらったコメントや課題を踏襲して、アイデアを実行するフェーズに入るのです。

昨年度は、16名の女子大生が参加し、以下の4つのプロジェクトが実施されました。

・大佛次郎が愛したカメラと横浜をテーマとした写真イベント
・夫婦仲の良かった大佛夫妻にあやかって記念館でカップルの約束事を誓える企画
・調査や取材など情報収集を徹底していた大佛次郎に倣った小学生記者体験講座
・現代にも通じる大佛次郎の生き方を若い世代に伝える講座

どれも大佛次郎の魅力を次世代に伝える試みとなっています。
 

大佛次郎が愛したカメラと横浜をテーマとした写真イベント「レンズで見つめるMy Town」


大佛次郎の生き方を若い世代に伝える講座「次郎学」

第2回目となる今年度は12名の女子大生が参加し、4つの企画が生まれ、現在実行フェーズに入っています。

「大佛食堂」は、フランスに造詣が深くグルメだった大佛次郎の食に関するエッセイやエピソードをもとに、地域の老舗パン屋やレストラン、記念館に隣接する喫茶店等と一緒に新商品の開発を進めています。

「ヒーローくらまさん」では、小学生を対象に、大佛次郎の代表作である『鞍馬天狗』を寸劇で紹介し、自分にとってのヒーロー像とはなにかを考えるイベントを開催中。

また、「MARI♡PURI」では、生涯夫婦仲の良かった大佛次郎や、歴史的建造物の集まった地域の魅力を活かして、地域のウエディング業者と連携した模擬結婚式体験と「結婚」について考えるイベントを実施しており、毎回満員となる盛況ぶり。

そして「恋する♡ヨコハマ」では、記念館の建物としての魅力と、大佛次郎が生きた時代を若い世代に発信することをテーマに、服飾文化研究会の協力のもと、浴衣の着付けや館内での撮影イベントを開催しています。

作家のライフスタイル、生きた時代、愛した場所、記念館の建築空間など、さまざまな角度から魅力を探り、若い世代や子どもたちの関心のあるテーマと結びつけている多種多様な企画は、文学館に大きな可能性があることを教えてくれます。
 

「恋する♡ヨコハマ」①服飾文化研究会の方から、着物の歴史について講義


「恋する♡ヨコハマ」②講義のあとは着付けの実践練習


「恋する♡ヨコハマ」③自分で着た浴衣姿で集まり、館内を見学ツアー。楽しそうに笑い、華やいだ浴衣姿の女性参加者たちの姿が、他の来館者や外を通り過ぎる観光客の目にとまります。

地域恊働で取り組む

施設や周辺地域の活性化というと、いかに集客人数や認知度をあげるかということに焦点をあててしまうことがありますが、このプロジェクトでは、地域の方々との理解を深め、時間をかけてでも地域の関係者と一緒に取り組むことを重視しています。

実際、今年実施している企画はいずれも地元の学校や企業、商店街など一緒になって企画を進めています。

NPO法人ハナラボ代表の角めぐみさんは、多様な関係者を巻き込んで企画を進めてきたことで、1年経ってみて記念館と地域との関わり方が変わってきたことを感じています。

角さん 今年はこのプロジェクト以外でも記念館の館長やスタッフの方が商店街や地元の小学校などを訪れて、いろいろな企画を実施してらっしゃいます。

昨年のプロジェクトで、女子大生たちが記念の外に出て企画を実施したことが切り開いたきっかけにもなっていると思います。

同法人常務理事の浜島裕作さん、そして角さんは、時間をかけても地域の方たちに理解をしてもらい、多様な関係者と一緒に取り組むことの重要性を言います。

浜島さん 1年目は記念館と女子大生たちが何をするのか、周囲の方達も様子を見ているという感じでした。

昨年、女子大生たちが地域のいろんな人に関わりながら(イベントや講座を)実施したことを経て、今年は商店街の方や地域の方がとても積極的に関わってくださるようになっています。

実は以前から何か一緒にできないかと思っていたと声をかけてくださる商店街の方もいました。

角さん 地域恊働というのはやはり時間がかかります。しかし地域の方と一緒に取り組むことは、記念館や地域が持続的に活性化していくうえでとても重要なことだと思いますし、プログラムに参加する女子大生にとっても責任感を持つなどの点からも非常に成長につながるんです。

女子大生の強みを活かす

記念館を外部に開き、地域恊働で企画を進めて行くうえでは、女子大生ならではの強みが発揮されているそうです。

角さん 女子大生が考えると、“グルメ”か“恋”に関係する企画が多く、そういったイベントや講座にはやはり若い女性たちが多く集まります。

この記念館に来ない、大佛次郎を知らないのは若い世代で、女子大生たちはまさにターゲット層。だから女子大生たちが、自分たちが面白い、楽しいと思えることを考えると、良い企画になるんです。

浜島さん 女の子たちってよく笑うんですよね。地域で過疎化しているところや、文学館みたいに若者が少ないところでは、あまり笑っている人がいなくて暗い感じになっていることが多い。けれど、女子大生が行けば、笑っているし、周りも笑って明るくなりますね。

女子大生たちが町に出て、にこにこしながら企画を一生懸命伝えようとすると、みなさんも笑顔で聞いてくださって「頑張ってるね」「良いんじゃない?」と前向きに応援してくれます。

記念館の活性化と同時に、女子大生のリーダーシップ育成を目的としたこのプロジェクトは、リーダーシップのありかたが多様にあることを教えてくれます。

女性のリーダーシップというと、ついジャンヌ=ダルクのような強さをイメージしてしまいがちですが、若い女性の持つコミュニケーション力や楽しむ発想力も大きな強みになるのです。
 

NPO法人ハナラボ代表の角めぐみさんと常務理事の浜島裕作さん

女子大生たちの成長の実感

プロジェクトに参加する女子大生たちは、ゼロから企画を考え、記念館のスタッフや地域の関係者と一緒にプロジェクトを実行することで、どのような成長を実感しているのでしょうか。

昨年度のプロジェクト参加者で、今年は運営スタッフとして協力する大学2年生の大石真子さんと大学3年生の清水葉月さんは、次のように振り返ります。

大石さん 何でも一人でやった方が早いと思っていました。それが色んなひとと関わるこのプロジェクトをチームで取り組むことによって、人に任せる、ということを学びました。同時に、いまの自分は何が苦手で何が得意なのかも分かってきました。

清水さん これまではグループでリーダー的なひとが意見を言えば、自分はあまり意見を言わなくても、それで良いかと思っていました。それがこのプロジェクトを通じて、少ない人数で何かを実行していくためには、意見を言わざるを得ない。

くだらない意見を言ってしまうこともあるけど、自分の意見で気づきがあったり、皆が共感してくれる楽しさを知りました。

そう振り返るお2人ですが、特に協力してくれるひとが出てから責任感が強くなり、企画を成功させるためのマインドが高くなったようです。

大石さん (写真イベントの協力を)商店街の人に頼みにいくのが最初は本当緊張した。怖かったですよ。だけど、他の人も紹介してあげるよ、と言われて若い店主の方たちにもあえて、どんどんつながりが広がっていって。

そこからモチベーションもあがったし、協力していただいた人を裏切ってはいけない、という気持ちが強くなっていったんです。

清水さん 人を巻き込むってすごく難しいですよね。企画を外部の方に伝えて、(講座のゲスト出演の)協力を頼むこと、スケジュールや予算を調整しながら、良いものをつくるのはすごく大変でした。だけどゲストの人が決まると、しっかりやらなきゃという責任感が強くなって。

外部の大人と深く関わることで、自分たちの限界も知ったし、自分の考えた企画はしっかり伝えて、責任を持つことが大事だとよく分かりました。

ハナラボの浜島さんのコメントの通り、多様な関係者と一緒に取り組むことが、社会に出る前の女子大生の成長に大きくつながるようです。

さらに今年からハナラボでは、参加した女子大生が、より客観的に自分の成長を振り返られるように、このプロジェクトで「Growth Sheet」というプログラムを提供しています。

今の自分ができていることとできていないこと、自分が目指す姿、プロジェクトでチャレンジしたいこと、などを一ヶ月ごとにシートに記入してもらい、自分の成長を定期的に、そして全体を通じて振り返ってもらうのです。

また参加者に自分たちのためのプロジェクトでもあることを意識し、モチベーションを高く維持してもらうために、プロジェクトを推進する上での心構えをハンドブックにして参加者に渡しているのだとか。

このプロジェクトが記念館や地域の活性化だけでなく、参加する女子大生を成長に仕組みとして考えているかが伝わってきます。

地域の価値を再発見し、魅力を発信する拠点へ

お金をかけた大イベントを開いたり、ハードを新しくしたりするのではなく、若い世代のアイデアを活かし、若い世代の成長を促すプログラムで、地域の関係者と連携してその地域ならではのプロジェクトを実践していく。これは、この記念館に限らず、様々な施設で活用できる仕組みです。

現在、日本には文学館だけでも数百館あり、博物館や美術館などミュージアムと言われる施設で考える5000館以上あると言われています。

この「ハコいりムスメ」のような仕組みが、ほかの施設でも展開され、地域の価値を再発見し、地域の魅力を発信できれば、日本の「ハコモノ」はなくてはならない地域の拠点となるのではないでしょうか。

プロジェクトの最終報告会が10月5日、赤レンガ倉庫にて開催されます
「ヨコハマハコ入りプロジェクト展2014」

writer ライターリスト

Setsu Tanaka

東京在住。 大学院にて社会理工学を専攻後、企業のマーケティング部門で地域づくりやコミュニティの活性化をテーマとした場づくりをリサーチ。 地域の魅力や価値を高めるような「場」を、どのようにつくり運営していけば良いか、事例となるようなさまざまな「場」を取材し、発信します。

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