“エシカル”という言葉が次第に浸透してきてテレビ番組まで作られるようになった昨今。
しかしその明確な定義付けがなされないまま、昨年出版された『フェアトレードのおかしな真実(原題”THE SHOCKING TRUTH BEHIND ‘ETHICAL’ BUSINESS”)』でも指摘されていたように、実態を伴わない宣伝・集客文句の一つとして使われているという現状もあります。
こういったなか、エシカルファッションやエシカルジュエリーなど、エシカル○○と括られることの多いお仕事をされている方々は、現在”エシカル”という言葉をどう捉え、どのように使っていこうと考えているのでしょうか。今回は”エシカル○○”事業に関わる6名の女性たちに、現在の考えを聞いてみることにしました。
Cutersのアクセサリー
参加者は6名の「エシカル○○」事業に関わる女性たち
まずはお集まりいただいた6名の方々と、それぞれが定義する「エシカル」についてご紹介します。
まず、障がい者が作るジュエリーショップ、「キューターズ」の立ち上げ支援中で、PRの仕事をしている大橋由布子さん。「エシカル」という言葉を、一方的なほどこしではなく「需要と供給側の双方に生産性、収益、向上心、満足感等の付加価値を生み出す社会貢献」と定義しています。
続いて、ロンドン発エシカル・ファッションブランドで、「Effortlessly sexy=気張らないセクシーさ」を目指し、自然体でエッジィな服や小物を作っている「INHEELS」の岡田有加さん。ファッションにおける「エシカル」とは「50年後も続けていけるような、自爆回避型のファッション」と言います。
また、ソロモン諸島で地域開発、有機農業の普及等を行う環境NGO、「APSD」の活動から生まれた、蜂蜜を配合したコスメ「L’ala Solomon」のPR、高松美穂さんは、「物事の本質や価値を判断するツールや手段、選択肢のひとつ」として捉えて使っています。
女性、子ども、動物など弱い立場にある命を支援する、”Empower people and animals”をポリシーとしたライフスタイルブランド、「VEGANIE Ltd.(ヴィーガニー)」設立準備中の竹迫千晶さんにとっては、「ひとや動物、環境をリスペクトする生き方そのもの」。
フェアマインドのゴールド等を使ったエシカルジュエリーブランドの、「Rエシカルジュエリー」の星まりさんは、「フェアでクリーンな関係づくり」と考えています。
最後に、ケニアから丈夫で彩り豊かな薔薇を直接輸入販売し、ケニアの雇用を増やす、「アフリカの花屋」の萩生田めぐみさんは、「本質的に我々が感じるよいこと、倫理的に正しいこと」。
というわけで前置きが長くなりましたが、さっそく対談の様子をお伝えします。
「エシカル」という言葉の、現状の使い方
Felix 今回参加していただいた皆さんは、それぞれ「エシカル○○」と言われることが多いお仕事をしていますが、その言葉をどのように使っていますか?
大橋さん 障害者施設で作られているアクセサリーを販売する「キューターズ」では、ホームページでは今のところエシカルという言葉そのものは使っていません。ただ、そう打ち出していくほうが、PRとしては良いと思っています。言葉の認知度は高くなっているので、この波に乗っていくのはいいのではないでしょうか。その流れで、商品やサービスを利用する人も増えていきますから。
キューターズの大橋さん
Felix なるほど。高松さんはいかがですか? 先日、「エシカルという言葉を使いたくない」とtwitterでつぶやいていましたよね。
高松さん コンサルタントの方から、商品の宣伝に「エシカルという言葉を使いましょう」と言われて迷っているんです。その方がわかりやすい、という意見はわかります。L’ala Solomonの化粧品をエシカルコスメと言い切ってしまうのも、一つのやり方だとは思います。
ただ、言葉の定義や使い方は、”エコ”とか”ロハス”という言葉もそうだったように、廃れたり意味が変わったりしますよね。そうするとエシカルという言葉も意味合いが変わっていくのかなって。もちろん言葉の意味合いが変わっていったら、それに合わせて自分たちのことを表す言葉を変えていく方法もありますけれど。
また、エシカルコスメとひとくくりにしてしまうよりも、「ソロモンの蜂蜜を使った化粧品」という表現にするほうが、自分たちだけにしかない良さが出てくると思っています。エシカルコスメとわかりやすく伝え、必要に応じて伝え方を変えていくのがいいのか、自分たちの良さを伝えていくのがいいのか、検討しているところです。
L’ala Solomonの高松さん
Felix 「Rエシカルジュエリー」というブランド名には”エシカル”という言葉が入っていますよね。星さんはどうお考えですか?
星さん 私たちの商品は、「国際フェアマインド認証」をとった金を使ったり、海外のエシカルジュエラーから買い付けをしています。一般的なジュエリーブランドと同様に、デザイン・世界観を主軸に活動していますが、エシカルであることはプラスアルファの付加価値として、とても大切だと思っています。児童労働や搾取のないフェアなジュエリーを、私自身が欲しかったからというのもあって、ブランドの特徴として名前に入れました。
もちろん、エシカルという言葉が時代とともに変わっていく可能性など、ネガティブな要因もありますが、言葉以上にエシカルジュエリーの可能性に広がりを感じていますし、いずれは多くのジュエラーがエシカルになっていったら素敵だなと思っています。
Rエシカルジュエリーの星さん
Felix 岡田さんはいかがですか? 以前に「INHEELS」では「エシカルという言葉をあまり使いたくない」とおっしゃっていましたよね。
岡田さん そうですね。ホームページなどで使ってはいますが、本当は使いたくないと思っています。洋服で「エシカルファッション」というと、森ガールのような服で、価格も高いというイメージがあるからです。「INHEELS」はそのイメージとはまったく異なる商品展開をしていきたいんです。
ただ、特にファッションはブランド数が多いので、エシカルと言わないと差別化できないという側面もあります。だから、「本当はそれを売りにしたいんじゃないんだよなー」と思いながら使っているというのが現状ですね。
今はブランドとして過渡期だと思っていて、少しずつエシカルファッションのイメージを変えていきながら、「INHEELSらしいエシカル」を付加価値にしていければいいと思っています。
INHEELSの岡田さん
Felix 萩生田さんの「アフリカの花屋」はまったく使っていないですよね。それはなぜですか?
萩生田さん ホームページには「雇用を作る」とは書いていますが、エシカルとは書いていません。社会の中でその定義や印象は人それぞれで、統一されていない部分もあると感じることと、事業の根幹にあるものを考えると違うのかなって。
私は、もともと国際協力や途上国への関わり方に興味はありましたが、それ以前に海外の文化、食、踊り、生地、伝統等に対して強い興味を持っていました。そこでケニアに行ってみたら、たまたま良い薔薇に出会ったのです。この薔薇を日本で売れば、ケニアに雇用を生み出すし、薔薇の品質が非常に良いので日本で買う人も喜ぶ。お互いにとってwin-winだなと感じたから「アフリカの花屋」を始めました。
アフリカの花屋の萩生田さん(左)とお花屋さん体験の参加者のお二人
途上国の支援方法に疑問を持った経験はありますが、事業の本当の根底にあるのは「社会貢献をやろう」ということよりも、品質の良いもの・価値のあるものを、みんなが気持ちの良い方法で広めたいという想いです。だから、買ってくれる人はケニアやアフリカのことを知ってほしいという想いはあっても、エシカルだから買ってほしいとは思わないので、打ち出していないのです。
「途上国における労働者の経済的な自立を支援する」「健やかな環境で働ける応援をする」「環境に配慮した農家としか契約は結ばない」など、本質的に我々が感じる「よいこと」「倫理的に正しいこと」を行っていけば良いかな〜というシンプルな感覚ですね。その結果エシカルということが、お客さまにとってプラスアルファのギフトになっていれば嬉しいです。
アフリカの花屋の萩生田さん
Felix 竹迫さんは現在ECサイトを準備中ですよね。そこではエシカルという言葉は使いますか?
竹迫さん ECサイトの全面にエシカルと打ち出すかについては、現在検討中です。ただ、言葉に捕われる必要はないだろうとは思っています。社内的なポリシーとしてエシカルがあっても、その言葉に頼らずに品質を高めていくことが、事業者としては大切です。
ステラ・マッカートニーはエシカルとは言っていませんが、社会に責任のある企業としての活動を淡々とやっていますよね。彼女のような立ち位置を目指すべきだなと。ただマーケティングやPRの観点でいうと、トレンドのキーワードはうまく、フレキシブルに使っていくほうがいいだろうとも思います。
プレスリリースなどには入れる、一般向けには入れないなど、シーンで使い分ければいいのではないでしょうか。多分、広告代理店の人やPR担当者はカテゴリーに分けて物事を判断しているので、エシカルという言葉を使った方がわかりやすいのだと思います。
竹迫さん
「エシカルではなく自爆回避」
それぞれのコミュニケーションの工夫
岡田さん ファッションって、ファンクで”ワル”なものであると思うんです。でも、「社会貢献しています」っていったとたんに、優等生的になってワルから離れてしまいます。エシカルという言葉を、今の時点では差別化のために使うけれど、「みんながハッピー」とか「スマイルをつなげる」などの発信は、「INHEELS」のブランドイメージには合わないのかなって。
最近私たちはエシカルではなく、”自爆回避”という言葉を使っているんです。私達がやっていることって、「世界のために」「子供たちのために」ではないと思うんですよね。30年、40年後のためにやっているんだから、むしろ自分のため。サバイバルとしてやっているとも言えると思うんです。
そもそも、私達は社会貢献がやりたくて始めたわけではなくて、「普通、これを捨てないよね」みたいな自分たちの感覚が出発点。そういうこともあって、「INHEELS」みたいな若い人向けの低価格帯のブランドのイメージに合う言葉を使うようにしています。
岡田さんが共同代表をつとめる「INHEELS」
FELIX 私が気になるのは、エシカルを自称することが「エシカル業界の人」みたいに括られることにつながって、エシカルが一部の人のものになってしまったり、特別なものになってしまったりするのではないか、ということなんです。
ファッションジャーナリストの生駒芳子さんが「エシカルは時代精神」とおっしゃっていましたが、特別な誰かが担うのではなく、全ての人が当たり前のようにやっていくものになってほしい。「ap bank」を設立した小林武史さんも「ワルがエコを考える日が来ないと、エコは広まらない」という言葉を言われたそうですし。だから岡田さんが自分たちのブランドに合う言葉で表現していくという発想はしっくりきました。
星さん ファッション系の合同展示会「rooms」でも、2013年に「エシカル・エリア」ができましたよね。これって、一見「エシカル業界」的に括っているようにも見えますが、一つの時代の流れだと思うんです。一回そうやってクローズアップされて、その後当たり前になっていけばいいのではないでしょうか。
ちなみに「Rエシカルジュエリー」はエシカル・エリアではなく、ジュエリーエリアで出展しました。あえて、エシカルを前面に出さないでデザインで評価してほしいと思ったのです。でも終わってみて考えると、例えば鉱山の人の様子などをプロジェクターなどに写す形で、もっとエシカルを打ち出しても良かったなとも感じていて。
実際、大手の通販サイトや百貨店の催事の企画を相談していて思うのですが、消費者からエシカルが求められている面もあるんですよね。これだけ物が豊かになり、世界の貧困や社会問題がリアルタイムで感じられる時代だからこそ、人々は意味のある消費を求めていると思うんです。
星さんの手がける「R ethical jewelry」の商品
岡田さん ジュエリーのように高価なものは、エシカルが購入の後押しになるかもしれませんね。でも洋服、特に「INHEELS」のように1万円以下の価格帯のものは、エシカルが後押しにならないと思うんです。生地の手触りとかデザインとかがやっぱり大事で。
ブランド立ち上げ1年後くらいから、「INHEELS」を知っている人にはいろいろ話をするけれど、知らないで買いにきてくれた人には、一言もエシカルっぽい話をしないということにチャレンジしてみました。それでもちゃんと売れたんですよね。商品のタグに生産者との関係や、生地が環境や現地の人を搾取していない旨の説明があるので、それを見てもらうくらいでいいのではないかなと思っています。
星さん 「Rエシカルジュエリー」の場合、オンラインブティックで買ってくれる方は「エシカル」をキーワードとして、気に入ってもらうケースが多いです。でも「西武渋谷店」で見てくれる人の9割は、そもそもエシカルジュエリーについて知らない。そうなると、そこで買ってくれる人は、やっぱりジュエリーの持っている世界観だったりデザイン、価格帯だったりします。
結局エシカルがきっかけでも、意思決定の段階ではそこまで響かない。一般的なジュエリーブランドと同様、「良いものを生み出して、好きになってもらう」ということにつきると思います。ジュエリーは、夢や世界観を売るものだから、「わあ、ほしい、すてきー。でもエシカルなんだ」くらいで。だから、コミュニケーションの仕方は押し付けがましくならないように気をつけています。
「エシカル」は長所の一つにすぎない
高松さん 「L’ala Solomon」の商品は、エシカルの観点ではあまり知られていないし、そういう風に買われていないんです。ソロモンのハチミツ以外にALA(アラ)というアミノ酸が配合された商品なのですが、そのALAが着目されて、テレビ番組で取り上げられたことがあります。だから今のお客様は、ALAの成分に興味を持った方が多いですね。
ただ、売り手の私たちとしては、やはりエシカル的な側面が付加価値になったり、使い続ける理由の一つになったりするのではないかと考えていて。以前、社会貢献を推したDMとALAの情報を推したDMの、ABテストをやってみました。その結果、お客さんには社会貢献活動の方が喜ばれるということもわかりました。
ですから、ALAに興味を持って「L’ala Solomo」を手にとってもらった方にどうやって社会貢献のことを紹介し、何を価値として提供できるのか、もっと検討していかなくてはと感じています。
ソロモン諸島での高松さん
FELIX エシカルと言わなくても売れるなら、それが一番いいのかもしれないですよね。化粧品こそ、エシカルだからって自分の肌に合うかはわからないですし、それだけでは買わない。
星さん 多くの企業が「売り上げの○%をチャリティします」という、コーズマーケティングをしていますよね。商品そのものがエシカルじゃなくても、その企業の社会的責任の表現として、寄付をしているんです。だから、ALAがすごくいいのであれば、そこを全面的に押していき、好きになってくれた人に「実は貢献活動につながるのですよ」と伝えて、ファンになってもらう方法をとればいいのではないでしょうか。
竹迫さん エシカルを前面に出すか出さないかはブランディング次第ですよね。エシカルという言葉がもたらすイメージが、自分たちのブランディングに合ってお客様に受け入れられていくのであれば使えばいいし、合わないならやめれば良いと思うんです。
私は広告代理店で働いていたのですが、広告を出すときってどんな言葉や見せ方が響くかなどを何万回もテストをするんです。自分が良いと思ったものと、お客さんが良いと思うものは違うから。それと同じで、いろんなトライ&エラーを繰り返してちょうどいいバランスを探していくのが大切なのではないでしょうか。
インドの生産者の女性たちと竹迫さん
大橋さん そうですね。人間にいろんな面があるのと同じで、会社やブランドでもいろんな面があります。そこを一つずつ丁寧に発信していくことが大切なのだと思います。みなさんのお仕事もエシカルだけが魅力ではないはずですし。
お客さんも、エシカルに惹かれる人もいるだろうし、デザインだったり、花の強さだったり、化粧品の効果だったりと、別の部分に惹かれる人もいるでしょう。その掛け合わせの場合もあります。たくさんある長所の一つとしてエシカルを見せて、でも他の魅力も高めていくのがいいのではないでしょうか。
エシカルという言葉をめぐる対談、いかがでしたでしょうか。
みなさんに共通していたのは、エシカルという言葉だけに頼ることなく、事業者としてどう知られていくか、どこに魅力を持ってもらえるかを考えながら戦略を考えているということでした。
だからこそ私たち買い手側もその言葉に囚われすぎず、良いもの、自分の好きなものを真摯に作っている人たちから買うという姿勢が大切なのかもしれません。
座談会場所提供:「デイライトキッチン」