ISSUE☆おすすめの連載! STORY OF MY DOTS

2 years ago - 2014.05.01

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混沌を内包したまま、考えながら進んだっていい。takramの渡邉康太郎さんがデザインエンジニアになるまで [STORY OF MY DOTS]

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自分の心の中であたためていることが、気がつけば趣味や仕事につながっていたこと、皆さんはありませんか?

特集「STORY OF MY DOTS」は、“レイブル期”=「仕事はしていないけれど、将来のために種まきをしている時期」にある若者を応援していく、レイブル応援プロジェクト大阪一丸との共同企画です。

今回は、デザインとエンジニアリングの二つの視点を併せ持った取り組みで「ものづくり」や「ものがたり」を生みだし、注目を集めている「takram design engineering」の渡邉康太郎さんのお話です。どのようにして、現在の仕事にたどりついたのか、聞いてみました。
 
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渡邉康太郎(わたなべ・こうたろう)
takram design engineeringのクリエイティブディレクター/デザインエンジニア。アテネ、香港、東京で育つ。 趣味は茶道。 大学在学中の起業、ブリュッセルへの国費留学等を経て、2007年よりtakramに参加。最新デジタル機器のUI設計から、国内外の美術館でのインスタレーション展示、企業のブランディングやクリエイティブ・ディレクションまで幅広く手がける。代表作に、東芝・ミラノサローネ展示「OVERTURE」、NTTドコモ「iコンシェル」のUIデザイン、虎屋と製作した未来の和菓子「ひとひ」、ドン・ペリニヨンのディナーイベント「Creative Collision」のディレクションなど。 香港デザインセンターIDK客員講師。独red dot award 2009等受賞多数。 AXIS、IDEO Tokyoとともに、デザイン思考を広める一般向けの連続イベント「Collective Dialogue – 社会の課題にデザインの力を」を共同主宰。著書に「ストーリー・ウィーヴィング」(ダイヤモンド社)。その他「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Cases 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」(BNN新社)の監修・解説など。

ジャンルのない領域への挑戦

渡邉さんは中学生のときに、ご両親の仕事の都合で香港に住んでいて、現地のインターナショナルスクールに通っていたそうです。その後は東京に戻り、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに進みます。その時、今の仕事にもつながる「ものづくり」の研究に取り組むこととなります。

学生時代に取り組んでいた研究のキーワードは、デザイン、デジタル、エンターテイメント、ファニチャー。それらが重なる領域で「ものづくり」の研究活動をしながら、大学2年生のときに3人の仲間とベンチャー企業を立ち上げました。

始めた当時は、家具や文房具といったものにデジタルな仕掛けを組み込んだり、広い意味での様々なデザイン活動をしていました。

「商業的には成功と呼べるほどではなかったけれど、挑戦していく大切さを感じていた」と、渡邉さんは学生時代を振り返ります。

世の中に必ずしも存在しないジャンルを”想像”しながら、実際にそれを”つくる”まではいかなくとも、”挑戦し”続けていく。

単なるファニチャーデザインでもなく、電子回路の設計でもなく、空間のエクスペリエンスデザイン(体験デザイン)に閉じることもない。それらを統合するような、今までになかった取り組みをつくることがひとつのテーマでした。

まだジャンルがない領域に挑戦するために、自分たちが正しいかどうかは分からないけれど、とにかく暗中模索で始めてみる。そのスタンスは、今も変わらないと思っています。

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シャンパンのブランド「Dom Pérignon」による招待制ディナーイベント「Creative Collision」では、イベント全体のクリエイティブ・ディレクションを行った。

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「Creative Collision」では、ゲスト一人ひとりに用意したインタラクティブなウェルカム・メッセージや、泡立つアニメーションが話題に。

世の中の広がりを感じ、少しずつ視野を広げていた学生時代

学生時代の渡邉さんは、興味のあることには躊躇せず参加し、複数のゼミを掛け持ちをするなど、いろんな場所に顔を出していました。一つのことに集中するというよりも、少しずつ真っ暗な中をライトで照らしていくように、世の中の広がりを感じながら、視野を広げていったようです。

先輩や友だちとよく議論をしたり、ものをつくったりして過ごしていました。でも都内からの通学時間が2時間半と長いので、一人で読書する時間も多かった。学校の図書館がとても魅力的で、とあるフロアに、僕にとって面白い本ばかりが集まっている本棚があったんです。今思えば”分類不能なもの”が、そこに集まっていたのではないかと思います。

特に印象に残っているのは、語学学校でも有名なベルリッツの孫が著した『世界言語百科』。今では廃刊になっていますが、世界中をフィールドワークしながら集めた、言語についての雑学集、エピソード集です。

それ以外にも、スティーブン・ジェイ・グールドによる生物学に関するエッセイや、岡倉天心の『茶の本』など、文学、デザイン、思想、科学、随筆など、ジャンルを問わず本を読み進めていました。知的刺激を得られそうなものであれば、何でも取り入れていたという記憶があります。

異なる分野の本をたくさん読んでいた学生時代。「一見違うジャンルなのに、何か共通することはないだろうかの?」そんなことを思いながら、さまざまなものを頭のなかでそれぞれの専門性を編集し、統合していきました。
 

ベルリッツは明らかに言語に特化しているけれども、世界中を歩いてフィールドワークをして、その上で自分の考えをまとめている。その文化人類学、民俗誌学的なアプローチはデザインにも通じるところがあります。また、スティーブン・ジェイ・グールドは科学者なので、そこに深い知見があるけれど、文学的なアウトプットもできる人。科学に詳しくない人でも興味を持って入っていけるような身近な話として、美しく語っているんです。

今の仕事で、企業のいろいろな部署の人とお話をする上でも、その視点は活きています。岡倉天心は、日本の古美術や文化に深い造詣がありました。日本文化を世の中に紹介するこの本は、英語の話者に伝わるよう英語で書かれています。一つのプレゼンテーションの作法としても、とても勉強になります。

何よりこれらの著者の方々に共通するのは、ひとつの専門性を持ちながらも、他の部分に及ぶ興味や知識の広がりがあり、それを両方活用しながら人に伝えていけるところだと思うんです。そういう何かしらハイブリッドな素養を持っていることに、魅力を感じていたのだと思います。

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アート作品「Shenu: Hydrolemic System」。ごく少量の水分摂取で生命を保てる人工臓器システムを形にしたもの。

初心者として学びながら、スタートする

実際に今は、takramでクリエイティブディレクターやデザインエンジニアとして仕事をしている渡邉さん。takramの正式な社名は「takram design engineering」。デザインだけでもエンジニアリングだけでもなく、それらを俯瞰しながら捉えて統合し、更にレベルの高い「ものづくり」や「ものがたり」を目指したいと取り組んでいます。

ひとつだけの専門性を極めるというよりは、専門性の「尖ったスパイク」のようなものをいくつも増やしてくことだと捉えています。毎回の仕事が新しい挑戦で、繰り返しの仕事があまりない。常に何かを初心者として学びながら、他の分野における専門家として、新しい領域にこれまでの知見を活かしていくような仕事です。

既に持っている専門的な知見と、まだ初心者かもしれない部分の新鮮な視点を両立させて、相互に刺激させる今の仕事の側面は、大学時代に読んでいた本と共通していて、今につながっていると思いますね。

人が自己紹介をするときに、「私はこれが得意です」と言える人は、世の中に一定数いると思います。もし誰かが今レイブル期にあるとした時に、そのように何をしたいか明確に持っているなら、きっとこつこつと続けていけるでしょう。

逆に何をやっていいかがはっきりとわからない状態や、専門性がないという状態は心配の種なのか、というと…個人的には、あまり気にしなくてもよいと思っています。それこそ、今は一見バラバラに見えることが将来的につながったり何かに活かせたりする。そういった瞬間が訪れることもきっとあるんじゃないか。そう思います。

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趣味をあきらめない。「問いも答えもたくさんある」仕事

学生時代に岡倉天心の本を貸した後輩から、数年後「お茶を習いにいきませんか?」と誘われたことをきっかけに、6年か7年くらいお茶の稽古をつけてもらっている渡邊さん。実は最近、その趣味が仕事に直接つながるような機会が訪れました。

最近「虎屋」と新しい和菓子を開発するプロジェクトに取り組むことになったんです。お話をいただいた時点で、和菓子の製造に関しては、僕に専門的な知識はありません。虎屋の職人の皆さんとは比べるべくもなく、当然ながら圧倒的な初心者です。それでも、お茶のお稽古をやっていたことから、興味・関心は持っていました。

和菓子に関して、専門的な知識はほとんどない。けれども興味があり趣味になっていたものではあったからこそ、新たな機会に巡り会ったとき、それに取り組もうと考えられたのだと思います。モチベーションの取っ掛かりというか、自分がそこに挑戦してみたいという、最初の一歩を踏み出すときに、エンジンがかかる瞬間がありました。

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「ひとひ(一日)」

渡邉さんが虎屋とデザインした『ひとひ』という和菓子は、高級な嗜好品である和菓子を日常的な機能食品に近づけたい、という発想からつくられています。一日に一個だけ食べるこれまでのような大きな主菓子ではなく、決まった時間に少しずつ食べる、ひと連なりの小さな和菓子です。

「今の和菓子と違った楽しみ方があってもいいのではないか」という考え方。その楽しみの中には、必ずしもハイテクである必要はない、と感じたそう。

四季を表す一年の暦としての和菓子ではなく、一日の時間を表すもの。「日の出から日が沈んで新月が出るまで」の光を表現した、一日の時計としての和菓子が可能かもしれない。こうして、物語豊かな和菓子が誕生しました。

もちろん作品一つひとつに詳しい「ものがたり」が付随しています。でもそれに触れた人が、僕の語るものと少し違ったことを語ってくれてもいいと思っているんです。

メッセージに幹と枝葉があるとしたら、幹の大事な内容さえ伝われば、枝葉はそれぞれの人が自由な解釈で延ばしてもらって構わない。人が興味を持って誰かと話してくれたり、覚えてくれるということ自体がありがたくて。

だからこそ、それぞれの人の解釈の余地は、広くていいと思っています。ひとりひとりが「ものがたり」を預けることのできる余白を、作品自体が持っている、というか。だから僕は、人から人からへと語り継がれていくような「ものがたり」が届けられる「ものづくり」がしたいと考えています。

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お昼過ぎをイメージした「ひるつかた」。木漏れ日の下で移ろう陽光のような涼やかさが漂う淡雪羹・緑煉・白琥珀3段重ね。

混沌を内包したまま、考えながら進んでもいい

お茶のお稽古から時を経て、たまたま仕事につながったことを一例としてあげましたが、これは特別な出来事かもしれません。中には「私はこれといった専門性がない」とか、「特に力を注いでいる趣味がない」という悩みを持っている人もいるかと思います。

そういう僕も、自分の興味をひとつに絞るということはできていなくて。だから、一見いびつな取り揃えになっていても、関心に統一性がないことを悲観しなくていいと思っています。僕自身、専門性を持たないままあたためていることは、他にも色々とあるので。

今はプロフェッショナルではないことでも、趣味として続けられることに目を向けたり、自分の興味のある対象に磨きをかけたり。こういったことを人に向けて発信していくというのは、大切に感じています。

もちろん、その全てがつながらないかもしれません。でも、自分の内に持っていることを外に開いていくことで、他の人にみつけてもらえる。勇気を持って実行に移すことで、一緒に何かができる。僕の場合は、混沌を内包したまま、考えながら行動し、行動しながら自分の思いを伝えてきたことが、今へとつながっているように思います。

「未来のために種まきをしている時期は、今もなお続いています」と、最後に語ってくれた渡邉さん。身近にあることや興味があること、今とっても素敵だと感じていることが、未来の自分の入り口なのかもしれません。

ぜひ、そんな自分にとって大事なことを誰かに話すことから始めてみませんか?きっとどこかで何かが、動き出すはずです。

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藤本 あや

藤本 あや

greenz ジュニアライター 広島県出身、鎌倉市在住。デザイナー、ライター。ときどき旅人。暮らし、働き方、食、ものづくり、地域、学びが日頃から気になるテーマ。 ものづくりをコミュニケーションの場として捉え、もの/コト/場をつくるKULUSKA(クルスカ)に所属。全国各地を訪れ参加型のワークショップ「旅するデザイン」を展開している。つくるひとを育む「自分でつくる教室」主催。地域に仕事をつくること、誰かと誰かの笑顔がつながる未来をつくることが目標。 暮らしの目線と旅の視点を行き来するリトルプレス「旅と手紙のある暮らし」を準備中。

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大阪一丸

全国で61万7千人、大阪府には約4万3千人といわれているニート状態の若者。その中でも、働く意志を持ち行動を起こしている若者をレイブル(late bloomer=遅咲き)と提唱し、就労から自立までを応援する、大阪府のレイブル応援プロジェクトです。 ニートの問題は「働けない特定の若者の問題」ではなく、働く若者や企業の在り方そのものへとつながる、地続きの問題。 企業と行政とそして府民とが一緒に、まさに「大阪一丸」となって、全ての若者がイキイキと働き、また働き続けることができる社会環境づくりを。 笑いのまち・ここ大阪から日本中に笑顔を届けるため、様々なプロジェクトをすすめていきます。

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