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本を通して生まれる、新たなコミュニケーションとは?選書のプロと一緒に、これからの本について考えてみよう(後編)

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この座談会が行われたHAPON新宿にある本棚。川上さんが選書した本が並ぶ。美しい装丁の本が多く、手にとって眺めているだけでも楽しい。

カフェやギャラリーなど、その場に合った本が並ぶお店が増えてきました。
そうした本は、どのように選ばれているのでしょうか?

選書やイベントを通して場づくり・コミュニケーションの活発化を実践している、こどものためのアート情報誌「tonton」の葉山万里子さんと、人と本が出会う素敵な偶然を演出する「book pick orchestra」の川上洋平さんは、それぞれの本の特性を考慮し活動を広げていました。

前編では「古書・絵本・マンガの選書で違いはあるのか」といった、改めて「選書とは何なのか」をご紹介しましたが、後編では話をより「マンガ」に近づけて広げていきます。

おふたりにマンガとコミュニケーション、そこから見える未来についてマンガナイト代表・山内康裕とともに一緒に考えてもらいました。

本に人の“想い”が加わって、広がりが生まれる

山内 活動していて、これまでで印象に残った出来事や感じたことは何でしたか?

葉山 たくさんあるのですが、選書やワークショップを開催していて印象に残っているのは、2012年の「春のHAPON Bazaar」にて開催した「絵本の交換所」です。

「絵本の交換所」は、誰かとシェアしたいと思っている絵本を持ち寄り、その絵本に関するメッセージを書いてもらいます。メッセージと絵本は別の場所に置き、来た人には展示してある他の人のメッセージを読んでもらい、そのメッセージが気になったらそれにひもづいている絵本を持ち帰ることができるというイベントです。

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book pick orchestraとtonton共催の「春のHAPON Bazaar」で実施した「絵本の交換所」では、たくさんの親子が想いのつまった絵本を交換した。

川上 絵本を交換するきかっけがメッセージで、絵本が何かっていうのはわからないんですよね。

葉山 そうです。絵本もマンガと同様、意識して話さないと「こんな絵本読んでるよ」という会話にならないので、コミュニケーションや想いの共有を図る仕組みにしました。

そこであるお母さんが「昔から読んでいた」という絵本をお子さんと一緒にもってきました。メッセージを書くために、お子さんに改めてその絵本を読み聞せていたのですが、読み終わった後に「やっぱり持って帰っていいですか?」と、その絵本を持ち帰られました。

きっと、そこで生まれた親子の会話が思い出深かったのか、改めて大切な絵本だと実感されたのだと思い、温かい気持ちになりました。この出来事がすごく印象的で……きっと今も、お子さんと一緒に絵本を楽しんでいるのだと思っています。

山内 親と子の間で「絵本の交換所」が成立したんだね。お母さんの思い出や想いが伝わった。

葉山 メッセージを書くために読み返したら、色々なものが蘇って、それが絵本を新しい存在にしたんですね。それは「絵本の交換所」の趣旨とは異なった行動かもしれませんが、すごく本質的で、嬉しい出来事だと感じました。

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左から山内、葉山さん、川上さん

川上 僕が特に重きを置いているのは“どうコメントをつけるのか”ということ。「自分に本をオススメしてください」と相手がいう場合、「どんな内容が書いてあって、その内容が良いのかどうか」を知りたいと思う人が多いです。

でも、ただあらすじを話されても相手の方も関心をもちにくいですし、その内容が絶対的に良いという本はありません。ではどんなコメントで読みたくなるかというと、「この本を読んでこんな行動を起こした」「お母さんに小さい頃にもらってずっと大切にしていた」といった、その人が実感をもって本との関係を語ってくれたときなんです。

たとえば同じ本でも葉山さんからオススメされるのと、山内くんにオススメされるかで全然違う。その本を読むときには、どんなふうにその本と出会って今手にしているかも意識しています。誰かが本に抱く想いを教えてもらったりすると、その本の読書体験は全く変わってくると思っています。

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2013年1月に開催されたマンガナイトとbook pick orchestraのコラボイベント「フキダシシェアリング——仕事で忙しいアナタに贈るセリフの処方箋——」のようす。セリフとともにオススメのマンガを紹介し合う。

山内 人間がその本に対して抱いている想いをシェアすること、それこそが本を介したコミュニケーションや広がりが生まれるきっかけなのかな。

川上 本来、そこがないと無理なんです。気づかれないことも多いですが、あらすじだけ伝えても「フーン」と思われるだけでしょう。それは熱がないからなんです。オススメの中に個人的なことを持ち込むと、熱が入る。だから面白くなるんですよ。

今後のマンガの可能性は、こども中心のリアルイベントにあり!?

山内 最後は、やはりマンガについてお聞きしたいです。今までの話を踏まえてマンガでどんなことができそうだと思いますか?

葉山 まさに「やりたい!」と思っているワークショップがひとつあります。マンガの中の効果音や台詞って、きっとみんなの頭の中で想像しているものはそれぞれ個性があると思うんです。だからそれを実際に表現してみたら楽しいんじゃないかなって考えています。

子どもはすごく想像力が豊か。彼らの内側にある世界を、あえて音に出してみるという企画です。

川上 いいですね、表現することで想像力が膨らむ素敵なワークショップになりそう。

山内 それ、すごく面白い!マンガって、読んだ後に自分も何か表現しようというと、行き着く先は「描く」が多いけれど、それ意外の違ったアクションができると思う。

葉山 「ドーン!」「ガオー!」っていう文字も、小さく描いてあるのか大きく描いてあるのか、線の太さはどうなのか……視覚と音をフル稼働させていく。

川上 確か似たようなこと、マンガナイト合宿でやってたよね?

山内 マンガの好きなコマを再現して写真に撮ってたやつ?あれはお酒に酔ってた勢いもあって盛り上がったよ(笑)

川上 絵があるマンガのメリットをいかすならテレビのバラエティ番組「アメトーーク」の「北斗の拳芸人」みたいに、みんなが同じ絵を共有しているものの強固さを使って楽しめる内容がいいのかも。

山内 コミックマーケットも同じだね。共有している土台をもとに、マンガという同じ表現方法でアナザーストーリーを広げていくと同人誌になる。「トークの技術」を駆使して共有している世界を表現するのがアメトーークの手法ともいえる。合宿でやったコマの再現写真もそのひとつだね。

川上 好きなマンガについてただ話しているだけだとすごく内輪になるのに、アメトーークは知らなくても楽しめる。プロの芸人さんの巧みな話術は言うまでもなく、“見せ方”のいい先駆けになってくれた。

山内 彼らは「もしも○○が××だったら」と現実と結びつけるのも上手で、そのマンガのキャラクターをどう自分の生活の中で取り入れているかっていう話は、芸人さんに限らずみんなでシェアしたら盛り上がりそう。

川上 マンガを使って何かをブレストしてみると、いい具合に思考の足枷が外れていいんじゃない?例えば「ドラえもんだったら、こんな問題があっても、あんなひみつ道具で解決してくれそう」みたいに。

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東京・立川市の「子ども未来センター」内にオープンした「立川まんがぱーく」。料金はたったの400円で何時間でも滞在して約3万冊以上ものマンガを好きに読める。マンガナイトが選んだマンガが並ぶ「マンガナイトの本棚」も。

山内 確かに、凝り固まっているものがとれて、いいブレイクスルーが生まれそう。子どもとマンガといえば「立川まんがぱーく」もオープンして、子どもとマンガを結びつけるイベントが実際に行われているし、これから面白いテーマになると思う。マンガブレインストーミングもまずは仲間内でトライしてみようかな。

葉山 「tonton」の読者である親や、そのお子さんにお薦めしたい・読むべきマンガや、読んだらきっと楽しいと思えるマンガ、そういうのはぜひ知りたいです。

山内 そういう視点でまんがぱーく内にコーナーが作れると施設の意義が向上しそうでいいなあ。

(対談ここまで)

今回の座談会で選書のプロを選んだのは、「本と人」「本と想い」と触れる機会が、最も多いのではないかという考えのもと。選書には、本の作り手の想い/購入した人の想い/棚に並べる人の想い……など、あらゆる要素が取り込まれているから。

電子書籍やウェブでの「読み物」が増えてきた昨今、本の魅力をいっそう引き立たせるには、そのモノそのものに宿った想いを軸に据えていくことなのだと思います。

(Text:マンガナイト・川俣綾加)

葉山万里子(はやま・まりこ)
ロンドン留学・服飾デザイナーを経て、子ども関連のコンテンツに携わる仕事をしながら、2011年10月より”こどものためのアート情報誌[トントン]”の活動をスタート。季刊のフリーペーパーを発行のほか、国内外アーティストを招いた「tonton workshop」、往来堂書店(千駄木)にて絵本やこどもとアートをテーマに選書した「tontonフェア」の展開など、親子で一緒にたくさんのわくわく・発見・おどろきを、アートやデザインを通じて見つけられるよう活動を続けている。

川上洋平(かわかみ・ようへい)
本のある生活をより身近にするために新たな本のあり方を模索し、人と本が出会う“素敵な偶然”を演出するユニット、book pick orchestra代表。渋谷のギャラリースペースSUNDAY ISSUE、益子のギャラリーカフェSTARNET、新宿のシェアオフィスHAPONなどでブックコーナーの選書や企画運営のほか、全国各地でのオリジナル商品「文庫本葉書」の販売、図書館や文学館での本のワークショップなど、各地で本にまつわる企画を行っている。