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選書することに、どんな意味があるの?選書のプロと一緒に考える”本を通じた場所づくり”のヒントとは(前編)

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こちらの記事は、マンガを介したコミュニケーションが生まれるきっかけをつくるユニット「マンガナイト」によって寄稿されています。

音楽や映画は、それを楽しんでいた時の記憶や出来事と密接に繋がっています。本も同様に、手にしている人の想いとリンクしたもの。そして、それを届けることは想いを届けることでもあるのです。

今回は、「マンガ」という枠組みからもう少し広げて「本」の存在を通して、どのようなことができるのか、その可能性について考えてみたいと思います。

場にあった本をセレクトして届ける、選書の達人たちはどのような想いを届けようとしているのか。マンガナイトの山内康裕のほか、こどものためのアート情報誌『tonton [トン・トン]』の葉山万里子さん、人と本が出会う素敵な偶然を演出する「book pick orchestra」の川上洋平さんと一緒に、“選書”についてお話してもらいました。

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シェアオフィス「HAPON新宿」にて。3人の後ろにある本棚には川上さんが選書した古書が並んでいる。

選書することに、どんな意味があるの?

山内 単純に本を読むというだけではなく、本を通した場所づくりやコミュニケーションのつくり手である3人に集まってもらいました。まずは、それぞれの活動や選書について教えてください。

川上 僕はbook pick orchestraを主宰していて、その場に合った古書を選んだり、本を使ったイベントや企画を提案することで、その場にいる人たちが交流できるような仕組みをつくっています。

活動の一つが、「文庫本葉書」の販売。見た目は葉書のようですが、それぞれ異なる文庫本が中に一冊ずつ入っています。タイトルや著者名は実際に買ってみるまでわかりません。でも文庫本から一節だけ抜き出して背面に書いているので、それを見て購入できるという仕組みです。

自分で買って楽しんでも、大切な人に贈ることもできる、オリジナル商品です。こんな風に、今までと違った形の本との出会いを届けられるよう活動をしています。

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「文庫本葉書」の表には、葉書と同じく郵便番号や宛名の記入欄が。

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背面には作中の一節が。相手をイメージした一節の文庫本絵葉書を選べば、ひと味ちがう贈り物になる。

葉山 私は「こどものためのアート情報誌[トン・トン]」というフリーペーパーを発行しているほか、ワークショップやイベントなど親子でアートやデザインを楽しんでもらえるような企画を展開しています。

子どもがいると、静かな美術館やアート展からは遠ざかりがち。でも実は親子で楽しめるものは、たくさんあるんです。書店で絵本のフェアを開催したり、思い出やメッセージと一緒に絵本を交換する「絵本の交換所」を開催したり……親子とアート、デザインを切り口に毎回さまざまなテーマをもとに活動をしています。

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『トン・トン』は親子で楽しめるアート、デザインの情報、ワークショップの開催情報やアーティストのインタビュー記事など、大人も楽しめる充実の内容。裏面には子どものためのお絵描きページも。

山内 選書といっても、3人とも全然違う切り口だよね。本を選ぶ時、マンガナイトではカフェや図書館などに対して、マンガとの出会いが生まれ、深まるような選書を意識しています。

「マンガとの出会い」は特に中心となるテーマで、読書会やワークショップではお互いに挨拶をする前に、まずはマンガを回し読み。感想を共有してから自己紹介すると、すごくフラットな関係になれて、コミュニケーションの観点からも面白い。

読書会やワークショップでは、相手の人となりを知るきっかけにマンガを……ということなんだけど、川上さんや葉山さんのワークショップはどんな感じですか?

川上 マンガがテーマのワークショップだと、単純に仕事なんかで出会うのとは違った関係が築けるのは面白いですね。マンガだと絵がある分、「そうそう、あのシーン!」と共有する力が強い気します。

僕らが扱う古書は文字情報が中心なので、そういった部分はマンガに比べると、難しいかもしれません。逆に、あらかじめ読んでおけば「映画化するにあたって俳優は誰がいいだろう」みたいな話で盛り上がって、広がっていく領域だと思います。その部分をワークショップにいかすことは、いつも心がけていることの一つですね。

あとは、カバー絵や本の造りといった装幀も魅力のひとつ。装幀の魅力が際立っている古書は、そこにあるだけでその場所の雰囲気がガラッと変わって、人が集まる。そういう不思議な力があると思います。

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バーやブックコーナーもある渋谷のギャラリースペース「SUNDAY ISSUE」。ここにある川上さんセレクトの古書はアート色の強い装幀が多く、撮影に使われることもしばしば。

葉山 絵本ではまた違った角度があるかな。千駄木にある往来堂書店でtontonが絵本のフェアをした時は、あえて大人も意識して絵本をセレクトしたことで、「これ小さい頃に読んでた!」といって買ってくれる人がいたり、高校生カップルが「これ読んでた!」「私も!」って盛り上がったりしていました。文字量が少ないからこそ幼い頃に読んだ絵本の1ページが強烈に思い出を蘇らせることができて、記憶との強い結びつきを感じます。

そして、文字情報が少ないからこそ「一緒に想像する」というコミュニケーションが生まれやすい。切って組み立てたり、付属のシールを貼って物語をつくったりできる「工作絵本」は、それをうまく利用した例。親子でも友達でも、絵本を通じて何かを一緒につくりながらコミュニケーションできるようになっています。

山内 マンガは自分一人が読んでそこから共有していくものだから、親子で一緒に体験というのは絵本の特徴ですね。近似体験をすることで、会話や親近感が増強されていくのかもしれないですね。

マンガ、絵本、古書……それぞれ選書のポイントは?

ひとくちに「選書」といっても、文学、エッセイ、実用書、絵本、マンガなど、どのジャンルを扱うかによって、そしてどういった本を選ぶかで得られる結果は大きく異なります。狙った結果を得るために、どんなことを考え、そして見て選書しているのでしょうか。



山内 選ぶ際にいくつかポイントがあるけれど、まずは最近のマンガを選ぶか、それとも手塚治虫作品みたいに昔のマンガを選ぶか、場所に合わせた時代性を考えることが最初のステップ。

たとえば秋葉原だったら、サブカルだけど音楽あり演劇ありのごちゃ混ぜ感があるから、サブカルでもアートでも有名な『海獣の子供』(五十嵐大介)を選んで、マンガフリークもそうじゃない人にも手に取ってもらえるようにしたり、生粋の秋葉原な人向けに『生ガンダム』(羽生生純)を選んでみた。マンガ読みやオタク気質な人ばかりではなく、それ以外の人にも楽しんでもらえるようにしています。

葉山 往来堂書店のフェアでは大人を意識したのもあるけれど、対・子どもとして色彩感覚や感性を豊かにする絵本も大切だと考えて、ブルーノ・ムナーリやポール・ランドなどデザイン性の高い絵本を選びました。あとは“親子のためのtonton”を意識して、工作絵本のような仕組みのある絵本を選んで、親子で会話をしながら楽しく触れる絵本、というのも意識したところ。感性を養い、親子のコミュニケーションを育むことが大切なポイントでしたね。

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東京・千駄木の往来堂書店で行われたtontonのフェア。アート色の強い絵本を選んで置くことで、子ども向けの存在である絵本が、同時に大人の目も引く鮮やかな存在に。

川上 基本的には、僕は場所の特性を強く考えます。古書店で見つけたときは目立たない本でも、あの場所に置いたらこの本の魅力が輝くだろうな、とか。本を手に取るシチュエーションを想像しながら、その場所で出会った本が、そこにしかない一冊だったと思ってもらえるよう心がけています。

そして、価格のつけ方も重要です。古書では極端なケースだと1万円で売っていた本が、ほかのお店で数百円で売られているなんてこともあります。数百円の値札が付いていれば、ほとんどのお客さんは、価値のない本だと思ってしまう。

一冊の本を200円にするのか、2,000円にするのか、2万円にするのかで訪れた人が抱く印象は、全く異なります。市場での価値を把握した上で、その場に置いて輝く本を選び、本来の価値がきちんと感じられるように本を置くこと。これも大切にしていますね。

山内 確かに、2万円だとおおっ!って感じがするものね。印象が全然違う。古書だとそこも考えないといけないところだね。マンガの場合大変なのは、新刊の数が多いこと。そこはコミック担当の書店員に聞いてみたり……彼らのおかげで今読むべきマンガがいつも把握できる(笑)

葉山 絵本の情報という点では、絵本の場合、新刊の数はほかと比べると多くない。書店でチェックしたり、毎年開催されているボローニャ国際ブックフェアの情報や、絵本関連の展覧会に足を運んだり。あとは周囲にアーティストが多いので、彼らと話して情報収集していますね。

(対談ここまで)

それぞれ3人の選書は、活動目的とリンクしたもの。マンガナイトは「マンガを介したコミュニケーション」そして「マンガを普段読まない人でも楽しめるもの」、book pick orchestraの川上さんは「場所・本の価値づくり」、葉山さんは「親子のコミュニケーション」「子どもの成長」がポイントのようです。

そして実際に、それを届けることで活動も発展してきています。後編では、実際に活動によってどのような反響が起きたかをご紹介します。そして、本と人との関わりをふまえ、マンガと人との新たな関わり方やコミュニケーションを探っていきます。

(Text:マンガナイト・川俣綾加)

葉山万里子(はやま・まりこ)
ロンドン留学・服飾デザイナーを経て、子ども関連のコンテンツに携わる仕事をしながら、2011年10月より”こどものためのアート情報誌[トントン]”の活動をスタート。季刊のフリーペーパーを発行のほか、国内外アーティストを招いた「tonton workshop」、往来堂書店(千駄木)にて絵本やこどもとアートをテーマに選書した「tontonフェア」の展開など、親子で一緒にたくさんのわくわく・発見・おどろきを、アートやデザインを通じて見つけられるよう活動を続けている。

川上洋平(かわかみ・ようへい)
本のある生活をより身近にするために新たな本のあり方を模索し、人と本が出会う“素敵な偶然”を演出するユニット、book pick orchestra代表。渋谷のギャラリースペースSUNDAY ISSUE、益子のギャラリーカフェSTARNET、新宿のシェアオフィスHAPONなどでブックコーナーの選書や企画運営のほか、全国各地でのオリジナル商品「文庫本葉書」の販売、図書館や文学館での本のワークショップなど、各地で本にまつわる企画を行っている。