12月5日、国際NGOプラン・ジャパンと英治出版により、書籍『Because I am a Girl――わたしは女の子だから』の出版を記念したトークショーが東京の代官山蔦屋書店にて行われました。
登場したのは、本書の翻訳を務めた作家の角田光代さんと、プラン・ジャパンの評議員でもあるスポーツジャーナリストの増田明美さん。お二人ともプラン・ジャパンの活動に同行し、途上国の実態や支援の現場を肌で感じた経験があります。
女であるというだけで、学校に通えない。
強制労働、体に傷を負う、さらに人身売買まで――。
日本に暮らしているとちょっと想像がつきませんが、いまも世界のどこかで起きているこの現実について「まず“知る”ことが第一歩。私もそれがきっかけだったから」と角田さん。参加者にはそのきっかけとなった、このイベントをレポートします。
この女の子たちを知っているから、引き受けないわけにはいかない
国際NGO「プラン」では、世界で展開するいくつもの支援活動のひとつとして、女性であることを理由に辛い境遇を強いられている途上国の女性たちや社会に向き合い、その状況を改善するための活動に取り組んでいます。現在、Because I am a Girlキャンペーンを実施し、日本でも各地でイベントなどを行っています。
書籍『Because I am a Girl――わたしは女の子だから』は、その活動地域を世界的に著名な7人の作家が訪れて、レポートや小説として執筆したものをまとめた短編集です。売上の一部はプラン・ジャパンに寄付されます。
本書について、「それぞれの作家の特徴がすごく出ていますね」と増田さん。翻訳にあたって難しかったところは、との問いに角田さんは「なかなか進まなくて、土日は仕事をしない主義なのですが、この本には土日も取りかかってしまいました」と答えます。専門用語や英語自体の扱いに加えて、やはり重い内容なだけに、なかなか着手できなかったといいます。
角田さんは書籍の前書きでも、2年ほど前に翻訳の依頼を受けたときのことについて「翻訳にかんして私はまったくの門外漢である。だから、この本を訳すなんて本当に無謀なことだとわかっていた」と書かれています。でも、「ここに登場する女の子たちを知っている」から、依頼を引き受けないわけにはいかなかったそうです。
角田さんは本書に関わる以前の2009年、本書の原稿を執筆した各国の作家と同じように、プランの活動に同行して途上国の女性たちに会い、それを書いてほしいという依頼を受けました。そこで、女性性器切除をやめるための活動が行われている、西アフリカのマリに向かいます。
当時は私も、プランの活動についてなにも知りませんでしたが、偶然にも夫が二十歳のころから寄付を続けていると言うんですね。それで縁を感じて、お引き受けしました。
でも、私はそれまで、どちらかというとボランティアというものに対して「いったい何をやっているんだろう」と嫌疑の目がちょっとあって。例えば1万円を寄付しても、最終的に現地には3円くらいしか届かないんじゃないか、それなら自分が関わらなくてもいいんじゃないか、そんな気持ちもあったんです。
だから、マリに行くことになったとき、先進国の支援がどういう形で役に立っているのか、実際に見てみたいと感じました。
根気よく説得を続ける、地道な啓蒙活動の大切さ
マリに入国し、首都から車で8時間も離れた村へ向かった角田さんは、近い距離に5つほど村が集まっているのに、ある村では“伝統だから絶対に続ける”と言い、ある村は説得によってすでに止めているという差に気づきます。また、日本では考えられないような不衛生な環境で「ナイフというより鉄の塊」でその風習に臨むことも、「本当に恐ろしいと思った」と話します。
村によって態度が違う理由はわからないんですが、とにかくプランの職員や地域の民生委員が毎日のように、まだその風習を止めない村に通っているんです。なぜよくないのか、あの村はもう止めたよ、と話をしていくと彼女たちの考えもちょっとずつ変わって、「昔ほどは切らない」とか「本当にちょっとだけ」とか、だんだん言い方を変えていくんですね。
それを間近で見て、プランや民生委員の方々の根気や、やっていることの重みを感じました。
と、角田さん。ほんの1週間でも空いてしまうとすぐに昔の考えに戻ってしまうから、日を空けずに通って説得し続けないといけないのだそうです。
「その努力はすばらしいですよね」と、増田さんが続けます。増田さんは、2010年にラオスでの活動に同行しました。教育の普及のために、新しく幼稚園ができた村を訪れました。
ラオスも都市部を離れると、電気が通っていない貧しい村も多く、子どもたちにごく基本的な衛生観念さえない状況も珍しくありません。
裸電球がひとつだけ下がった草の広場に子どもたちを集めて、「手を洗いましょう」「川の水を飲んではいけません」といった教えを紙芝居のようなもので繰り返し説明するんです。いま私たちの周りでは情報がすごく速く伝わるけれど、そんなスタッフの姿を見て、啓蒙活動の第一歩ってこういうことなんだと実感しました。
見慣れない日本人の姿に、最初は子どもたちも警戒したそう。そこで増田さんが「じゃああの丘まで走ろう!」といって走り出したところ、子どもたちの体が自然に動き、駆け出したら一気に全員が笑顔に。
後から先生に聞いたら、急いでいて走ることはあっても、スポーツとしてこの子たちが走るのは今日が初めてかもしれないと。それを聞いて、すごくいい思いをさせていただいたなと感じました。
と、増田さんは話します。「このエピソード、とても好きなんです」と角田さん。
「怒り」「気付き」「知る」それぞれの第一歩を
「でもこの本を読んでいても、各国の女の子の状況は大変ではあるんですが、なんだか明かりが見える気がするんです。どうしてなんでしょうね」。そう問いかける増田さんに、角田さんも過酷な内容を翻訳しながらも「私も明かりが見えた感じがしました」と応じます。
角田さんは2011年にもインドを訪れ、売春婦のカーストに属しているとされる女性たちに接しています。そのときのことを振り返り、何一つ状況は変わっていなくても、気持ちが変化することだけで前進なんだと話します。
売春婦の女性たちが集まって暮らしている村で、プラン・インドの方々が「売春婦のカーストなんてないんだ」と説得しサポートする現場に同席しました。一緒に話を聞いていたら、突然一人の女性が怒り出したんです。
私たちは売春婦のカーストだとずっと言われていて、社会からひどい扱いを受けても仕方ないと思っていた、でも私たちは何も悪いことをしていないのにって。
そうしたら周りの人も一緒に怒り出したので、最初は私もこの状況に暗い気持ちになったんですが、でもはっと気付いたんです。怒ることができたのは、現状を変える第一歩を踏み出せたということなんですよね。今まで怒ることもできなかったんですよ、それが当然だったから。
自分に何ができるんだろう。お二人とも、現地に行く前はそんなふうにも思ったそうです。でも実際に、プランからの支援だけでなく、現地の民生委員の働きかけや当事者たち自身が変わろうとしている姿を見て、「私が頭でごちゃごちゃ考えている場合じゃないなと思った」と角田さんはいいます。
増田さんも「微力なのはよくわかっているけれど、それでも何かできることをするのが大事」と続けます。今回の書籍やこのイベントを通して、こうした実態を「知る」ことだけでも、それはできることの一つだとお二人。
この本にしても、決して読んでわくわくする内容ではないので、無理して読んでほしいとは思いません。ただ、こういうことがあるんだと私が知らなかったように、知ることでなにか変わることがあるかもしれない。まず知ってほしいと思います。
と、角田さん。また、増田さんも次のように話します。
世界にはこんな状況もあると知って、ひとりでも多くの人が自分でできる範囲で支援したいと思ってくれたらいいですね。
今回のイベントは、角田さんと増田さん、そして参加者の皆さんによる「Raise Your Hand」の写真撮影で締めくくられました。これは現在プランが展開する、女の子への教育が大事だと賛同する人に手を挙げて写真を撮ってもらうというアクションです。この写真を集めて国連事務総長に提出し、国連からもっと積極的な働きかけをしてほしいとメッセージを届ける予定です。
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