地球全体に影響するものから、個人の存在や日常を阻むものまで、あらゆるところに立ち現れる社会課題。そんな社会課題の解決に日々向き合う社会起業家たちを、本気で支えようと活動する会社があります。
それが、「誰もが生まれてきてよかったと思う世界へ」という言葉を掲げ、社会起業家支援のためのファンド事業やインキュベーション事業、シンクタンク事業などを手がける株式会社taliki。
そんなtalikiが毎年開催しているソーシャルカンファレンス「BEYOND」が、今年の10月にも開かれます。
今回、10月3日(金)に開催される「BEYOND 2025 -再分配のはじまり-」の内容や、BEYONDが生まれた背景、talikiの皆さんが目指す世界について、グリーンズ共同代表の植原正太郎が、taliki代表取締役の中村多伽(なかむら・たか)さん、取締役の原田岳(はらだ・がく)さんに話を聞きました。

原田岳さん(写真左)、中村多伽さん(写真右)
世界平和を諦めなかった人たちがいる会社
中村さん 今回の取材、なんだか感慨深いです。というのも、実は以前talikiで、グリーンズさんを参考にさせてもらっていて。
植原 え! そうなんですか?
中村さん はい。「taliki.org」という、社会課題の解決に取り組む方のためのメディアを運営してるんですけど、メディアの立ち上げ当時にgreenz.jpを参考にしていたんですよね(笑)。
植原 なんと! ありがとうございます、嬉しいです(笑)。
ではあらためて、talikiを立ち上げた経緯からうかがってもいいですか?
中村さん 私は学生時代、カンボジアに小学校を建てたり、ニューヨークに留学して報道局で働いたりしていたんですが、その時に「社会課題って、構造的に解決がすごく難しいんだな」ということを痛感したんですよ。
そこで、「社会課題解決に取り組むプレイヤーを増やしたり、社会課題解決の分野に流れるリソースが増える仕組みをつくりたい」と思って、8年前、学生最後の年に創業したのがtalikiです。
会社名は「他力本願」からつけました。「私たちの役割は、現場に行って社会課題を解決するのではなく、社会起業家たちを応援し支援することである」という意味を込めています。
植原 学生最後の年だと、就職の道もあったと思うんですが、起業を選んだのはなぜですか?
中村さん たしかに、コンサルやシンクタンクなど、社会に対して広くインパクトを与えられる、つまり構造を変えていける可能性がある職業を目指そうと考えたこともありましたね。でも、そういう仕事で、社会課題に対してクリティカルな動きができるイメージがわかなくて。「本当に構造を変える事業を誰もやっていないなら、自分がやるしかない!」と考えたんです。
でも、実際にtalikiを創業して活動する中で、「他にも似たような志やビジョンを持って活動している方がたくさんいるんだな」ということを知りました。

植原 なるほど。原田さんはどのような経緯でtalikiにジョインしたんでしょうか。
原田さん 別の会社で取締役をやっていた頃、同世代の経営者仲間として中村と知り合いました。その後、地域課題や経済格差、教育格差の課題解決に取り組むために会社を辞めて起業しようと考えていた時に、「役員として入ってくれないか」と彼女に声をかけたんです。
ただ、「本当に今のタイミングで起業すべきなのか?」と悩んでいたところ、中村から「それ、うちの会社でやったら?」と逆に声をかけてもらって、5年前に第1号社員として入社し、その後2023年から取締役を拝命しました。
中村さん 原田は、「人に寄り添って、諦めない力」がすごくて。起業家支援って、結局は「人」なんです。なので、「私以上に人に向き合える存在が、talikiには必要だ」と考えた時に、彼が適任だと思ったのをよく覚えています。
あと、彼のビジョンは「世界平和」なんですが、そういう思想が私と一致していて。「世界平和を本気で目指したい人って、意外と会えないよな」と思って、彼に入社してもらうことを決めました。
植原 まさに、「世界平和を諦めなかった人たちがいる会社」がtalikiなんですね。
「誰もが生まれてきてよかったと思う世界」を実現したい
植原 お二人に共通する「世界平和」というビジョンとも関わると思いますが、talikiの活動の根底にある想いについて聞かせてください。
中村さん 会社としてのビジョンは、「命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みを作る」です。そのビジョンを実現するために、苦しんだり命を落としたりする要因になり得る社会課題を解決する人やリソースを増やす事業に取り組んでいます。
植原 すごくいいビジョンだなぁ。どうやってその言葉に辿りついたんでしょう?
中村さん 色々な社会課題解決に関わる中で、「私は五体満足で、家族も元気で、友人にも職にも恵まれている状態。だけど、大切なそれらのうちのたったひとつでも失われたら、どう感じるだろう。仮に全部奪われたとしたらどうなるだろう?」と想像するようになったんですよね。
現時点の私にとっては「もしも」の話でも、いつ何が起こるかはわかりません。それに、今この地球上で、今この瞬間にもそうした状態に陥っている人は数えきれないほどいます。
そう考えた時に、「どんな状態にある人でも『生まれてきてよかった』と思える瞬間をつくることに自分の命を使えたら、私は死ぬ時に一番『やっててよかった』って思うだろうな」と思って、こうしたビジョンを掲げるようになりました。
植原 中村さんのそうした想いに、原田さんも共感したんですね。
原田さん そうですね。個人的には、人間って誰しも「世界平和」を一度は願ったことがあると思っているんです。中村は、それを諦めなかった人なんじゃないかなと。
僕は良くも悪くも単純だったので(笑)、「世界平和は実現できる」と信じ続けることができたタイプです。でも、実現させるための戦略づくりやビジョンの解像度、言語化力といった部分が全然足りていなくて。中村とディスカッションをしながら、「こんなにも社会課題を網羅的に話せたり、言語化できる人はいないんじゃないか」と感じて、一緒に世界平和を実現させていきたいと思いました。

社会起業家に、本気で向き合う
植原 社会起業家の方と関わるときに大切にしていることってあるんでしょうか?
原田さん 「仲間」として接することは大切にしています。
もちろん社会起業家の支援事業ではあるんですが、結局は「一緒に世界平和を実現していくための仲間」だと思っているので、「支援者/被支援者」といったコミュニケーションはとりません。むしろ、仲間として最大限リスペクトしながら接しています。
社会課題という大きなものに立ち向かうためには、さまざまな立場の人が連携して動くことが必要です。それでも、その核には現場で動く社会起業家がいると僕は思っていて。たとえ支援者や投資家だったとしても、社会起業家へのリスペクトは大前提として持っておくべきだと思っているんです。
社会課題は一人では解決できないからこそ、他力本願を前提にしながら、社会起業家を「仲間」として大切にする。これはtalikiの特徴のひとつかもしれないですね。
ボーダーを超えるソーシャルカンファレンス、BEYOND。今年のテーマは「再分配」
植原 さて、今日の取材の本題は「BEYOND」です。今年10月にも開催されるBEYONDについて、教えてください。
中村さん BEYONDは、talikiが創業したばかりの頃から続けているソーシャルカンファレンスです。
その大きな特徴は、「社会課題解決を志す人を全力で応援する場」であること。日本最大級のスタートアップのカンファレンスである「IVS(Infinity Ventures Summit)」や、アジアのテクノロジー・スタートアップ業界に特化した「Tech in Asia」のように熱量のあるカンファレンスが、社会課題解決の領域でもあればいいなと思って始めました。
これまでに8回開催し、累計2,500名以上の方に参加していただきました。おかげさまで、社会起業家、NPOや行政や企業でのプレイヤー、投資家など、立場を超えた多様な人たちが集い、問いや課題について共に考え、リソースを共有し、アクションにつなげていく場になっています。




去年のBEYONDの様子
植原 なぜ「BEYOND」という名前に?
中村さん 社会課題解決って、立場を超えた全員の力が必要だと思うんです。投資家だけでも、起業家だけでも、企業だけでも、NPOだけでも、行政だけでもできるようなものではない。だからこそ、セクターのボーダーを超える機会をつくりたいと考え、越境を意味する「BEYOND」という名前をつけました。
加えて、国籍や性別、学生なのか企業人なのか起業家なのかといった個人の属性も超えて、「一緒に社会を良くしよう」と言い合える場になったらいいな、という願いもこめています。
植原 毎年設定されているテーマも、いつも時代の一歩先を行っていて最高だな、と思っています。BEYOND 2025のテーマは「再分配のはじまり」ですよね。公式ページにも掲載されていた言葉が印象的でした。
そう信じられてきた経済の仕組みは、いま、現実とかけ離れたものになっています。成⻑が叫ばれ、支援や投資が増えても、リソースは届くべき場所に届かず、その結果、多くの社会課題はいまだに深刻化し続けています。
必要なのは、“自然に届く“ことを期待するのではなく、“意志を持って届ける“という選択です。BEYOND 2025は、この現状へのアンチテーゼとして、「再分配のはじまり」を掲げます。
「再分配」とは、単なる慈善や施しではなく、社会の土台そのものをつくり変えていく営み。資金、知見、技術、情熱——あらゆるリソースを真に必要な場所へと再配置し、その合理性を考え抜き、語り合うことで、未来は動き出すと私たちは信じています。
起業家、投資家、企業、行政、NPO、市民が、それぞれの立場や強みを持ち寄り、分断された社会を再びつなぎ、新たな価値の共創に挑みます。
これは、新しい連帯のかたち。「再分配のはじまり」です。
(「BEYOND 2025」公式ページより引用)
中村さん 「再分配」は、私たちの創業の想いでもある「どうやったら届くべきところにリソースが届くのか」という点にも強く関係しているテーマです。
これまでもBEYONDのセッションでは、資金、知見、技術、情熱といったリソースをどう社会課題解決の領域に届けていくかという内容は議論していたんです。でも、今こそ私たちは「再分配」に宿る意志についてもきちんと向き合う必要があるんじゃないかと考えました。
植原 「意志」、ですか。
中村さん 例えば、「富裕層や大企業が豊かになれば、その利益が徐々に社会全体へ波及し、最終的に社会全体に恩恵が行きわたる」という「トリクルダウン」の考え方が叫ばれてきました。けれども現在は効果が専門家や政策決定者から否定的に見られていますし、今でもリソースは限られた企業や業界、地域に偏ってしまっています。
社会的にポジティブな変化をもたらすことを目指す「インパクト投資」は、近年では盛り上がりを見せていますが、プレイヤーが激増した結果、社会課題解決ど真ん中の投資もあれば、あまり本質的に社会課題解決につながっていないのではないか、と思えるような投資も目にするようになりました。
そんな今だからこそ、ただ「再分配」を叫ぶだけではなく、「リソースを届けなければならない場所はどこか」「どうやってリソースを届けるのか」ということを、意志をもってみんなで話したいなと思ったんです。
例えば、企業であれば「利益を自分たちのパーパスに合った形で使うためには、どこに対して投資する必要があるか」とか、行政であれば「税収をどこにどんな風に分配するのがいいのか」とか。今はそういうことを改めて考える時期なんじゃないかと考えて、「再分配」をテーマに掲げました。
植原 なるほど。社会課題解決に向けて、かなり核心の部分にまで突っ込んで組み立てられているのかなと感じるのですが、BEYONDはどんな雰囲気のイベントなんでしょうか。
中村さん 扱うテーマとしては、かなり根を詰めて考えるようなものが多いんですが、場の雰囲気としては結構ハートフルだと思います。私自身も毎回、「社会を良くしようとしてくれている人がこんなにたくさんいるなんて、ありがたすぎる……」と噛み締めるような時間になっていて。その雰囲気を、ぜひ皆さんにも体験してもらいたいです!
「BEYOND 2025」は既に動き出している
植原 BEYOND 2025ならではの特徴やおすすめコンテンツってありますか?
原田さん 今年はプレイベントを仙台、東京、京都、福岡で開催しているのが大きな特徴です(すでに全て終了)。社会課題の文脈で、カンファレンスの前にさまざまな地域で事前に議論を行うというのは、これまで必要とされていても実現されてこなかったことなんじゃないかなと思っています。
地方は社会課題の最前線でもあるからこそ、今目の前にある課題以外を俯瞰的に見ることがむずかしかったりもするはず。なので、今回のプレイベントのように各地域で多様なセクターの方々が一堂に会して、社会課題に関するディスカッションができる機会は、すごく価値があるんじゃないかと。

福岡でのプレイベントの様子
植原 ここまでしっかりとプレイベントを行うカンファレンスは珍しいですよね。
原田さん talikiとしても初めての試みです。ただ、僕は地方にこそ「再分配」が必要だと思っているんです。「多くの企業の本社がある東京にしかお金などのリソースが集まらないという構造ではなく、地方にもしっかり再分配していこう」という提案も、今回のプレイベントには組み込んでいます。
植原 talikiさんは京都の会社だし、BEYOND 2025の会場も京都ですよね。
原田さん そうですね。ちなみに今回、京都市長にもトークセッションに参加していただけることになっているんですが、それもかなりおすすめのコンテンツです。
植原 他にもイチ押しのコンテンツはありますか?
中村さん 10月4日の11時10分から開催される「慈悲ではない、財務リターン絶対視を超える金融とは」というセッションは、「金融業界から見た社会的インパクトや、社会課題へのお金の分配ってどうなっているんだろう?」といった内容を話します。
日本で最初にNPOへの融資を始めたような金融機関の方や、遺贈寄付を推進する協会の方など、「金融」における多様な関わりのある方々が登壇する予定なので、他ではなかなか聞けない内容になるんじゃないかと思っています。
植原 「再分配」の最前線で試行錯誤されている方たちのクロストーク、面白そうですね!
原田さん BEYONDが大切にしていることは、「それで本当に、社会課題は解決できるの?」っていうことだと思っています。NPOも社会的インパクトも再分配も、全部社会課題解決のための手段のひとつでしかない。トークセッションのテーマも、「本当に社会課題を解決できるのかどうか」が軸になっています。
ただ、社会課題は色々な手段が網の目のように折り重なることで解決されていくもの。なので、その網目を広げていくこと、つまりさまざまな手段で社会課題解決に取り組む人たちが、立場を超えて手を取り合うことを、BEYONDでしっかりアプローチできたらいいなと思います。
社会課題解決を夢物語で終わらせるのではなく、いかに現実社会の今と向き合い、具体的な動きにつなげていけるのか。talikiのお二人が語る言葉からは、変化への覚悟と世界平和への静かな情熱が感じられました。
BEYOND 2025は、10月3日〜4日に京都で開催されます。
一人ではできないことも、他力が重なればきっと、できるようになる。
社会課題の解決に向けて取り組んでいる方は、ぜひ参加してみてください。
(画像提供:株式会社taliki)
(編集:山中散歩)
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