福岡県の最東端、大分県との県境に位置する吉富町(よしとみまち)。
以前、「漁師として独立を目指す地域おこし協力隊」の募集記事でご紹介した、“九州で一番小さなまち”です。
南北3km×東西2km、面積5.72㎢の町を歩けば、漁業や農業、個人経営のお店などが点在し、子育て世代が交流する地域コミュニティが充実しています。神楽の文化が根づき、鎌倉時代から始まったと言われる「細男舞・神相撲」といった海上の珍しい神事が受け継がれていたりと、独特の個性が小さな町の中にぎゅっと詰まっている印象を受けます。
そんな吉富町が今回募集するのは、まちの魅力を内外に発信する“専属編集者”。
町の広報誌「広報よしとみ」や公式SNSを通じて、吉富町のファンを増やし、活気あるまちづくりに取り組んでくれる「地域おこし協力隊」を公募します。
未来まちづくり課が専任を求める理由
吉富町ではこれまで、未来まちづくり課の職員が他の業務と兼務しながら広報を行なってきました。近年はSNS運用が加わるとともに、「広報よしとみ」の表紙の写真や紙面づくりが高く評価され、全国広報コンクールや福岡県広報コンクールなどで受賞を重ね、注目が集まっています。
話を伺ったのは、広報を担ってきた吉富町役場の職員、若山将士さんと髙橋巧輝さん。長く広報誌づくりに携わってきた若山さんは、現在は地域振興課に異動していますが、後任の髙橋さんに引き継ぎを行なうタイミングで、広報だけに集中できる専任の人材が必要だと考えるようになったといいます。
若山さん 「町の顔」と言える広報誌と、タイムリーな情報を届けるSNS発信。どちらも町のために、今後さらに力を入れたいということで今回の募集を決めました。
写真や動画撮影、ライティングの技術を身に付けながら、吉富町の魅力を町内外に届ける編集者としての業務。「挑戦したいという意欲のある人と一緒にやっていきたい」、そんな思いが、公募の背景にはあります。
若山さん 最初は何もわからなかったんです。どんな誌面にするか、どこから手をつけたらいいのか手探りでした。
そう振り返る若山さんは、未来まちづくり課が設立された2020年から2024年度まで「広報よしとみ」の編集を担ってきた前任者。最初は知識も何もない状態から、広報を担当するようになりました。
地元・吉富町出身の若山さんは大学進学を機に町を離れたのち、就職でUターン。入庁した頃はまだ町に対してそれほど愛着は感じていなかったそう。
若山さん はじめは副任という補助的な形で入って、徐々に広報誌を任されるようになっていきました。広報を通じて、いろんな町の方と顔を合わせるようになって、紙面づくりに深く携わるうちに、本当にこの町が好きになっていきました。
ゼロから挑んだ広報誌づくりが、全国へ届くまで
広報のメインは、毎月発行している広報誌「広報よしとみ」の制作。昭和20年代から町民に向けて発信されている月刊誌は、形を変えながら、現在はA4判で毎月2,800部発行、公共施設などでも配布されています。

毎号、町の人たちの笑顔を捉えた写真が表紙になった「広報よしとみ」
表紙を飾るのは、「町民の笑顔」を撮影した写真。ときに横型のレイアウトがあったりと工夫のある表紙は、どの号も登場する人が誰一人残らずみんな笑顔、それも「いい笑顔!」と言いたくなる最高の瞬間を捉えています。
内容は、特集のカラーページをメインに、町内の事業所を紹介する「よしとみさんぽ」のコーナー、町の情報をまとめた2色刷りページなどで構成。24〜36ページのボリュームで届けられています。
若山さん 広報誌の編集長である町長の希望もあって、毎号「町の誰か」が、誌面の真ん中にいることを大事にしてきました。子どもたち、飲食店や個人商店などの経営者、高齢者、消防団、ボランティアグループ……。いろんな方々にお願いして、笑顔を撮るために何時間も粘ったり、日を改めて出向くこともありました。3時間かけて撮り直したこともあるんですよ。
月刊誌をつくるには、企画、取材、撮影、編集、レイアウト、校正に至るまで多岐にわたる作業が必要です。しかも、若山さんはカメラも編集も、ほとんど独学で実践してきたといいます。
若山さん 最初は妻が持っていたカメラを借りてみても、全然使いこなせなかったんですよ。それで、毎朝30分だけ時間を割こうと思い立って、YouTubeや本で学びながら、とにかく広報に関する知識を増やすようにしたんです。
朝食を食べながら撮影技術などの動画を見ることを習慣づけたという若山さん。これまで培ってきた職員や町の人とのネットワークを最大限に活かし、一号ごと全力でつくり上げていった積み重ねが、全国広報コンクール「一枚写真部門」入選という快挙につながったのです。
入選した2024年2月号の表紙は、消防団の活動を紹介するため、子どもたちを主役に据えて撮影した一枚。日本広報協会の審査員からは「3人それぞれのキャラクターが良い味を出した元気いっぱいの写真だ。初対面の子どもたちから同時に最高の表情を引き出すのはとても難しい。粘り強い取り組みで構図づくりも秀逸。防災意識が育まれていくことも素晴らしい」と高く評価されました。

全国広報コンクール「一枚写真部門」に入選した号
若山さん せっかくつくるなら、いいものをつくろう。そう思って取り組んできましたから、福岡県広報コンクールでの評価に続いて、全国での受賞はすごく嬉しかったですね。そんな向上心と、“凝り性”という性格がうまく噛み合ったのかもしれません。
これまでの成果が認められた反面、引き継ぎの段階では課題も残っているといいます。
「取材とは別に、他の課から情報をもらって制作する情報ページはリライトが大変だったりするので、今後は文字量を定めて、レイアウトを美しく整えたいですね。細かなこともきちんと改善して、クオリティを高めていってもらえたら」とバトンを渡します。
引き継いだ“熱量”を、次の形へ
若山さんからのバトンを受け取ったのは、2025年度からこの業務を引き継いだ髙橋さんです。髙橋さんは入庁から未来まちづくり課に所属して、3年目。若山さんに指導を仰ぎながら、5月号の制作から広報誌づくりを行なっています。
分厚いマニュアルや手描きのラフといったこれまでのデータを引き継いだ髙橋さん。取材やイベントなどに出向き、町の人とのつながりを深める日々を送っています。
髙橋さん 若山さんが描いた企画のラフ案を見ると、すでにイメージができていて、すごいなと思います。私は絵が苦手なのでラフを描くのに時間がかかったり、文章を書くときにどうしても行政用語を使いがちなので、町民の方に伝わる優しい言葉に置き換えることもまだまだ自分の中で課題が多々あります。
慣れない編集作業に奮闘する髙橋さんですが、Instagramを中心としたSNS運用は個人的に好きだったこともあり得意分野なのだそう。
髙橋さん SNSで行政情報を見てくれる人ってきっと少ないですよね。だから、面白くて、少しでも気軽に見てもらえる工夫が必要だと感じています。
音楽を乗せたり加工するなど親しみやすい発信を目指す中で、もっとも反響があったのは成人式の投稿。式に参加した新成人へ広報誌のインタビューを行ない、そのまま二十歳への抱負とともに笑顔を動画に収めて投稿したところ、再生数が上昇しました。

吉富町の公式Instagramより(https://www.instagram.com/yoshitomi_town/)
「時事ネタは町の人をはじめ、見てくださる方が多いので、タイムリーな町の情報はどんどん発信していきたい」と髙橋さん。また、自身がナビゲーターとして登場しながら、「#吉富町」「 #九州一小さな町」のタグとともに、町のお店を紹介するコーナーをスタートさせるなど、新しい試みに挑戦。行政の堅いイメージをやわらげるアイデアが、町のPRに新しい風を吹き込んでいます。
希望は、町と一緒に挑戦できる協力隊
今回の募集では、「編集者」としての特別な経験や資格は問いません。大切なのは、「まちへの愛着」と「熱意」だと、若山さんと髙橋さんは頷き合います。
若山さん 消極的だった町の方も、粘り強く取材した甲斐あって距離が縮まるときがあるんです。そんなとき、やっぱりやりがいを実感します。私と同じような、凝り性な人が向いているのかもしれませんね。妥協せず、「いいものをつくりたい」と思える人にチャレンジしてもらえたら嬉しいです。
広報の仕事で意識してほしいのは、あくまでも「町民が主役」だということ。自分の色を出したいクリエイター気質の強い人より、「吉富に関わり、まちや人を好きになってくれる人」が求められています。
年齢は20代から30代前半を想定。性別・年代は問いませんが、個人の感性を活かした誌面づくりにも可能性を感じると未来まちづくり課では考えているそう。
若山さん これまで吉富町では男性職員が誌面をつくっていたんですね。ですが、埼玉県で行なわれた全国広報コンクールの表彰式に行ったとき、受賞者はほとんど女性の職員で驚いたんです。女性ならではの視点ややわらかさが、誌面や写真にいい影響を与えてくれるのかとも期待しています。
また、地域おこし協力隊として吉富町に暮らしながら、地域密着で取材を重ねていくことを基本としていますが、遠方在住の方の「平日の現地滞在+在宅制作」という働き方も相談は可能です。業務に慣れてきたら、新しい切り口やアイデアを出してもらうことも大歓迎と話します。
髙橋さん まずは一緒に町を歩き、いろんな人に出会いながら顔を覚えてもらうところから一歩ずつ始めてもらえれば大丈夫です。人と関わるのが好きな方なら、自然と居心地よくなる町だと思います。一緒に面白がって、一緒に悩んで、吉富町の個性や価値を育てていきましょう。
暮らしやすく、溶け込みやすい吉富町
吉富町はコンパクトな町ゆえに、暮らす人同士の距離がとても近く、温かい人間関係が築きやすいのが魅力の一つです。「町全体がファミリーのような温かさなんですよ」と、隣町の築上町出身の髙橋さんは笑顔を見せます。
隣接する大分県中津市とは生活圏がつながっており、買い物や病院など日常の利便性も抜群です。
移住して3カ月ほどになる先輩の地域おこし協力隊の方にも話を聞いてみました。もともと自然や海が好きで、釣りが趣味。いつか漁師として独立したいという夢を抱いていたという大野達也さん。前回の協力隊の募集を知り、愛知県から単身移住することを決めたといいます。
大野さん 見学に来たときに対応していただいた役場の方がとても温かく、町をよりよくしようとする熱意が印象に残りました。「ここなら安心して挑戦できる」と思えた大きな理由です。漁業組合の組合長さんから直接漁を学べるという環境も魅力的で、今は一緒に漁に出たり、道具づくりを教わったりして毎日が充実しています。
自然がすぐそばにあって、人が優しく、安心して暮らせるまち。大野さんは少しずつ吉富町に溶け込み、着実に信頼関係を築いています。
3年後、広報から仕事を広げていく未来
協力隊の任期は原則3年ですが、この仕事は3年間の任期が終わっても、終わりではありません。その後も吉富町で「広報のプロ」として活動を続けられるよう、町は支援体制を整えています。
若山さん 「広報よしとみ」だけでなく、社協だよりや議会だよりなど、町内には複数の制作物があります。制作に携わることで、将来的に町の広報を委託できる体制をつくれたらと思っています。
全国的に見て、自治体の広報からキャリアを築き、地域に根づいたプロフェッショナルへ成長した先例があります。
若山さん 吉富町にはまだ専門の編集者はいません。だからこそ、伸びしろがあり、大きな挑戦ができるチャンスです!
ここまで読んでいただいて、「面白そう」「やってみたい」と思ったら、ぜひ一歩踏み出してみませんか?
吉富町は「町をまるごと見て、知って、伝える」ことができるサイズ感の町です。そして、広報に携わることは、日々の暮らしに密着し、町の人との信頼関係を育みながら、言葉と写真で“町の表情”を届けること。単なる情報発信ではなく、町の未来をひらくクリエイティブな試みです。
地域と暮らす人のことを深掘りしながら、町の理解者として町内外に発信していく業務が、やがてはその先にある自身の仕事と暮らしにつながっていく、そんな専属編集者に挑戦してみたい方、お待ちしています。
(撮影:重松美佐)
(編集:古瀬絵里)
– INFORMATION –

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今回は、福岡県吉富町の“まちの専属編集者”を担う、地域おこし協力隊の募集を紹介します。







