募集要項は記事末をご覧ください。
九州でいちばん小さなまち。
名前に「吉」と「富」がついた縁起の良いまち。
4年に一度、神様が相撲をとるまち。
なんだか神秘的で、訪れると良いことが起こりそうな気がするこのまちは、福岡県築上郡吉富町(よしとみまち)です。
まちの形がひょうたんに似ていることからも良縁に恵まれそうなまちは、福岡県と大分県の県境にあり、周防灘に面した温暖な気候が特徴。昔から好漁場として漁業がさかんに行われてきました。
また、鎌倉時代から始まったといわれる珍しい神事、神様が相撲をとる「細男舞(くわしおのまい)・神相撲」(国指定無形民族文化財に指定)が4年に一度行われている地域でもあります。
神様たちの相撲は神社で執り行われますが、一部、海上で行われる儀式もあります。大漁旗をはためかせた漁船に木彫りの神様が乗って、ニナ(貝)を海に放つ奉納です。生きものを供養し感謝する放生会の期間に、こうした独特の神事が絶えることなく続いてきたことからも、吉富町が漁業のまちとして古くから繁栄してきたことが想像できます。
そんな吉富町は、漁師として独立をめざす地域おこし協力隊を募集しています。
吉富漁業協同組合と吉富町がタッグを組んで支援してくれるので、サポート体制は十分。経験がなくてもやる気があれば、ぜひ飛び込んでみては?
人が温かく、支援制度が充実したまち
はじめに吉富町がどんなまちなのか、ご紹介しましょう。
吉富町は、九州の東側を流れる山国川をはさんで、大分県中津市と隣接するまち。人口は約6,600人。なんと、南北3km、東西2km、車で走れば5分ほどで通過してしまう、初めて訪れた筆者が驚くほどコンパクトなまちなのです!
そんな小さなまちだからか、行政の目が細やかに行き届いています。移住定住支援や子育て支援、起業・創業支援など、多岐にわたる制度が充実していることがまちの自慢。制度を活用して起業する若年層が増えているほか、橋を渡ればすぐの隣町は商業施設も多い大分県中津市、北九州市へも車で1時間圏内とあって、第三次産業に従事する人が人口の多くを占めています。
車でまちを走っていると、漁師町のかおりがするエリアのほかに、昔ながらの家々が新興住宅地と共存しているエリア、駅の周辺を中心に飲食店やカフェが多数あるエリアも目にすることができます。
「ここ10年、子どもの数は減少しておらず、一定数を保っているんですよ」と話してくれたのは、吉富町役場の山本大陽(やまもと・たいよう)さん。全国的に少子化対策が叫ばれるなか、子育て世代が住みやすいまちとしても評価されているようです。
では、ここで暮らす地元の人の気質はどんなものなのでしょうか。
山本さん 吉富町は自然が豊かでのんびりした空気感のまちなので、地元の人も温和な方が多いんです。小さなまちだからこそ、住民一人ひとりの顔が見えます。みなさん優しくて、移住してきた方とも適度な距離感で接してくれ、困ったときはさりげなく助けてくれる。そんな人たちが多いまちだと思います。
そう話す山本さんも吉富町出身。漁協や漁師と役場とのパイプ役として、漁業振興に関するミッションを担う職員です。
吉富町にある、豊かな漁場
地域おこし協力隊の活動内容を紹介する前に、吉富町の漁業の現状について、吉富漁業協同組合の組合長である山本宗一(やまもと・そういち)さんに伺いました。
全国的にみても、漁業の衰退は深刻な問題。衰退の原因としては、高齢化と後継者不足、地球温暖化などの環境の変化による漁獲量の減少、輸入水産物との価格競争など、多数の要因が挙げられます。多くの市町村が漁業の人手不足という課題を抱えているのが現状なのです。
山本組合長 吉富町も例外じゃないき。漁協に所属する漁業従事者は70名おります。その中で漁師として海に出る人は、下は60歳、上は77歳の15人。平均年齢は70歳です。
これまではこの人数で十分漁ができてたけど、だんだんと体力的に厳しくなってきましてね。こんままじゃまちの漁業が衰退してしまう。これはなんとかせんといかん!と思い立って、役場に話を持ちかけたんです。
今回の募集は、漁協の存続に危機感を抱いた組合長の「現状を打開したい」という切実な思いをきっかけに、役場と漁協が協力して始まりました。
では、実際のところ、まちで漁業を生業とした生活は成り立つのでしょうか。
山本組合長 吉富港は昔から魚介類の宝庫で、天然のアサリ、ワタリガニ、コウイカ、ハモ、海苔など、豊富な種類の水産物がそりゃあたくさん獲れていたんですよ。あまりに豊漁で、シャコなんて私が14歳で漁師になってしばらくしてから「食べられるもんなんだ!」と知ったくらい、廃棄されていたんですから。アサリにしても、一日200kgは獲れたよな。
組合長の言葉を受け、役場職員の山本さんも両親から聞いていた話を思い出したようです。
山本さん うちはひいじいちゃんを早くに亡くして、アサリ漁師だったひいばあちゃんが子どもを3人育て上げたんですよ。一日に3回漁に行くぐらい、大量に採れていたそうです。アサリ漁だけで生活できた時代があったんですよね。
山本組合長 海の環境が変化したことで、獲れる魚介類の種類や量も変わってきちょるけど、まだまだいろんなものが獲れます。春はアサリ、ワタリガニ、ベタ(舌ビラメ)。夏はコウイカ、ハモ、休漁期の秋を挟んで、冬はナマコ、漁師によっては、底びき網漁や牡蠣の養殖もやるようになりました。
小エビや小ガニなどを放流して育てるような方法を取り入れたりもしてます。魚種が変われば、漁のやり方や使う道具類も変わってくるき。その変化に合わせながら各自で工夫していけるかどうかが、漁師として生き残る術じゃなかろうかと思います。
漁業を、次世代へ継いでいきたい
今回地域おこし協力隊になる方が漁業についてのイロハを教えてもらうことになる山本組合長は、なんと漁師歴60年!14歳から中津市の漁師に弟子入りし、住み込みで働いて仕事を覚えていきました。
山本組合長 小さい頃から釣りが好きでねぇ、勉強は好かんかったき、気づいたら漁師になっていました。自分が漁師になるときには、親方から怒られながら、見て覚えることしかできんやったです。
でも、大声で怒鳴られるから、なかなか覚えることに集中できんでしょう。だから自分は、後を継いでくれる人には、漁に関する技術や知識をゆっくり教えていきたいんです。最初は方言がつよくて聞き取れないこともあるかもしれんけど(笑)、そんときは何度でも聞き返してもらったらいいです。一つひとつ、しっかり教えていきますよ。
「町の漁業を底上げしていきたい」。そんな熱意で、山本さんが組合長になってから、11・12月に定期開催される「よしとみの魚市~漁港deマルシェ~」も始まりました。
最初は役場の力を借りながら一緒に立ち上げた市ですが、今では漁協のメンバーのみで運営できるようになりました。水揚げしたばかりの魚介類を漁業従事者から直接、安価で購入できるため、たちまち評判は広まり、開始から1時間もしないうちに売切れ状態になるように。北九州や大分などからもお客さんがやって来るといいます。
魚市が軌道に乗ると、漁協のメンバーからもアイデアが飛び出し、これまで使用頻度の少なかった漁業振興と地域の活性化を図るための施設「吉富漁村センター」を活用することに。昨年3月からセンターのキッチンを加工場として整え、これまで廃棄していたイカゲソなどを使ってつみれ汁をつくり、魚市で販売するようになりました。
また、最近ではアサリの養殖に力を入れており、現在は実験段階とのことですが、春に観光潮干狩りができるくらいにまで収穫を拡大することを目指しています。
魚市をきっかけに盛り上がりをみせる町の漁業。そのキーパーソンになっている山本組合長ですが、これまでの漁師人生のなかで大変だったことは何なのか伺ってみると、日焼けした顔をくしゃっとさせて、こう話します。
山本組合長 そりゃあやっぱり、仕掛け網を引き上げたときに魚がほとんどかかっていないこと!あれはガクッとくるねぇ。そういった苦労はあるけど、組合員同士で協力しながら、なんとかやってこれました。
吉富町では昔も今も、漁業で家族を養っていけるくらいの生活力は持てます。休漁期は道具を修理したり、加工品づくりなどの仕事もできるから、やる気次第で仕事はつくっていけますよ。
吉富町で漁師になれば、仕事は十分ある。けれども、それを任せていける人がいない。急務となってきたのが後継者不足の問題でした。
山本組合長 漁のことなら、これまでの経験や技術で解決できるやろうけど、後継者不足ばっかりは自力で解決するには難しい問題です。役場と一緒になって、やる気のある人を支援していくことで、吉富町の漁業を次の代へ継いでいきたい。それが漁協組合員みんなの願いです。
協力隊になったら、漁師のノウハウをすべて教えます!
では、地域おこし協力隊になったら、どうやって漁師の仕事を学んでいけるのでしょうか。
山本組合長 漁協にいる15人の漁師は、それぞれが選んだ漁を個別にやっとるんです。例えば、私は、夏にはイカかご漁、冬はナマコ漁をメインにやってます。地域おこし協力隊になったら、まずは私と一緒に漁をして学んでもらう予定です。慣れれば、体力もついてきますよ。
イカ漁を例に挙げて、地域おこし協力隊の方が行うことになるであろう一日の仕事内容を見てみましょう。
起床は朝5時。漁は準備が出来たらすぐに出て、9時頃まで行われます。休憩後、15時から17時までイカを締める作業を行い、出荷準備を整えます。就寝は21時頃。魚種によって時間帯は異なりますが、早朝に漁へ出て、午後に出荷作業を行う流れが基本的な工程です。
雨の日は休漁ですが、仕掛け網や漁に関する道具づくり、修理の仕方などを山本組合長から直接学べるというメリットがあります。昔と違って今は道具類を修理できる漁師が激減しており、吉富町周辺地域の漁業従事者から山本組合長のところへ修理の依頼や注文がくるそうです。
山本組合長 漁師が使う道具は、使い勝手が良いものを長年自分で作ってきたので。自分が覚えたことは全部教えていきますよ。
では、地域おこし協力隊として活動する3年間をイメージしてみましょう。1・2年目は、漁師としての仕事を覚えることに専念し、3年目には船を借りて自分で漁をできるようになることを目指します。また、水産物の販売・加工、商品開発など、漁から派生する事業に挑戦していけるチャンスもあります。
まちとしてはどんな人に地域おこし協力隊として来てもらいたいのでしょうか。
山本さん 魚市のように何かしら漁協のためにアイデアを出してくれたり、一緒にまちを盛り上げていってくれたりする人だと嬉しいです。
イメージとしては、近隣の自治体に住んでいる人で漁師として独立したいと思っている人や、家族での移住を検討している人などでしょうか。次世代を担う存在になるので、30・40代の方が理想的かなと思いますが、組合長は「自分で覚えようという気持ちがあれば、どんな人でも大丈夫」と言っています(笑)。
サポートがあったから、やりたい仕事で独立できた
次に、吉富町に移住してきたご家族の話も聞いてみました。
現在、3人のお子さんと暮らす村岡賢治(むらおか・けんじ)さん・成美(なるみ)さんご夫妻は、北九州市小倉区から4年前に吉富町へ移住。その後二人とも独立し、賢治さんは建築、成美さんは写真の仕事をしています。
賢治さん 移住のきっかけは、前職を辞めたタイミングで、中津市で工務店を営む知人から「一緒に働かないか」と誘いを受けたことでした。社員になることを決めて、どこに住もうか探し始めたときに、たまたま吉富町の空き家バンクのサイトを見つけたんです。
それまで吉富町については詳しく知らなかったんですが、中津市までの通勤距離も近いし、いい物件で補助金制度も活用できるということだったので、即決でした。役場の方に連絡したら、親身に対応してくださって、いろんな手続きも順調にできました。
成美さん スーパーも役場も近いし、カフェもあって、不自由なく生活できています。役場へ行っても順番待ちであまり待たなくてよかったり、すぐ顔を覚えてもらえたりと、子どもがいる身としてはすごくありがたく感じることが多いんです。
例えば、まちには赤ちゃんからお年寄りまで健康について相談できる「吉富あいあいセンター」という保健センターがあって、毎週木曜日は誰でも自由に利用できるんです。人見知りで最初は自分から行けなかったんですけど、センターの方が「今日は人が少ないから来ませんか?」「離乳食の教室がありますよ」とこまめに電話をかけてくださったりしました。
成美さん ご近所の方々も見守ってくださっていて、急に困ったときに子どもの面倒を見ていてくださったこともあります。よそから来た心細さをあまり感じることなく、まちのみなさんと顔見知りになっていけることがすごく嬉しかったですし、人を近くに感じられるまちだなと思っています。まわりの方にも移住をおすすめしているくらいです!
予想外の出来事も起こりました。写真店で勤めた経歴があり、子どもたちの成長を撮ってインスタグラムに載せていた成美さん。それを見た同世代のお母さんたちから「撮影をお願いできますか?」とリクエストがあり、「それなら仕事にしてみよう!」と、写真を仕事にすることができました。
独立の背景には、まちが起業したい住民を応援する「駅前チャレンジショップ(最長3年間、月5000円でのコンテナ式店舗を貸し出す取り組み)」の影響も大きかったよう。カフェやリラクゼーションショップなど、同世代の女性が起業に成功している様子に、成美さん自身も励まされたそうです。
建築の仕事をする賢治さんは、創業支援助成金を活用して独立。役場や商工会などに顔を出し、自治会や消防団にも所属するなど、積極的につながりをつくり、地域にすっかりとけ込んでいる様子です。
賢治さん 中津市でしばらく働いた後、去年吉富町で独立したんです。そしたら、近所の人から「知り合いが船大工を探してるけど、できない?」って声がかかったんですよ。
船の修理は経験がなかったので、「一度船を見せてください」って話をして、見に行ったらできそうだったので、やってみたんです。一艘修理したら、また別の話がきて…という感じで。仕事をつくれた上に、地域の方のお役に立てることができて嬉しいです。
賢治さんはこれから役場にサポートしてもらいながらで、吉富漁協との関係づくりを行っていく予定だといいます。今回地域おこし協力隊になる方とも、関わりが生まれるかもしれません。
吉富町の漁業従事者や移住者の方々の思いを伺ってきたなかで、たびたび聞こえてきたキーワードは「チャレンジ」という言葉でした。
「吉富町で漁師になって暮らしてみたい」。
もし、そんなふうに心を動かされた人がいたら、そのチャレンジを応援する環境が吉富町にはあります。
役場や漁協をはじめとするまわりの人の支え、手厚いサポート制度。何より、組合長の山本さんは、自分の持てる技術や知識を注ぎ込むだけでなく、漁に必要な道具類などを譲る覚悟もできているそうです。
「漁師になりたい」という意志とやる気のある方。ぜひ吉富町で、その目標を叶えてみませんか?
(編集:山中散歩)
(撮影:重松美佐)
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今回は、福岡県吉富町の漁師(漁業従事者)として独立を目指す、地域おこし協力隊の募集を紹介します。