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地域づくりを活気づける「熱量“保温”の法則」とは? モーフィング酒井博基さんとsocial unit UDON二ノ宮傑さんが「地域のクリエイティブ」を考えた

グリーンズが青梅市・羽村市と一緒に「マイプロSHOWCASE東京・西多摩編 with 青梅市・羽村市」というプロジェクトをスタートして2年半が経ちました。

この2年半は西多摩エリアのソーシャルデザインを担うプレイヤーを記事で紹介し、青梅市・羽村市を中心に西多摩エリアの地域イノベーターを養成するため、創業スクールやコミュニティづくりの支援をしてきました。

週末起業スクール「にしたま創業キャンプ」の様子

これまで西多摩エリアは、「アクションをサポートしてくれるクリエイターやデザイナーが足りないのでは?」ということが課題とされてきました。そこで改めて、「地域におけるクリエイティブの役割」について考えてみたいと思います。

「クリエイティブ」とは、何かを創造することや、その創造を育てることです。クリエイターやデザイナーには、それぞれに創造の仕方、育て方があります。そして、そんな彼らが生み出すクリエイティブは、ローカルコミュニティをつなぐ力を持っています。

これまでグリーンズでは山崎亮さんや萩原修さんなど、ローカルコミュニティを温めるデザイナーの活動を紹介してきました。

このような活動を通じてわかることは、見た目を整える以上に人と人とのつながりを生む力がクリエイティブやデザインに備わっていることです。

今回、対談をお願いしたふたりも、ローカルコミュニティをクリエイティブやデザインの力で温める仕事に就いています。国分寺市を拠点に、多摩エリアでクリエイティブ領域の仕事を手がけてきた酒井博基さん(株式会社モーフィング)と、西多摩エリアでソーシャルデザインコンサルタントとして活動をはじめた二ノ宮傑さん(D-social/social unit UDON)です。

ふたりのクリエイターは、ローカルコミュニティをつなぐ仕事について、どんな知見を持っているのでしょう。大先輩である酒井さんに、キャリア2年目の二ノ宮さんが相談したいこととは? そもそも地域でクリエイティブな仕事をすることに魅力はあるのでしょうか?

酒井博基(さかい・ひろき)写真左
1977年、和歌山県和歌山市生まれ。リライトとの業務提携を機に、モーフィングに参加。多摩エリアで、中央線三鷹〜立川駅間立体高架化事業「ののわプロジェクト」、ソーシャルエンターテインメントラジオ「東京ウェッサイ」などを仕掛ける http://www.m-inc.jp
二ノ宮傑(にのみや・すぐる)写真右
1990年、東京都青梅市生まれ。D-socialフリーランスデザインコンサルタント兼ファシリテーター。2015年、social unit UDONとして青梅市・羽村市を拠点に活動開始。green drinks 西多摩オーガナイザー http://socialu.sub.jp/wp/

地域の定義から見直してみる

酒井さん まずは地域って定義をどうしましょう?

この前、「BAUS」というクリエイターと法人や団体をつなぐクリエイティブプラットフォーム”をやっているご縁で、仙台で「地方の働き方」というトークイベントを開催しました。都心の東京、地方中枢都市の仙台、地方都市の山形を代表する3人が登壇して、なぜか僕は都心の代表に選ばれてしまいました。僕は東京にいるけれど、地域(ローカル)で活動してきたので、ややこしい(笑)

もしも、地方で働く時に東京以上に何か求められることがあるとすれば、それは「マルチじゃないとダメ」っていうことです。納得がいくデザインを仕上げようとしたら、一人で写真を撮って、文章を書いて、グラフィックも組む。

別地域に暮らすクリエイターと分業することはできますが、その地域のロケーションを共有しながら、対面のコミュニケーションでクリエイティブを仕上げていくって考えると、地方では分業が難しい。これが都市レベルで見る地域の話だと思います。

もう一つは、距離感で見る地域の話がありますよね。

酒井さん 僕は自分を起点にして、半径5メートル内で起こることは家庭の問題、半径500メートル内で起こることは生活圏の問題、半径5キロメートルまでは地域の問題につながって、半径500キロメートルだと日本の問題、半径500キロメートル以上になっていくと世界の問題になっていくようなグラデーションがあると思っています。

自分が関わる範囲によって、考えは変わっていくのかな。

僕自身は、半径5キロメートル内で、自分がマルチにやるのか、あるいは分業できる仲間をどれだけつくれるのか、それが重要な指標になってくると、ぼんやり考えたことがあります。

地域の仕事には魅力があるのだろうか?

二ノ宮さん 距離感ってありますよね。親近感によって、クリエイターは仕事をしている実感が湧きますし。

酒井さん 仕事と認識する範囲とプライベートな領域の中間にあるのが地域です。半径5キロメートルを出ちゃえば仕事として割り切れるけど、半径500メートルから5キロメートル内なら仕事とプライベートが織り混ざる。それが「地域の仕事」って考えると、わかりやすくなります。

二ノ宮さん すごいわかります。プライベート中に「これは仕事なんじゃないか」って思うことがありますし。だから、もっと日頃から顔を合わせられるプレイヤーがいてほしいです。

酒井さん 地域では、自分ごととプライベートがほどよく混ざっていきますよね。

仕事で訪問したお店に通うようになったり、仕事で携わったサービスを利用するようになったり、知り合った面白い人を他の誰かに紹介してあげることもある。仕事が掛け捨てにならず、積み上がっていきます。それが地域の仕事をする一番の面白さです。

地域の仕事に必要な「熱量“保温”の法則」

酒井さん 僕は他の地域の仕事もしていますが、その場合は、その地域の人たちに喜んでもらえるようにすることが大事です。地域の人たちが注いだエネルギーを、発散するだけじゃなくて、ちゃんと貯めていける「熱量を保温する装置」は、クリエイターの地域の仕事に求められる仕組みだと思います。


酒井さんが所属するCEKAIが手がけたPR動画。酒井さんは多摩エリア以外の仕事にも携わるなか、熱量の保温を意識するようになった

酒井さん グリーンズは保温装置をよくわかっていますよ。つまり、メディアと場を持つことです。地域の人が、「ここになら自分の熱量を預けていいんだ」と思ってくれる受け皿になって、どんどん貯めていく。そして、熱量が大きくなって、その熱量に反応して新しいプレイヤーが集まってくる。そういうものをソーシャルデザインって呼ぶんじゃないかな。

「マイプロSHOWCASE東京・西多摩編 with 青梅市・羽村市」がきっかけで開いた西多摩地域の交流会

二ノ宮さん 僕は美大を出て、西多摩エリアにデザインで入っていきました。でも、地域の人たちと接するなかで、「デザインって、なに?」って疑問を持つことから構築していく必要性を感じました。これは熱量の話です。

僕は主体的に活躍できる場を「コトづくりの場」と呼んでいます。そんな「コトづくりの場」をつくろうとしたら、場を引っ張っていく人が必要でした。それで僕は、デザインにファシリテーションを加えて活動していくことにしました。

酒井さん 熱量を保温する装置には、自分も他人も成長している過程にいると実感できる備えが必要です。ちゃんとステップアップしていけて、階段を登った先の風景が変わっていく様子を見せてあげる演出は重要ですよね。

写真は二ノ宮さんが運営しはじめたgreen drinks 西多摩。たとえば、このような地域のイベントが盛り上がっていき、著名なゲストがくるようになることも成長を実感できる1つ

酒井さん そういう成長を実感できる価値観は、もともと「報酬」しかなかったけれど、今は変わってきました。「前向きな姿勢」という価値観が生まれています。「クリエイティブ」っていうのは、そんな前向きな姿勢をわかりやすくするための装置だと思います。

二ノ宮さん 僕もクリエイティブな要素の重要性は感じますが、そこに特化しすぎないことは大事だなと思っています。特化してしまうと、そのクリエイティブに共感した人しか入ってきません。

僕にとってファシリテーションは未経験のことで、それが経験してきたデザインと合わさっていくなかで自分の熱量が高まっていきました。僕自身の熱量を高めていくと、地域の人たち自身にやりたいことがある時、どういうところに入っていけばそれをはじめられるのかに気づいてもらえると思っています。

「1枚の絵」でみんなの熱量を高めよう

二ノ宮さん 今は、熱量の保温を前提に、僕自身はクリエイティブの要素出しができないか模索しています。

もともとデザインを学んできて、自分が地域に入ってすぐできる仕事はポスターづくりだと思いました。でも、僕が学んできたデザインには、経営に生かすようなデザインもありました。

それぞれ手法のひとつですが、後者のデザインは西多摩エリアでは誰もやっていなかったですし、誰も実践していない地域に入っていくのはなかなか難しいと思いました。それで、ファシリテーションを取り入れようと考えた部分があります。

酒井さん 二ノ宮さんは、西多摩エリアのデザインリテラシーを高めることもしているんですね。デザインの仕事を増やすこと以上に、デザインするとどんないいことがあるのかを伝えることは重要ですよ。

僕は、課題を抱える企業や行政などの組織に対して、地域の人も組み込み、組織の予算を使って、組織と地域の両方の課題を同時に解決していく提案書を書くような、ちょっとズルい仕事もしています(笑)

でも、そういう仕事でも、100枚の企画書を前にして、みんながよくわからないっていう状況になったとき、「こういう世界が実現できたら素敵ですよね?」って、1枚の絵を出すことが「クリエイターにできること」かなと思っています。

「それ!」ってみんなが思える1枚の絵が、うんともすんとも動かなかったことにパッと道を拓く。そんな旗印をつくるのがクリエイターの役割かな。決してテクニック論じゃなくて、みんなの思いを汲むっていうことです。

1枚の絵を、組織や地域の人と肩を並べて同じ場所から同じように眺めて、「あれ、いいよね!」って話し合うのが、クリエイターって立場だと思います。

地域なりの「1枚の絵」を探そう

二ノ宮さん 1枚の絵を一緒に見るのがクリエイターの役割、僕もそう思います。実際、僕がファシリテーションを取り入れたのは、行政との仕事をしていくなかで必要だろうと感じた部分もあります。

ですが、西多摩エリアにかかわるようになって2年目で、どうやって地域資源をリブランディングしていこうか悩んでいます。

西多摩は東京都のなかでも大自然があるエリアなんですね。木材では多摩産材っていうブランドがある。質はすごくいいというわけではないし、外材のほうが安い。でもせっかくの東京の材なんです。これを広めるにはどうしていけばいいんでしょう?

酒井さん うーん……なんだろうなぁ。その考え方は、都心を意識しているというか。「いい木材が東京以外にあるのなら別にそっちがいいじゃん」って感じます。

僕が「東京ウェッサイ」をやっているときに八王子から来たゲストが「山梨県八王子市から来ました」って言っていたんですよ。その人は「八王子って山梨に取り込まれたらダントツでナンバーワンだよね」って、八王子のポテンシャルを前向きにとらえていたんです。「その発想があったかぁー」と思いました。

地域が都心を意識する必要ってないんですよ。みんな、都心っていうオリンピックに出ようとするからややこしくなる。国体で1位になることも、地方大会で1位になることを目指すのも、すごく大事なことだと思いますよ。

二ノ宮さん うーん、なるほど…。

地域の人と楽しんでから行政とつながろう

二ノ宮さん たとえば、僕は今、青梅市のカヌー協会と仕事をしています。青梅市にはカヌーの聖地と呼ばれ、最近ではラフティングも盛んになっている御岳渓谷があります。そこを聖地として再認知してもらうにはどうしたらいいでしょうか?

僕一人でやっていることもあり、他のクリエイターやデザイナーと分業できないことを踏まえて、どうやれば全国的に広がっていくのかを考えています。

酒井さん そこでカヌーやラフティングを楽しんでいる人がいるんですよね?  僕は、そういう楽しんでいる人たちのコミュニティにどうやってアクセスしていけばいいのか考えます。

気になるのは、二ノ宮さんがそれをクリエイティブの力でなんとかしたいと思う理由です。人口を拡大したいんでしょうか?

二ノ宮さん 東京オリンピックにカヌー種目があって、そこに向けて盛り上げようと、行政から頼まれていることでもあります。カヌーの聖地っていう部分を細分化して、デザインの力でなんとかできるんじゃないかという話です。こういう話は、他地域で活動するクリエイターにも心当たりがあるんじゃないかと思うんです。

酒井さん そういう意味では、行政のオーダーをそのまま受け止めるのではなく、地域の人たちと一緒に楽しんで、「このアイデア、乗りますか?」っていう逆提案をするほうがいいです。

それって地域のクリエイターだからできることで、行政や地元企業がアサインした外部クリエイターには絶対できない。ビジターとして地域を楽しんでも、スタイルとして地域を楽しむところまで落とし込みきれません。

二ノ宮さんの場合はもう動き始めていることですが、理想としてはカヌーやラフティングと自分たちのクリエイティブとを、切っても切れないところまで落とし込んでいくと、周りも「面白そう」ってなっていく。そんな機運ができたときにはじめて行政から、「お手伝いしましょうか?」って声がかかるのがいいですよね。

すると行政の持つ公共性への信頼や安心で、より幅広い層に伝わっていくことがあります。

地域に入る1歩が地域の希望になる

二ノ宮さん 酒井さんの言うように、そういう納得できるデザインをしていく必要性はわかっていても、実際に仕事にしていくのは大変じゃないですか?

僕はほぼ新卒で個人事業として西多摩エリアに入りました。周りにはクリエイティブ領域の担い手も、対等に話せる人もいない状況だったので、ファシリテーションを組み合わせて、仕事を取っているのが現状です。

もちろん、僕自身が仲間を必要としていることもありますが、もともと西東京エリアには、美術大学やデザイン学校が多くあります。学生たちが卒業した後、そのまま地域で働きたいとき、どうやって入っていけばいいのか。つまり、どうすれば後進が続いてこれるようになるんでしょう。

酒井さん 二ノ宮さんがファシリテーションを取り入れたのは、すごく正しいことです。西多摩地域の人たちが、デザインの魅力に気付きはじめているんですもんね。だから次は、二ノ宮さんが稼ぎまくればいいと思います。

たとえば、山形もアカオニデザイン(株式会社アカオニ)があるから、「山形でクリエイティブが成立する」って気持ちになるわけですよ。少なくとも、山形でクリエイティブな仕事は無理という証明がもう立ちません。でも、このままクリエイターが増えないと、西多摩エリアでは無理という証明が立ってしまうかもしれない状況ですよね。

リスクはあるかもしれない。でも無理に人を増やすより、二ノ宮さんがめっちゃいいデザインを西多摩エリアでして、いい仕事を積み上げていって、スタッフが2人、3人と増えて、「需要があるんだ」って感じが積み上がっていくほうがいいなと思います。自分と同じ気持ちの人が集まらないかなって期待するより、自分で雇用する人を増やすって思ったほうが早いんじゃないかな。

他地域には二ノ宮さんのようなクリエイターがいないところもあって、そっちのほうが深刻です。西多摩エリアには二ノ宮さんが現れたから希望が持てますよ。急がないでいいんです。ファシリテーションもして、クリエイティブのマーケットを広げていく手応えを得た。それが大発明です。あとは二ノ宮さんの持っている手応えに向かって迷わず進む。

誰かに出会えたらラッキーぐらいに、あまり気負わずにね。

(対談ここまで)

地域にいるクリエイターは希望になれる。地域に隠れている前向きな熱量を見える化し、周囲を巻き込むようにするクリエイティブには、そんな一筋の光を差し込む力があるとわかった対談でした。

西多摩エリアには二ノ宮さんがいます。そんな二ノ宮さんと一緒にクリエイティブで地域を盛り上げる人がたくさん集まっていくことは、希望です。

みなさんの地域には、クリエイターはいますか? もしもいないなら、そこには希望になるチャンスが眠っています。最初の一歩を踏み出し、先陣を切る人を応援したい。そんな熱量をこの記事に保温しました。

自分がやってやろうと気負わずに、リラックスして楽しみながら、地域の魅力を伝える担い手が増えていけば、みんなが行ってみたい地域はもっと増えていくはずです。ワクワクしますよ。僕は、ワクワクしています。

(インタビュー撮影: 袴田和彦)
(インフォグラフィック作成: 高橋奈保子)