日本版Kickstarterも正式ローンチし、もはや一般的に認知される存在になったと言っていいクラウドファンディング。そのプラットフォームの一つ「MotionGallery(モーションギャラリー)」は2011年にスタートし、クリエイティブ領域(アート・映画・音楽など)とソーシャルデザイン領域(まちづくりプロジェクトなど)を中心に社会的な意味のあるプロジェクトのクラウドファンディングを展開してきました。
そんなクラウドファンディング文化を醸成しようと、greenz.jpでは、2015年から連載「クラウドファンディングのその後」を開始。「MotionGallery」でファンディングに成功したプロジェクトの“その後”を伝えてきました。
今回は、サービス開始から7年目を迎えた「MotionGallery」代表の大高健志さんに、改めてクラウドファンディングが社会に与えうるインパクトとは何なのか、そして私たちがどのような姿勢でクラウドファンディングに向かえば社会をより良い方向に持っていくことができるのか、話を聞きました。
大高健志(おおたか・たけし)
早稲田大学政治経済学部卒業後、外資系コンサルティングファームに入社、戦略コンサルタントとして、主に通信・メディア業界において、事業戦略立案、新規事業立ち上げ支援等のプロジェクトに携わる。 その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、クリエイティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年に日本での先駆けとしてクラウドファンディングプラットフォーム「MotionGallery」を立ち上げ。以来15億円を超えるプロジェクトの資金調達~実現をサポート。2017年には、だれでも自分の映画館をつくることができるマイクロシアタープラットフォーム「popcorn」をスタート。
クリエイティブな社会をつくるために
大高さんが「MotionGallery」をはじめたのは2011年。そもそもなぜ、まだ日本には存在して居なかったクラウドファンディングのプラットフォームを立ち上げようと思ったのでしょうか。
もともと、映画制作やアートをやりたくて、学費を稼ぐという不純な目的でサラリーマンをやっていました。そして時機がきて会社を辞めて、藝大で映画をつくる勉強を始めました。
その中で、映画やアートをつくっている人は、「社会に届けたい」と思ってものづくりをしているはずなのに、それを続けるためにはお金を集めなくてはいけなくて、やりたいことをやれなくなってしまう現状が自分の想定していた以上に切迫していると感じました。
いくら良いものをつくってもそれを”届ける”ことができなければ、社会に影響を与えることはできない。この“届かなさ”というのは、ものづくりだけでなく社会に対してアクションを起こそうとしている人みんなが抱えている悩みなのではないでしょうか。
大高さんは、「届けるために本来届けたかったものを曲げなければいけなくなってしまう」という現状を変えようと考えます。
自分でやりたいことを明確にして、それに共感する人からお金を集めてものづくりができれば、そのほうが健全ですよね。そのために「MotionGallery」という場づくりをして、舞台装置としてクラウドファンディングを広めて行こうと考えたんです。
クラウドファンディングは、個人の趣味嗜好が細分化されていく中で、通常の資金調達方法では十分な資金を得られない場合に、同じ趣味嗜好を持つ人々から少しずつお金を集めてやりたいことを実現しようという仕組みです。大高さんの目的にとって、クラウドファンディングはまさにピッタリのシステムでした。
クラウドファンディングでお金を集めるということは、社会と関係を築くということでもあります。その関係を基盤にしてプロジェクトが実現するのなら、その結果を社会にアウトプットする必要が出てきますよね。プロジェクトの結果が社会に還元されないと、みんなからお金を集める理由が説明できませんから。
自分たちがやりたいことを実現し、それを社会にアウトプットしていく。そうすれば、自分が望むものを自分でつくっていこうとする人たちが増えていって、社会は今よりクリエイティブになっていくはずだと思うんです。
プレゼンターもコレクターも
社会に還元しようとする意思があるかどうか
「クリエイティブな社会をつくる」という明確なビジョンを掲げているために、「MotionGallery」のプロジェクトの多くは、社会的な意味も明確です。リターンも単純にものやサービスではなく、コレクター(支援者)がプロジェクトにコミットできるような仕組みが備わったものになっています。
掲載するプロジェクトには、「それを通じて社会に何かを還元しよう」という意志があることを重要視しています。「そのプロジェクトが存在することが社会にとって必要だ」という意思です。
そして、「コレクターとともにプロジェクトを社会に広めていこう」という意識も必要です。そのような意識に基づいてプロジェクトを組み立てるので、コレクターの側も一緒に社会にコミットしていく仲間になることを求めて参加してもらえるんだと思います。
「クラウドファンディングで重要なのは、お金を出す人もプロジェクトをつくる一員として関わっているという意識」だと大高さんは言います。
私はお金を出す側としてしかクラウドファンディングに参加したことはないですが、たしかにお金を出した以上はその進捗を見守って、その結果が社会に広がっていくのを見届けたいという思いは生まれます。実際にコミットしようと行動することはないにしても、参加しているという意識は生まれているのかもしれません。
お金は参加者のコミュニケーションのための“メディア”であって、お金を出すこと自体が“社会彫刻”なんだという意味付けを私たちはしています。だから、コレクターはリターンだけでなく、そのプロジェクトが社会にどのような影響を与えるのかにも関心を向けるんです。
クラウドファンディングを通じて共感する仲間が集って、やろうとしていることを実現するための力も集まっていく。それを積み重ねていくことでクリエイティブな社会を少しずつ形づくっていく。
それが、大高さんがやろうとしていることなのです。
意味あるプロジェクトはコミュニティの拡大を生む
「MotionGallery」はサービス開始から7年目を迎え、掲載プロジェクトは約2,000件(2017年8月時点)にもおよぶと言います。その中には、具体的に社会にインパクトを与えたと感じられたプロジェクトがたくさんあったと振り返ります。
「MotionGallery」最初のプロジェクトだった、「アッバス・キアロスタミの映画制作プロジェクト」は一発目からエポックメイキングでした。キアロスタミの最後の作品になるだろうという映画を日本で撮りたいけれど、震災もあって難しくなってしまって、その資金を撮影地の日本で集めようというプロジェクトでした。
結果的に、500万円以上が集まり、作品はカンヌのコンペティションにまで行きました。これはお金を出した人にとってプレミアムな成功体験だったと思いますし、キアロスタミのような重要な映画作家が作品をつくる場所を残していくという社会的な目的も明確なものでした。
文化を保護すると同時にそれを未来へとフォワードしていく。キアロスタミの作品は興行的には儲からないだろうと予想できるので、それをクラウドファンディングで実現できたというのは、非常に大きな意味がありました。
アッバス・キアロスタミは映画ファンならご存じの方も多いでしょうが、一般にはあまり知られていないイラン映画の巨匠のひとりです。1997年には『桜桃の味』でカンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールを受賞しました。残念ながら2016年に亡くなり、このプロジェクトにより制作された『ライク・サムワン・イン・ラブ』が本当に遺作になってしまいました。
このプロジェクトによって「社会的に意味のある映画を、興行ベースではなく人々の力で生み出していく」という意識が広がりを生み、「MotionGallery」はその後、様々な映画を社会へと送り出していくことになりました。
これは「MotionGallery」というプラットフォームに、そのような映画づくりにお金を出すことで参加しよういう人々が集まり、コミュニティが形成されていった結果とも言えるのかもしれません。このような「意識の広がり」が顕著に表れたプロジェクトもあります。
ソーヤー海さんたちが「アーバンパーマカルチャーについての本を出版しようと始めたプロジェクト」は、お金を集めるとともに一部の人たちしか知らなかったアーバンパーマカルチャーという概念がそこから広がっていった感じがすごくありました。
しかも、アウトプットが本なので、さらに広まっていきました。それから2年ほど経って今度は「パーマカルチャー平和道場」をつくろうというプロジェクトを立ち上げたんですが、前回の3倍近い金額が集まってこの活動自体が広まっているということを実証した形になりました。
この広がりは、パーマカルチャー自体が持つ「個人を尊重し、サステナブルでクリエイティブに社会をデザインしていく」という考え方が、「MotionGallery」の思想と親和性が高かったということもあると思います。しかし一方で、確かにクラウドファンディングがお金と人というメディアを通じて思想や概念を広げていく力があることを示しているようにも思います。
「お金は何かを生み出すために使う」という価値観が
社会をクリエイティブに変えていく
さて、そんなクリエイティブな社会をつくるために「MotionGallery」をこれからもこだわって発展させていくという大高さんですが、クラウドファンディング自体が社会に馴染んできたからこそ、その姿が正しい形で伝わっていないという懸念もあるようです。
よく聞かれるのが「物乞い」じゃないのか、とか「先行販売のサイトだよね」という声です。有名人を担いで既存のファンをターゲットにお布施を募る様な内向きなお金集めや、単なる先行販売(先行割引商法)をクラウドファンディングと呼んで行うのは、プラットフォーム側は一番簡単で一番儲かりやすいんですよね。
でも、これまでの一般の流通に乗るようなものをかたちを変えてすごそうに見せているだけで社会に何の影響も与えないなら、クラウドファンディングの“ロマン”みたいなものはそこにはありません。クラウドファンディングの本質は、「公からお金を募る覚悟と心意気があり、そして結果に公共的なロマンがあるのか」ということ。
だから逆に言えば、ひたむきさとロマンがあれば、先行予約という形態をとっていても、そこには製作者と応援者のフラットな関係があり、公からお金を集める大義があるものになると思います。
「ロマン」というのは、要するに未来にポジティブな可能性を感じるかどうかなのだと思います。さらに言えば、これまでの社会の仕組みとは異なるより良い仕組みが生まれる可能性があるかどうか、なのではないでしょうか。
では、クラウドファンディングがロマンあふれるものとして社会に広まっていくために必要なことは何なのか。それを考えるには、予約割引販売のようなものがウケる理由を考えるとわかってくると思います。
今は経済性が唯一の指標みたいになってしまっていて、そのわかりやすい指標だけを評価軸にしてしまいます。だから、割引販売のようなわかりやすいものに人気が集まり、クリエイティブにお金が回らなくなってしまうんです。
ここで、大高さんの原点へと話が戻ってきましたが、クリエイティブな社会をつくる障壁となっているのは、経済性というわかりやすい指標だけが評価軸になっている社会であり、クラウドファンディングはそれとは別の評価軸をつくろうとしているということです。
そして、それは社会自体がこれから変化していく中では必然的なことでもあると言います。
これからは社会のあり方も変わっていくと思います。人口も減っていくし、高齢化も進むし、経済も低成長になる。その中では、パラレルワークだったり移住だったり、オルタナティブなものがどんどん広がっていって、色々なものをシェアしていくことで成り立つ循環型の社会になっていくだろうと思うんです。
そうなると、お金についても、お金を使うことで時間を短縮する考え方から、ライフスタイルを向上させるためにお金を使う考え方になっていくと思います。
所有からシェアへの流れというのは感じている方も多いと思います。例えばタクシーとシェアサイクルを考えると、タクシーのほうが時間は短縮されますが、シェアサイクルのほうが環境にもやさしいし運動にもなるし安い。
これは大げさな言い方をすると、時間を買うのかサステナブルなライフスタイルを買うのかという選択であり、後者を選択する人が増えてきているし、これからも増えていくはずだということです。そして、クラウドファンディングはこの流れの中にあって、されにお金に対する価値観を変えようとしていると言います。
クラウドファンディングは、お金を出すことが消費することではなくて何かを生み出すことになるという、お金に対する価値観についてのパラダイムシフトを起こそうとしているんです。
お金というのは行動のシェアの一つのあり方であるとも思うんです。ある一つのことを成し遂げるのに、実際に体を動かす人もいれば、アイデアを出す人もいて、その中にお金を出す人もいる。そのお金によって制作過程に関わるための場としてクラウドファンディングはあると思うんです。
つまり、お金をライフスタイル向上の為に使うその先に、「何かを生み出すために使う」という考え方があり、クラウドファンディングはそれを先取りして実践する場であるということ。だから、話は戻りますが、クラウドファンディングは先行割引販売の場であってはいけないのです。
クラウドファンディングはアウトプットや期限が明らかになっていて、そのお金を使って何を実現したかも明らかにされます。だから出し手としては、お金を出した結果も明確です。
その結果として社会にインパクトを与えられれば、それが成功体験となって何かを生み出すためにお金を使うという考え方に共感して行動する人が増えていくと思うんです。そうやって少しずつ、社会がクリエイティブになっていくんだと思っています。
“中間の社会”に集まる人たちを増やしたい
そして、クラウドファンディングを通して共感を広げることは今の社会が抱える課題への一つの答えでもあるのです。
いま、普段の生活の行動範囲で関わる身内だけが社会になってしまっていると思うんです。その身内の社会と外の社会との間がどんどん広がってグラデーションがなくなっている。
その中で僕は、クラウドファンディングという同じ趣味趣向を持つ人が集まる場所に、地域や行動範囲に縛られない中間の社会みたいなのを次々生み出すことで、グラデーションのある社会をつくっていきたいです。
グラデーションとは多様性であり、クリエイティブは多様性の中から生まれるという意味で、グラデーションのある社会というのはクリエイティブな社会でもあります。したがって、クリエイティブな社会をつくるには、その中間の社会に集まる人々を増やし、価値観をつなげていくことが重要になるのです。
大高さんは、greenz.jpで連載を展開する理由もそこにあると言います。
これまでの「MotionGallery」で、ちゃんと想いを持つ人がプロジェクトを立ち上げて、それに対してお金を出す人も増えるという循環は着実に生まれていると思います。
その上でやらなければいけないことは、そのかっこよさとか面白さをしっかり伝えていくこと。greenz.jpであえて募集が終わったプロジェクトについて連載を展開しているのも、価値を伝えていくことが重要だということを示す意味もあるんです。
連載「クラウドファンディングのその後」で「MotionGallery」とgreenz.jpが伝えようとしているのは、「あなたが社会とつながるための舞台がここにあるよ!」ということなのです。
ロマンを広げる立場から生み出す立場へ
「MotionGallery」を通してクリエイティブな社会という未来へのロマンを着実に広げている大高さんですが、最近では、自主上映のためのプラットフォーム「popcorn」や映像制作を行う「MotionGallery Studio」をスタートさせ、新しい場をつくろうとしています。このような活動にはどのような意図があるのでしょうか。
お金集めだけでなく、ものづくりにコミットして行き、自分達もロマンも生み出して行きたい。その言葉を態度で示すために、「popcorn」や「MotionGallery Studio」をはじめました。
「popcorn」では、「MotionGallery」から誕生した作品を、今度は各地の上映者を主役としてシェアしていくような取り組みができる場をみんなでつくります。そして、「MotionGallery Studio」では、「MotionGallery」自身も映像制作の実行やサポートを行い、制作という面からも起案者が抱く思いを映像という形にするサポートまで行います。
グリーンズの言葉を借りれば「ほしい未来は、つくろう」みたいな、自分の未来は自分でつくるというポジティブなアクションの輪を広げていくことが重要だと思っていて、そのためには消費する側から“つくる側”にまわることが大事だと思うんです。
「popcorn」は、今まで映画を観る一消費者でしかなかった人が気に入った映画をいろいろな人に届けていく場を“つくる側”に回れる仕組みですし、「MotionGallery Studio」は文字通り映像をつくる取り組みです。そうやって自分が主役になれる場所をいろいろな形でつくっていくことで社会が活気づいて、面白い未来をつくっていけるような気がするんです。
「popcorn」を使った上映会は私もグリーンズのオフィスでやっていますが、リスクもなく、やりたいことをやって、そこに興味を持った人がお金を払ってきてくれています。それは自分自身楽しいし、来てくれた人にも楽しんでもらいたいという強い思いを抱くようにもなります。
その思いが伝われば、来てくれた人がまたどこかで上映会を開いてくれて少しずつ広がっていく、そんな未来があるのかもしれないとぼんやりと思うこともあります。
自分にできることは文章を書いたり、そういう上映会をしたりする程度のことですが、みんながそうやって自分ができることをやれば広がっていく。それはもちろん、共感したプロジェクトの支援者になることでもいい。大高さんがやっているのは、そうやってみんながやりたいことができる舞台を増やしていくことなのだと話を聞いて思いました。
直接行動することだけでなくて、何かを生み出そうとしている活動にお金を出すこともクリエイティブな行為だと思う。
クリエイティブな社会をつくるために自分にできることとは何なのか、いろいろな人が用意してくれた舞台のどれを使って表現するのが自分らしい事なのか。そんなことを改めて考えることから、未来への可能性は広がっていくのだと思います。