河口近くの港、鉄橋にはカモメ。
海面めがけて飛び立ったかと思うと、クチバシにイシダイが。
「とんだー!」「魚食べてる!」
双眼鏡に顔を近づけたり、よく見える場所に移動したり。子どもたちの表情が、くるくる変化します。
NPO法人チーム1.5おおいたが主催する「子ども地球教室」でのこと。
参加しているのは、県内の小学4年生〜6年生21名です。親元を離れた1泊2日の自然体験をサポートするのは、中学生から大学生までのリーダー。実は、子ども地球教室の運営を担うスタッフも、学生リーダーも、かつてはイベント参加者やリーダーだったそう。今年で9年目を迎える子ども地球教室では、自然体験にとどまらず、若者が子どもたちの学びの場を共につくる、人の循環も緩やかに生まれているようです。
関わる人がいるから、活動が続いていく。言葉にすると当たり前に感じますが、実は、多くのNPO団体が課題を感じているところではないでしょうか。内閣府の「特定非営利活動法人に関する実態調査(令和5年度)」によると、団体が抱える課題の上位を占めるのは「人材確保や教育」「後継者の不足」「収入源の多様化」。人も財源も、活動の存続に直結する要素ですが、そこに難しさを感じている団体は多いようです。一方で、社会に目を向けると、今後ますます人口減少が進み、税収は減り、公共サービスが縮小していくと予想されています。今まで「公」が担っていた機能が縮小していく地域社会で、私たちは、どう環境や文化を保持しながら暮らしていくのか。そんな問いに、すでに直面している地域も少なくないかもしれません。
社会課題の解決をミッションとするNPO法人の活動が続いていくことは、縮小する地域の持続にどう関わっていくだろう。そして、多くの団体が感じる「人」と「財源」という課題感を解決する糸口はなんだろう。社会、地域、活動、どれもが健やかに続いていくためのヒントを探しに、NPO法人チーム1.5おおいた代表の松本明美(まつもと・あけみ)さんと、事務局次長の脇谷瑠眞(わきや・りゅうま)さんに会いに行きました。
まず、やってみる
お二人のもとを伺ったのは、子ども地球教室の初日。夏の教室に参加した子どもたちが再び集う「冬の地球教室」に同行させてもらいました。今回の活動場所は、大分県北東部の国東半島。12月初旬、空気は少し冷たいけれど陽が差すとあたたかい。そんな初日の活動は、野鳥観察からはじまりました。はじめに、子どもたちの様子をご紹介しましょう。

別府市の朝焼け。国東(くにさき)市は、別府市から車で40分ほどのところに位置する。海も山もある自然豊かな地形で、国東半島宇佐地域は「クヌギ林と複数のため池がつなぐ農林水産循環」が2013年に世界農業遺産に認定されている
野鳥観察の場所は、大分空港から車で10分ほどのところにある荒木川の河口付近。集合して間もなく、子どもたちはNACS-J(公益財団法人日本自然保護協会)およびNPO法人大分環境カウンセラー協会に所属する先生から双眼鏡の使い方を教えてもらいます。中には初めて双眼鏡を手にする子も。使い方のポイントを確認して、班ごとに観察に向かいました。
観察場所の川にかかる橋は車が往来し、決して大自然の中での活動ではありません。それでも、すぐに聞こえてきた「鳥が泳いでるよ」「橋にいっぱい黒いのが止まってる!」という声。先生やリーダーは、望遠鏡の焦点を野鳥に合わせたり、鳥の大きさや鳴き声の特徴を伝えたりして、子どもたちの活動をサポートしています。
川から空き地、漁港へと歩いて観察を続けると、場所によって鳥の種類がちがい、約40分間の間にカモメやトビ、カワウやカルガモなどの17種類が見つかりました。
つぎの目的地までは車で30分ほど。川の源流近くの地域にある障がい者サポートセンター「三角ベースやまのいえ」に向かいます。「三角ベースやまのいえ」は、社会福祉法人共生荘が運営する、就労継続支援B型作業所と地域活動支援センターの拠点。耕作放棄地となった土地を活用して農場を運営し、トラクター型の大型機械、農薬や化学肥料をつかわない自然農法で作物を栽培・加工・販売しています。ここで子どもたちが体験するのは、「菊芋」の収穫です。
黒みがかった、ふわふわとした畑の土は、一見何も埋まっていなさそう。でも、クワやスコップで少し掘ると、たくさん菊芋が出てくること!最初は遠慮気味だった子も、夢中で土を堀っては、見つけた芋をコンテナに集めます。
収穫に疲れた子は休憩したり、リーダーと話したりしながら、それぞれのペースで体験の時間を過ごしました。子どもたちも、リーダーも、スタッフも、体験を一緒に楽しみながら、困っていそうなときは声をかけあう。友達のような、家族のような雰囲気で活動が進んでいきます。
関わり続けていくこと
NPO法人チーム1.5おおいた(以下、チーム1.5おおいた)は、県主催の市民環境大学OB会の活動がきっかけで設立された団体です。団体では、2015年のパリ協定で「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」という目標が示されたことを受け、2016年に「チーム2℃おおいた協議会」に名称を変更。松本さんと脇谷さんが活動に参加するようになったのは、その頃のことです。
松本さん 環境問題に関するイベントに参加したとき、知り合いに誘われたのが参加のきっかけです。イベントをするときは、勤務していた高校でボランティアスタッフを募集して。そのときから、ボランティア部の1年生だった脇谷くんが来てくれるようになったよね。
脇谷さん そこからですね。高校3年間は子ども地球教室のリーダーで参加して、卒業する頃から運営も一緒にするようになりました。
松本さんの誘いに応じて、いろいろなイベントにボランティアで参加するようになった脇谷さん。特に、団体の活動の軸である「子ども地球教室」に関わりたい思いは、どんどん強くなりました。長年教室の担当をしていた方が高齢で活動を引退したこともあり、高校卒業のタイミングで運営の中心を担うように。現在は、チーム1.5おおいたのスタッフとして活動に携わります。他のメンバーは本業ありきの活動ですが、脇谷さんはスタッフとして関わりたい思いが強かったそう。
脇谷さん 大学生の時も、教室のことを考えて1年間過ごす感じでした。就職について考えた時、地球教室が大好きで、ずっとやっていきたい思いがあったので「スタッフとして続けたいのですが、なんとかなりませんか」って、松本さんに相談したんです。
松本さん チームのみんなも、脇谷くんにそんなことをさせていいのかい、ご両親はなんて言っているんだい、って話をしてね。
脇谷さん 親にも相談すると「あなたがやりたいことをやりなさい」って、理解してくれて。今はスタッフとして給与をいただきながら、アルバイトをして活動を続けています。
当時のことを振り返り「最初はこんなことをさせていいんだろうかって、本当に心配だった」と話す松本さん。今は、生き生きと活動する脇谷さんの姿に「任せっきりです」と笑顔で話します。
脇谷さんを事務局次長に迎えた団体は、2021年にNPO法人化し、「NPO法人チーム1.5おおいた」に改名。現在は約20名のメンバーが所属しています。そのうち半数は県の地球温暖化防止活動推進委員も担いながら、温暖化対策講座や自然観察会、クリーンキャンペーンなど、各々の専門性を生かしたイベントを開催しています。
自分らしさが出せる、気楽な関わり方がいい
子ども地球教室がはじまった当初は、県の助成金を受けて、親子対象の日帰り自然体験をしていました。そこから、子ども対象の宿泊教室に。さらに、参加費によって体験の差が生まれる状況を変えるために、積水ハウスマッチングプログラムに申請し、参加費無料で開催できるようになりました。
今では定員を大幅に超える申し込みがあり、継続的に活動をサポートする学生リーダーも増えています。さらに、参加者の保護者や、社会人になった元参加者もボランティアスタッフとして関わります。
活動の様子を見ていて印象的だったのは、みなさんの関わり方の自然さ。参加者とリーダーは、夏の2泊3日の子ども地球教室でも一緒に活動していたため、集合したときにはすっかり打ち解けた雰囲気でした。そんな感想を伝えると「多分、距離感が近いんです」と脇谷さん。
脇谷さん こういう活動ってスタッフやリーダーの役割がはっきりしているところも多いですが、自分はあまり好きじゃなくて。もちろん集団行動を学ぶのは大切だと思うんですが、子どもたちは普段の生活で年上の人と接する機会があまりないので、ここでは気楽に話したり、あだ名で呼びあったり、ちょっと気楽な関わり方をしてもいいかなと思っています。
子ども地球教室で大切にしているのは「消しゴムのいらない学びの場」であること。子どもたちの言葉を受け止めることで、間違いはないと感じてもらいたい思いがあります。だからでしょうか、活動中に大人やリーダーが大きい声を出すのは「次は〜〜だよ」「〜〜に行こうか」と活動を促すようなときばかり。「〜〜しなさい」「〜〜はダメ」といった指導的な言葉は聞こえてきませんでした。
脇谷さん もちろん危険なことや、人が嫌がることは伝えます。それ以外は、子どもたちに、のびのび自由にやってもらっていますね。大人に言われるとどうしても構えてしまって、自分らしさが出ないと思っていて。だから、ほとんど口出ししないようにしています。それができるのは、リーダーが安全管理含めてしっかり見てくれているからです。
夏に開催した子ども地球教室では、参加者一人ひとりが目標を掲げて活動したそう。自然や環境に関係ないことでもよく「人と喋るのが苦手だから、喋れるようになりたい」「友達をつくりたい」などの目標もあったと言います。
脇谷さん 3日間一緒に過ごす中で喧嘩が起きることもありましたが、大人がへんに口出しをするよりも、子どもたち同士のつながりで自然に助け合うようになっていました。子どもたちは偉大だな、と感じています。
そう話す脇谷さんの表情は柔らかです。
「つながり」があるから
今回の教室には2歳から70代のスタッフまで、幅広い年齢層の人が関わっています。松本さん曰く「世代関係なくどんどんつながっていく」そう。驚いたことに、移動をサポートするバスの運転手さんと子どもたちの間でも会話が弾んでいました。なんでも、バス会社の方も長年活動を応援してくれていて、スタッフと運転手さんがリラックスして話す様子を見て、子どもたちも自然と交流するようになるのだとか。
脇谷さん 今日の体験先も、メンバーのつながりから引き受けてくださったところばかり。団体だけでは子どもたちに経験させてあげられないことを、周りの人や企業が協力してくれて実現できています。何より、ずっと協力してくれているスタッフや、学生リーダー、社会人になった子たちが手伝いに参加してくれる。人のつながりがあるからこそ、継続できている事業だと思っています。
事業をこれからも続けていくために取り組みたい課題もあります。それは団体活動の財源をどう確保していくかということ。
松本さん チーム1.5おおいたの活動は補助金に頼る部分が多いんです。それがなくなったら続けられなくなってしまう。いろいろなことができる「人とのつながり」はあるので、それを結び付けて事業化できたらいいなとは考えていて。
脇谷さん スタッフの面でいうと、学生リーダーを支える立場として、社会人のスタッフにも声をかけています。今日来てくれている子はほぼボランティア、仕事を休んで来てくれた子もいて。謝金も渡したいし、みんなの負担にならない環境をつくっていきたい。教室の応募数も年々増えているので、なるべく参加人数を増やしたい。ですが、今の金銭面やスタッフの規模では叶えられないところもあります。
今よりボランティアスタッフが活動しやすい環境をつくり、子どもたちの声に応えられるように。松本さんや脇谷さんは、他団体の活動も参考にしながら解決策を見つけようとしています。ただ、解決策を考えるあまり、今までの活動を疎かにしてはいけないという強い思いもあります。
体験して、自分で感じること
というのも、団体では、急速に進む地球温暖化や気候変動について、子どもたちが自分ごととして考えられるようになることが大切だと考えているのです。そこで4年前から、子ども地球教室の活動の中で、自然について考え、伝え、行動するリーダーを育てることにも力を入れています。
松本さん 今の地球温暖化の状況はもう、大人だけでなんとかできる状態ではないと思うんです。未来を考えると、子どもたち自身に自然を守りたい気持ちが出てくることが大切になる。でも、いくら「自然を守ろう」って言われても、体験がないとわからないと思うの。それは大人が教えることじゃない、自分で感じることです。
ここで身体感覚として捉えたことを、未来につないでいけるように。みなさんが子どもたちに向ける「自分らしく」いられるような関わり方やまなざしは、学生リーダーにも同様に向けられています。
脇谷さん リーダーへの事前研修はしますが、こちらから「こうしてほしい」とは言わないですね。自分たちで積極的に子どもたちと関わってくれます。もともと参加者だった子は、自分の体験からどうすればいいか感じてきていると思うし、子どもたちとの関わり方の中で、一人ひとりの個性が輝いているんです。
継続して活動に参加する子の中には、自然環境に興味を持つようになったり、地域活動に参加するようになったり、自然エネルギー発電所を見学したのがきっかけで「地熱発電の技術者になりたい」という夢を持った子もいるそう。学生リーダーにとっても、自然に触れる体験や、自分らしい関わり方で活動をサポートすることは、新たな視点や価値観に触れるきっかけになっているようです。
松本さん ここでの活動を通して、これからも地球が続いていくように、温暖化や環境に対して自分の考え方を持ち主体的に行動していってくれると、嬉しいです。
教室の運営をサポートしていた日本文理大学名誉教授の杉浦嘉雄先生によると、今、過疎高齢地域では環境系のNPO団体は「絶滅危惧種」といえる状況にあるのだとか。まだ大分市内では課題として表面化していないものの、 今回野鳥観察や収穫体験をした国東市の荒木川流域には、もともと環境系NPO団体は一つもありませんでした。そこで、杉浦先生自身も、数年前に三角ベースや地域の人たちと共にNPO団体「荒木川流域プロジェクト実行委員会」を設立。環境に限らず多様な社会課題に取り組む持続可能な地域づくりの実践を続けています。

体験先のコーディネートや野鳥観察の先生として活動をサポートする杉浦先生。野鳥観察と畑は、川の河口と源流の関係にあり、源流付近の耕作放棄地を自然に負荷がない方法で活用する「三角ベース」の活動は、河口の環境保全にもつながっていることを、子どもたちに伝えていた
杉浦さん 日本で今や当たり前になったSDGsの直訳は「持続可能な開発のための目標」ですが、地域づくりに置き換えて意訳すると「地域住民による、持続可能な地域づくりのための目標」とも言えます。地域が続くためには、地域づくり活動が続く必要がある。その上でSDGsが示す17の目標群が3層構造になっていることの理解が重要です。

上図「SDGsのウェディングケーキモデル」は、「自然資本」「社会」「経済」を3層構造で示している。https://www.stockholmresilience.org/research/research-news/2016-06-14-the-sdgs-wedding-cake.htmlより引用
目標群の関係性を3層構造にした「SDGsのウェディングケーキモデル」が示すのは、地域固有の自然こそが、相互扶助のある豊かな地域社会の土台だということ。そして、豊かな自然資源を生かすことで、地域経済の可能性を高められるという関係性です。地域のNPO団体の事業の継続と地域の持続可能性を絡めて、杉浦先生はこう続けます。
杉浦さん 地域の団体が行う自然環境系の事業に地域の人が参画し体感することで、固有の自然や歴史、文化などの「地域の宝物」に改めて気づく。すると、郷土に誇りをより深く持てるようになり、それは地域の自信になります。
さらに環境系に限らず多様な分野の事業にも関わった人は、SDGsのウェディングケーキモデルが示す「持続可能な地域の土台は、自然資源にある」という関係性に気づき、地域づくりの主役になっていくことが期待できます。
また、チーム1.5おおいたのように多様な立場の人が連携して事業を行うことで地域内のつながりが育まれ、自然資源を生かした事業を実施しやすくなり、持続可能な経済の仕組みを生む可能性も高まっていくのです。
これからも社会や地域、活動が健やかに続いていくためのヒントを探しにきた今回の取材。杉浦先生のお話に、子ども地球教室の今を重ねました。
活動を続ける意思を持つ脇谷さんのようなスタッフがいて、若者が継続的に活動に関わる土壌があること。助成金によって、内容を充実させながら活動できていること。自団体で財源を生み出すことに課題感がある一方、思いに共感してくれる個人や企業、支援の仕組みが既にあることは、活動の基盤になっているのではないでしょうか。そして、チーム1.5おおいたのように、団体の活動が続いていくことは、地域づくりの主役やリーダーを育み、持続可能な地域経済の仕組みをも生み、地域が続くことにもつながります。
ますます縮小する地域で、どう豊かに暮らしていけるかという問いへの答えやアイデアは、すぐに出るものではありません。ただ、子ども地球教室でのあたたかな時間や、スタッフのみなさんの「みんなが自分らしく」いられることを大切にする眼差し、子どもたちの表情を思い出すと、「一緒に進む」という姿勢が、個人や団体、地域や社会が健やかに続くことの一つのヒントになっているのではないだろうか、と感じています。
暮らし手一人ひとりのあり方や姿勢によってつくられる地域が、これからも健やかに続いていくために。その方法について、これからも考えていきたい思いが増しています。
(撮影:福留敦巳)
(編集:池田美砂子)
















