WEBマガジン「greenz.jp」がタグラインを「生きる、を耕す。」に変えてから、1年と少し。アイデアやヒントを情報発信するだけでなく、自分たちも実践しよう!という決意表明として、近頃は「実践するWEBマガジン」という言葉をあらたに掲げました。
その第一歩として、昨年10月、埼玉県秩父郡の稲穂山のリトリートフィールドMahora稲穂山で、グリーンズスタッフやグリーンズライター、greenz people(寄付会員)が集まり、「食」に向きあうキャンプ「green camp Inahoyama」を開催しました。この記事では、「生きる、を耕すって大変!でも楽しい!」を実感した2泊3日を振り返ります。
グリーンズみんなの“願い”から生まれた「green camp」
グリーンズのオフィスは東京都千代田区にありますが、メンバーは日本各地に暮らしています。例えば共同代表の植原は熊本在住、編集長の増村は長野在住。そのため、会議などは基本リモートでおこなっていますが、取材やイベントの機会に集まったり、出張の際にはランチ会の呼びかけがあったりと、リモートワークのわりには、普段から顔を合わせています。
さらに、年に一度はグリーンズメンバーみんなで集まるグリーンズ合宿を行い、ワークショップはもちろん、夏はビーチフラッグ、冬は雪合戦をするなど、さまざまな角度からチームワークを高めます。
そんなグリーンズ合宿をきっかけに生まれた企画が「green camp」。いま必要なのは、一歩目をみんなで実践してみる場なのではないか。合宿に参加したみんなが声を揃えて「やりたいね!」というならば、実際にやってみよう!ということで、今回は「食」をテーマとして、「生きる、を耕す」キャンプを開催することにしました。
まず話し合ったのは、どのくらい「耕すのか?」ということ。普通にキャンプに行くならば、便利なキャンプ道具を持ち込んで、キャンプ場に近いスーパーで食材を調達すると思うのですが、それらを手放したいね、という話に。例えば食材をつくるところからは難しいけれど、野菜はキャンプ場近くの農家さんから収穫し、猟師さんにシカやイノシシの肉をわけていただき、野草に詳しい方に教えてもらいながら野草を収穫して、それらの食材でごはんをつくることにしました。
参加するのは、大人と子どもを合わせて35人程度。子どもたちがいるので、炊飯に失敗するわけにいかないのですが、それでも薪で火をおこして、竹林整備から用意した竹でごはんを炊く決意をしました。
薪は、さすがに丸太は調達するけど、自分たちで割ることに。それは大変なのではないか、という声も複数ありましたが、大変なこともちゃんと引き受けるのが「生きる、を耕す」ことなんじゃないかなど、green camp実行委員会(増村、小倉、長島)を中心に、キャンプが始まる前から熱い議論を重ねました。
(※)green“z” campではなくgreen campなのは、「green drinks」からの発想です。「green drinks」とは、イギリスのロンドンで始まり、現在は世界500都市以上で開催されているソーシャルイベント。自分たちのまちや社会のこと、ローカル経済について、フードやドリンクを片手に楽しく話し合うイベントとして、グリーンズでも2007年から継続して開催しています。
さて、いよいよキャンプ当日。「食」をテーマにするにあたって、3箇条のルールを設けました。
「自分でつくる、みんなでつくる」ということで、薪割り、かまど&火おこし、炊飯、肉、スープ、それぞれチームに分かれ、2泊3日、計6食をつくることに。
そして、「ごみを出さない」ために用意したのは、ダンボールコンポスト。果たしてキャンプ終了時にどのような姿になるか…。「自然の中にいることを感じる、楽しむ」も忘れずに、キャンプスタートです!
薪割りは、子どもたちも大活躍!
まず、ごはんづくりになくてはならないのが燃料と火ですが、Mahora稲穂山に準備いただいた「丸太」を火にくべる「薪」にしていきます。本音をいうと、木を伐るところから始めたかったのですが、日程的にプログラムに組み込むことができず。それでも35人、2泊3日分の薪割りはそれなりの作業量です。
自宅で薪ストーブを使っているメンバーもいるため、マイ「クサビ」(先端が細くて三角柱や円錐形などの形をしている、金属でできた道具)を持参した人も。薪割り台の上に置いた丸太にクサビを設置し、そこに向かってハンマーで叩くと、子どもの力でも薪を割ることができます。コツをつかんだ子どもたちが、力を合わせてどんどん割っていきました。
そして大人たちは、斧で薪割りにチャレンジ。野球でも打つときにバッドの芯でボールを捉えると遠くに飛ぶように、斧が薪の中心を捉えるときれいに割ることができます。スパンと二つに割れるのがクセになるような感覚だと話しながら作業に集中していると、あっという間に薪が山積みになりました。
火をおこして、U字溝かまどで調理
竹筒ごはん以外の調理はすべて、かまどで煮炊きをします。「かまどをつくる」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、耐熱レンガを組み合わせて、網を置いたらブロックかまどの完成。使ったら片付けるので耐熱レンガを固定する必要はなく、網や鍋のサイズに合わせて自由に組み立てることができます。
それ以上に簡単なのが「U字溝かまど」。耳慣れない方もいるかもしれませんが、U字溝は、側溝や水路に利用されている連結式の排水溝です。つくり方はいたって簡単で、かまどを設置したい場所にU字溝を横たえれば完成です!
そして、ここからが本番。かまどに火をおこします。
ここで火おこし名人の登場、ライターの西村祐子さんが本領発揮。子どものころからキャンプに親しみ、焚き火大好きっ子だったメンバーが、火おこしのコツを伝授してくれます。やみくもに枝や薪をおくのではなく、空気の通り道を考えて組み立てる。なるほど、と思いながら並べてみるものの、名人のようにはスムーズに火が付かず、火おこしの奥深さを知ることに。
竹を使ってごはんも炊けた!
お米さえ炊けたら、その一食はなんとかなる。もしうまく炊けなかったら……。炊飯チームに課せられた、「なんとしてもご飯だけは失敗できない」というプレッシャーはかなりのものがありました。お米の吸水時間、水の分量、火加減、炊き上がりの蒸らしまで、普段なら炊飯器のボタンひとつでできますが、今回は使うのは鍋と竹。炊き上がるまで火のそばを離れず、火加減を見守り続けました。
普段から鍋で炊飯しているメンバーも何人かいましたが、今回はさらに竹を使ってご飯を炊くことにもチャレンジしました。編集長・増村が地元長野から運んできた真竹を使って、竹筒ごはんづくりがスタート。この日のために自宅で2回も試作してきたという共同代表・植原が、みんなにレクチャーします。
まずは竹の節と節の間をノミとカナヅチであけ、研いだお米と分量の水を入れます。そして美味しく炊くためには火加減が大事なポイントです。直火で強火だと竹そのものが焦げてしまうし、逆に火から離しすぎると、中の水が沸くまで時間がかかってしまうという難しさがあり、火の強さと炊飯の進行具合を五感で感じながら調整をしていきました。
10分ほど蒸らして蓋を開けると、「お~!」という安堵と歓声が。竹筒で炊いたごはんは、ほんのり甘味が増したようでした。
肉を捌いて、命をいただく
秩父の山で猟師としても活動する石黒勝さんから、アナグマ肉とシカ肉をいただいて、ジビエ料理にチャレンジ。
勝さんから受け取った獣肉は、そのまま動物の形をしていて、少し前まで生き物として生きていたことを想像させます。
参加したメンバーのほとんどが、動物の肉を捌いた経験がありません。勝さんからレクチャーを受けて進めていきましたが、慣れない作業にかなりの時間がかかりました。やっとの思いで捌いた肉は、BBQやお鍋、唐揚げになりました。
ひたすら獣肉と向き合って捌いていたときの体験を、メンバーに振り返ってもらいました。
骨や腱、血管や神経のようなものもあって、筋膜で包まれていて。いま、私が捌いているこの獣は、この足で山を駆け回り、エサを捕まえて生きていたんだなと、「命」をリアルに感じさせられました。命を奪う罪悪感というものともまた違う、これまでには感じたことのない対象物への感謝や慈しみのような感情が込み上げてきた、不思議な体験でした。
スープの味付けは、「さしすせそ」のみ
35人分のスープをつくるって、一体、野菜をどのぐらい準備したらいいの?水は?と相談しながら、調味料「さしすせそ」を基本にスープをつくっていきました。具材は、みんなで持ち寄った地元野菜。ジビエの骨はいい出汁にもなりました。
2日目は近所の農家さんにいただいた大量の栗もスープに。「牛乳があったらポタージュになるのに…!」とつぶやきつつ、じっくりことこと煮込んで、牛乳なしでも美味しい栗スープができあがりました。
10月といえばまだまだ冷える秩父の山。疲れたり冷えたりした体に優しく染み渡るお味でした。
食べられる?食べられない?昼食の材料は「野草」
2日目は畑チームと野草チームに分かれて、追加食材の調達をおこないます。
野草チームは、秩父の山の野草ガイドさんと一緒に、Mahora稲穂山で野草摘みへ。敷地内には食べられる植物が散在していて、「これも食べられるの?」といった驚きと発見に満ちた散策になりました。
知識として知らなければ草としてスルーしてしまうところを、知識を持っている方と一緒に山を歩くと、食べものを得るために歩くような感覚になります。採ってきた野草はおひたしやスープ、サラダに。他にも、近隣の農家さんから栗や野菜をいただきました。
食事づくりの周辺で「耕されていたこと」
2泊3日、6食のごはんづくりに追われるなか、あちこちで「お、耕してるね~!」という声があがっていました。
たとえば食事のメニュー。2日目の夕食づくりのころ、残り少なくなってきたジビエ肉は、少し筋張った部位が多くなっていました。ちょうど、食に向き合って作業を続けるなかで疲労が出てきたり、夕方からの雨で外で遊べなくなった子どもたちにストレスが見えてきたころ、「今夜は唐揚げにしよう!」との提案が。最初に準備した調味料「さしすせそ」に「小麦粉」は含まれません。ですが、ジビエの特長や子どもたち向けのメニューを鑑み、ここで急遽「小麦粉」を買いにいき、唐揚げにしたのでした。
「生きる、を耕す。」とともに、グリーンズが大切にしているキーワードに「すこやかさ」があります。人も社会も環境もすこやかに暮らすために、本当に必要なものは何か。小麦粉ひとつですが、本当に買いに行くのか? という考えが頭をよぎることも、ひとつの「耕す」ことなのかもしれません。
ちょっとおもしろい気づきだったのが、お風呂。ふた晩を過ごすなかで、毎日お風呂に入る人、1日目は入らない人に分かれました。近くの温泉施設に行って一日の疲れをとってきた人と、たき火を囲んでひたすら談話していた人と、ちょうど半々ぐらい。心地いい暮らしに必要な癒しは、人それぞれがいいですね。
そして何より、「耕し上手」なのが子どもたち。おもちゃがなくても、枝を振り回し、塀をよじ登る。はじめましてのおとなの背中にも、よじ登る。「危ないよ」の声がかかるまで尽きない発想力に、耕すことの楽しさがあふれていました。
わたしたちは、生きる、を耕せたか?
最終日。昨夕から降る雨の音を聞きながら、この2泊3日を振り返ります。
まず、「ごみを出さない」はどうなったのか。実は2日目の途中からダンボールコンポストは生ごみでいっぱいになり、土で覆いきれず匂いも出てきていました。
飲み物の空き缶や空きビン、食材を包んでいた包装プラスチックなども、それなりの量に。「ごみを出さない」は完全に達成できたとは言えませんが、コンポストの適切な利用や、分別してリサイクルするなど、あたりまえのことを改めて実感しました。
最後にひとりひとり言葉を発して振り返る時間をとりました。
暮らしの裏側を体験できた。
夜を共にすることで、メンバーとつながることができた。
レシピありきではなく、ありあわせでつくる料理の楽しさを知った。
野草を知ることで、ふつうの道が畑に見えてくる。
勝さんからもらった「自分のやりたい暮らしのために、一部こだわる」という言葉が印象的だった。
「生きる、を耕す。」という言葉を共有しているので、「これは耕してないかな」「お!耕してるね~の会話が楽しかった。
ごはんをつくって食べるだけで、一日が終わる。正直、もっと対話の時間がほしかったという気持ちもある。すべてを手づくりにする難しさを実感して、これから生きるのかを考えるきっかけになった。
ごはんづくりに追われるなかで、「普段はなぜそうじゃいんだろう」という気持ちが湧き上がってきた。
みんなが口を揃えて言っていたのは、「ひとりではできない」ということと、「あたりまえだと思っていたことを体感した」ということです。食事をする、という日常の行為ひとつとっても、食材となる米や野菜を育てて収穫する。魚や動物を獲り、さばく。調理道具を用意する。火をおこして、調理する。そうした一つひとつのプロセスを経て、ようやく食事に至っているのだということを、5回の食事づくりを通してメンバーの共通体験として得ることができました。さらに食卓を豊かにするためには、野草の目利きができる人、食材に合った調理方法を知っている人など、一人ひとりの知見をもちよる必要があることも。
消費者の立場のままでいると気づくことができない生産者の思い、オーディエンスでいるだけでは会得できない実践者の知恵に、ほんの少しだけでも近づくきっかけになったように思います。
「薪は買うのか、割るのか」「着火剤は使うのか」「カレー粉はありなのか」という小さい疑問をひとつひとつ話し合い、つくりあげたキャンプ。単なるイベントで終わらない、暮らしにつながる何かをそれぞれ持ち帰ることができました。
それにしても、「食べることは大変」であることを実感したことも事実。「あたりまえ」だと思っていたことを一つひとつ自分たちの手でつくったからこそ、暮らしをつくったり工夫したりすることの醍醐味も味わい、それもまた人間の創造性だと実感できたキャンプでした。
みなさんもぜひ、日常を抜け出して、自然のなかへ入ってみてください。そして、便利さを少しだけ手放して、「つくる」ことに向き合ってみてもらえたらと思います。それが、「生きる、を耕す。」のはじめの一歩なのではないでしょうか。
(撮影:渡邊雅斗)