「このままいくと、2040年までに世界の平均気温は産業革命後から1.5度以上上がる」
IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、そう警鐘を鳴らしています。
気候変動は世界的な現象ですが、その影響の大きさや進行の速さには地域差があります。急激に環境が変わりつつある地域のひとつが、北極圏。
北極圏は、多くの面積が氷におおわれています。氷は太陽光の反射率が高く、熱を吸収しにくいのですが、温暖化で氷が解けることで海が温まり、それでさらに氷が解けやすくなり…という負の連鎖が進行しているのです。
北極圏の町、フィンランドのサッラ。冬には最低気温マイナス45℃、平均気温でも氷点下を下回るその町は、スキーリゾートやトナカイ公園、北極圏のサファリや氷のホテルなど、雪や氷で観光客を集めています。そんなサッラにとって、気候変動は町の経済やアイデンティティに関わる深刻な問題。
なんとか世界の人たちに、気候危機の深刻さについて気づいてほしい。
そのためサッラが発表したのは、なんと、2032年「夏季」オリンピックの招致!
むしろ冬季の競技にピッタリな町なのに、「このまま気候変動が止まらなければ、夏季のオリンピックに快適な町になるんですよ」とアピールする形で訴えたのですね。
サッラは、環境活動家グレタ・トゥーンベリを始めとする若者が立ち上げた環境団体「Fridays For Future」の支援を受け、招致ムービーやロゴマーク、マスコットキャラ、広告素材など、IOCに開催地として名乗り出るために必要なツールを本格的に制作。気候危機の影響を受けにくい都市に住む人たちに訴えるべく、#SAVESALLAのハッシュタグで世界に発信しました。
招致ムービーでは、寒々しい雪景色をバックに、サッラのリッキ・パルッキネン町長はシリアスな表情で呼びかけます。
フィンランドで最も寒い町、サッラへようこそ。ここで2032夏季オリンピックを開催したいと思います。
雪にまみれながらのビーチバレーやサーフィンなど、ユーモアを交えながらも、忍び寄る気候危機を「体を張った」パフォーマンスで伝えるガチな映像となっています。
正式な招致ではないものの、このブラックユーモアのようなアクションはSNSで大反響を呼び、118カ国、1,200以上の媒体で取り上げられることに。若い環境活動家たちが各国の政府や法曹関係者に気候危機を訴える世界的なアクションにつながりました。
じわじわと進行し、見て見ぬふりをしているうちに、取り返しがつかないことになっている…というのが、気候危機などの環境問題です。思わず二度見してしまうような意外性のあるアプローチで心を掴み、ユーモアを織り交ぜながら「本気で」つくられた招致ツールをみんなに使ってもらえるようにする。核となるアイデアを細かくつくり込むことが、このキャンペーンを成功に導いたのではないでしょうか。
社会課題が深刻であればあるほど、その課題を伝えるためには「本気の」ユーモアやクリエイティビティが必要なのだな、と関心させられる事例です。