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秋田各地でプロジェクトがむくむくと誕生中! 秋田・ソーシャルデザインの学校初の成果発表会を開催したら、地域のソーシャルデザインに希望が見えてきた。

秋田に地域づくりのリーダーを増やしていくことを目的に、2018年9月に開校した「秋田・ソーシャルデザインの学校」。記念すべき第一期生のプロジェクト発表会が3月21日行われました。

秋田という限られたフィールドで今後実践していくプロジェクトの発表ですが、地域での”学び直し”のあり方や、ソーシャルデザインを考える上で多くの学びがある発表会となりました。

今年度の振り返りをしつつ、発表会の様子をレポートします!

秋田・ソーシャルデザインの学校とは

この「秋田・ソーシャルデザインの学校」がどのようなものかは、開校したときの記事を読んでいただきたいと思いますが、ここでも簡単に説明すると、地域づくりのリーダーになりうる秋田県内の地域のプレイヤーの方々にソーシャルデザインの最新の事例やノウハウをお伝えするとともに、横のつながりや他地域とのネットワークをつくっていこうというものです。

このようなスクールを開く背景には、秋田県の抱える問題がありました。たとえば、過疎先進地域の問題。秋田県では、人口が減少しても地域コミュニティが維持活性化できる地域づくりに取り組めるようにするため「地域の元気創造課」を設置、県内各地で周囲の人を巻き込みながら、これまでにない発想で地域の課題解決に取り組む「地域づくりリーダー」を養成する取り組みをはじめたのです。

今回の学校は、その「地域づくりリーダー」を育てることも狙いの一つ。とは言っても、すぐに地域づくりに取り組む人を集めるのではなく、地域に関心を持つ若い人たちに実践する力をつけてもらい、他の地域の人たちとのつながりもつくることで、5年後10年後に秋田県全体に地域づくりリーダーが増えていったらいいなぁ…と思っているそうです。

そんな遠いようで近い未来の目標を達成するため、秋田県とグリーンズ、ハバタクが手を取り合って、学校はスタートしました。

募集に対して応募をしてきたのは26人、選考を経て10人が第一回の受講生となりました。受講生は県北の鹿角市、八峰町、県央の秋田市、潟上市、県南の羽後町、横手市と地域的にもバラけ、さらに神奈川県からの参加者も。職業も公務員から、学生、農家まで、年齢は20代から40代までと、バリエーションに富んだメンバーとなりました。

地域づくりリーダーを増やす!

秋田県が目指す地域づくりに向けた取り組みとしてどうだったのか、県の担当者として現場にも立ち会った安倍華子さんに話を聞きました。

安倍さん 「研修内容を研修生自身が組み立てられる」という、これまで県では実施してこなかったような新しい形の研修だったので、「こんな研修に興味を持ってくれる人はいるのだろうか」といった不安もありました。

しかしそれ以上に「参加してくださる方がどんなアイデアを持って申し込んでくれるのか」という期待のほうが大きかったです。行政が考える研修ではなく、参加者の希望を反映した研修がどんなものになっていくのか、本当にわくわくしました。

その期待は実際に講座に立ち会う中でどう変わったのでしょうか。

安倍さん 県民性もあるのか、ひと目で「熱意がメラメラ」とわかる方は少数派だったかもしれませんが、内に秘めた強い想いは受講生のみなさん全員から感じました。

県外合宿では一体感とでも言うような、なんともいえない良い雰囲気ができていると感じました。少人数だからこその濃密な時間を過ごしたことで、目指していることは違っても、夢の実現に向けてがんばっているもの同士という関係ができていたのだと思います。

今回の講座の狙いの一つでもある「ネットワークづくり」の土台はつくれたということだと思います。その中で実際にプロジェクトをかたちにすることの難しさも実感したといいます。

安倍さん みなさんが着実に計画を進めていくのを見ながら、自分だったらどんなことをやってみたいかずっと考えていました。

やりたいことは思いついても、それを行動に移すことを考えるとそこで固まってしまいます。来年度の企画実践に向けて動き始めている受講生のみなさんがどんなにすごいか、自分に置き換えて考えてみて本当にそう感じています。

「一歩踏み出すことの難しさ」を痛感し、県として具体的にどんな支援ができるのか、どう関われるのか、もっと深く掘り下げて考えていかなければいけないと思っています。

「実践者を増やす」ことの難しさを実感したことで、サポートの重要性を痛感したという安倍さん。プレイヤーの気持ちをわかってくれるサポーターがいることは心強いですね。来年度以降、この姿勢がさらなる実践者を生んでいくに違いありません。

学びの設計

受講生が地域づくりリーダーとして活躍する環境づくりについてはある程度うまく行ったようですが、実際に地域の実践者を増やしていくにはプロジェクトを実行していく力をつけていく必要があります。今回の学校の最大の目的は、その実践する力をつけること。今年度はそのためのプログラムとして5回の座学と2回の研修が行われました。

座学は、毎回講師を招き、「地域づくりとソーシャルデザイン」「地域づくりとコミュニティデザイン」「地域プロジェクトとクラウドファンディング」「マーケットで地域をつくる」「コミュニティを支える地域通貨の可能性」というテーマで開催。「地域づくり」が一体どのようなもので、何を実現しようとしているのかをまず学び、長期的な視点でコミュニティを維持するために必要な「経営的」な観点についても実践者から学ぶ機会がありました。

研修も、そのような観点から、1回目は秋田県内では地域づくりの先進地域と言える五城目の視察を行い、2回目は山形県鶴岡市のまちづくり事業の見学とゲストによるレクチャーを合宿形式で行いました。

今回のプログラムを計画、実行したハバタクの丑田俊輔さんと、グリーンズビジネスアドバイザーの小野裕之にその狙いを聞きました。

丑田さん ”地域づくり”を掲げると、課題解決にフォーカスされすぎて発想の幅がせばまったり、続ける中でしんどくなったりやらされ感がでてくることで挫折してしまうことがあります。

そうならないために、小さく活動を始めた人が、少し先をイメージできたり、試行錯誤しながらも楽しみながら続けていける環境をつくることを意識しました。そうすることで学び合うコミュニティができあがり、それを通じて地域のリーダーが育ち続けると考えたのです。

小野 内容面では、1年目ということもあり、座学では総論からまちづくり、広域連携、地域通貨といった地域づくりに必要な内容を網羅的に構成しました。

時間が限られた大人たちが集まる学校なので、プロジェクトの勢いや求心力、強度、継続性を意識して、大きな売上や利益は必要としないものの、赤字にしない工夫は意識して伝えるようにしました。環境面でいうと、少数精鋭にすることで実験的に動ける人材が横につながり、地域を超え価値観やビジョンを共有できると考えました。

プログラムの狙いは、学び合い助け合って地域づくりに携わることができるコミュニティをつくること。そして同時に実践者となる受講生の力の底上げを行うこと。それによって地域のリーダーを持続的に育てていこうというのです。

その狙いもあって、今回の受講生はプロジェクトをある程度カタチにしていたり、やりたいことをすでに持っている人たちが中心となりました。参加者たちは今回の学校でどのような学びを得たのでしょうか。

小野 ガラッと変わる方よりも、最初の問題意識や柔らかいかたちでの企画の強度や具体性が上がり、ぼやけていた焦点がより合うようになった方ばかりだったと思います。受講生との相互作用というよりは、講師陣から個別企画への具体的なフィードバックや、五城目、山形といった合宿で、最新の事例に触れ、直接話を聞けたところの方が、影響としては大きかったと思います。

丑田さん 地域内にぶつけあえる仲間がなかなかいないというケースもあり、県内広域でのつながりや県外とのつながりができたことは大きかったと思います。私自身も県内や県外のプレイヤーたちと生で触れ合うトランスローカルな機会を得られ、またいま生まれようとしているプロジェクトの熱量を感じることもできて、視野が拡張されました。負けじと妄想をいろいろカタチにしていきたいと思います!

刺激的な発表が次々と

さて、そのような学びの過程を経て行われた3月21日の成果発表会。10人の受講生の発表が制限時間5分で行われ(1人はオンライン)、発表に対して名誉校長見習いの兼松佳宏さんが主にツッコミを入れるという構成で行われました。

どれも面白かったのですが、中でもワクワクするふたつのプロジェクトを取り上げたいと思います。

一人目はトップバッターとして登場した川村忠寛さん。川村さんのプロジェクトは白神山地を抱える八峰町で、未利用資源となっている柿を使ってエナジーバー「INAKA FLAVOR」をつくろうというものです。

「INAKA FLAVOR」を企画している川村忠寛さん

川村さんは八峰町には200本以上の放置果樹があり、野生動物の誘引を起こしたり防犯上よくないというデメリットが有ると訴えます。この放置果樹の柿を使ってエネジーバーをつくり、白神サイクリングコースにやってくるお客さんに提供するというプロジェクトを企画しました。

すでに隣の能代市のドライフルーツショップにドライ柿を制作してもらっていてエネジーバーもすぐにできるとのこと。「アクティビティをするならその土地の食べ物で補給するのが格好いいおしゃれというカルチャーをつくっていきたい」と締めました。

これは発表された中でも一番実現性が高いプロジェクトに見えました。来訪者が土地のものを消費するというのもこれからの地域のビジネスモデルとして求められているものでもあり、文句の付け所がない。兼松さんも「これまでの地域の暮らしに根付いていた果樹が新しい使われ方で残るとしたらいい話」と評価していました。

山本博輝さんは、自身が暮らす横手市十文字町で小学校が統合されることに課題意識を持ちます。ご自身のお子さんも、統合して1年後のタイミングで進学することもあり、入学前に子ども同士親同士の交流の機会があったらいいと「十文字キャラバン」を企画します。これは、入学前の子どもや親が「フレンドカード」を交換して自己紹介したり、一緒の秘密基地をつくって交流を深めるというもの。

兼松さんは「今の時代、プロセスを盛り上げるというのは大事」であると評価したものの、スマートフォンのカンペを見ながらの発表に苦言を呈していました。

これ以外の発表者も自分が暮らす地域でそれぞれの課題に取り組むプロジェクトを企画していて、刺激に満ちた発表会になりました。ただ、山本さんだけではなく、プレゼンに改善の余地があるものが多い印象も。地域のリーダーとして活躍するためには、プレゼンに限らず自分の考えを表現することも大事で、その力を身につけることも課題だと感じました。

今回発表した人たちは、来年度は実践フェーズに入り、さらにプロジェクトを現場で実践していく予定。そこで表現の力も磨かれていくのではないでしょうか。

発表会後の懇親会では、緊張から解き放たれたのか、笑顔で経験したエピソードを話す受講者が多く、受講者同士さらに講師たちとの仲の良さが垣間見えました。いろいろ紹介したいエピソードも出たのですが、気になる方は来年度ぜひ参加して実地で体験してください。

さらにパワーアップする来年度に期待すること

来年度は今年の受講生が実践フェーズに入るだけでなく、新たな生徒も募集します。来年度どのようになっていくのか、なっていってほしいのか改めて、安倍さん、丑田さん、そして小野の3人に聞きました。

安倍さん  来年度の受講者には、入学した時点で先輩がいます。先輩が試行錯誤しながらも、最初の一歩を踏み出す姿を見守った経験が、いざ自分たちの番が来た時、踏み出す勇気につながってくれたらと思います。

逆に今年度の受講者の皆さんには、一緒に取り組む仲間を見つけてもらったり、頼られることで前に進む原動力になったり、いろいろなケミストリーが今年以上に起きてくれたらいいな、と期待しています。

丑田さん 各地での同時多発的アクションが楽しみです。受講者と提供者、行政と民間、1期と2期、自地域と他地域、といった区分けがゆるやかに溶けて、勝手気ままに、学び合ったり、教え合ったり、刺激し合うコミュニティに育っていったらうれしいです。

小野 来年度、1期生には県から補助金のようなものも、厳正な審査の上、少額ですが出ることになっているので、学ぶというよりはどんどん実践して、その様子を伝えていけたらと思います。また、本参加者以外の聴講生も随時受け付けていこうと思っているので、自分から積極的に動いて、チャンスを掴み取ってもらえたらなと思います。

今回の発表会には、約30人の参加者があり、秋田県でソーシャルデザインに興味を持つ人が多いことは間違いないという印象も受けました。

参加者には各発表者へのコメントを付箋に書いてもらいました。それを見ると、プロジェクトに賛同する熱い想いから、冷静なダメ出しまでさまざまなものが。ここから化学反応が起きて、秋田県全体で地域づくりが盛りがっていけば、まさに秋田・ソーシャルデザインの学校の目論見通り! 来年度も秋田県を盛り上げるためにいろいろ仕掛けていく予定ですので、ご注目ください!

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