2016年に「電力小売り全面自由化」が始まりましたが、自然エネルギーを当然のこととしてみんなが選ぶ状況には、まだなっていなさそうです。そして原発の再稼働や、石炭火力発電所の新設が計画されるなど、日本のエネルギー政策は、世界の注目も浴びています。
今回お話を聞いた「自然エネルギー財団」の大林ミカさんは、固定価格買取制度をはじめとする、自然エネルギーの普及のための様々な運動や政策提言に取り組んできた人です。
世界のエネルギー情勢にも詳しい大林さんに、日本が今置かれている状況について教えていただきながら、自然エネルギーへの思いを共有し、これから私たちは何をすべきなのか、考えるヒントをいただきました。
話を聞いてみると、「そうなのか!」ということが続出。世界はそんなにも進んでいて、日本はそんなにも遅れているのかと実感するとともに、日本もこれから変わっていく可能性もあることがわかりました。みなさんがこれからどうしたらいいのかも、きっとわかると思いますよ。
2011年8月、公益財団法人自然エネルギー財団の設立に参加。財団設立前は、アラブ首長国連邦の首都アブダビに本部を置く「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」で、アジア太平洋地域の政策・プロジェクトマネージャーを務めていた。1992年から1999年末まで原子力資料情報室でエネルギーやアジアの原子力を担当、2000年に環境エネルギー政策研究所の設立に参加し、2000年から2008年まで副所長。2008年から2009年までは駐日英国大使館にて気候変動政策アドバイザーを務めた。2017年、国際太陽エネルギー学会(ISES)よりグローバル・リーダーシップ賞を受賞。大分県中津市生まれ、北九州市小倉出身。
自然エネルギー財団とは?
そもそも、自然エネルギー財団とは何をしている組織なのでしょうか。
私たちは、海外や日本の自然エネルギーについて調査研究を行い、一般の方向けに報告書を出したり自然エネルギーにまつわるコラムを掲載したり、フォーラムを開催して情報提供をしています。それと同時に、再生可能エネルギーが増えるための政策的な枠組みを提案しています。
私たちは政策的な枠組みが変わっていくことによって、誰もが当たり前のこととして自然エネルギーを選択する社会をつくりたいと考えています。
短期的な視点ではなく、長期的な視点でないといけないですね。ただ単純に商売として自然エネルギーを扱う業者が増えるとか、自然エネルギーは暮らしの中に入っても曲がった制度になっているとか、そうならない提案を常に心がけています。
現在は自然エネルギー財団の事業局長という立場にいる大林さんですが、もともとはまったく違うキャリアを歩んでいたのだそう。
エネルギーに関わるようになったのは、NPO法人「原子力資料情報室」で勤務し始めてからです。私は北九州市小倉育ちで、原爆教育が盛んだったこともあって、原発には違和感を持っていました。チェルノブイリの事故の衝撃もありましたし、社会課題としての興味もありました。
それで産後、働く時間が単純にお金と引き替えにならない仕事、自分がやりたいことをやりたい、と思って、原子力資料情報室に務めるようになりました。そこでエネルギーのことを学びました。幸運だったのは、物理学者で資料室の設立者である、高木仁三郎という今でも唯一のボスといえる人に出会えたこと、資料室が、政治や産業界から独立した市民のための研究を行っていたということです。
時間を切り売りする仕事ではなく、自分がやりたい仕事をしたい、そんな出発点から原子力について学んだ大林さんは、そこからさらにエネルギー全般へと関心を広めていきます。
自然エネルギーを選べる制度を日本でどうつくるかという研究会を、NPO法人環境エネルギー政策研究所・代表の飯田哲也さんとやったりしていましたが、日本でも1997年のCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議=京都会議)の開催に合わせて高まってきた気候変動問題をエネルギーの観点から考えるため、1997年に資料室でエネルギー部門を立ち上げました。
COP3の後には、せっかく盛り上がった市民の関心を継続させるため、日本でも固定価格買取制度を始めるべきだと、飯田哲也さんと「自然エネルギー促進法推進ネットワーク」を始めました。これは、固定価格買取制度を議員立法でやっていくための議員のネットワークをつくると同時に、議員を動かす市民のネットワークもつくろうというものです。
大林さんは、私たちが自然エネルギーや電力自由化というものに着目するずっと前から、日本への導入に取り組み、結果的にそれを実現したわけです。
大林さんはその後、環境エネルギー政策研究所やイギリス大使館などで自然エネルギー政策に取り組み、2010年からは世界規模で自然エネルギーを推進するIRENAに参加。東日本大震災を機に帰国して、自然エネルギー財団の設立に加わり、現在に至ります。大林さんが、そこまで自然エネルギーに深く関わる理由とは何なのでしょうか?
原発に根ざした社会は、必然的に大規模かつ中央集権的で、監視社会になります。それに対して自然エネルギーに根ざした社会は分散型で、いろいろな人が関与することができます。私はエネルギーが社会をつくると考えているので、自然エネルギーを選択する社会は、人々にとって生きやすい社会だと思っているんです。
大林さんにとっては、自然エネルギーこそがほしい未来をつくるために必要なものだったというわけです。では、未来に向けて今私たちが取り組むべき課題とは何なのでしょうか。
電力自由化でも自然エネルギーが選べない?
話は戻りますが、いま電力会社を変えて自然エネルギーを選ぼうとしても、自然エネルギー100%を打ち出しているような電力会社はほとんどなく、かなり調べないと出会えないというのが現状です。自然エネルギーの発電量は増えているはずなのに、なぜなのでしょうか?
固定価格買取制度は、自然エネルギーで発電した電気の事業性を担保するため、一定の価格で長期に買い取る制度です。この買取価格は、私たちの払う電気代に上乗せされて、自然エネルギー発電の普及を支えています。2012年に日本でこの制度が導入されたことで、日本では、それまで個人の屋根置き太陽光が主体だったのが、ようやく事業用も出てきて、飛躍的に増えました。
つまり、固定価格買取制度で調達された自然エネルギーの電気を私たちはすでに使っています。ただ、こうして増えた自然エネルギーの費用は、みんなで負担しているので、環境の価値もみんなに帰属しています。だからFIT(固定価格買取制度で調達される電源)の電気を取り出して、自然エネルギーです、と言って売ることができないのです。環境の価値を、二度売りすることになるからです。
「環境の価値」とは、二酸化炭素や廃棄物を出さないこと。すでに電力消費者全体でFiTの環境価値は負担しているので、さらに個人や企業の努力で自然エネルギーを増やすためには、FiT以外の自然エネルギーの電気を買えばいいということになりそうですが、それも簡単ではないと言います。
個別のケースでは安くなってきているものも出ていますが、日本では、独自の規制があったり、発電できない(出力抑制)など事業の不透明性があり、他の国に比べて自然エネルギーの導入のコストが高いままです。
そのため、固定価格買取制度の価格も高く設定されているので、新しい自然エネルギー発電所は、ほとんどがその制度下にあります。そうではなく、自然エネルギーの環境価値をアピールしながら直接販売されている電力は、固定価格買取制度は買取ができない、すでに減価償却が終わった古い発電所などがほとんどです。
こういう事情から、昨年の電力小売り自由化以降も、一般家庭に直接自然エネルギーを提供する電力メニューがなかなか増えないままで、自然エネルギーで発電した電気が私たちの目に触れないのです。
でも、それなら別に自然エネルギーの電源を選ばなくても、固定買取制度によって自然エネルギーは増えていくような気もするのですが、そうではないのでしょうか?
固定価格買取制度は、爆発的に自然エネルギーを普及させる制度です。そして、量の普及によるコストダウンを目的としています。
日本でも、特に太陽光発電に大きな普及効果をもたらしています。しかし、日本では、一気に太陽光が増えたことで、原子力の再稼働や化石燃料の推進に影響があるのではないかと、既存のエネルギー産業界に懸念が高まっています。そのため、自然エネルギーの発電を控えるような制度が導入されたり、電気を送るために必要な送電線の建設に高い工事費を課したりしています。
こういった状況では、自然エネルギーはなかなか安くなっていきません。
日本でも、固定価格買取制度の価格は、例えば10kW以上の太陽光発電では、2012年に1kWhあたり40円だったのが、2017年は21円と価格低下が進んでいます。しかし、世界ではもっとすごい勢いでコストが下がっているそうです。
太陽光発電では、今一番安いのは1kWhあたり2.42セント(日本円で2.6円程度)というアブダビの価格です。最近、それを更に上回る1.78セント(2円程度)という入札もサウジアラビアでありました。太陽光の価格は2004年から2015年で8割下がっていて、これからの5年でさらに半分になると言われています。
もちろん中東と日本では、日射量も、土地の値段も、ローンの条件や人件費なども異なるので比較できませんが、たとえば欧州の先進工業国なら日本と比較が可能でしょう。ドイツなど、日本より日射量が悪いところでも、日本の買取価格の半額程度なので、日本がなぜ高いのか、自然エネルギーを高くしているバリアをなくしていかなくてはなりません。
自然エネルギーの普及に不可欠な「送配電」「地域独占」制度への取り組み
その壁の一つが、電力会社による壁。自然エネルギーを増やしたいと思っても、ある量以上は受け入れてもらえないというのです。
固定価格買取制度のおかげで太陽光発電は普及して、例えば今年の4月に、九州電力管内では太陽光だけで需要の76%をまかなえたという日がありました。でもこういった場合、日本では、太陽光が増えすぎるのでこれ以上は出力抑制をしないといけないということになってしまいます。
電力は需要と供給を一致させることが必要です。しかし、太陽光や風力は、発電が変動する自然エネルギーなので、入れすぎると、需要が少ない時に電気が余って、停電の恐れがあるという説明です。
もし火力発電をぎりぎり停止しても電気が余るなら、どんな方法があるのでしょうか。
今の大手電力会社は、発電すると同時に、電気を送る送電線を一括で管理しています。発電した電気を売るのが電力会社のビジネスですから、自分たちのものではない自然エネルギー発電を優先するために自社の発電設備を止めたくない、というのはわかります。
しかし、電気を送る送電部門からみれば、それが、自社の発電設備でなくても電気に違いはありませんし、太陽光や風力からの電気だとしても、電気としては同じです。そして、地球温暖化や消費者の嗜好という観点からは、自然エネルギーの電気を増やしていくことが求められています。なので、発電と送電の経営が分離され、それぞれ独立して運用されるようになれば、状況は変わってくると思います。
現在では、そのどちらも大手電力会社が持っているので、例えば送電線の容量を動いていない自社の原子力が占めたままになっているケースもあります。
この問題については、発送電分離によって徐々に解消していくかもしれませんが、他にも自然エネルギーの普及に向け考えなくてはならない現行制度があるといいます。
日本では、電力会社が地域を独占しています。そして、その地域内において供給と需要を一致させることに責任をもってきました。
そのため、需給調整がうまくできない、約束した発電量を達成できなかったり余らせてしまった場合には、その地域外の電力会社に依頼をして調整してもらう事になります。
その際には、今の日本では、通常の電力取引ではなく、「インバランス料金」という高い料金で精算することになります。長らく地域内での需給調整を優先させる仕組みであったため、各電力会社は地域内でやりくりするため、最大限に発電するための過剰設備を抱えてしまっています。また、「その時」のために、送電線の空き容量も確保しているのです。
「送電線の問題」と一口にいっても、地域内で局所的に弱い、地域と地域を結ぶ基幹送電線が弱い、弱くなくてもそもそも利用されていない、といったように、違いがあります。しかし、まずすぐにできるのは、すでにある送電線を最大限効率的に使うことです。いつ発電するかわからない発電設備のために、自然エネルギーを通さずに送電線を「空けて待っている」ような状態は、なくさなくてはなりません。
例えば、北海道や東北では自然エネルギーの資源量がたくさんあります。そういった場所でどんどん発電し、電気が必要な場所に送電できればいいのですが、そういうことにメリットのある制度になっていない。もちろん局所的に弱い送電網を増強しなくてはなりませんが、制度を改善していく事も必要です。
つまり、北海道でいくら安く自然エネルギーを発電したくても、本州におくるためには送電線を通さなくてはならない。送配電や地域独占の仕組みにより、日本においては電力網が受け入れる自然エネルギーの量が抑えられてしまっているということなのです。
鍵は、自然エネルギーのコストダウンにある
しかし、自然エネルギーのコストダウンが進むとそうも言っていられなくなり、変化に対応できなければ既存の電力会社も変わらざるを得ないと言います。
世界中で、今すごい勢いで自然エネルギーのコストダウンが進んでいます。それに比べて、従来の火力や原子力は、これからもコストはむしろ上がっていく方向です。
そして、これから投資される発電所はもちろん、すでに投資されている発電所も含めて座礁資産になる可能性があります。今、海外では、従来型の発電のみをしてきた電力会社というのは、倒産の危機に晒されています。
化石燃料が無くなるから自然エネルギーにシフトしなくてはいけないんだと思っている人が多いと思いますが、実はもはや化石燃料より自然エネルギーのほうが安いからシフトするのが必然になってきているのです。
中国でもインドでも、今や、自然エネルギーが原子力よりも石炭よりも安い、というのは自明の話になっています。政府レベルでそれを否定する人はいません。サウジアラビアのヤマニ元石油相は「石器時代は石がなくなったから終わったのではない。石器に代わる新しい技術が生まれたから終わった。石油も同じだ」と、1999年にすでに発言しています。UAEのアブダビやサウジアラビアなどの産油国も自然エネルギー拡大に本気で取り組んでいます。
同じことは原子力発電にも言え、それが今の日本での廃炉への動きにもつながっているようですが、こちらも一筋縄では行かない背景もあるようです。
日本では、廃炉を決めると、原発が負債になって電力会社の経営が一気に悪化します。つまり座礁資産です。それを防ぐために、廃炉のコストが負債ではなく、収入としてカウントされるような仕組みをつくりました。それが廃炉費用を託送料金でまかなう、つまり廃炉費用をすべての電力利用者が負担するというものです。私たちからは不当に見えるかもしれませんが、電力会社の廃炉をしやすくするという側面もあります。
こういった制度の導入や、電力システム改革においても原子力や石炭発電を守ろうとするような動きを見るにつけ、今、日本の政府がやっている事は、欧州や米国で起こっているような急激な変化を避けようとしているのだと思います。
しかし、現実の世界では、自然エネルギーやバッテリーの急激なコスト低下や、自然エネルギーを電源として念頭に置く電気自動車の普及など、明らかに、既存のエネルギーやビジネスモデルを覆す変化が、すごい勢いで進んでいます。古い産業から新しい産業へ変わろうとしているのです。
こういった変化に、日本がついていく必要はないのでしょうか。今まで通りのエネルギー政策を漫然と続けていくだけなら、日本のエネルギーコストは高いまま、将来世代にツケを回していくだけです。
化石燃料やウランについては、日本は「小資源国」でしたが、太陽や風や地熱や水や生物資源(バイオエネルギー)では、日本は「大資源国」になれるのです。
廃炉費用や、福島原発事故の処理費用をすべての電力利用者が負担するという計画を聞いて、どうしてだろうと思った人も少なくないだろうと思います。でも、自然エネルギーが普及していくためには、これまでの仕組みを閉じていくために必要な費用を支払っていかなければいけない。不当なことのように感じてしまうかもしれませんが、一歩先の未来をつくる方向に動いている、ということなのかもしれません。
今回、大林さんの話を聞いて、エネルギーにまつわる知識をきちんと知れば、未来に希望が持てるのだということがわかりました。暮らしに必要なものなのに、なぜか縁遠くなってしまっているエネルギーに関するリテラシーを上げることで、自分自身は何ができるのかを考えていかなければいけないと改めて思いました。
まずは世界のエネルギーの変化を知って、何をどうすべきなのか、じっくりと考える機会をつくることから始めてみませんか。
(写真: 関口佳代)
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