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集まる大会参加費は総額1,000万円! 参加者も運営者も地域の人も喜ぶ“ええ大会”を運営する「KFCトライアスロンクラブ」代表・大西喜代一さんインタビュー

まちおこしに、まちづくり。ここ数年で、地域を盛り上げる活動が増えてきました。その多くは、地域に元気を取り戻すことが目的です。取り戻したいわけなので、活動がスタートし始めた頃は、人もお金もそろっていないことが多く、補助金や助成金を利用して、補いながら立ち上げます。

でも、支援を受けないで活動を継続していく段階まで成長させていくのは難しく、支援が途絶えてしまった時に、活動も終わってしまうことはよくあります。そんな状況を、どうにかしなくてはと、課題にあげる人も増えています。

今回紹介する、東京都青梅市の「KFCトライアスロンクラブ」は、屋外耐久競技の大会参加と企画・運営をする私設クラブです。参加者2,000人規模の大会を数多く実施し、地域活性化にも貢献しています。ところがこのクラブは、大会運営に助成金や補助金などの支援を利用していないそう。しかし、大会収益できちんと運営費をまかない、黒字化に成功しています。

一体、どのように企画・運営をしているのでしょうか? 「KFCトライアスロンクラブ」代表・大西喜代一さんに聞きました。

大西喜代一(おおにし・きよかず)
KFCトライアスロンクラブ代表。1951年12月19日生まれ、兵庫県加古川市出身。公務員兼農家の家に生まれ、10代はボクシング、20代はカー・ラリーに興じ、30代でトライアスロンに目覚める。現在は、トレーニングの環境として素晴らしかった青梅市にアパートを借り、加古川市の一軒家と二地域居住している

参加費総額1,000万円
地域貢献プロジェクトも

まずは「KFCトライアスロンクラブ」について紹介します。

「KFCトライアスロンクラブ」は1991年に設立されたトライアスロン愛好者たちのクラブで、現在は青梅市トライアスロン協会も兼ねています。主な活動内容は、トライアスロンをはじめ、マラソン、ウルトラマラソン、トレイルランニング、クロスカントリー、オーシャンスイム、自転車レースなどの屋外耐久競技への大会参加と、自ら主催する大会などの企画・運営です。

仲間と一緒にフランスでロングライドの旅をすることも

国内で企画・運営する大会の代表例は「青梅高水山トレイルラン」。日本ではじめて開催された一般向けのトレイルランレース大会とも言われています。

青梅高水山トレイルラン

この大会をきっかけに、「みたけ山トレイルラン」、「多摩川源流トレイルラン」などのトレイルラン大会のほか、自転車の大会である「東京ヒルクライムシリーズ」、「信州聖高原グランフォンド」、海を舞台とした、「葉山オープン・ウォーター・スイム」など、各地でさまざまな大会を企画・運営するようになりました。

ちなみに2017年4月2日に開催した第19回青梅高水山トレイルランには、30km上級クラスと15km中級クラスを合わせて2,052名が参加。大会参加費は総額約1,000万円でした。

葉山オープン・ウォーター・スイム

また、国内だけでなく、海外でも大会を企画・運営しています。じつは「KFCトライアスロンクラブ」として初めて企画した大会は、北マリアナ諸島のロタ島で開催した「ロタ・ブルー・トライアスロン」でした。現在、ロタ島を含むミクロネシア諸島には、一緒に大会運営をするKFCトライアスロンクラブの仲間が60名以上。大会の影響で観光客も増加し、各島の地域振興に貢献しています。

ロタ・ブルー・トライアスロン

国内でも同様に、地域貢献に尽力しています。

地域貢献プロジェクトの代表例は、青梅市成木地区の住民有志とともに設置したツーリストのための休憩所「成木の家」。そして、東京都青梅市、奥多摩町、檜原村と山梨県の小菅村で、住民と協働して設置した休憩スポット群「東京サイクルステーションネットワーク」です。

どちらも、「KFCトライアスロンクラブ」が各地で大会運営を継続した結果、地域に訪問者が増えたことで、設置することになりました。

成木の家。地主・中島邦彦さんの好意により、ツーリストの休憩場所としてログハウスを新設

このように、今でこそ大会の企画・運営を通じて地域の活性化にも貢献する「KFCトライアスロンクラブ」ですが、元は大会に競技者として参加するだけのクラブだったそう。なぜ、自分たちで企画・運営までするようになったのでしょうか?

全部、直感と運
未経験で立ち上げに挑む

1990年、大西さんはマラソンに打ち込む日々を過ごす中、テレビで、琵琶湖のトライアスロン大会をテレビで観ます。そして、「面白そうやし、できる」と直感し、マラソン仲間を含む約10名に声をかけました。

翌年4月と92年に「KFCトライアスロンクラブ」として、フレンチ・ポリネシアに浮かぶモーレア島で開催された国際大会に出場します。次年度も、参加しました。

大西さん ただ一所懸命、参加しとったんです。大会なんかやろうとは夢にも思ってなかったんですよ。

しかし、1993年に事情が変わります。フランス領のポリネシア諸島にあるムルロア環礁で核実験が行われた影響で、大会が中止になったのです。毎年参加するために、必ず連休をとっていた大西さんたちは、せっかくだからと、ほかの島を観光旅行することにしました。向かった先がロタ島でした。

深い緑のジャングル、青い海、心地よい海風、こんな手付かずの自然が残っている島が日本の近くにあることに、我々は非常に驚いた。[via「ロタ島との出会い」(ロタ・ブルー・トライアスロン誕生秘話)]

ロタ島の自然

大西さんは、日本から約3時間で行けるロタ島の自然に感動し、直感で、大会立ち上げを決めました。

大西さん 自分でできると思ったら、できるんですよ。イメージが、パァーっと最後までひらめくんです。

鉄は熱いうちに打て。帰国後、大西さんはすぐロタ市長にFAXを送信します。ロタ島にはトライアスロンという競技がなく、1から説明する必要がありました。

すると市長が興味を示し、その年、ロタ島に通うこと5~6回。島の人に乗ってもらうための自転車を寄付したり、泳ぎを教えたり。コースを決め、水泳ブイを打ってコース設営をしたりと、あらゆる準備をしました。全部、手探りで。

大西さん 海の距離を測るのって大変じゃないですか。でもわからへんから、とりあえずロープ持って、泳ぎながら測ったんです。

何もかもが初めてだった大西さんたちは四苦八苦。するとその様子を見ていた島の人たちが自然と手伝ってくれるようになりました。島の人は自分たちが準備した大会にも出場して、大満足。初めての企画は大成功に終わりました。

その後も大会運営を5年ほど続けて、1999年にはトレーニングをしていた青梅市で新たな大会を立ち上げることにします。これが、現在の「青梅高水山トレイルラン」です。

すると、この大会の様子を見ていた青梅市商工観光課から打診があり、「みたけ山トレイルラン」を立ち上げることになりました。そして、青梅市以外からも依頼が舞い込むようになり、これまでに、2017年7月現在では、24年間で国内外合わせて延べ200大会を企画・運営するまでになりました。

2016年8月に第1回大会を開催した、赤城の森トレイルランもそのひとつ

それにしても、大会を企画・運営する団体は他にもある中「KFCトライアスロンクラブ」にたくさん声がかかるのは、なぜですか?

大西さん 大会に出てくれた後、ここの運営方法を気に入ってくれて、これとおんなじ方法でやってほしいって頼まれるんですよ。

参加した人が思わず頼みたくなる、その企画・運営方法とは?

会議なし
収益は山分け。でも…

さきほどから話にも出ていますが、大西さんは、企画・運営するうえで、直感を大事にしています。

大西さん 直感のほうが理屈よりも早いですよ。間違う時もあるけど、うまく修正する。

前進しないのが大嫌いだから、スタッフ間のミーティングも一切やりません。

大西さん ミーティングが多いのは、ほんとダメですよ。時間がもったいない。ミーティングは、失敗した時に責任を分担する言い訳なんです。責任は全部、俺が負います。

事前打ち合わせなしのぶっつけ本番なんて、そんなことできるんだろうか。そう聞くと、大会ごとに、核になるスタッフは数名いるとのこと。

大西さん スタッフとして、毎年(まいねん)来てもうたら、なんも説明せんで済むんですよ。もうその人自身で分かんねんね。「こっちから来ると危ないから注意したらなあかんなぁ」とか。自分の判断で全部やってくれる。

でもそうやって仕事を任せる分、1日スタッフに来たら、ちゃんと多めにお金を出してますよ。そこはケチらない。

一人一人の意思で動く自律分散型のチーム。大西さん自身も、その“一人”です。

大西さん 荷物運びから、道の掃除も、草刈りも。全部やりますよ。

その姿を見ると、地域の人たちは自然と手伝ってくれるようになるそう。

大西さん 高水山でトレランの大会を始めた時は、スタッフ少なかったから、選手があっちゃこっちゃコース外れてまうんで、見かねた常福院(成木地区にあるお寺)の住職が手伝うって言うてくれたんですよ。それで檀家さんたちも加わって、2回目からは全部の警備をやってくれはったんです。

だから上司や部下に分けて、“上”から指示なんて、滅相もない。

大西さん 偉そうにしてたら、ダメですよ。人が集まらない。

開催許可を取る時も、“上”からじゃダメ。

大西さん 開催する地域が決まったんなら、まずはその地域の人へ話をする。

地域の人が言うてくれれば、地域の偉い人も聞いてくれるし、そこから話がいけば、役所だって聞いてくれる。

それでオッケーになってから、警察とかに許可もらいに行くんです。

大会運営は告知も大事。以前はチラシで告知していたが、今はホームページがある。「写真を見て、海外からも参加者がきてくれる。だから写真にはこだわって、全部の大会で、同じプロのカメラマンに撮ってもらってる。ホームページがあれば、大きな会社とも競えますよ」(大西さん)。画像はKFCトライアスロンクラブのホームページTOP画面 http://www.kfctriathlon.com/

企画・運営で一番大事なのは“人”なのだと大西さん。だからこそ、収益はちゃんと関係者に分配します。

大西さん 大会収益は独り占めしたらダメ。ちゃんと割らなあかん。

大会は地域の人がつくってくれるんですよ。だから利益は地域の人とちゃんと分ける。

補助金を利用しないことにしたのも、“人”を第一に考えてのこと。

大西さん 援助、補助は一切もらわないんですよ。面倒臭いんです。

以前、役所の人が補助金で60万円とってきてくれたんですよ。それで、地元の人に申請書の紙を書いてもらったら、不慣れでどう書いていいか困ってもうてて。だから、補助金は使わないようにしたんです。

余計な苦労はさせないという、地域に密着する優しさ。なぜなら、地域の協力は欠かせないから。

大西さん やっぱり、地元がいっぱい絡まんと、ええ大会はできないんですよ。

その“ええ大会”ってなんでしょうか?

大西さん みんなが喜んでくれる。参加者も、運営者も喜んでくれる大会は、ええ大会です。だから、地域の人にも、やってもらったらそんだけ利益を分ける。

でも、地域の人にとっては、大会はお金だけと違うんです。

さて、お金以外に何が大会の価値なんでしょうか?

ビジネスにしない
大会をやるのは今も遊び

どうやら“ええ大会”には、地域を元気づける価値があるらしいのです。

大西さん 小菅村にしても、赤城山にしても、大会を開催する自然の多い地域は、過疎が進んどるでしょ。そんなとこは、お金だけじゃなくてね。

あのね、なんていうんかなぁ。自慢? 「うちの村で、こんな有名な大会があんねん」とか。そういうね、自慢できるいうのが大事。それをつくったらなあかんかなと、思いますね。

そんなビジョンを思い描き、実際に地域の自慢になるような大会が開催できているのは、大西さんたち「KFCトライアスロンクラブ」の人たちが、利益やビジネスに縛られていないからです。

大西さん ビジネスにはせえへん。大会をやるんは、今でも遊びやと思ってます。

この“遊び”という感覚が、「KFCトライアスロンクラブ」の大会を、利益よりも、みんなが喜び合えるのが大切という価値観に向けさせているような気がしました。だから、自然に“人”が主体的な働きを見せていく自律分散型のチームや、意識的に開催地の“人”を大事にしていく地域密着型のコンテンツをつくれているのかもしれません。

KFCトライアスロンクラブのような企画・運営を、今後も引き継いでいってほしいと思いました。

大西さん でもね…それは、無理だと思う。みんなに言うてるもん。全部、運やから。たとえば誰か一人いなくてもね、できんかったと思うんですよ。

収益第一でやってないから。“人”がおれへんようになったら、その時点で全部終わりですよ。

大西さんのお話を聞いて、ぼくがよくわかったのは、競技者としてトライアスロンをはじめた大西さんたちが、大会の運営側にまわっても、「ビジネスではなく遊び」という気持ちのままでいることでした。そして、「遊びっていうのは、不真面目とかテキトーとかじゃなくて、自分から続けたいと思えるものって意味なんだ」と感じました。

自由に参加して、みんなが楽しんでいて、しかも収益性もある企画が成り立つなんて、運や奇跡を外して語ることはできないものだとは思うんです。でもそういう計算外の要因があるから、なお僕は、大西さんの最後のコメントを聞いた時に、「やっぱり、こんな企画・運営スタイルが残っていってほしいな」と思いました。

大西さんのように、ともに楽しむ姿勢っていうのは、誰でも日常の振る舞いの中に取り入れられるもの。でも気持ち一つで何か変わるなら、そんなに簡単なことはないわけで。

「少しずつであれば、変わっていくことができるのかなぁ。まずは自分がやって、試してみようかなぁ。どうしようかなぁ」

そんなふうに、悩みながらでも少しずつ、大西さんのスタイルに似た企画・運営を真似する人が出てこないかなって、ほのかに期待しています。

(大会撮影: 小野口健太 / KFC専属カメラマン)
(インタビュー撮影: 廣川慶明)

– INFORMATION –

KFCトライアスロンクラブの地元・青梅で開催!
【グリーンズ共催】地域資源をいかした仕事をつくろう!「にしたま創業キャンプ@青梅」


【日時】
2017年9月30日(土)、10月1日(日)*2日間開催
29日(土)9:30受付/10:00〜17:00(*初日終了後、別途交流会開催)
1日(日)9:30受付/10:00-17:00

【会場】
青梅市御岳交流センター 東京都青梅市御岳本町362-8(JR青梅線「御嶽」駅より徒歩3分)
御嶽までのアクセス方法 JR立川駅→青梅線乗車「青梅駅」より奥多摩行乗車/約20分

【申込み締切】
9月27日(水)22:00
※定員に達し次第、受付を停止します。お早めにお申込み下さい。

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