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人とともに生きてゆくとき、皆、誰かのケアラーとなる。生きづらさにぶつかっても仲間と悩みを共有できる「ケアラーズカフェ」とは

介護で行きづまったり、発達に偏りのある子を抱えて思い悩んだり、家庭での人間関係で苦しんでいるときに、思っていることを打ち明けられる人の存在は大きいものです。

重いこころを少しでも共有できる仲間がいて、場合によっては専門知識を得られたりする。誰もが気軽に立ち寄っておしゃべりできるような場がもっと当たり前のようにあれば、きっともっと生きやすい世の中になるはず。

一般社団法人「Ponteとやま」が運営する富山県砺波市のケアラーズカフェ「みやの森」は、まさにそんな場所です。

「ケアラーズ」とは、「介護」「看病」「療育」といったこころや身体に不調のある家族への気づかい、ケアの必要な家族や知人などを無償でケアする人たちのこと。「共に生きていくためには、みんな誰かの『ケアラー』なのです」と話す、Ponteとやまの加藤愛理子さんに、ケアラーズカフェ立ち上げまでの経緯や思いを伺いました。

YMCAの講師の傍ら、自宅横にケアラーズカフェ「みやの森」を立ち上げた加藤愛理子さん

「ケアラーズカフェ」って?

「みやの森カフェ」知人の方が書いた看板を背に。

「ケアラーズカフェ」は、家族の介護にたずさわる人が、ふらっと立ち寄り、悩みを打ち明けられる場所のこと。最近じわじわと全国的な広がりをみせています。

加藤さん 同じ場所、同じ時間に来ることは縁。この人とこの人がこの話をするとすごくいいな、と思うことがあるので、知らない人同士4~5人で一つのテーブルを囲むこともあります。それがここへ来ることの一番の目的という気がしますね。また、場合によっては専門家を紹介することもあります。

ここでは、「介護おしゃべり会」や「認知症の会」などテーマを設けたイベントや様々な講座も開催されています。「スイーツ相談会」など楽しそうな催しも魅力です。

「介護おしゃべり会」お弁当を食べながらお話ができます。

加藤さん 「介護おしゃべり会」では様々な年代が混ざり合っていて、専門職の人、介護に悩んでいる人やこれからするという人も、自分の体験談を語ったり、いろんな角度から話ができたりします。

いろんな経験をしてきた年上の方の経験を、若い人たちは“ビッグデータ”と呼んで驚いているようです。60歳の人が8人いたら、480年分ですから。

ケアラーズカフェがある「Ponteとやま」では、教員をしている水野カオルさんという方と一緒に、子どもの体験プログラム、学習支援や就労体験支援も行っています。生きづらさを抱えている子どもたちや若者たちが自分らしく生きていけるよう、自信を持って成長していくための居場所と仲間、必要な学びのチャンスを作っているのです。

相棒で高校の巡回相談員もされている水野カオルさんと。
専門分野を生かし合う、頼もしい相棒です。

そして、その体験の場としてもケアラーズカフェ「みやの森」は使われています。「ボーイズカフェ」、「キッズカフェ」と名づけて、定期的に子どもたちが調理をし、お父さんやお母さん、来客を接待する、というものです。

加藤さん このカフェで子どもが作ったランチをお母さんたちが食べる、お母さんたち同士でちょっとしゃべる、そういうことでほっとしてほしい。力を発揮する子どもたちの生き生きとした姿をここで見てほしいです。

また、カフェという場所自体が多くの職種の組み合わせなので、子どもたちにとって合うものを見つけやすいんです。お客さまと接したい子とか、メニュー書きたい子とか、掃除したい子とか、洗い物したい子とか。

場があることで体験できるし、いろいろ失敗しながら自分のできることを発見していくんです。

ボーイズカフェ 少年たちが食事作りやお客さんの接待を行います。

とあるキッズカフェの一日をのぞいてみると、座る場所もないくらい満員。注文を聞きに来る子、「きれいになった」と喜びながら茶碗を洗う子、盛り付ける子など、心配そうにのぞき込むお父さんをよそに、落ち着いて担当の仕事を頑張っていました。

お子さんたちと接していて面白いのは、「子どもたちがどんどん変わっていくこと」という加藤さん。家でもやったことがないのにお皿洗いをするようになったり、台所の奧にしかいたくないっていう子がお客さんにお水を出せるようになったり、そういう変化を見て、またお母さんが明るくなってゆくのだそうです。

加藤さん 子どもたちが変わってくると、お母さんも気持ちが安定してきます。例えばお母さんたちも、子どもの心配ばかりしていたけれど、自分たちの人生も考えていこう、とか。お母さんたちが笑顔でいられる、幸せだ、と思える時間があるのが私たちの願いです。

“戦うボランティア”だった大学時代

加藤さんが福祉の世界に関わるようになったのは大学時代の頃でした。もともと、妹さんに軽い障がいがあったこともあり、その経験を生かして養護施設で学習指導のボランティアに通っていました。

そこで出会ったのは抱きついてきたり、蹴飛ばしてきたり、エネルギーの塊のような子どもたち。「”やさしいボランティア”というよりは”戦うボランティア”」と振り返る加藤さんですが、子どもたちと日々ケンカしながらも「結果的には楽しかった」そう。

加藤さん 障がいを持っている人たちのボランティアもしましたが、車イスを押しに行く度に「何もわかっていない」と相手から叱られたこともありました。

他にも私が卒論を書いている最中に肺炎になった人がいて、付き添いがないと入院させられないから「来い」と言われて、病院の畳の部屋で肺炎の患者の付き添いをしながら卒論を書き上げたことも。

そうした様々な関わりを経て、「人間て強い」と実感するようになり、「次第に障がい者に対して『誰かを助けてあげる』という気持ちがなくなっていった」と加藤さんは言います。

大学を卒業した後は盲学校の教員となり、結婚してからはYMCAフリースクールの講師に。最初の頃は、生徒となかなかコミュニケーションがとれなくて悩んだそうですが、そのとき思いついたのが「みんなでご飯を食べること」。大きなお弁当を持っていき、それを子どもたちと食べることで少しずつ距離が縮まったそうです。

ある日の「みやの森」のメニュー。鱈のひよこ豆入りトマトソース、豆腐のステーキ梅ソースかけなど

その後も得意の料理を生かして、生きづらさをもっている人やその親の居場所をつくろうとコミュニティカフェ、「Y’sさくらカフェ」(富山YMCAフリースクール)をスタート。14年ほど担当したのち、父親とご夫婦だけの今後の生活を考え、生活拠点を砺波市に移し、自宅の横にケアラーズカフェを立ち上げます。

加藤さん いつか自分たちも将来、絶対介護が必要になる。でも娘たちは自分の道を歩いて遠くに出たし、親も自分の道を歩くから。家族以外の人と同じ地域でここで暮らす、そのために造ったのがケアラーズカフェでした。

あと、もう一つの目的は、自分に情報が集まるようにしたかった。拠点を持てば私が動かなくても人が来てくれるから。

実際に始めてみると、今までの活動と同様、生きづらさを持っている子どもや若者の相談がほとんど。いろんな人が入ってきて生きづらさを持っている若者が高齢者とつながったときに、面白いことが始まるかもしれない。そう思うと、可能性は大きいなーと思って。

加藤さんにとっては「混沌」としているのが理想。価値観の違うものを受け止める度量がケアラーズカフェを支えています。

加藤さん いろんな人がたくさんいた方が、自分の想いをはきだすことができるのかなって。支援を必要とする側が支援する側になったり。子育て中のママやパパがいたり、若者がいたり、高齢者やいろんな世代の人がいたりするのは今、いいかナと思い始めています。

誰が来てもいいし、去ってもよいと思う。いつも風が吹いているように。必要な時に来てくれれば、ここは自宅なので死ぬまで私はここにいますから。

様々な子育てについての本が本棚に。

「言葉だけで表現する時代は終わった」

ケアラーズカフェに集まるのは、いろんな想いや悩みを持っている人たち。こうしてケアラーズカフェに集う人からの相談が増えてくるにつれて、ストレスがたまってきたり、重くなったりしないのでしょうか。

加藤さん 私はそれはないです。寄り添うとかではないんですよ。おしゃべりに近いです。ただ、整理は必要だと思います。話すことを聞いてもらうことで整理できる場合もあると思いますから。

それから、その人とちょうど良い距離をとって信頼すること。だから私は近すぎたらいっぺん押し返す。それでしんどく感じる人もいると思う。でも、ちょうど良い距離は長い人生で体得するしかないと思っています。

加藤さんが強調するのは、「言葉だけで表現する時代は終わった」ということ。言葉を頼りにしなくても同じ時間を共有する、人との距離のとり方がわからなくなったときこそ人と交わっていく、それらのことを加藤さんは何より大切にしています。

加藤さん 若者たちは面白いですよ。しんどい人たちが「しんどいなあ会議」をやったり、片付けられない人たちの「ちらかし隊」というのをやったり。一人では辛いと思うことも他の人と共有することでほっとしたり、笑いに変えられることもある。仲間を得ることで生きる希望が生まれてくるんです。

働く練習にしようと、「窓拭き隊」という「コンビニの窓を拭く」という活動をしている人もいます。初めて参加した若者がバイトから帰ってきたら今までと全然表情が違って、「うれしかった」と言って。

そんな喜びもあればドタキャンされてびっくりするときもあるけど、最近は太っ腹になって、びっくりもしなくなっているけど。とりあえず楽しければいいかナ。

こうしてケアラーズカフェに集う人が増えるにつれて、「何かをやってみたい」という人たちも増えているそう。「その人たちがこの場所でやれることをやってもらえば」と加藤さんは言います。

お母さんたちの手作り小物やコミュニティカフェのちらしも。

加藤さん  例えば、市との協働で「認知症カフェ」が始まりました。認知症と診断されても社会との繋がりは絶たないでほしい。このカフェが社会との接点となってくれたらうれしいです。

思っていることを人に伝えると、新しいアイデアが生まれてきます。みなさん、それぞれ才能があるのでそれを生かせる場所になれたらいいですね。将来的にカフェをやりたい人がこの場所から始めてくれたり、畑やカフェの手伝いや手作りの販売をしたり、いろんな交流が生まれています。

ここをみんなが自分を生かす場として利用し、踏み台にしてほしい。そういうのがごちゃごちゃしたカフェにしよう、と思うのです。

車イスで入って来てくれても全然構いません。この前、赤ちゃんが来て刻み食を出したんですけど、そんな風にいろんな事情で外食をしにくいという人たちにぜひ、気軽に来ていただきたいと思います。

(左)ケーキ3種盛り合わせ (右)タルトプレート

おいしいご飯を出して、いろんな立場や年齢の人も受け入れ、あるときは相談相手になり、あるときは人と人との架け橋となる。そうやって地域の中で人と人のつながりを可能性に変えていく加藤さんに、土に根を張る樹木のような、太陽のような力を感じました。

心が疲れたときは、ぜひ近くのケアラーズカフェに立ち寄ってみませんか。ふとしたおしゃべりから、新しい可能性が広がるかもしれません。

この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。