この8月には「働き方改革担当大臣」が新設されるなど、ますます働き方に関心が集まっています。特に、本業ともうひとつの仕事をもつ、二足のわらじ=パラレルキャリアに興味を持つ人も増えているのではないでしょうか。
私が勤めている「コープこうべ」には、お店のマネジャーながら国連本部の国際会議に参加するという、同じ職員から見ても不思議な「二足のわらじ」を履いている人がいます。2015年春にニューヨークの国連本部で開催された「2015年核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議」に、生協代表団として参加した小寺恵三さんです。
なぜこのような大きな国際会議に参加することになったのでしょうか? そして、その経験がどのように働き方にいかされているのでしょうか? 小寺さんにお話を聞きました。
1970年生まれ。1992年コープこうべ入所。協同購入センターで地域担当、店舗で畜産を経験した後、店舗のマネジャーに。現在は第4地区活動本部でマネジャー。
ビビッときて、ニューヨークへ
ことの発端は、労働組合の会議の場で核兵器に反対する署名の話題になったときのこと。話自体は「退屈でほとんど聞いていなかった」という小寺さんですが、最後に「2015年度にニューヨークで5年に1度の国際会議があり、公募で1名派遣します」と聞いた瞬間、ビビッときたそうです。
もともと音楽やカルチャーが好きでニューヨークに興味があり、そこに仕事で行けることに魅力を感じた小寺さん。核兵器云々というよりも、「仕事で大手を振ってニューヨークに行ける!?」という、初めはとても軽いノリでした。
その一方、「これから管理職になるために、自分に強みを作りたい」という思いも。というのも当時のコープこうべは、店舗事業の組織変更や管理職への女性登用推進など、組織を大きく変えようとしていた時期。「自分の活躍できる場所がなくなってしまう」という危機感があったそうです。
「仕事で大手を振ってニューヨークに行きたい」「自分に強みを作りたい」そんな思いから公募にエントリーした小寺さん。一次審査として課せられた「あなたにとって平和とは何ですか」という論文を、何かに取りつかれたかのように一気に書き上げ、提出。そのままの勢いで面接を受け、合格。晴れて代表団の一員となります。
国連総会議事堂(Wikipediaより)
代表団では被爆者の方と出会い、初めて聞く被爆体験の証言には心震わされたといいます。改めて平和への思いを継承していかねばという気持ちになり、とても充実したニューヨークでの活動。
ただその一方で、残念ながら加盟国の対立の溝は埋まらず、最終文書を採択するには至りませんでした。小寺さん自身とても悔しい想いをしたものの、他の代表団の方と話すことで、とても冷静になれたと振り返ります。
被爆者の方と話をしたら、すごい冷静なんよね。自分達が歩んできた道のりっていうのは長くて、そんなに簡単に世の中っていうのは変わらないっていうことを悟っている。自分達が高齢でもうすぐ活動出来なくなることも分かっていてとても冷静。
で、そういうのを見るとクールダウンして、何か僕らみたいに中途半端な人間が会議の結果に対して感情的になる方が逆に恥ずかしいなぁって思って。この場だけのもので終わらせてはいけないんだって教えられた。
仕事と活動を両立するバランス感覚
核兵器廃絶に向けた活動は一朝一夕ではいかないからこそ、「着々と積み上げていくことが大事」と小寺さん。次回のNPT再検討会議は2020年ですが、それに向けて準備を進めるそうです。
「この一年頑張ったからもう良いでしょう」っていうもんではないんやろうなぁって思っていて。例えば2020年にも代表団が結成される時、たくさんの職員から参加希望の手が挙がるような組織風土を作ったり、フォロワーを増やしたり…。もはや、ライフ・ワークになるかも(笑)
確かに仕事をしながら大変な部分はあったけど、自分で色々考えたり楽しんだりしながら、研修や講演会の場で組合員や職員に平和への思いを継承する活動を1年間できたよっていうのは、他の職員に知ってほしい。生協という組織はいろんな仕事があって、いろんな人がいろんなことにチャレンジできるところなんです。
仕事と活動の両立は一見大変そうに思えます。それでも小寺さんが二足のわらじを履き続けられるのは、チャンスを与えてくれた組織に対してリターンしたいという誠実な気持ちと、活動自体を個人としても楽しみながら続けたいという気持ちのバランスなのかもしれません。
バランス感覚を大事にしているのは、これまでの節目ごとに色んな人からバランス感覚っていう言葉をよく聞いたから。
時代の流れとか組織の流れがあって、組織が急ハンドルを切るときってあるよね。組織がどっち向いて走っているとか、もうすぐハンドル切るとかっていうのを分かっていないと、ひっくり返ったりついて行けなかったりする。
世の中の流れにコープこうべはまだ対応できてなくて、もっとスピード上げへんかったらあかんっていうのをすごく肌で感じてる。これからますますバランス感覚を養った人間じゃないとついて行かれへんのじゃないかな。
バランス感覚を養うための小寺さんの秘訣は、古典的な手法ですが飲み会や学習会。コープこうべではちょうど、年代や部署の垣根を超えた交流を図るための「100人飲み会」や、お酒の力に頼らずとも、若手有志職員が切磋琢磨し活動を起こすプラットフォーム「Insideout CoopKobe」などの場づくりが進んでいます。
若手社員が参加する「Insideout CoopKobe」の様子
小寺さんが考える飲み会のような場の魅力は、「運命のような出会いがあること」。小寺さん自身、若い頃には職場の飲み会が苦痛で仕方なかったのが、ある年を境に、昔の友人で5年10年経つと大きく成長している人がたくさんいることに気付き、そこから飲み会に積極的に参加するようになったそうです。
自分より年上の人にはもちろんだけど、自分より若い人でも、その人を知っておくことで先々良いことがあるかなぁって思う。今年入ったばかりの職員でも5年先何しているかって分からへんし。
自分にとってその人が、或いはその人にとって僕が気づきを与えてくれる存在になるかも。今何もなくてももしかしたら5年先になるかもしれない、そんな運命の出会いが日々あるかもって思うとワクワクする。
コープこうべだからできること
小寺恵三さんと筆者
コープこうべはそもそも、「貧民街の聖者」として世界的に知られた賀川豊彦の思想である、「愛と協同」を旗印に立ち上がった組織。そこに入所した時点で、一人ひとりの職員の中に思いがあるとすれば、大切なのはそれを共有していくことかもしれません。
コープこうべで働いていることやコープこうべの組合員活動をすることがステータスであるような、そんな組織に将来なっていってほしい。そうするためには、面白い人間を増やしたいよね。
面白いことをしたい。それぐらいのスタンスで社会的課題を考えて、肩の力を抜いて解決していく方法を考えたいな。
小寺さんが履いた「二足のわらじ」。お話を伺っていて感じたのは、元々履いていた「普段の仕事」というわらじに、「面白いことをしたい」というわらじを足したということでした。「普段の仕事」にはない出会いがあり、組織の内でも外でもネットワークが広がり、その結果職員一人ひとりだけでなく、コープこうべ自体の社会的価値も増していくはずです。
ぜひあなたも、普段とは違う、面白いと思うことを、今の組織や生活の中でちょっと始めてみませんか? それがいつかめぐりめぐって、組織そのものの魅力に変わっていくかもしれません。
(Text: 西谷友彬)