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なぜ人口1700人の町に魅力的な起業家が集まるのか? その理由を探すために、徳島県上勝町に行って来ました!(前編)

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上勝開拓団の拠点にて

“徳島県上勝町”と聞くと、多くの人はこう思うのではないでしょうか。

「あの有名な、葉っぱビジネスのまちでしょう」と。

ところが最近の上勝町の面白さは、もはや葉っぱビジネスだけではない、らしいのです。じつはここ数年、人口1700人ほどしかいない上勝町で、起業する人があとをたたず、わかっているだけでも20近い事業がたち上がっているのだそうです。

そんなまちの様子を「ぜひグリーンズに見てもらいたい!」とお声がけくださったのが、上勝町で次々と起業家が誕生する仕組みづくりを行なう「一般社団法人ソシオデザイン」の大西正泰さん。1日目は大西さん、2日目はソシオデザインに勤める谷本徹さんが直々にアテンドしてくださり、1泊2日で上勝町を巡りました。

現地住民のアテンドがあるからこその、濃ゆい出会いばかりだった2日間。まち全体の空気感や雰囲気をお伝えすることで、そのまちで起きているムーブメントそのものを捉えられるのではないか、そんな思いから今回はグリーンズでも初の試みとなる取材旅のレポートをお届けします!

映像制作とまちの開拓(?)を手がける「株式会社上勝開拓団」

朝10時、空港からレンタカーを利用して、上勝町に到着しました。空港からの所要時間は約1時間30分。景色はずいぶん山の中なのに、思いのほか近いことに驚きました。

まずはすでにグリーンズでもご紹介した「日比ヶ谷ごみステーション」と「カフェポールスター」を見学。ポールスターでおいしいランチをいただいたあと、最初の目的地へと向かいました。
 
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「日比ヶ谷ごみステーション」で、ごみステーションを運営する「NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー」理事長の坂野晶さんにばったり。このあとも、次から次へと知り合いがやってきて、よもやま話に花が咲きました。ごみステーションが地域のコミュニティリビングとして、機能しているんですね

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カフェポールスターには、ちょうど雑誌の取材がきていました。せっかくなのでその写真撮影の様子を撮影してみたり

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カフェポールスターのランチ。地元の新鮮な野菜がたっぷり。スープが悶絶するほどおいしかったです…

ちょっと不安になるほど山道を行った先に辿り着いたのは、360度山に囲まれたというか、もはや山しか見えない場所にポツンと佇む風情のある古民家。

ここはかつて大西さんが日替わりで模擬起業ができるシェアカフェ「いちじゅのかげ」を運営していた場所。現在は「株式会社上勝開拓団」の拠点として使用されています。
 
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古民家をリノベーションした、株式会社上勝開拓団の拠点

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その古民家の入口から見える景色はこんな感じ。ガチで山しか見えません…

代表の仁木啓介さんはもともと東京の映像制作会社で働き、ドキュメンタリーからドラマまでさまざまなテレビ番組を制作していました。

そんな仁木さんが初めて上勝町を訪れたのは2009年。ゼロウェイストの取り組みについて取材にきたのがきっかけでした。その後、ふたりのおばあちゃんのドキュメンタリーを撮影するため、半年間、上勝町に住みこみます。

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株式会社上勝開拓団・代表取締役の仁木啓介さん。キセルが似合います

やがて制作会社に籍を置いて仕事をしつつ、上勝町で畑を耕したり、まちの人の手伝いをするようになったのだそう。そして2014年、ついに会社を辞め、完全移住して起業しました。

現在は、地域のPR動画や地元ケーブルテレビの番組制作など、地元の仕事を中心に請け負っていますが、人手不足で困っているほど、大忙しだそうです。いずれは東京のテレビ局に企画を売り込んだり、映画制作などもやっていきたいと考えています。


仁木さんはこの映像を見ながら、移住の経緯をお話してくださいました。上勝開拓団で制作したイベント告知用の映像ですが、仁木さんが上勝町と深く関わるきっかけになったドキュメンタリー「笑うキミにはフクきたる」の主人公、きみちゃんとふみちゃんが登場しています。上勝町の明るくエネルギッシュな雰囲気が伝わってきます

上勝開拓団がユニークなのは、映像制作以外にも、バー経営やイベントの企画運営など、上勝町のファンを増やす受け皿としての事業を展開していることです。

仁木さん 最初の頃、ごみステーションに遊びに行くと、そこの植木が伸びてるから剪定してっていきなり言われるんだよね。そのあとにみんなで食事をしてお酒を飲んでっていう時間がすごく楽しかった。

だから都会からくる人たちも何かやることがあったほうが楽しいだろうなと思って。受け皿があれば、強いつながりの上勝ファンが増えるんじゃないかと思いました。

そこで上勝町で何かしたい、あるいは開拓団の活動にかかわりたいという団員をこちらで随時募集しています。現在の団員数は約100名。入会金5000円で永久団員となるそうで、最近は畑の開墾なども団員と一緒に進めています。

また最近では「まるごと上勝案内所」、略して「マルカミ」(iPhone / Android)という上勝町公式アプリを制作し、リリースしました。

手書きの地図で楽しく詳しく、上勝町の名所を見つけることができます。イベント情報のチェックや観光クーポンの発行などもできるのだそう。上勝町を訪れる人がますますまちを楽しむツールとなることを期待しています。

やることは山ほどあり、大忙しの日々だと言いますが、言葉の数々にこの地にしっかりと足をつけ、やりたいことを全うしている楽しさと力強さが感じられました。
 
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古民家の中には、週末だけオープンする「Bar IRORI」があります。仕事柄、たくさんの古民家カフェやレストランを見てきましたが、個人的ベスト3に入るほど、大人のムード漂う素敵な空間でした!

貴重な有機阿波晩茶とゆず製品をつくる「阪東食品」

再びまちを超え山を越え。美しい棚田の風景を見ながら、「阪東食品」の阪東高英さんを訪ねました。
 
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広大な棚田を見下ろす場所にある「阪東食品」

上勝町とお隣の相生町は「阿波晩茶」という日本に4つしか残っていない、とても珍しい乳酸菌発酵茶の生産地です。阪東食品では、さらに貴重な有機JAS認定の阿波晩茶を生産しています。

「どうぞ」と出されたお茶は、ふわっと香ばしい独特の香り。一口啜ると、柔かな口当たりとほのかな甘味が口の中に広がり、喉元をすーっと通り抜けていきました。乳酸菌発酵ということで個性的な味を想像していたのですが、その飲みやすさに思わず驚きます。

そして阿波晩茶のほかに阪東さんが力を入れているのが、ゆず果汁の生産、販売です。

もともと海外志向が強かった阪東さんは、近年、ヨーロッパやアジアに販路を拡大。香りが強い日本の有機栽培ゆずは大人気で、現在では生産が追いつかないほど注文が増えています。なんと阪東農園のゆず果汁は、パリの三ツ星レストランでも採用されているのだそうです。
 
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「阪東食品」の阪東高英さん

阪東さんは、会社員時代にお父様から有機JAS認定をとるための書類づくりを頼まれ、それをきっかけに、約8年前にUターンして家業を継ぎました。

阪東さん 農業や食品のことは何も知らなかったので、教えてもらいながら畑に出て、時間のあるときは営業活動をしています。でもなんかもう、大変で(笑) 墓穴を掘ったというか、引くに引けない状態になってます(笑)

しんどいこともたくさんあると言いますが、有機の阿波晩茶も、まだまだ海外に出荷する業者が少ないゆず果汁も、なくなったら困る人が大勢います。阪東さんは、事業拡大も視野に入れ、今後を見据えていかなくてはと考えています。

阪東さん うちの商品を気に入ってわざわざ注文してくださるお客さんが多いので、この先もなんとか頑張って続けていきたいです。

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事業を拡大するとしても、拠点は変わらずここにしたい、と阪東さん。この景観を残していくためにも、耕作放棄地をゆず畑などに再活用できないかと考えているそう

上勝町はなぜ起業する人が多いの?

夕刻、落ち着いた時間を見計らって再び「カフェポールスター」へ。カフェについてはすでに公開されている記事をお読みいただければと思いますが、今回はスタッフの松本卓也さんに、改めて上勝町へIターンした理由を聞いてみました。
 
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「旅レポートなんだから、自分も写っておいたほうがいいんじゃない?」と大西さんが撮影してくださいました。こんな感じで取材してました

1度は東京で就職した松本さん。仕事になかなかやりがいが見出せないでいたときに、東日本大震災が起きました。

松本さん それでお金があっても役に立たないやって実感したり、それこそgreenz.jpとか読んで、社会の価値観が変わっていく中でいろいろな人が動いているのを見て、自分も身の丈に合った生活をできたらなと思ったのが大きかったです。

期せずして、パートナーの東輝実さんが、地元・上勝町にカフェを開きたいという夢を実現させるべくUターンすることになり、一緒に移ってきたのだそうです。
 
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取材中、たまたまコーヒーを飲みにきたのが、株式会社いろどりの谷健太さん(右)。谷さんは徳島市出身で、祖父母が上勝町に住んでいる、いわゆる“孫ターン”。自分で考えたことをちゃんと表現できる環境を求めて上勝町にやってきました。松本さん(左)とは同い年で大学も同じということで仲良しです

それにしてもいったいなぜ上勝町は移住者が多く、起業する人も多いのでしょうか。そんな質問をぶつけてみました。

松本さん 面白いのは、みんなこの場所が好きになって、この人たちと一緒に暮らしたい、でも仕事ない、じゃあ自分でつくってみようってなること。

上勝にくる人って、みんなフラフラしてる(笑) ふわーっとした人たちがきて、「ヒトあたたかいーもうちょっといたいー」ってなって、じゃあそのためにやったことないこともやってみようかなってなる。まちの人もそういうふわーっとした人でも応援してくれる。だからやめにくい。

みんなここにいたいと思って始めるから、経済的な問題はさておき、事業がうまくいこうがいかなかろうがあんまり関係ないんですよね。

なるほど! 起業はあくまで、このまちで暮らすための手段のひとつ、なんですね。

自給自足で暮らす中村ダヨネさんの家へ

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自給自足で暮らす中村ダヨネさん。中村さんのきめ細やかな暮らしぶりがよくわかる薪棚の美しさ!

2日目になりました。最初に伺ったのは、以前に大西さん、そしてgreenz.jp編集長の鈴木菜央さんから噂を聞いていた中村ダヨネさんです。中村さんは27年もの間、上勝町でほぼ自給自足の暮らしを送っています。その美しい暮らしぶりを熱く語るおふたりを見て、私もぜひお会いしたいと思っていました。

しかし今回は1泊2日の短い滞在。スケジュールの都合でお会いすることは叶いそうにありませんでした。ところが前日、カフェポールスターにきていた中村さんと偶然お会いし、翌朝いちばんで伺わせていただけることになったのです。
 
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前日、カフェポールスターでばったりお会いしたときの写真。左が中村ダヨネさん。右が、2日目のアテンドを引き受けてくださった、ソシオデザインのカヤック事業プロジェクトマネージャー・谷本徹さんです

中村さんのお家は、もともと納屋兼牛舎だった建物です。周りに民家はなく、おそらくかつて棚田だったと思われる場所のてっぺんにありました。鳥の鳴き声しか聴こえず、山以外何も見えず、古びた建物の醸し出す静けさに、思わず息を飲みました。

中に入れば手づくりのかまどと薪ストーブ、小さな裸電球。壁には、整然と並べられた調味料やスパイスのビン。噂どおりの美しい暮らしに、私は一瞬(大げさでなく)本気で考えました。映画のセットの中にでも、迷い込んだのではあるまいか、と。
 
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手前の薪置場になっている場所に、もともと母屋がありました。年々崩れていってる、と中村さん(笑)

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手づくりのかまどがあるキッチンスペース。つくりつけの棚には調味料やスパイスがあつらえたようにぴったり収まっていますが、じつはこれも、お菓子の缶や空き瓶を再利用して使っています。なのにどうしたらこんなに美しい並びになるんでしょうか…(溜息)

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ダイニングには薪ストーブが。暖房器具はこれだけしかないため、冬は湯たんぽをつくり、2階の寝室まで走ってすぐに布団に潜り込むのだそう

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手づくりの建具、道具の並べ方、薪の置き方、すべてが美しい

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畑はハウスひとつ分。でも、ひとり暮らしだとこれで充分、必要な野菜が賄えます。獣害対策のため、ネットは頑丈に。「ここまでやれば大丈夫!」とのこと

中村さんはこういう生活をして、ひとつ、わかったことがあると言います。

中村さん それはね、時間さえあれば、何やっても楽しいと思った!

かまどで食事をつくるのも、薪を切るのも、畑作業も、家を直すのも、とても手間のかかること。しかし、そこにかける時間さえあれば全部が楽しいのだ、と言うのです。

確かに私も、締切の前にごはんをつくるのは面倒くさいしストレスです。でも、時間があるときに手間のかかるごはんをつくるのは楽しいよなぁと思い出しました。

中村さんは“選択”という言葉をよく使っていました。楽しいからこの生活を選択し、時間がほしいから現金を極力使わないことを選択し、そのために薪エネルギーを選択し、車をもたないという選択をしたのです。

中村さん 自分がどういう生活をしたいかで、選択すればいい。そういう意味では今は選択の幅がものすごくあるよね。

都会に住むにしてもそうだけど、生活をつくるってじつはものすごくクリエイティブなこと。ちょっとした芸術なんか目じゃないと思うよ。空間と時間、両方をデザインしていかないといけないんだから。

憧れの自給自足、しかしとてもできないだろうと思っていた自給自足が身近に迫ってきました。“お金は道具だ”ということを、改めて教えてもらったような気がします。と同時に、私はどんな暮らしがしたいのだろうと考えさせられました。

後日談ですが、中村さん、電話もメールもないためなかなかつかまらず、原稿の確認をしようにもできないまま、かなりの時が過ぎました…(笑)時間の流れが、きっとそもそも違うのです。
 
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楽しみのために始めたという中村さんの作品の数々。すべて日付が入っており、きれいに製本されています。年を追うごとに少しずつ作風は変わっていきます。版画から塗り絵、切り絵から貼り絵と、どの時代の作品も、シンプルなのにとても素敵

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こちらは小作品たち。切り絵の下に、もらいものの雑誌のページを貼りつけています。「簡単だけど、すごくかっこよく見えるでしょ」と中村さん。お金をかけなくても、こんなに遊べるんだなぁ。「やってみなくちゃわからないからね」と、私も急きょ、簡単塗り絵ワークショップを開催してもらいました

2階のお部屋も見せていただき、すっかり話し込んでいると、1階にいた谷本さんから「平川さん! 定休日って話してた「喫茶いくみ」の店主から今、別件で電話があって、店開けるからぜひきてくれって!」とお声がかかりました。再びの引きの強さに、我ながら驚きます(笑)

設備投資ゼロで始まったレコード喫茶「喫茶いくみ」

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舗装された林道沿いにある「喫茶いくみ」。昭和レトロな雰囲気がたまりません!

というわけで、急きょ「喫茶いくみ」へ。外観からしてレトロな、元商店だったという建物です。

映画のロケで使用され、内装がそのまま残されたこの建物を使わないのはもったいないと、店主の石本耕資さんが喫茶店をオープンしました。もともと音楽が好きで、店の雰囲気にも合っていたためレコード喫茶にして、懐かしの昭和歌謡やロックをかけているのだそう。

石本さん 次の借り手が現れたらすぐにどく予定で、設備投資ゼロで始めました(笑)

造作はもともとあったものをそのまま使用。食器類もごみステーション内にあるリユース拠点「くるくるショップ」を利用して、無料で調達しました。辞める時には再びくるくるショップにもっていけばいいので無理がありません。

喫茶いくみのお客さんの数はけっして多くはありません。本業のデザイナーやカメラマンの仕事をやりながらでないと続けていけないそうです。

石本さん でもまぁしょうがないよね。だって、僕自身がこんな遠くまで気の毒にと思ってしまうもん(笑) でも、本当に行ってみたいと思ってくれた人は辿り着いてくれるから、それでいいんです。

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喫茶いくみの店主、石本耕資さん。15年ほど前に千葉県から徳島市にUターンし、その後、故郷である上勝町に帰ってきました

上勝薬草研究会」の会長でもある石本さんは、お店のメニューに薬草チャイをつくったり、お土産品にもなる薬草カレーの開発を行ったりと、次から次へと、さまざまなアイデアを実行に移しています。いずれは町内に薬草商品を生産する加工工場をつくりたいというひそかな目標もあります。

「好きなことしかしない!」と決めているという石本さん。趣味と実益を兼ね備えた形からのお店の始め方もあるのだなと思いました。
 
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わざわざ入れてくださった薬草チャイ。旅の疲れをほぐしてくれる、とても優しい味でした

ご縁で上勝町にやってきた本格イタリアン「ペルトナーレ」

旅も終わりに近づいてきました。最後に向かったのは「リストランテ・ペルトナーレ」です。細い路地を進んだ先にある高台の古民家。引き戸を開けると、そこには和洋折衷の落ち着きある空間が広がっていました。
 
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外観は普通の古民家なのですが…

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扉を開けるとこんな感じ

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お子様連れの方に好評だという座敷もあります

シェフの表原平さんは東京にあるフランス料理店やイタリア料理店で修業したあと、淡路島にオープンした系列のレストランで働いていました。ちょうどその頃、中学時代の恩師だという大西さんとSNSを通じて再会し、上勝町へ遊びにきます(じつはソシオデザインの大西さんは、元教師という経歴の持ち主なのです)。

ちょうど独立を考えていた表原さんは、そのときにいろいろな古民家物件を見せてもらい、上勝でお店を開くことを検討し始めました。現在使用している古民家はソシオデザインが町から借り受けて活用しようとしていたもの。ここで店をやらないか、と大西さんに誘われ、やることにしたのだそうです。
 
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「リストランテ・ペルトナーレ」のシェフ、表原平さん

表原さんの場合、上勝町でお店をやりたかったというよりも、こうしたご縁によってお店を開いたという形です。正直、小さなまちでお店を始めることの不安はなかったのでしょうか。

表原さん それ、よく聞かれるんですけど、まったくなかったですね。徳島市内から1時間ぐらいならお客さんくるんじゃないのかなと思ったし、ここであかんかったらどこでやってもあかんわっていうのはありました。

その言葉どおり、派手な宣伝をしたわけではないと言いますが、客足は順調です。「ちゃんとうまいものをつくっていれば、お客さんは絶対にきてくれる」と表原さん。

料理人は唯一、格付けされる職業と言われているそうです。だからこそ、しっかりいいものをつくり、提供していかなくては立ち行かなくなる。ときには場所よりも何よりも、大切なことがあるのだと思いました。
 
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ランチは前菜、パスタ、ドルチェにドリンクもついて1200円〜(2016年3月現在)。定番だというカルボナーラをいただきました。濃厚でおいしい!

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前菜のサラダ。フルーツや生ハムもふんだんに。「これ東京で食べたらこれだけで1000円ですね」と谷本さん

選択肢をまるごと与えてくれるまち、上勝

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途中で遠回りして立ち寄ってくださった「橿原の棚田」。「日本の棚田百選」に認定されており、200年以上、土地利用形態がほとんど変わらないという珍しい棚田だそう。この棚田を見下ろすところに、取材NGで完全予約制のおそば屋さん「あさかげ亭」があります。こんなところまでお客さんくるのだろうか、と思うほど山深いところなのですが、いつも予約でいっぱいだそうです。

いやはや、あっという間の2日間でした。普段、取材といっても、どうしても“点”でしか取り上げることができません。こうしてじっくり “面”として向き合うことで見えてくるまちの個性がありました。

人それぞれ、思いや考え方の違いはあっても、このまちで暮らしたい(あるいは、働きたい)ととてもフラットに思っていて、そのために淡々と仕事をつくっていました。必要だからやっている、そんな感じ。だからなのか、ちっとも気負っていなくて、凪いだ海のような落ち着いた空気感がありました。

また私が遊びに行ったら、きっとみなさん、気もちよく迎えてくださるでしょう。かといって、大騒ぎもしないような気がします。きたかったら、くればいいよ。いたかったら、いればいいよ。そんなふうに、選択肢をまるごと与えてくれる、そんなまちが、上勝町でした。

このあと、ソシオデザインの事務所にお邪魔して、起業家育成という観点から上勝町を見続けてきた大西さんに、上勝町の今とこれからについてじっくり伺いました。それは明日公開予定の、後編の記事にて! お楽しみに。

[sponsored by 一般社団法人ソシオデザイン]