12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

greenz people ロゴ

ここは“ローカルヒーロー”を生み出す秘密基地! 横浜で話題の「BUKATSUDO」土山さん・川島さんに聞く、街に広がるコミュニティのつくり方

bukatsudo_top

2014年6月、桜木町駅近くのドックヤードガーデンの地下1階にオープンした「BUKATSUDO」。

目的に合わせてさまざまな使い方ができるスペースや設備が整っていることに加え、こだわりのコーヒーが飲めたり、「これからの本屋講座」や「金継ぎワークショップ」などの個性的な講座が開催されていたり。大人の隠れ家として、今、じわじわと人気を集めています。

この「BUKATSUDO」を手がけたのが、株式会社リビタです。同社はリノベーションによって、暮らしとコミュニティをデザインすることを得意としている会社。これまでに、社宅・賃貸マンション・戸建住宅などのリノベーション分譲や、独身寮などをシェア型賃貸住宅に再生・運営する事業などを展開してきました。
 
bukatsudo_work
BUKATSUDOのワークラウンジ。利用者は近隣に住んでいるフリーランスの人が多い

老朽化した建物を住まいとして再生・活用することに関しては実績のあったリビタですが、空きテナント空間を不特定多数が集まる商業的な空間として活用するというケースは、「BUKATSUDO」が初めての試みだったそう。

「BUKATSUDO」は、どのように人の集まる空間に育っていったのでしょうか。そして、“街に広がっていくコミュニティ”とはどのようなものなのでしょうか。

今回は、リビタで「BUKATSUDO」の立ち上げから関わってきた土山広志さんと、現在、運営を担当している川島史さんにお話をうかがいました。
 
bukatsudo_top1

土山広志(つちやま・ひろし)
新築分譲を主とするデベロッパーを経て2008年リビタに転職。シェア型賃貸住宅「SHARE PLACE」の企画・運営・PR業務を長年手掛け、近年では住宅やオフィスの枠に捉われない複合型シェアスペースの企画・運営に注力している。担当PJはBUKATSUDO、the C、TABLOIDなど。
川島史(かわしま・ふみ)
大学卒業後、カフェの企画・運営会社に入社。カフェのホールやキッチンなどの店舗運営業務全般を経験する。学生時代から、街づくりや地域活性に興味があり、グリーンズの学校「green school」での出会いがきっかけとなって株式会社リビタに入社。現在は「BUKATSUDO」の運営を担当している。

“ドックヤードガーデンの地下1階”という立地

日本に現存する商船用石づくりドックとしては最も古い「旧横浜船渠第2号ドック」。国の重要文化財にも指定されている文化資産を後世に伝えようと復元して生まれたのが「ドックヤードガーデン」です。

目の前にはランドマークタワーがそびえ、周りには日本丸やコスモワールドの観覧車など、横浜のなかでも、とくに“みなとみらい”という言葉を聞いたときに、多くの人が思い浮かべるような光景が広がっています。
 
bukatsudo_dockyard
ドックヤードガーデン

bukatsudo_yokohama
みなとみらいの風景

そんな事物を横目に見つつ、さくら通りを歩いていると、地下への入り口が姿を現します。地下へ潜っていくと、そこにあるのが「BUKATSUDO」です。
 
bukatsudo_enter
BUKATSUDOの入り口

立地からのインスピレーション

立地としては、「偶然目についたので、ちょっと気になったので寄ってみた」ということが起こりにくい場所。“見つけてもらいにくい”というのは、一般的に商いのための場としては不利な要素かもしれません。

それに加えて、2013年の「MARK IS みなとみらい」のオープンなどにより、商業立地としての競争力はますます削がれていきました。そんな頃に行われたのが、「ドックヤードガーデン活用事業」の活用事業者を選定する公募でした。

横浜市は港や歴史的建造物などの地域資源を活かしながら、文化芸術の創造活動によって魅力的な都市をつくろうという施策に取り組んでおり、その一環としての “公民連携のプロジェクト”という位置付けです。

そこでリビタが提案したのが「大人の部活」というコンセプトでした。「市民が活動の主体になる」という視点が評価を受け、活用事業者として選ばれることになったのです。
 
riento
リビタが手がけた「りえんと多摩平」。UR団地を地域連携・多世代交流型シェア住宅にリノベーションした事例。このほかにも、原宿・神宮前に有る店舗・オフィス・住宅からなるシェア型複合施設「THE SHARE」などがある。リノベーションによって暮らしとコミュニティをデザインすることを得意としている

“仕事場”にも“遊び場”にも

bukatsudo_facilities

「BUKATSUDO」には人と人とが交流するためのスペースが充実しています。誰でも立ち寄れるコーヒースタンドをはじめ、ワークラウンジ、キッチン、スタジオ、DJブース、アトリエなどを備えています。
 
bukatsudo_cafe2
コーヒースタンド。3種類の豆と5種類の淹れ方から組み合わせを選べる

bukatsudo_dj
DJブース。フロア全体に音を流すことができる

bukatsudo_bushitu
「部室」の壁は自由に装飾ができる。写真は「レコード部」の部室。仕事帰りに集まって、それぞれオススメのレコードを紹介し合ったり、情報をシェアする場となっている

中でも特徴的なのが「部室」です。「部室」という懐かしい響きが、学生時代の記憶を呼び起こします。昼休みや放課後、そこに行けば同じ趣味を持った気の合う仲間がいて、心地よい時間を共有できる、あの感じです。

土山さん 「BUKATSUDO」のような外への広がりは、チャレンジでもありました。私たちがこれまで手がけてきたシェア住宅の交流スペースは、基本的には住人のための私的空間。そこで生まれた交流価値を長年見てきた僕らとしては、その価値を街へ拡げたいと考えました。

今回は通りかかりにくいという立地を逆手にとって、“秘密基地”や“隠れ家”といったイメージをふくらませていきました。そこに行けば何かがあって、誰かがいるという場づくりを目指すことにしたんです。

コンテンツが全国から人を集める

bukatsudo_honya
「これからの本屋講座」は毎回多くの受講者を集め、現在第5期が開催されている

講座の内容によっては、日本全国から人が集まることもあるという「BUKATSUDO」。わかりにくい立地でありながら、その求心力となったのは、ここで開かれる講座でした。

川島さん オープンしたときに多くのメディアに取り上げられたり、近隣のオフィスにチラシを配ったりもしましたが、当初「BUKATSUDO」に足を運んでもらうきっかけとして多かったのは、講座への参加でした。

オープン当初の講座としては、以前greenz.jpでも紹介した内沼晋太郎さんが講師を務める「これからの本屋講座」や、BEAMS RECORDS ディレクターの青野賢一さんが講師となった「場をつくる選曲講座」などがありました。

講座に参加することで、第一線で活躍する講師とつながり、情報を得たり対話したりすることができます。横浜はもちろん、大阪や名古屋などからも受講生が集まってくるなど、その分野に興味を持っている人たちにとっては、たとえ遠くても参加せざるをえないような、垂涎の講座なのです。

土山さん 私自身も「場をつくる選曲講座」に参加しました。音楽の背景について、社会思想の知識から始まり、まるで世界史の授業を受けているようでしたが、自分が興味のあることについて深く知ることができ、集まった人たちと濃い時間を共有しました。

bukatsudo_kukai
「俳句のいろは教室」のキッチンでの句会。俳句をつくるために、みんなで外へ季節を探しに行くことも

bukatsudo_green school
今秋にはグリーンズのソーシャルデザイン入門講座も開講予定

川島さん 講座に集まる人数は、10名弱から20名程度。好きなことを共有する人同士のディープな集まりになっています。「自分の居場所はここにあった!」とばかりに、参加される方はみんな活き活きしています。

土山さん 広く市民の関心を得る講座というものは既視感のあるものでしかなく、あえて異質なコンテンツを盛り込むことで、施設の先進性・異質性を際立たせることを心がけました。

コミュニティの醸成手法としては「狭く入ってだんだん広げていく」という感じです。最終的には地域の人を巻き込んでいくことを目指しており、そのためにも「今までと違う何かがある」というブランドデザインが初期段階では特に重要だと考えています。

食で交わる「餃子部」

オープンしてからこの1年の間に、エッジの効いた講座が人を集め、同じ趣味を共有できる受講生の間での交流は深まっていきました。また、イベントを主催したり、ワークラウンジで仕事をしたりといった利用者も増えてきました。

その一方で、それぞれの講座や利用目的の枠を超えて集まれるイベントができないだろうかという考えから結成されたのが、餃子部です。
 
bukatsudo_gyoza
「餃子はすべてを包むんです!」と、川島さんは熱く語る

もともとは、川島さんの「餃子が好き」という気持ちからスタートしたこの部活。実は、餃子をみんなでつくって食べるという行為には、講座や利用目的などの垣根を超えた交流に適した要素が3つありました。

第一に、餃子はできあがるまでの工数が多いということ。みんなで作業を分担して協力しながら、ワイワイ取り組むことができます。

第二に、それぞれの工程をこなすために、料理の習熟度やレベルがほとんど関係ないということ。ふだん料理をしない人でも気後れすることなく参加できます。

第三に、一度にたくさんつくる料理であるということ。一人ではなかなかつくらない料理でもあり、大勢で食べるのに適しているといえます。

土山さん 餃子部の活動は、施設の利用目的や関心分野の異なる方々を横断的に結ぶのに有効だと感じています。これまでシェア住宅の運営で見てきた「食」によるコミュニケーションの可能性は絶大でした。

施設の中央ゾーンにオープンシェアキッチンを設けているという意味はそこにあります。

最初はワークラウンジを利用している人に声をかけて、10名ほどでスタートしたという餃子部。講座を受けに来た人が、その様子を見かけて次の回に参加してくれるなどして次第に参加者が増え、現在では平日夜の活動に30名くらいが集まるようになっています。
 
bukatsudo_gyozagroup

お客様が日替わりでヒーローに

餃子部のことはもちろん、「BUKATSUDO」のことを語る川島さんは本当に楽しそう。

もともと、街づくりや地域活性に興味があったという川島さん。リビタに入る前に勤めていたカフェ・カンパニー株式会社もディアンドデパートメント株式会社も、コミュニティや地域活性を大事にすることで有名な企業です。

そんな川島さんがリビタに転職したきっかけは、グリーンズが展開する「green school」で出会った土山さんとのつながりだったといいます。

川島さん ひとつのお店があることが人の流れを変えて地域の活性化につながるような、そんな仕事がしたいと思っていました。

地元の福岡で「D&DEPARTMENT FUKUOKA」の立ち上げにかかわった後、もう一度東京で仕事をしてみたいと思っていたときに土山さんに連絡をとってみたんです。

土山さん 「BUKATSUDO」での仕事は、シェア住宅の運営とは違った仕事になると思っていました。コミュニケーション能力に長けていて、店舗運営経験のあるような人が適任だろうなと考えていたところに、川島がちょうど転職先を探しているというので、すかさず声をかけました。

「BUKATSUDO」が利用者に愛されるのは、川島さんのような施設マネージャーの存在が欠かせないように見えます。

川島さん お客様と会話をしていると、最初のうちは「こんな講座を受けてみたい」という話になることが多いです。それが、あるとき「実はこんなイベントをやってみたいと思っているんです」と切り出されることがあります。

そんなときは、すかさず「やってみましょう!」と背中を押すようにしています。

bukatsudo_top2

お客様との会話を覚えていて、人と人とをつないだり、最初の一歩を踏み出せるように背中を押したり。人と接することが好きで、カフェでの経験を積んでいた川島さんにとっては、ぴったりの仕事なのでしょう。

なかにはスタッフとの会話がきっかけになって、初めてイベントを主催するようになる方もいるそうです。

土山さん イベントは参加するだけより、企画側に回った方が断然楽しいはずなんです。一人ひとりが、あるときは受講者、あるときは講師というように、日替わりで”ローカルヒーロー”を生み出していきたいですね。

利用者が主役となる創造的活動の拠点。リビタが活用事業者として期待されたことが、形になってきています。

横浜という地とこれからの「BUKATSUDO」

「BUKATSUDO」も2年目に入り、今、そのまなざしはより近隣で働く人に向いてきています。

みなとみらい地区の就業者の数は約9万8千人。企業の横浜支社も多いようで、人の入れ替わりも頻繁にあるといわれています。

土山さん もし東京の本社から横浜支社に異動になっても、引っ越さずに通うという人が多いですよね。

たとえば千葉に住んで横浜に通うとすると、横浜は“ただ仕事をしに来るだけの場”になってしまう。歴史ある横浜ともっと関わりたいと思っていても、なかなかそんな機会もない。それではもったいないと思うんです。

そんな人たちに向けて、「BUKATSUDO」では横浜の文化資産と関連した講座も計画しているそうです。

公民連携のプロジェクトという施設の特性を活かし、昨年は横浜トリエンナーレの関連イベントを行い、今年は、横浜市教育委員会が主催する「子どもアドベンチャー2015」や「Dance Dance Dance@ YOKOHAMA 2015」関連のイベントも実施しました。
 
_1140095
2014年のトリエンナーレ関連イベント。ディナー型パフォーマンス「ダール・アル=スルフ(和平の家)―あなたは消滅しかけている言語を亡霊の出す皿で食べている:和平の家 よりイラク=ユダヤ料理を提供する」の様子 撮影:加藤健

土山さん 最初は横浜で働いている人や住んでいる人の比率はそんなに高くありませんでした。1年が経って、近隣の人たちにも、徐々に「何か面白いことをやっているらしい」と認識してもらえるようになってきたように思います。

「BUKATSUDO」というブランドが確立されてきたので、これからは地域密着という方向に力を入れる段階にきていると考えています。行政と連携した取り組みも積極的に進めていく予定です。

川島さん 常連さんに居心地のよさを感じてもらうのはもちろん、新しく来ていただいた方も気がねなく過ごせるような、フラットなコミュニティになるようにしていきたいです。

bukatsudo_barisuta
スタッフの川島さんをはじめ、コーヒースタンドではバリスタがあたたかく迎えてくれる

常連さんにとって“居心地のよい空間”となっている「BUKATSUDO」。それでいて、常に地域に開かれたコミュニティとして、新しく来た人をあたたかく迎え入れる雰囲気も持っています。

その姿からは、世界に開かれ、新しいものを取り入れて文化を創造・発信してきた“港町ヨコハマ”のエッセンスが感じられました。

もし、「BUKATSUDO」の講座やイベントでピンとくるものがあったら、一度足を運んでみてはいかがでしょう。もっと気軽に、ただコーヒーを飲みに寄ってみるというのもひとつの手です。

コーヒー片手にスタッフと交わした何気ない会話から、あなたをヒーローにするアイデアが見つかるかもしれません。