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「本物の戦争の映像」と向き合い、自分の戦争の関わりあい方に真剣に悩む。ドキュメンタリー映画『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』

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現在も内戦が続き、爆弾テロや外国人の誘拐などが後を絶たないシリア。ニュースで断片的な情報は得られるけれど、シリアの人たちは一体何を求め、何をめぐって戦っているのでしょうか。そんなシリアの若者たちを描いたドキュメンタリー映画『それでも僕は帰る~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』がまもなく公開されます。

戦争から70年、曲がりなりにも平和を享受してきた日本でも、いろいろな形で「戦争」という言葉を耳にすることが増えてきました。そんな日本で、シリアの若者たちの姿はどのように映り、彼らの姿から私たちは戦争の何を学ぶことができるのか、考えてみたいと思います。

本物の戦争の映像

映画の始まりは、破壊され人気もほとんどない町を走る車の中からの映像。破壊されつくし、ほとんど人もいなくなった町ホムズに、この映画の監督が再び訪れるところから始まります。このシーンでの監督のセリフから、この映画が悲劇であることが予め予告されます。この町で戦争が行われ、多くの命が失われたのです。
 
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そこから時はさかのぼり、同じ町が若者で溢れかえっていた頃の映像がそれに続きます。それは民主化を求める若者たちのデモで、その中心には、サッカーのシリアユース代表にも選ばれたことがあるというスター選手のバセットがいます。

人々の支持を得て民主化運動にまい進していくバセットを主人公に、この映画は展開していきます。彼はアサド大統領の独裁政治に反対し、自由と民主化を求めるデモを行うのです。しかし、運動は政府の弾圧を受け、彼らは護身のためだった武器を増やし、武器を持って戦う“反政府勢力”となっていくのです。

政府軍に包囲された町での彼らの戦いは、「現代の戦争」を生々しく映します。家々の壁をくりぬいた通路を通って町の中を行き来し、町の外に出ようとすれば政府軍の銃撃にさらされます。機関銃や爆弾の音がひびき、銃弾に倒れ血を流し死にゆく人たちまでもが画面に映されます。

この秘密の通路をたどっていくところを長回しで撮った映像に流れる緊迫感からだけでも、これが「本物の戦争の映像」であることが感じ取れるのです。
 
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想像力を超えた戦争のリアルにどう向き合うか

そんなリアルな戦争の描写に、さまざまなことを考えさせられます。

ひとつは、「“反政府勢力”と言われるものは一体何なのか」ということです。その言葉からイメージされるのは、武装し、訓練された民兵の集団ですが、バセットたちは訓練などは受けず、ある時に突然、民主化運動から反政府勢力へと姿を変えるのです。

そして、その瞬間を私たちはバセットの仲間の一人、オサマの目を通して目撃することができます。オサマは民主化運動に対する政府の弾圧で重症を負い入院します。

そして退院してみると、仲間たちは武器を手にし、その武器を使ってどう戦うかという話しかしない戦闘集団になっているのです。オサマはそれが容易には受け入れられず、彼自身は武器をとることはなく、それでも仲間たちと行動を共にしますが、ある時から行方不明になってしまいます。

反政府勢力と呼ばれているものの、少なくとも一部は彼らのような普通な若者なのです。そのことが私には理解できませんでした。

彼らがなぜ武器をとって戦わなければならないのか、自分の命が危険にさらされている状況だということはわかるのですが、その状況の中で命の危険を顧みずに戦う理由とは何なのか。

バセットの家族は比較的安全な町の外にいます、それでも彼は包囲された町にとどまって戦うのです。そして、いったん町を脱出した後、命がけで町に戻ろうともするのです。
 
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私には想像できないのです、自分の目の前に戦争があり、武器をとって戦わなければならないという状況が。

さまざまな記録映像や、戦争を経験した人たちの証言や、戦争経験を基に創作された創作物をいくら見たり読んだりしても、本当に戦争に臨んだ時の心のありようというものを想像することが実は私にはできていなかったのです。本当の戦争の映像を目にして、そのことに気付かされました。

それは「平和ボケ」かもしれません。戦争を防ぐためには、そういうことを必死で想像しないといけないのかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。

もう一つ、全く別の側面からこの戦争と自分とを結びつけることができるシーンがありました。それは、政府の弾圧から逃れるために町を離れる人々を映したシーンでした。

彼らは日本のメーカーのトラックの荷台に乗って戦火を逃れていきました。これを見てわたしは嬉しくなりました。日本の人たちが創りだしたものが人々の安全の役に立っているのだと。

そして逆に、ここで使われている武器を日本の企業が作っていたらどうだろうかと考え、そういう形で戦争に加担し、人殺しに加担してしまうことへの「怖れ」をリアルなものとして感じたのです。

「世界情勢を考えると、これをしなければならない、あれをしなければいけない」という議論があります。しかし、この映画を見て単純に思ったのは、戦争に加担するのは「無理」だということ、戦争というものは拒否するしか無いということです。

世の中が、そんな単純ではないことはわかります。でも私にはバセットのように戦うことはできないのです。

そのためにどうすればいいかは、これから考えていかなければならないことです。この映画は、言葉として語られている「戦争」を、もっと自分に引きつけて考えるきっかけになりました。

みなさんも改めて「戦争」とは何なのか、考えてみてはいかがでしょう?
 

– INFORMATION –

 
『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』
2013年/シリア/89分
監督:タラール・デルキ
http://unitedpeople.jp/homs/
2015年8月1日より、渋谷アップリンクほか、全国順次公開。