映画を見て、心が震える瞬間、湧き上がる幸福感や愛しさ、勇気、悲しみ、切なさ。いろんな感情があふれて、観終わった後もしばらくの間、その世界から抜け出せないことってありませんか。
テーマによっては、感動した次の瞬間に「何か自分にできることをしたい!」と思わせる行動力を生むこともまた、映画の力かもしれません。
これまでグリーンズでも何度となく紹介してきた「ユナイテッドピープル」代表の関根健次さん。
「人と人をつないで世界の課題を解決する」ことをミッションに、募金サイト「イーココロ!」の運営、2009年からは、想いを行動へと誘うような社会的テーマを扱った映画を扱う配給会社として、市民上映会の提案・普及活動を行ってきました。
また、映画をきっかけにバングラデシュのストリートチルドレン支援や、東北復興支援などの活動を積極的に行ってきた「行動する人」でもあります。
精力的に活動を続ける関根さんが、東京から福岡県福岡市に移住したのは、2012年5月のこと。ひるまず、より自分が導かれる方へとアンテナを伸ばしていく関根さん。今回は、移住後の取り組みやその想いを紹介します。
再生エネルギーの転換を提唱するドイツ映画『第4の革命』の監督カール ・フェヒナー氏と。福島市にて。
ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役
一般社団法人 国際平和映像祭 代表理事
ピースデージャパン 共同代表
1976年生まれ。アメリカ・ベロイト大学経済学部卒。大学の卒業旅行で世界半周の旅へ。途中偶然訪れた紛争地で世界の現実と出会い、平和実現が人生のテーマとなる。2002年、世界の課題解決を事業目的とするユナイテッドピープル株式会社を創業。2009年から映画配給事業を開始。2011年から一般社団法人 国際平和映像祭を設立し、国連が定めたピースデー(9月21日)に合わせて国際平和映像祭(UFPFF)を主催。2013年よりピースデージャパン共同代表。著書に『ユナイテッドピープル』がある。
移住後の活動、想いの原点
『幸せの経済学』『第4の革命 - エネルギー・デモクラシー』『バベルの学校』など、「ユナイテッドピープル」で上映してきた作品を一度は観たことがある人も多いかもしれません。
作品のテーマは「再生可能エネルギー」「持続可能社会」「コミュニティ」「ローカリゼーション」「人類の未来」「食糧問題」「フェアトレード」など、多岐に渡りますが、現実を伝える深刻なテーマでありながら、そこには問題を身近にし、解決するためのヒントやアイデアなどが散りばめられています。
1作品1作品に込められているのは、「私とつながる世界中のあなたが幸せである社会をつくりたい」というメッセージ。何より観終わった後に、ポジティブな気持ちになれる作品が多いのも大事な特徴です。
関根さんのおすすめ作品
今、問われる幸せとは?本当の豊かさとは? GDPからGNHへ、グローバリゼーションからローカリゼーションへ。世界中に広がるローカリゼーション運動のパイオニア、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジが提唱する、人や自然とのつながりを取り戻す暮らし方を紹介する。
オランダで再生可能エネルギーの普及に取り組む活動家や、10年の歳月をかけ、デンマークのサムソ島の100%クリーンエネルギー化を実現したソーレン・ハーマンセン氏の取り組みを紹介。地域でお金が循環し、エネルギーを活かして生き生きと働く人々の力強い姿が描かれている。
2010年頃から経済危機で3人に1人は貧しく、若者の半分は無職になったギリシャ。そんな中、お金も物もわずかな離島・イカリア島では、老いることを忘れた老人たちが生き生きと暮らしているらしい。大都会から離島へ移住し、人生を再出発した若者たちのドキュメンタリー。
GNH(国民総幸福量)で話題のブータンなど世界5大陸16カ国を巡り、心理学者や脳医学者とともに「幸せになる方程式」を明らかにするドキュメンタリー。私たちがどのようにより充実感を得て、健康で幸せな生活を手に入れることができるのか、人生最大のテーマ「幸せ」を探求する。
ここ最近では3月に、福岡市天神のファッションビルの中でミニシアターを期間限定で開催。上映とともに「一日館長」というユニークな試みも行い、トークやワールドカフェなどを開いて「映画からつながる時間」を育みました。
同じ映画を観たことで、初めて顔を合わせる人同士も互いの想いを共有・共感でき、心と心を通い合わせることができます。そのように、作品を観た人などが自主上映会を開きたいというアクションを起こせるよう、映画の市民上映会(自主上映会)情報のポータルサイト「cinemo」も立ち上げました。
福岡市天神のイムズで開催したミニシアターの様子
これまで、南アフリカやオーストラリアなどの海外での上映も含めて、およそ2000回の上映会を開いてきました。どこにいても上映できるというのが市民上映会の強みなんです。
いろんな世代が集まって「知り合える場」づくりができる。一度は、過疎の地域で「住民が集まること」を一番の目的に、上映会を開いた方々もいました。映画にはそんな役割もあるんですよね。
未来のことをディスカッションして、想いをシェアする。上記で紹介した映画はとくに、自分たちにもできるんじゃないかという可能性を生む作品です。
そういう関根さん自身、映画や上映会を通じて、人生の深淵に触れるような人たちとの出会いがあったそう。
2011年から自身が代表理事を務める「国際平和映像祭(UFPFF)」の発起人である大久保秀夫さん、審査員として参加したイラン出身のタレント、サヘル・ローズさんです。
僕は4歳の頃、実は目の前で友だちを亡くしているんです。交通事故で彼だけが天国へ行ってしまった。
あの時からどこかで、ふたりの命が一緒に生きている気がするんですよ。その時に二十歳までは好きなことをして、それから先はエゴを捨て、誰かのためになることをしようって誓ったんですね。
大久保さんもサヘル・ローズさんも、同じように4〜5歳の頃に生死にかかわる出来事を体験されていて、それがリンクして、今、同じ志を持ってつながっている。そのつながりを大切に生かしていきたいと思っています。
関根さんが見つけた”幸せの源泉”とは?
関根さんが営む「Cafe Waltz 糸島」
ユナイテッドピープルが配給している映画に共通するテーマが、ローカリゼーションです。
関根さんにとってローカリゼーションとは、「自分が暮らす地域に”より近い場所”で経済活動やコミュニティづくりを行って、幸せを周りへ広げていくこと」。そこに希望を抱く関根さん自身も、映画から学んだ暮らしを実践しています。
自然に囲まれた福岡の地に根を下ろした関根さんご家族。糸島で奥さまがメインで営むビーガンカフェ「Cafe Waltz 糸島」の建物はほぼ自分たちでリノベーションしてつくりました。フローリングなどには間伐材を使用し、太陽光と雨水を利用しています。
オフの時間は、畑仕事に没頭したり、海では釣りをして、ワカメやひじきを採ったり。関根さんは「これが私の幸せの源泉」と笑顔を見せます。
greenz.jp編集長の鈴木菜央さんも参加したワークショップの様子
お子さんたちと海遊びの様子
映画を観て疑似体験することで、そこから自分たちのことを考えていける。社会的な問題との距離を縮めていくことができるツールとして、映画の力を信じ、活動を続けてきた関根さん。そんな彼がローカルの視点で移住の地に選んだのが福岡でした。
それは、「今後やりたいことを見定めての移住だった」と話を続けます。
福岡へ移住したのは、どこにいても上映会ができること、そしてアジアの拠点だからです。交通の便がよくて、東京へもアジアへもすぐ行けますし、韓国へは船でも行けます。
いま現在はほとんど海外の映画を買い付けて来て、日本で配給しているかたちですが、中長期的なビジョンとしては、日本の優れた映画をアジアから世界へ発信していこうと考えているんですよ。その拠点として福岡を選びました。
ローカリゼーションへの誘い
その一環として、元NHKアナウンサーの堀潤さんがつくった『変身 - Metamorphosis』という日米原発メルトダウンについて扱った作品を、韓国の映画祭に出品しています。
実はアジアで一番大きい映画祭というのが、「釜山国際映画祭」なんですね。韓国映画も盛り上がりを見せています。5月にもソウル環境映画祭という映画祭で招待上映されることが決定しました。
現地で配給会社がつけば上映できるんですね。韓国にも原発がありますから、映画を通して福島の現状というものを知って、それを韓国の人たちが生かしていく機会にできると思うんです。
「釜山国際映画祭」の視察風景
ジャーナリストの堀潤さん監督作『変身 - Metamorphosis』
そう話しながら、日本を「課題先進国」だと関根さんは表現します。少子高齢化、公害の問題、年金、社会保障制度…こうした問題を成熟した社会というものがどのように克服していくのか。
問題の一部では、環境に負荷がないかたちでトランジションしてきた日本の姿を、今度は急速に発展しようとしているインドネシア、バングラデシュ、ベトナムといったアジアに伝えていきたいといいます。
例えば、『変身 - Metamorphosis』を日本政府が原発輸出しようとしているベトナムの人たちに観てもらうとか、自然エネルギーに転換した土地土地のドキュメンタリー、市民発電所といわれるプロジェクトを紹介した映画を韓国や中国で紹介していく。
21世紀らしい自然エネルギーが選択肢としてあるんだよって、アジアの人たちに知らしめるアイディアの一つとして映画を紹介していくつもりです。
原発事故についていえば、人類が過去の教訓から知恵を出し合って、向かい合い続けなくてはならない最大の課題。国民全体が悲しみに包まれ、子どもたちが絶望してしまうような戦争も世界中からなくしたい。
関根さんは、それらの問題を生んでしまった経済優先の社会のあり方について、疑問を投げかけます。
『幸せの経済学』でも証言している内容ですが、とめどなく大規模化していく企業の有様というグローバルトレードの結果、自分の行為がどんなことに影響を与えているのか見えなくなっています。
自分たちの経済活動によって地球の裏側で誰かが傷ついていたとしても関係ないと思えてしまうんですね。
『ブラッドダイヤモンド』の作品が示すように、ダイヤを奪い合うために人の命が奪われ、その流通したダイヤが日本まで届いてショーケースに並ぶんです。一つ一つ見つめていくと、そこにはすごく大きくて倫理的な問題が絡んでいるんです。
映画を観て、ローカリゼーションを実践していく人が増えれば、少しずつ世界は変わっていくはず。
地球の裏側から物を仕入れるのではなく、私やあなたがローカルマーケットでフェイス・トゥ・フェイスのやり取りをすることで、地域でお金をまわし、経済をまわし、地域の人たちとつながることができる。
そうすれば、自ずと会話が増えてコミュニケーションが生まれ、人と人とのつながりや絆が互いの幸せになっていくと、関根さんは考えています。
志とつながりを大事に前へ
今年の7月5日には「ユナイテッドピープル」を立ち上げてから創業13年になります。
もうすぐ40歳ですから、残り40年。みんながともに平和になれるようなアプローチを「ユナイテッドピープル」がやれるか、ブレずに進んでいきます。もちろん迷ったり、寄り道もいっぱいしながら(笑)
誰より強い信念を現実のもとに実践してきた関根さんの言葉に耳を傾けていると、「理想を現実に変えていける力を私たち1人ひとりは持っているんだ」と信じられる気持ちになっていきます。
そのためには、まず自分がハッピーであること。それを前提にしながら、買い物やお店選びなど日々の暮らしの中で、同時に他者の幸せに想いを馳せることがこの世界をよりよい方向へ変えていく近道なのだと感じました。
インタビューの数日後には、今最も注目している国という中米コスタリカの視察へと旅立っていった関根さん。軍隊のない平和の国、幸福度世界1位といわれる国で感じ得たものを糧に、さらなる行動力で私たちを勇気づけてくれそうです。
社会を前進させるのは、いいアイデアだと思うんです。
コスタリカという小さな国で平和や自然エネルギーの推進、自然保護などが実現できているのであれば、同じような規模の経済圏でも叶うかもしれない。そんな取り組みを始めてみるのもいいかもしれませんね。
願いを叶えるためのスタートは、いたってシンプル。
想いを行動に移すこと。
映画や本、または身近な誰かの言葉から受け取るメッセージやインスピレーション。
忙しい日々の中、もしも直感でピンとくる瞬間があったなら、それは一歩踏み出して、あなたができること、やりたいことに挑戦してみては?というサインなのかもしれません。