(左)YOSH(中)鈴木菜央(右)小野裕之
こんにちは、編集長のYOSH(兼松佳宏)です。
4月1日はエイプリルフール。みなさんはどんなウソをつきましたか?「嘘も方便」といいますが、気の利いたウソは、むしろ爽快だったりするものです。
ちなみにグリーンズ編集部にとってのエイプリルフールは、「いつか実現したいこと」を本音で語り合う日。
「それって実現性はどうなの?」というツッコミも今日くらいは置いといて、確固たる根拠がなくても、いまの身の丈を越えていても、みんなの夢を共有する時間にしたいなと思っています。
昨年のウソは『少年グリーンズ』創刊!でした。こちらは記事にご登場いただいた丸原歩くん
昨年のエイプリルフールでは、僕の夢ということで、小学生が編集長を務める新メディア「少年グリーンズ」創刊!という小話をお届けしましたが、今年は、鈴木菜央、僕、小野裕之のNPO法人グリーンズ理事3人の夢を語り合いました。
そこで出たキーワードが、「グリーンズファーム」、「グリーンズ塾」、「グリーンズ通貨」などなど。理想は「嘘から出たまこと」。ぜひ一緒に実現していただける方、大募集です!
greenz peopleのおかげで変わったこと
現在のgreenz people(グリーンズ会員)の数は約400名、感謝!
YOSH 「エイプリルフールは大きな夢を語ろう!」 と、勝手ながら呼びかけていこうと思っていて。今日はそんな話ができたらと思っています。
特に僕たち3人は経営者でもあるので、なかなか実現性が薄いことを冗談交じりで話す機会が、以前と比べると少なくなってきた感じもして。
なので、今日くらいはちょっと恥ずかしくもありますが、鋭いツッコミなしで、夢を語り合えたらうれしいなと。
菜央 確かに最近はチームとしての成長が大きなテーマになっていて、短期、中期くらいの話が増えていたかも。今日は普段のミーティングでは出てこない、長期的な話をしてみたいな。
小野 それに新たにプロジェクトを始めようと思っても、今までは企業や行政といったパートナーがいないと仕掛けられなかったですよね。
けれど、こうしてgreenz people(グリーンズ会員)のみなさんの寄付が増えてきたおかげで、「こんなことやりたいな」と考える時間は増えてきているような気がします。本当にありがたいことです。
YOSH そうですね。グリーンズ9年目にして初めての感覚です。
今までやりたいことを思いついても、自分の引き出しにしまっておくことが多かったけど、どんどんその中身をオープンにしていきたいなと思っています。
鈴木菜央の夢「グリーンズファーム」って?
YOSH と、前置きはこのくらいにして、さっそく菜央くんからお願いします。
菜央 はい。僕は「グリーンズファーム」がやりたい!です。そこでは「生きるということ」や「地球とつながること」を直に感じられるような場づくりができたらと。
YOSH それはリアルな農園をつくるということ?
菜央 というよりも、学びの場っていうイメージかな。ちょっとした畑はもちろんほしいけど、畑で野菜をつくるということがメインではなく。
原体験となっているのは、大学を卒業したあとにボランティアとして関わった「アジア学院」なんです。アジア学院は栃木県の那須塩原市にあって、発展途上国の未来を担うリーダーたちが研修生としてたくさん集まる学校で、農場もあって。
そこで僕は大学の後の1年間、昼はオフィスワーク、朝と夕方には畑を耕したり、一番多い時で700羽くらいの鶏の世話をしたり、加工食品をつくって販売したりと、いろんなことをやらせてもらいました。
YOSH 農的な暮らしはそのとき初めて?
菜央 はい。僕はもともとバンコク生まれ、東京育ちで、「魚が切り身で泳いでると思っている」と思うくらい、自然と切り離された環境だった。
どういう風にして食べ物ができるのかとか、どうやって自然環境というか、いのちの営みの網の目の中で人間の社会は成り立っているのか、本当に知らないことだらけで。そこに一年いて、感覚がめちゃくちゃ変わっていきました。
太陽が昇って沈む。その恵みをいただいて、たくさんの生き物が生きている。「生きる」ということの根源に触れたような気がして。
YOSH ふむふむ。
かつて外房で「グリーンズ森の家」を運営していたことも。こちらは近くにあるブラウンズフィールドでの集合写真
菜央 ひるがえって、いま世の中ではいろんなことがファストに流れていたり、必要以上に効率的であろうとしたり。あるいは消費することでしか、その人の価値観を表現できなかったりしている。
「生きる」という一番ベースの部分から、みんな結構離れすぎているんじゃないかなあと自分も含めて思っていて。
YOSH それを見つめなおすために「ファーム」が必要だと。
菜央 そう。その頃から「いつかファームをやりたい」と漠然と思っていたんですが、まだまだリアリティはなかったんですよね。
でも少しずつでいいから地に足のつけた暮らしがしたいと思って、2010年に世田谷から外房のいすみに引っ越しました。
YOSH 菜央くんが考える”地に足のつけた暮らし”ってどういうもの?
菜央 すっごいシンプルで、いのちの営みの網の目と太陽から降り注ぐエネルギーがいきものを育ててくれて、それを家族や仲間と一緒にいただく。生ごみをコンポストで土にする。そういう、大きな循環に少しでも触れる暮らし。
僕はほっておくと「人生の目的って何だろう?」って、頭でっかちに考えてしまうことがあるけど、例えば草むしりをするとたくさんの生き物が一生懸命生きていて、食べたり食べられたりしながら、何億年も続いてきているんだってことを感じられたりする。
そうすると、頭でっかちな悩みがどうでもよくなるときってあるでしょ?
YOSH 確かに。
菜央 人間がこうして息が吸えるのも、木が酸素をつくってくれているからだし、水が飲めるのも、太陽がせっせと水を蒸発させて、山の上に運んでくれるから。
自分の暮らしの中で、たった一つでいいから、命を育てる。それをいただく。みんながそんな風に暮らせたら、社会のいろんなことがバランスよくなるのかなって思うんです。
菜央くんが住むいすみの風景。伸び伸びできる環境は、まるごと子どもたちの遊び場。
トレーラーハウスの引っ越しの様子
YOSH 最近は菜央くん自身、トレーラーハウスに引っ越したり、小屋を建てたり、ますます近づいている感じがするね。それは「アーバンパーマカルチャー」のようなコンセプトと再会できたのも大きかったのかな?
菜央 そうだね。パーマカルチャーという考え方自体は、グリーンズ創刊時からずっと大切にしていたキーワードだけど、最近やっと「都会でもいろいろとできることってあるんだ」って知って。
パーマカルチャーは、直訳すると「永続する文化」って意味だけど、わかりやすくいうと「活かし合う関係性のデザイン」なんです。
活かすのは、人、資源、モノ、現象、すべて。化石燃料も太陽光もそうだし、友人関係だって資源。そういう資源を上手に組み合わせて、どうしたら、今も未来も幸せな暮らしができるのか? を考えていく。
YOSH なるほど。
菜央 それを突き詰めていくと、都会には都会なりの資源もたくさんあって、新しいことが好きな人種がいっぱい住んでいるとか。あるいはヒートアイランドの熱も、もしかしたら資源といえるかもしれない。最近東京ではパパイヤが育つらしいし(笑)
YOSH へー。
菜央 学校や公園にだって、空き地という資源があり、いろんな使い道がある。例えばハーブとか食べられる植物を植えてもいいよね。
そうやっていろんな諸条件を資源として捉えなおすと暮らしの質が上がっていくし、持続可能になっていく。そんな気付きの場を「ファーム」として広げていけたらいいなあと。
ポートランドで行われている交差点リペアの様子。アーバンパーマカルチャーの一例
YOSH まさにgreenz.jpで展開している学びの場「グリーンズの学校」がそうなりつつありますね。
むしろ「エコスゴイ未来がやってくる!」を掲げていた、2006年のgreenz.jpの創刊時のコンセプトに、10年後にしてどんどん近づいてきている気がする。
菜央 確かにそうなんだよね(笑)
小野 実に菜央さんらしい夢ですよねー。いい意味でずっと変わってない(笑)
ちなみに僕個人としては、農的な暮らしはまだまだ先という感覚があって、菜央さんが少しずつでも先例をつくってくれているのはいいなあと思います。
そう言いながらも、ファーマーズマーケットとの連載をやりたい自分もいて、「自分のなかの菜央さん的な部分はあるんだろうなあ」とたまに思います。
YOSH そうだよね。僕もまだそこまでは踏み込めていないので、そのあたりは今後も菜央くんにリードしてもらいたいテーマですね。
YOSHの夢「グリーンズ塾」って?
YOSH さて、続いては僕ですね。前段でふれた「少年グリーンズ」と地続きなんですが、僕は小学生や中学生のための塾をやりたいなと思っているんです。
もう少し妄想すると、僕は編集長として言葉を仕事にしていることもあるので、いっそ国語に重点を置いて「国語としての音楽」とか「国語としての理科」とか、意味不明だけど「国語としての英語」とか、そんなことをやってみたい(笑)
菜央 確かに国語は大事だよね。文章を書くことで人生を学ぶみたいな。
僕は小学校のときにバンコクから日本に来たんだけど、国語はまったくだめで親に作文を書いてもらったこともあったくらい。それなのに今こうして編集長をやっていて、文章を書くことを仕事にしている。
YOSH そっか。実は僕もいちばん苦手な科目が国語だったから、不思議なものだね。そんなこともあってもっと国語が楽しくなるように、単純な作文塾というよりも、ソーシャルデザイン的な切り口を取り入れてみたいなって。
たぶん取材先の方々に先生になってもらうと思うんだけど、子ども向けにプログラムを考えるというのも、とてもクリエイティブな作業だと思っています。
“勉強家”の肩書を持つYOSHさんのデスク
菜央 最近YOSHのなかで「教育」というテーマが熱いみたいだけど、何がきっかけだったの?
YOSH 一昨年、子どもが生まれてから急にリアルになった感じかな。娘が小学校に入るくらいまでに、何かできることはないかなあと思っていて。
ただリアルな場所を持ちたいなと明確に思い始めたのは、この4月に京都に引っ越すことが決まってから。ちょうど京都でも「グリーンズの学校」のためのスペースをつくりたいねってなったときに、夜が大人向けなら、午後は子ども向けに開いてもいいのかなと思って。
菜央 なるほど。
YOSH さらにギフト経済的な仕組みにして、大人の授業料で収益を上げたり、寄付で支えていただいたりして、子どもは無料で通えるとかできないかなあ。でも、無料な分、入試は超厳しいみたいな(笑)
ちなみに僕が大好きな弘法大師・空海も、「綜芸種智院」という、日本で最初の庶民のための学校を京都につくったんです。そこの授業料も無料だったみたいで、1200年前の設立趣旨書を読んで、改めて感動しているところ。
菜央 またしても空海(笑)
空海好きが講じて実現した、前・高野山真言宗管長・松長有慶猊下とYOSH編集長の対談。
YOSH ですです(笑)
もうひとつ参考にしているのが、作家でもあり編集者でもあるデイブ・エガーズさんの「826National」というプロジェクトで。アメリカの各地に非営利の「ライティングセンター」を展開しているんだけど、塾の入り口が海賊ショップみたいになっているのが面白い。
菜央 『シビックエコノミー』という本にも載っていたね。
YOSH そうそう。さらに「McSweeney’s」という装丁が素敵な文芸誌を自ら創刊して、そこから生まれた優秀な作品を掲載するとか、人文系の才能を引き出すエコシステムをつくっているのがスゴイなあと思っていて。
ちょうど来年から、京都精華大学の人文学部でソーシャルデザインを教えることもあり、そういう物語と社会を結びつけるような「人文系ソーシャルイノベーター」を研究したいと目論んでいるんです。
そのひとつの成果として、グリーンズの塾ができたらいいなと。
「826National」の紹介動画
菜央 楽しみだね。人格を形成するためにも物語に触れることは大事だし、すごくYOSHっぽいと思った。
小野 そういえば僕も小さい頃から本を読んできましたね。小学校1〜2年生のときの担任の先生がすごい本を読ませてくれる先生で、今の活動に絶対につながっていると思う。
YOSH まだみんなには言っていなかったことなので、こういう機会に共有できてよかったです(笑)
ちなみにこれは、「いつか自宅の隣に塾をつくりたい」という夫婦の夢の実現に向けた一歩でもあって。
菜央 YOSH夫婦の夢?
YOSH 「サンタのよめ」という活動をしている真紀さんが僕の妻なのですが、おじいちゃんが自宅で塾をやっていて、小さいころ、いろんな人が行き交うのが楽しかったんだそう。
さらに文房具屋さんと新聞配達も手がけてたみたいで、学びの場と小商いとメディアの組み合わせが、不思議なくらいグリーンズっぽいなあと(笑)
小野裕之の夢「グリーンズ通貨」って?
YOSH 最後に小野さんいかがでしょう?
小野 僕が最近興味あるのは、地域通貨とか仮想通貨なんです。だから「グリーンズが通貨をつくったらどうなるんだろう?」ってたまに考えたりします。
菜央 それはどうして?
小野 信頼関係があるところでは高い評価があっても、市場のなかではその価値がわかりにくく、過小評価されてしまうのが残念だなあと思うことがあるんです。
その価値を認めて、交換しようとするときに、二者間なら物々交換でもいいけれど、三者、四者となっていくと、通貨のように価値を保存していく機能が必要になる。そういうのを価値観の近い人同士が、距離を離れていても流通できるといいのかなって。
菜央 ふむふむ。
神奈川県旧藤野町(現:相模原市緑区)の地域通貨よろづ屋
小野 最近グリーンズの学校で、「ローカル経済クラス」を開催しましたが、その中のワークショップがとても示唆的だったんですよね。
例えば家事をする主婦や主夫が、家族のために何かをするというのは市場的には価値がないことになってしまい、どんどんお金が出て行ってしまう。でも、そういう行動を評価するような違うコンセプトの通貨を取り入れると、むしろ主婦や主夫の方が、”お金持ち”になっていく。
そういう価値の表現のしかたはすごく真っ当だし、そんな新しい経済の流れをグリーンズとしてつくれたら面白いよなあと。漠然としていますが。
菜央 まさにグリーンズ周辺で生み出されている社会関係資本のようなものを、どうメディアとして組み込んでいくか。面白いなあ。
YOSH グリーンズの学校でも、参加者の多様性を確保するために、学割とか遠方割とか、場合によっては”諸事情割”とか用意しているけれど、それって単に「学生だから安くします」というだけではなく、「学生だからこそ提供できる価値がある」というメッセージでもあるよね。
菜央 確かに。
小野 こう言ったら失礼ですが、YOSHさんとか菜央さんって、貨幣経済の中では評価されにくい人たちじゃないですか(笑)
そういう人たちこそ21世紀を引っ張る人だと思うので、もっと光を当てたいなと。
菜央 なるほど、そういうオチですね(笑)
YOSH 今回、初めてした話、聞いた話もありましたが、意外な共通点がいろいろあったのが面白かったです。
ファームや塾で出たような「学び」。そして、ギフト経済や通貨のような「経済」。きっとそういうことが社会をつくる根源なのかもしれない。今後もそんな思想を深めながら、軽やかにアウトプットしていきたいですね。
というわけで、NPO法人グリーンズ理事3人のエイプリルフール話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
僕たちのことなので、こうして言ってしまった以上、きっと思いのままでは終わらないはず。小さくとも少しずつ形にしてゆくので、どうぞ、お力をお貸しください!
それではよいエイプリルフールを!
※月1回から気軽に寄付できる greenz people も募集中です。「greenz peopleって何?」と思った方はぜひ、こちらのページをどうぞ◎