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震災前と同じように、働いて誰かの役に立ちたい。双葉町から避難している障がい者がつくる「つながりのかばん28」

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ものづくりからはじまる復興の物語」は、東日本大震災後、東北で0からはじまったものづくりを紹介する連載企画です。「もの」の背景にある人々の営みや想いを掘り下げ、伝えていきたいと思います。

福島県双葉郡。この地名を聞くと、ほとんどの人が「福島第一原子力発電所があるところ」と思うのではないでしょうか。原発事故の影響でいまもなお、大半のエリアが帰宅困難区域・居住制限地域・避難指示解除準備区域に指定され、多くの住民は故郷に帰ることができずにいます。

「原発事故の避難者」といったとき、まず想像するのは、高齢者やファミリーの姿ではないかと思います。でも、避難者の中には当然、何らかの病気や障がいを持っている人もいます。彼らにとって、住み慣れたまちを離れることは、健常者と同じように、いえそれ以上に辛いことでした。

今回は、そんな彼らが新たな役割を見つけようとつくりはじめた「つながりのかばん28」の物語を紹介したいと思います。
 
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引きこもりがちになってしまった障がい者たちが
外に出るきっかけをつくりたい

広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村。浜通りにある双葉八町村はいずれも小さな町・村です。

障がい者たちは福祉作業所に通わずとも、畑仕事を手伝ったり高齢者や子どもの面倒を見たりと、それぞれが地域の中で自分の役割や居場所を持って暮らしていました。

しかし、東日本大震災とそれに続く原発事故により、そうした穏やかな暮らしは崩壊します。慣れ親しんだ風景、慣れ親しんだ人間関係、慣れ親しんだ仕事を手放し、避難せざるをえなくなりました。

彼らの多くは同じ福島県の郡山市にある仮設住宅に入居しましたが、どこへ行って何をしたらいいかわからず、誰を頼っていいかもわからず、引きこもりがちになってしまったといいます。

自身も重い脳性まひを抱え、長年郡山市で暮らしていた白石清春さんは、そうした障がい者たちの状況を改善するため、2011年11月に「交流サロンしんせい」を立ち上げました。障がいを持つ人もそうでない人も、気軽に集い交流できる場所です。

一歩でも仮設住宅の外に出るきっかけをつくろうと、DVD鑑賞やヨガ、お茶会といった楽しいイベントを企画しました。しかし、最初はみんな「楽しい」と喜んでくれたものの、次第に不安になってしまったそう。

双葉で暮らしていたときのように、ちゃんと働いて自分の役割を持ちたい。少しでもいいから、誰かの役に立ちたい。そうした声が聞こえてくるようになったといいます。

それに応えるために、みんなが働ける場所として「ふたば製作所」を設立しました。
 
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左が白石さん

捨てられていくもの、みんなが使わなくなったものを再生して、
福島ががんばっていることを伝えたい

でも、いったい何を仕事にしよう? 何をつくろう? みんなで話し合いを重ねた結果浮かんできたのは、「使用済みA4封筒を重ね合わせて紙かばんをつくる」というアイデアでした。

捨てられていくもの、みんなが使わなくなったものを素敵なかばんへと再生することで、福島ががんばっていること、復興に向けて少しずつ進んでいることを伝えたいね、という話になったんです。かばんに熱い想いをぎっしり詰めて、全国へ飛んでけー、って。

そう話すのは、スタッフの高澤真理子さん。郡山生まれで震災前は他県にいましたが、復興の役に立てないかと地元に戻ってきたといいます。
 
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最初は大変でした。参加者の中には、ハサミやカッターを持つのが初めてという人もいたんです。でも、毎週続けていくうちにどんどん上手になって。できるようになると、すっごく良い表情を見せてくれるんです。「できた」ということが自分でも嬉しいんですね。

紙を半分に折る、糊をつけるといった単純作業を何時間もするのって、なかなか難しいでしょう? でも、ここにいるみなさんはそれが自分の楽しいお仕事なんだと頑張ってくれています。そういう姿を見ると、嬉しくなります。

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かばんの表面には、使用済みのロウを塗って撥水加工を施し、色違いのマスキングテープを2本貼ってささやかに飾っています。双葉を表す「28」の文字は、みんなが交代で書いているそう。

封筒やロウは、企業や一般家庭から寄付してもらいました。たくさんの人とのつながりによって生まれたので、「つながりのかばん28」という名前にしたそう。

2012年8月の販売開始から、封筒を送ってくれた方がかばんの完成を喜び買ってくれるなど、素敵な縁がどんどん広がっているといいます。

だんだん皺ができて味が出てくるから、使っていて楽しいと言われます。先日は、ガムテープで補修しながら一年以上使ってくれた方から、「とうとうだめになったから新しいのを買いたい」と連絡がきて。大事にしてもらっているんだな、と感激しました。

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ポルボロンはスペイン・アンダルシア地方で修道女がつくっていた伝統菓子。口の中で溶ける前に「ポルボロン」と3回唱えると願いが叶うと言われています。

2014年10月には、県内の多数の被災事業所と一緒に、「魔法のおかし・ぽるぼろん」を開発しました。日清製粉グループから製菓技術の支援を受けているため完成度が高く、「難民を助ける会」からの支援でパッケージデザインもお洒落に仕上がっています。

魅力ある製品をつくって、参加者の工賃をあげよう。さまざまな仕事を生み出して、工作が得意な人、料理が好きな人、それぞれの得意なことを活かせるようになろう。開発の背景には、そんな想いがあるといいます。

支援を必要とする人に合わせて、新しい形をつくる

障がい者支援の仕事に就くのは初めてという高澤さんですが、双葉製作所での日々はとても楽しく、学びがあるといいます。

あるイベントで「つながりのかばん」を販売したとき、イベント全体との雰囲気や客層が合わず、全く売れなかったんです。頑張って声を張り上げたんですが見向きもされなくて、胸にぎゅうっときちゃって。

しょんぼりしていたら、参加者のみなさんが「じゃあぼくががんばるよ」って一所懸命声を出してくれたんです。結局そこでは売れなかったけど、「今回は合わなかったんだね、次はがんばろう」って励まし合って、前を向くことができました。

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活動に参加するうちに働く力と自信をつけ、就職先を見つける人もいます。双葉製作所から地域の福祉作業所や企業に移った「卒業生」は現在8名。高澤さんたちはちょっと寂しい気持ちを抱えつつ、喜んで見送っています。

また、ふたば製作所では、就労意欲はあるけれどさまざまな理由から働けずにいる若者たちに、封筒の回収などを手伝ってもらっています。そうすることで、「被災者を助けている」という自負が生まれるそう。

「おはようございます」も言えなかった人が、学校や企業を回って「いつも封筒ありがとうございます!」と元気に挨拶するようになったといいます。

支えることで支えられる、支え合う。そういった関係が生まれているのですね。
 
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もともと、ふたば製作所の活動には障がい者以外の人も参加していました。障がいがあると診断されたわけじゃなくても、コミュニケーションが苦手だったり、心の問題を抱えていたりして、仮設住宅にこもりがちになってしまう人はたくさんいたんです。

福祉作業所にしてしまうと、障がい者手帳を持っている人だけが対象になってしまう。そうじゃなくて、困っている人をみんな受け入れられるよう、あえて福祉事務所という形はとらずに活動してきました。

制度に合わせて利用できる人を狭めるのではなく、支援を必要とする人に合わせて新しい形をつくっていく、というふたば製作所の姿勢は、イレギュラーなことが起こる災害時や多様化していくこれからの社会において、とても大事なことのように思えます。

2018年までに、いまある仮設住宅は少しずつ閉鎖されていきます。復興住宅に入るときにまた、環境の変化に戸惑う人が出てくるかもしれません。そのときに力になれるようにしないと、と思います。

一歩一歩進んでいるので、遅いと思われちゃうかもしれないけど…まだまだみなさんのお力添えが必要なので、応援してもらえると嬉しいです。

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何らかの障がいや心の問題を抱えている人にとって、日常が変わるのは大きなストレスです。それでも働いて誰かの役に立ちたいと願うひたむきさや、彼らの声をきちんと受け取って応えようとする人たちがいることに、救われた気持ちがしました。

最後に、「つながりのかばん28」のパンフレットに書かれている言葉を紹介したいと思います。

住み慣れたふるさとを離れて、3年が経ちました。

帰れるのか、帰れないのか…

この先、どこでどんな風に暮らしていくのだろう…

いつもそんなことばかり考えていました。

だけど。

私たちもそろそろ明日の夢を持ってみようと思います。

双葉のみんなで力を合わせてがんばると決めました。

ふたば製作所は使用済みの封筒でかばんをつくります。

そのかばんに明日の夢をいっぱいつめます。

未来はきっと笑顔でありますように!