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街のネットワークを育む場所へ。奈良のロックバンド「LOSTAGE」五味岳久さんが手がけるレコード店「THROAT RECORDS(スロートレコード)」

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特集「音楽の街づくりプロジェクト」は、音楽の力を通じてコミュニティの未来をつくるプロジェクトを紹介していく、ヤマハミュージックジャパンとの共同企画です。

あなたが「知らない街を訪ねてみよう」と思うのはどんなときですか?

有名な観光スポットやおいしそうな食べ物があるから、というのはもちろんですが、そこに“あの人がいるから”という理由が加わったとしたら、きっともっとワクワクした気持ちになりますよね。そこにいるのが憧れの人だったりしたら、なおさらのこと。

今回ご紹介する「THROAT RECORDS(スロートレコード)」は、奈良を拠点に活動するロックバンド「LOSTAGE」が手がける街のレコード店。

「フジロック」などの有名音楽フェスティバルにも出演しているミュージシャンが、地方の街で店舗を持ち、自ら店頭に立つのは何故なのか。「LOSTAGE」のフロントマンでもある五味岳久さんにお話を伺ってきました。
 
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LOSTAGE(ロストエイジ)
五味岳久(vo,ba)、五味拓人(gt)、岩城智和(dr)から成る3ピースロックバンド。2001年、地元奈良にて五味兄弟を中心に結成。現在も奈良在住、地元を拠点に勢力的に活動中。地方発信、地元密着をモットーに活動を展開している。結成当初は4ピースであったが、幾度かのメンバーチェンジを経て、アルバム「LOSTAGE」より3ピースに。2011年より結成10周年を迎え、自主レーベル「THROAT RECORDS」を立ち上げ、「CONTEXT」「ECHOES」を発売。最新作は、2014年8月、バンド史上最もメロディと歌に比重をかけた楽曲群を収録した「Guitar」。

「THROAT RECORDS」とは?

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「THROAT RECORDS」が店舗を構えるのは、JR奈良駅・近鉄奈良駅から徒歩10分ほどにある雑居ビルの一階。「LOSTAGE」のファンはもちろん、地元の若者からお年寄り、観光客などさまざまな層のお客が訪れています。

お店に入ると、8畳程度のコンパクトな空間に、商品の8割を占める中古レコードや中古CDが並び、そのほか五味さんが共演したミュージシャンや古い知り合いの新譜が少々。「LOSTAGE」のTシャツやグッズ、音楽にまつわる書籍なども販売しています。
 
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インタビューは店舗の向かいにあるカフェ「tuBU」さんで。

「最新の情報に溢れているとかではなくて、自分のペースでゆるくやっています」と五味さん。その言葉通り、在庫の調達も、ちょっと笑ってしまうくらい“ゆるい”方法で行われています。
 
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お店のフライヤーには買い取りのお知らせ。

店で売っているレコードは、もともと自分が持っていたものや、店頭でお客さんから買い取りしたもの、あとは知り合いの中古レコード屋から在庫が回ってきたりもしています。

在庫が寂しくなったら、友達に「いらんCDない?」と言って売ってもらったり。買い付けにも行ってみたいんですけど、行って黒字にするほどの余裕もなくて(笑)

あとは、趣味で似顔絵とかちょっとしたイラストを描いたりしていて、友達の結婚式のウェルカムボードを頼まれたりするんです。そうすると、ギャラを払うと言ってくれるんですが、友達からお金はもらえないじゃないですか?

でも払うって言うから「じゃあCDで」みたいな、物々交換じゃないですけど、そういうこともありますね。

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五味さんのイラストはTwitter上で話題となり、なんと書籍になるほど。

「LOSTAGE」が鳴らす音楽は“激しさ”を感じさせるものが多いため、彼らの音楽を聴いたことがある人は、この“ゆるさ”を意外に思うかもしれません。

五味さんは「バンドの反動じゃないですかね」と冗談っぽく笑いますが、そこには明確に、「バンドよりもカジュアルなイメージを伝えたい」と考えている様子が伺えます。

通りがかりの外国人が入ってきたり、ライブに来てくれたお客さんがわざわざ訪ねてくれたり、地元のおじいちゃんが「これいらんねんけど」ってレコードを売りに来てくれたり(笑)

常連さんも増えてきましたけど、何か買わなくてもいいから、もっとたくさんの人にきてほしいなと思っています。

というのも「LOSTAGE」の音楽を聴いて知ってくれている人たちは、メディアを通して、僕たちに“近寄りがたい”イメージを持っていたりするんですが、僕自身は、まじめに音楽に取り組んでいるというのはありますけど、全然そんなことはないんです。お客さんが来たら喋りかけますしね。

でも、そのイメージが先行して伝わってしまっているんで、自分が持っている音楽観とかを、バンドではない形で伝えていきたいなと。結果、たまたまレコード屋に行き着いた感じで、昔からレコード屋を夢見ていたとかそういうことではないです。

「たくさんの人に来てほしい」という思いは、特定のジャンルに限定しない多様な品揃えにも表れています。
 
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陳列されたレコードを見ると、ロックはもちろんブラジル音楽やソウル、レゲエやヒップホップに至るまで、実にさまざま。

レコード屋って、何かに偏った専門店だったり、逆に何が置いてあるのかわからない雑多な店だったり、それぞれ良さがあるんですけど、“僕が聴いてほしい音楽”という以外は特に限定していないです。

せっかくの路面店なので、限定して間口を狭めたくないというか、限定してしまうと、せっかくある場所に人が来なくなるじゃないですか。そのときそのときであるものが変わっていて、いろんな人に来てほしいなと思っています。でも、ちょっと怖がられているかもしれない(笑)

“奈良”ではなく“場所”にこだわる

そんな五味さんが奈良にお店を開いたのは、シンプルに出身が奈良県だったから。桜井という街で生まれ育ち、1年半だけ大阪で暮らしたことはあるものの、その間も週3回は、奈良の音楽スタジオで練習をする生活を送っていたそう。

つまり活動のほとんどを、奈良を拠点に続けていることになるのですが、メジャーデビューの際など、これまで東京に出るという選択肢はなかったのでしょうか?
 
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なかったです。来いとも言われなかったですし、「行かなくてもやれますか?」って、レコード会社の人にも聞いてました(笑)

奈良が好きというのはもちろんですが、「東京が中心だ」みたいな感じに対する反発もありましたね。若かったですし、その頃ってちょうど、“上京して一旗揚げる”ではないやり方を、皆が模索し始めた時期だったと思います。

それに、特に不便もないんですよ。録音とかは東京でしていましたけど、奈良って日本の真ん中あたりにあるので、全国ツアーとかも行きやすいし。

とは言え、別に東京を否定しているわけではないです。僕はここでやることを選んだだけで、東京に行っていたらまた別の可能性があったかもしれないとは思います。

東京へ行くことを選ばなかった五味さん。一方で、“奈良”にこだわっているわけでもないのだとか。

「奈良がいいから、奈良に来いよ」と言いたいわけではないんです。きっと住めば都で、どこでもそれぞれ良さがあって、そこに住んでいる人それぞれが、それぞれの場所を良いと思っているのがいいバランスなんだろうと思っていて。

どちらかというと「奈良を盛り上げたい」というよりは、「自分がいる場所を認めてほしい」という感じですかね。居場所づくりじゃないですけど、俺らはここをおもしろくして、他の人たちにここを良いと思ってもらいたい。

それがたまたま奈良なだけで、他の土地で生まれていたら、そこで同じようにやっていると思います。なんか自己中な感じですね(笑)

ただ、店舗を持ったことで、確実にこれまでと違う“地域との関わり”が生まれ始めています。

例えば、奈良町の人気のカフェ「カナカナ」のオーナーさんが挨拶に来てくれたことがきっかけで、「カナカナ」での演奏が実現。五味さんの大ファンという地元の若い男の子から依頼されて「藝育カフェsankaku」で演奏したり、バーで弾き語りする機会も生まれています。

これまで、バンドを始めてからずっと「NEVERLAND」というライブハウスでのライブ活動は続けてきましたが、お店で演奏するようなことはありませんでした。こういう風に声をかけてもらえたのは、本当に店という入口があったからですね。

音楽の届け方を変えていきたい

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インターネット全盛の昨今、音楽配信が台頭し、CDがどんどんと売上を落とす中で、ミュージシャンとして演奏するだけでなく、地方で、レコード店経営と自主レーベルを運営するという選択をした五味さん。

そのきっかけのひとつになったのは、メジャーレーベル時代に感じた、音楽業界との意識の乖離でした。

そもそも僕たちは、CDが売れる時代を通っていない世代です。自分たちがつくったものが売れず、にっちもさっちもいかない。今までのやり方では夢も希望もないことを、一番実感しているのは僕らなんです。

では、そこからどうするのか。CDを売るためにがんばって“売れる音楽”をつくるのか。それとも“自分が良いと思う音楽”をつくって、それを届けるためにがんばるのか。ずっと考えていました。

これまで「LOSTAGE」はさまざまなレーベルを転々としながら活動を続けてきましたが、その間もずっと、音楽の価値や届け方に対する葛藤があったそう。そして2011年、活動10年目にして、ついに自主レーベルを設立します。

いろいろ人ができない経験をさせてもらって、僕はやっぱり「音を変えるのではなくて、売り方や届け方を変えていきたい」と思ったんです。自分が良いと思う音楽を続けるためにはその方が健全だし、自分には合っているかなと。

しかし、レーベルも立上げ、まさにこれからというタイミングで、新譜音源がインターネット上に流出するという事件が起こります。

当時は「俺が今やっていることはなんなんだろう」というネガティブな気持ちに支配され、ライブを中断してメンバーに怒られるような場面もあったのだとか。
 
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当時はしんどかったです。ただ、もし僕が若くて多感な、いろんな興味が花開いていく時期で、お金がなかったとしたら、無料でダウンロードすると思うんですよね。

そいつらが悪いかと言ったら、悪くない。好きで、興味があるだけ。それによって何かが生まれているはずだし、もともと音楽って無料のものですしね。

強いて言うなら、悪いのは“環境”なんですが、そう言ってしまうと、今の便利さを全て否定することになってしまう気もするし、難しいところなんですよね。

今となっては、もしまた音源が流出してしまっても、そういう時代なんだと思えるようになりましたけど。

そして2年後の2013年、レコード店としての営業をスタート。ただ、当初はレコードを売るという構想はまったくなかったのだとか。

レコード店を始めたのは成り行きです。レーベルの事務所が必要で、借りた物件がたまたま路面店だったので、せっかくなら何か売ろうと。

だから、こんなにちゃんと店になるなんてびっくりしているくらいです。今も迷いながらですし、「このためにやろう」みたいな明確な意思があったわけじゃないです

でも、結果的にレコード店を営むことに大きな意味を感じていると五味さんは話します。

若者に「違法ダウンロードをやめてCDを買え」とか、「アナログの方が音がいいからレコードを聴け」とか言いたいわけじゃないんです。

CDやレコードという売り方をその世代に対して強要はしたくないし、新しいやり方でいいと思っていて。

でも、そいつらが「レコードってどんなんやろな」と思ったときに、レコードを触ったり聞いたりできる場所がないとわからないじゃないですか。

何も買ってくれなくても良いし、でも、若い人が来て僕と話したりとか、終わったメディアを感じるとか、今もそういう場になり始めている実感はありますが、もっとそうなっていったらいいなと思っています。

街のネットワークを育む場所へ

そんな「THROAT RECORDS」の今後のイメージを聞くと、五味さんは「インターネットではない、街のネットワークを育むような場所」と表現します。

最近は自分含め、世間がちょっとインターネットの方に行き過ぎな気がするんですね。SNSとかで、擦っただけみたいな感じでつながった気になれるのは怖いなぁと。

用がなくても行ってみるとか、顔を見に行くとか、面と向かって人と会う場所って、ダイレクトな人間関係が生まれるきっかけであって、この店も、それをいつも用意しておける場所になれたらいいなとは思っています。

そして、メジャーでやっていたり、「フジロック」とかに出ているようなやつが、それぞれの地元で「あの街に行けばあいつがいる」みたいな場所をつくって、増えていけばおもしろいですよね。

そんな場所が近くにあって、オープンなところだとわかったら、みんなそこに行きたくなるんじゃないかと思うんです。

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この日は神奈川から、LOSTAGEのライブを見に来た女性が来店。この後2時間近く話し込んでいました。

そして話題は、五味さんのほしい未来の話へ。

ショッピングモールとかAmazonではなくて、街の商店街の八百屋に野菜を買いに行くような距離感で音楽を聴くことが、日常になっていけばいいなと思います。

それとバンドをやる人がもっと増えたらいいですね。ここに来た若者がバンドをやりたいと思ってもらえるように、こういう生き方があるというのを示していけたらとも思っています。

街のレコード店という、一見すると時代に逆行しているようにも見える取り組み。でも、それは15年に渡ってさまざまなステージでバンド活動を続けてきた五味さんが、悩みの末に辿り着いた“地域との関わりを深めていく”という新しい実験なのだと感じました。

その実験が始まってまだ2年。今後ここでのダイレクトな出会いによって生まれる物事やネットワークが、五味さんや周囲にどのような良い変化をもたらしていくのか、注目していきたいと思います。
 

「THROAT RECORDS」も登場するPVクリップ「Flowers/路傍の花」