売り上げの一部を助成や子供支援団体に寄付する「VEGANIEのストール」
例えば電気自動車が誕生して、「ガソリンじゃなくても車って走れるんだ!」と知ったとき。どこかで「仕方ない」と受け入れてきたことを、新しいアイデアで解決できるとワクワクしてくるものです。
そんなワクワクをファッションや小物を選ぶときにも感じてほしい。そんな思いで立ち上がったライフスタイルブランドが「VEGANIE(ヴィーガニー)」です。
今回は、フリーランスのコピーライターとして活動しながら、自分の興味と身につけた技術をすべていかして運営する竹迫千晶さんにお話を伺いました。
VEGANIEを立ち上げた竹迫千晶さんとパートナーのシャハニさん、チームのみなさん。写真提供:VEGANIE
VEGANIEとは?
「人や動物を力づける〜Empower people and animals〜」をコンセプトとしたVEGANIEは、インドの伝統工芸にもともとあるデザインや技術を生かしながら、ちょっとオシャレにモダンナイズして届けてくれるライフスタイルブランドです。
一緒に立ち上げたインド人パートナーのシャハニさんが、英語だけでなく現地の言葉を話せるからこそできる、人々の文化や環境にまで配慮した商品を展開しています。
カシミールの伝統工芸のチェーンスティッチを活かしてデザインされたクッション
ハンドメイドで製作を担当するのは、西ベンガル地方のバロイプール村に住む、経済的に厳しい環境に置かれている女性たち。この村はカルカッタ(コルカタ)から車で3時間揺られたところにある、もともとは自給自足で成り立っていた小さな村です。
しかしその暮らしも、インドの都市部が目覚ましく発展し、貨幣経済にシフトする中で変わりつつあります。男性たちはピンセットなどの小物をつくって生計を立てていますが、暮らしは楽ではありません。
女性たちはもともと文化的に男性に頼る生活をしていましたが、「このままではいけない」と地元NGOの協力を得てステッチを仕事にするように。そこで竹迫さんたちは、この村の人たちに継続的に仕事を依頼し、生産者の生活水準向上を目指しているのです。
インドの生産者と竹迫千晶さん
また、バロイプール村では、急激に近代化するほかの地域と同様、伝統文化が消えつつあります。そこでVEGANIEでは、伝統工芸に携わる職人も巻き込んだものづくりをおこない、風土が生んだデザインや色合いを商品づくりに活かし、文化の保護を、新しい目線で行っています。
加えて素材にもひと工夫が。コットンなどの新品を使う場合は、オーガニックで生産されていることを確認したうえで現地調達しますが、他にもインドの伝統衣装であるサリーも、リサイクルして活用しています。
サリーは日本の着物と同様、古い物は生絹でつくられ、すばらしく凝った模様が施されていることも。絹は蚕の犠牲のもとに成り立っているため、一度つくったものは大切に使うという精神を大切にしています。
リサイクルサリーを使い、「カンタ織り」と呼ばれる手法を用いてつくったストール
批判よりも様々な選択肢を!
もともとVEGANIEの構想段階では、ヴィーガン・レザー(革の替わりになる革のような質感の素材)の商品を取り扱うショップをつくりたかったと言う竹迫さん。
自身が肉類をなるべく食べないようにする生活を送っており、ヴィーガンの「人も動物も環境も傷つけない」というライフスタイルを広めたいと思っていたそうです。しかし考えを突き詰めていくうちに、「あることに気づいた」と竹迫さんは話します。
「肉類を食べるべきではない」とか「革製品を使うべきではない」とか、主張したり、批判したりするのは簡単ですが、自分の考えが絶対に正しいわけではないなあとも思うのです。
でも、私の考えにぴったり合うわけではないとしても、食べたり使ったりする前にちょっと考えてほしいとも思います。
「化石燃料が枯渇し、地球が温暖化するからガソリンを使うのを止めよう!」と主張するのではなく、電気自動車というワクワクするものをつくって人々に新しい価値観を提案したように、ファッションにもっと代替となるものを提案して選択肢を増やしたいと考えました。
ヴィーガン・レザー(人工皮革)には石油系成分が含まれることが多いため、製作を中断した竹迫さんは、より広い意義である「エシカル」に行き着いて、ブランドを立ち上げることにしたのです。
女心をくすぐる、カラフルな刺繍ポーチ。
できることからやらなくてはと思った阪神大震災
竹迫さんがVEGANIEの活動を始めようと思った原点には、ある体験があります。それは小学校6年生のときに体験した阪神大震災。
神戸の西宮市出身の竹迫さんの自宅は半壊し、おばあさんの家は全壊するほどの被害を受け、おばあさんは2時間生き埋めになるという壮絶な経験をしました。竹迫さんは当時を振り返ってこう話します。
翌日避難所から戻って流し台を見たら、前日の夕飯の洗い物が残っていたんです。ずっと続いていくと思っていた日常の幸福が、一瞬で壊れてしまうこともあるのだとつくづく思いました。
毎日を後悔しないように過ごしていきたい、できることを少しずつ『ハチドリのひとしずく』(口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落として火事を消そうとするハチドリを描いた物語)のように、自分ができることをしていきたいと思うようになりました。
また、震災時におにぎり1個のために列に並んだ経験から、「いつ自分がどういう立場になるかはわからないのだから、支援される、支援するといった一方的な関係ではなく、常に対等で自分のこととして向き合っていきたい」とも思うようになったのです。
エシカルイベントでスピーチする竹迫さん 撮影:落合直哉
VEGANIEができる社会貢献とは
VEGANIEは、ものづくりに留まらず、さまざまな活動をプロジェクトベースで取り組んでいます。たとえば、ムンバイのストリートチルドレンや孤児が、音楽教育を受けられるように奨学金を送る「サンギートプロジェクト」。サンギートとは、ヒンディ語で「音楽」という意味です。
インドの映画界はボリウッドといわれ、ハリウッドを上回る興行収入があるとも言われています。奨学生の受け入れ先である「True School of Music」は、そこで活躍する音楽家を養成する音楽学校です。
音楽学校のレッスンの様子
True School of Musicの創設者は、実はシャハニさんの後輩。竹迫さんはVEGANIEを立ち上げるまで大手広告代理店で勤務していた経験を生かし、CSR活動の一環として奨学金へ援助してもらうために、日本やインドの企業に働きかけています。
その他にも、女性用布ナプキンを発展途上国の女の子に贈る「Happy pad project(Girl power 主催)」や、販売したワンピースの利益の7%を国際NGO「プランジャパン」へ寄付する「One piece for One peace project」など、社会的な意義のあるさまざまな活動に取り組んでいます。
岐路に立つインドを日本に紹介したい
パートナーのシャハニさんがインド人だったことから、密に関わるようになったインド。「この国は今、岐路に立っている」と竹迫さんは言います。
その一つが価値観の変化。欧米で教育を受けたり、欧米風の価値観をもつ人が増える中で、社会的なことに目を向ける若者が生まれつつあるそうです。
オーガニックTシャツを手がけるなど、ソーシャルビジネスを行なうベンチャー企業が誕生したり、社会的に虐げられている人たちをサポートするNGOが生まれたり。それらの動きに対する若者のリアクションも大きいのだとか。
一方で、貧富の差の拡大という変化もあります。竹迫さんによれば、もともとカーストで決まっている職業ではないIT産業が生まれた結果、都市部ではカースト制度の影響は小さくなっており、起業家もたくさん生まれています。
だからこそ都市部の若者は、カーストを気にせずに勉学に励み、良い仕事をすれば、自分の人生を自分できり開いていけると考える人も増えてきているそうです。
首都デリーの若者が集まる街では、若い女性はサリーではなくジーンズやスカートを身に着けて闊歩しています。しかし、そういった大都会のすぐ隣ではスラムが生まれ、都市部と地方の経済格差も拡大しています。
経済格差は教育機会の格差も生み出し、取り残されている人たちが増えている。だからこそ奨学金を出したり、雇用を生み出したり、VEGANIEとして貢献できることをしていこうと活動しているのです。
バンガロールにあるInfosystudio
また、竹迫さんの今後の活動として考えているのが、、インドと日本をつなぐことで、インドにはあって、日本にはない、いいところを紹介していくこと。
たとえば、子育てについて。日本では公共の場での子どもの泣き声やベビーカーが迷惑だという話題が盛り上がるなど、子育てに少し息苦しさを感じるようになっています。一方、インドでは出生数が圧倒的に多く、子どもをみんなで育てる風土があるのだそう。
他にも路上で水浴びをしたり、ミシンをかけたりといったカオスのなかで、非常にリラックスできる、精神的にのびのびとした空気がある。そんな元気でのびのびとしたハッピーな生き方を、日本に紹介したいと意気込んでいます。
秋冬に使える暖かみのあるスカーフも入荷しています。
自分にしかできない「ハチドリのひとしずく」として、竹迫さんのインドへの思いがたっぷり詰まったVEGANIE。既に素敵な秋冬物が展開されているので、ぜひ一度ウェブサイトをのぞいてみませんか。